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4・王子からの言いがかり
しおりを挟むビュティ様はレシア王子の婚約者のままである私の存在がことさら気に入らないように見えました。
何かにつけて控えめに突っかかって来られます。
それはとくにレシア王子を伴っていらっしゃる時が顕著なようでした。
例えばこんな風に。
「ネフィ・ルブッソ! 聞いたぞ! 貴様はまたビュティ嬢に嫌がらせをしたらしいな!」
そう言われても。私はビュティ様にもできるだけ関わらないようにしておりましたので、心当たりなど全くございません。それも言ってきているのはレシア王子で、ビュティ様はいつもこのようにレシア王子を使われるのです。
周囲の視線が突き刺さります。勿論、非難の色は私ではなく、レシア王子にのみ向かっておりました。
私としましても言われっぱなしでなどおられません。
「そのようなこと……心当たりなど全くございませんが」
正直に申し上げると、レシア王子は不快気に眉を顰められました。そのようなお顔もお麗しくあらせられます。銀の髪が光を弾いて眩いばかりでございました。
しかし、不快気にはなさりつつも、其処はレシア王子です。私の言葉を一周したりなどは致しません。
お優しい方なのです。人を疑うことなど何も知らない純真な方。
「そうなのか? だが、ビュティ嬢がそう言っていたぞ」
機嫌は悪くていらっしゃるようでしたけれど、私の言葉に耳を傾けて下さるおつもりはおありになられるようでした。
ビュティ様はレシア王子に縋るようにしがみついています。
貴族令嬢にあるまじき態度で、つい、私の顔も険しくなってしまいますが、レシア王子はそれについては咎める様子をお見せになられません。
おそらく気にも止めていらっしゃらないのだろうという風に私には見えました。
護衛騎士はいつものように傍に控えています。
「でも、レシア様、私は確かに」
ビュティ様はレシア王子に訴えかけられました。
私とビュティ様の意見は真っ向からぶつかってしまっています。
「どういうことなんだ? いったい何が……」
レシア王子は混乱なさって、今にも目を回してしまわれそうなご様子です。
助け舟を出されたのは、先程からずっと、一言も口を開いていなかった護衛騎士でした。
「殿下。物の見方というものは、場所によって変わるものです。おそらく同じ出来事も、立場が違えば違って見えて来られるのでしょう。ネフィ様もきっと嫌がらせのつもりなどなかったのではないでしょうか」
それは遠回しに、ビュティ様のご意見をお認めになっていらっしゃるお言葉でした。
正直な話。私に心当たりがなく、近づきさえせず、かかわりにならないよう気を付けているぐらいなのですから、ビュティ様はおそらく嘘を吐いておられました。
護衛騎士のお言葉は、その嘘を肯定するかのようなものだったのです。私は勿論、不快になりました。私の言葉を、真っ向から否定していなかったとしてもこれでは同じではありませんか。
しかし、私がもう少し何かを言おうと口を開く前に、レシア王子は納得なさってしまったようでした。
「ああ、なるほど、そういうことか。そういうこともあるのだな。では、ネフィ嬢は今後、気を付けるように」
それだけを言い置いて、私の返事など待たずにその場を去ろうとなさっておられます。
ビュティ様はそれでは到底、納得できなかったのでしょう。何かを言い募ろうとする様子を見せましたが、結局は諦めて、しかし、私には勝ち誇ったような顔だけ寄越して、レシア王子についていってしまわれました。
あとに残された私の、気分を害しただけの出来事です。
幸いなのは周囲の皆様に、私は同情を持って見守られていて、誰もレシア王子達の言うことなど信用していない様子だったことでしょうか。
その証拠に周りにいた幾人もの生徒に私は慰めのお言葉を頂きました。
このようなことはそれまでも何度もあり、またそれからも何度となく繰り返されたのでした。
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