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6・王子からの糾弾
しおりを挟むその日、卒業式は厳かに進行していました。少なくとも終わるまでに、目立った問題は起こらなかったと認識しています。
しかし、全ての式辞が終わって、さてあとは卒業生たちを送り出すのみとなったタイミングでのこと。
卒業生の列の中から、レシア王子が歩み出て来られたのです。
私は首を傾げました。
このような予定は何も聞いておらず、それは私と同様、あっけにとられたような教師、国王夫妻を含めた来賓の皆様も同じなようでした。
何か問題でも起こったのかと少し心配になります。
何か知っていることがおありなのか、いつも通りのしたり顔で驚きもせずに微笑んでおられるのはレシア王子の脇に控える護衛騎士ぐらいの物でした。
すると次は在校生の中からビュティ様が歩み出て来られて、レシア王子に近づき、縋るようにレシア王子を見つめられました。
私はなんだか嫌な予感がしています。
そんな私の前でレシア王子はビュティ様に一つ頷き、次いで視線で誰かを探したかと思うと、私の方に向き直り、こちらをきつく睨みつけてこられました。
この数年で、すっかり見慣れてしまった顔つきです。
しかし、いつもの通り、私に心当たりなどございません。どうして私があのような目で見られなければならないのか。
ビュティ様も私を見つめていらっしゃいます。その瞳は、少し不安そうに揺らいでおられました。眼差しにも何処か、困惑と申し訳なさが入り混じっているようにも感じられます。
そちらも私にはわけが分かりませんでした。
申し訳なさはともかく、困惑など、しているのは私の方です。
レシア王子はおもむろに口を開かれました。
そして私に向かってこうおっしゃられたのです。
「ネフィ・ルブッソ!俺はお前との婚約を破棄する」
それは全く私の予想だにしていないお言葉でした。少なくともこのような場でこんなことをおっしゃるなんて、予定外にも程があります。
しかし私は同時に、これはこれで都合がいいのではないかと思い直しました。
何故なら、私はレシア王子との婚約自体を、今となっては厭っていたからです。国王陛下より事前にお伺いしていたという事情もございます。
ですので、婚約破棄自体は全く何も問題ございませんでした。ただ、問題があるとすれば、このように場を乱すようなタイミングの悪さだけです。
私は顔を険しくなされた国王陛下に視線を向けました。意図に気付いて下さった国王陛下は小さく頷かれます。
また、私の元にはやはり在校生の中からライネ王子が付き添いに出てきてくださいました。
近くにいらして頂けるとほっとします。
そうしてようやく私も口を開きました。
「それはなぜ、とお伺いしてもよろしいでしょうか?」
勿論、相手はレシア王子です。
レシア王子は更に厳しく、私を睨みつけられました。
「なぜ、だと? そんなもの、自分の胸に訊いてみるんだな!」
おっしゃる通り私は一応自分の胸に訊いてみます。
しかしやっぱり全く心当たりなどございませんでした。
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