婚約者の王太子がへなちょこ泣き虫だったけど、私がささえるので問題はないです!

愛早さくら

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19・嵐の中心のような少女。⑧

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「大丈夫? リーシャ」

 大きく溜め息を吐き出してしまう私を窺う殿下は変わらない。
 良くも悪くも。こういった対処に関しては本当に役に立たないまま、けれど私を気にかけてくれていることだけはわかる。
 勿論、殿下は誰のことであっても気にかけるし、誰に対する態度だって柔らかで優しい。けれど、その日中と言えば良いのか、熱情を、一番傾けてくれている相手は、どうやら私のようだということは、これまで共に過ごしてきた中で、よくよく私にはわかっていて。
 だから今も、気遣わしげにこちらへと声をかけてきた殿下に、私は曖昧に頷いた。
 疲れを隠さず、けれど微笑む。

「大丈夫、とは言い難い状況ですわね」

 問題と言えるようなことは今の所、どうやら彼女のことぐらいだ。
 他はそれなりに、どれもこれも上手く回っている。
 処理なども例年と同じ。煩雑で多いがそれだけ。
 とは言え、彼女のことだけにもかかわらず、どう対処したものやらと頭を悩ませることが多すぎて。

「えぇ―っと、それってあの……」
「ええ、セミュアナ様に関してのことです」

 殿下にも私を悩ます要因はすぐに分かったのだろう、途端泣きそうに顔を顰めた。

「ぼ、僕があの日、あの女の子を振り払えなかったから……?」

 殿下は決してバカではない。
 今の状況やご自分の気性もしっかり把握なさっていらっしゃるし、皆がそれを気遣い、動きづらくなっていることも理解しておられるのだ。
 それなのに変われないご自身を、殿下が少しばかり疎んじておられることを、他でもない私は知っていた。
 だから小さく首を横に振る。

「それは確かに、殿下のあの日の態度に、問題がなかったとは申しません。ですが、だからと言って全てが殿下の所為なわけがございませんでしょう?」

 何よりおそらく彼女の行動は、誰に強制されたものでもない。
 ましてや、あれ以来関わっていないらしい殿下に、どうして、何かできたというのだろう。

「でも、あの、あの子、こっちに近づいてこようとはしてるみたいだし……」

 しかもかなり頻繁に。
 それもまた、報告を受けているうちの一つだった。

「ラーセが、しっかり務めを果たしてくれているようですね」

 もしくは、ラーセの補佐に付いているウーシュが。
 男らしく雄々しいラーセと比べると少々線が細く、頼りなく見える所のあるウーシュは、ラーセを補佐するように殿下の側近く、護衛として控えてくれているうちの一人だった。
 ラーセもウーシュも殿下と同じ年で、学友としての側面も持ち、教室でも机を並べている。
 彼女の急襲を受けてから、彼らはより殿下から離れないことにしたらしく、それまではどちらかが交代で殿下の側に控えていた所を、ここしばらくは二人ともが殿下から離れないようにしているらしい。
 そんな二人が、殿下とは関わらせないようにしているだけで、くだんの彼女は殿下へと、幾度も近づいてきているのだとか。
 それは言ってしまえば学園内の生徒や教師全員が、把握していることでもあった。
 おそらくは殿下が一番被害を受けておられるのでは、と思われるほどである。
 彼女が殿下と接触したがっているのは明らかだった。
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