【完結】亡国の精霊姫は竜騎士国王に囚われる

愛早さくら

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第2章

2-4・いつかの日常③

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 精霊の島には、言ってしまえば何もない。リティアは輝かんばかりの緑や、空の青、陽射しの眩しさなどにも意味を見出し、それらを飽きずに楽しんでいたが、他にあるのは疾うに朽ちかけた先人たちの遺産ぐらい。
 それらの多くも土や樹に埋もれ、原形を留めていない部分ばかりだった。
 それでもリティアはそれらに一つ一つを、愛おしげに眺めるのである。
 そんな彼女の純粋さや、いろいろなものを尊ぶ姿勢は精霊たちを惹きつけるのに充分で、彼女の周りには絶えず何人もの精霊たちがまとわりつく有様だった。
 リティアが主に生活している場所の近くには水源もある。
 元は噴水か何かだったのかもしれない其処は、やはり樹々に埋もれて、もはやちょっとした湖のようになっていた。
 雨水が溜まって広がったのだろう。中央の辺りには、名残りのような人工物が覗いている。
 澄んだ水は周囲を美しく映し出し、水底には何処から流れてきたのだろう、小さな小魚達の影が幾筋も踊っていた。その中の幾体かは小魚に姿を変えた精霊たちであったのだが、それはともかく。
 リティアはこの湖で時折、水浴びをした。
 服を脱いで、あるいは服を着たまま水に入って、冷たいそれに手を浸して遊ぶ。湖は中心に向かって徐々に深くなっていて、しかし、一番深い所でもリティアの腰ぐらいまでの深さしかなかった。
 そもそもここは元々は噴水を中心とした広場で、他より少し地面が低くなっていたせいで、水源が広がって、湖のようになってしまった場所なのだ。
 他と大きな高低差があるはずもなく、むしろそれなりの広さにまで広がったことの方が奇跡のようなもの。
 長く壊れたままの瓦礫が崩れ、下水へと上手く排水出来なくなったことがこうして水が溜まった原因なのだと思われた。
 それでいてこれほど水が澄んでいるのは、水を汚す存在が誰もいないせいだった。
 何分、ここにいる人間はリティア一人。周囲には精霊もついていて、汚れるようなことがあるはずもない。
 たまった雨水とて、辺りに積もった葉っぱなどに濾され、澄んでいくばかりだった。
 ぱしゃん、リティアの真白い足が水をはじく。

「ふふ」

 小さな笑い声が辺りに響いた。
 妖精がリティアと一緒になって遊ぶ。陽の光がキラキラと煌めいて、リティアの銀色の髪を輝かせていた。
 なんてキレイな光景だったろうか。
 この光景を見る者は精霊以外に誰もいない。邪魔をするものも何もない、ここはリティアだけの楽園だ。
 その、はずだった。
 あの日、あの男が来るまでは。
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