ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくのすすむみち

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 町を出ると、ニーナに「この辺はどんなモンスターが出るの?」と聞いてみる。
 ニーナは少し怪訝そうな顔をした後、そういえば「異世界から来た」んだった、とようやく思い出し、「そうですね」と唇に指を当てた。
「まず町を出てからしばらくは、ライグースのような強い魔物は、……まぁ普通はいません」
 実際強い魔物――ライグースのことだ――が出ているのを考えると、確かに「出ません」と断言は難しいよね、とユウキは苦笑する。

 よく出るとされている魔物は数種類。

 まず、スルーできる魔物からニーナは説明する。
「一番弱いのは、石蛇ですね」
 石蛇。正式名称はロックスネークというらしい。ニーナの説明によれば臆病な性格で、むしろあっちから逃げて行ってくれるとのことだ。野生の蛇と同じようなものらしいが、仔蛇の時は普通の蛇くらいの大きさだが、成長すると3メートルほどの長さにまでなるらしい。まぁどんなに巨大になっても臆病な性格は変わらないらしいが。
「次に弱いのは、……リトルベアとアルマーでしょうか」
「え、熊出るの?」
 思わず反応すると、「このくらいの大きさですけどね」とニーナが両手で40センチほどを示して見せた。熊というにはあまりに小さいが、これで成獣らしい。リトルベアはモンスターというよりは野生動物の類で、それほど強い存在ではないらしい。外見は小さい灰色の熊。時々白い存在もいるらしいが、どうして白いのかは解明されていないらしい。一説には知能が高いと言われている。臆病というわけではないが、人間が近寄らない限りは襲ってくることはないそうだ。
 アルマーは、背中に甲羅を背負い、爬虫類のような皮膚とふわふわの毛皮を体に持つ、とても不思議な存在らしい。ユウキは甲羅の時点で少しだけ覚えがあるのだが、ふわふわの毛皮というワードに「違うのかな」と頭に浮かべたそれを否定した。
「一番強いものでも、ネーバでしょうか」
 ネーバの説明を聞き、ユウキは最終的に「あぁなんだスライムか」と理解した。ネバネバの粘液の中に、玉のような核があり、それを破壊すれば死ぬ。間違いなくスライムだ。



 説明を終えたニーナは、少しだけ言いにくそうに「あの」と呟いた。
「その、私は奴隷の身の上なので、武器がありません」
「え、でもニーナには魔法があるじゃない」
「そう、なのですが、私の魔法は魔法防御と回復に偏っておりまして」
 ニーナのステータスを覗き見ることはできるのだろうか、と少しだけ考えてみる。

隷属ステータス

ニーナ・フェルグムス

キャラクターLv.14

【体力 :12】
【器用度:12】
【知力 :15】
【生命力:10】

【HP:200/200】
【MP:240/240】

種族:リュンクス

スキル
身体能力向上 Lv.14

魔法
回復術 Lv.10
魔法防御術 Lv.11

【装備】
全身ローブ
<白蛇の祝福>

武器
--

 あ、見れるんだ、と思わず苦笑する。
 それにしても、魔法特化なのかと思っていたら、種族的には身体能力特化なのだろうか。
 白くないニーナの装備が<白蛇の祝福>なのが気になるけど、まぁ何かしらの祝福が成された装備なのだろう、と詳細はわざわざ見ないことにする。
「申し訳ないのですが、短刀をお借りしてもよろしいでしょうか」
「短刀……<黒裂>のこと?」
「はい。ルイジール様の時は、良くそれをお借りしていました」
 なるほど、と少し納得しつつ、ユウキは鞘を腰から外して「はい」と手渡した。



 町から少しだけ先に進む。
 すでに日は高いが、このくらいの時間のほうがモンスターとは遭遇しにくいだろうというニーナの判断だ。それでも少しだけモンスターとは遭遇したが、前情報通りモンスターたちはスルーして歩いていけるし、そもそも逃げて行くモンスターも多い。

 これなら楽ではあるのだが、正直に言うと、少しだけ弓を練習したい。

 弓道部の友人がいたので、たまに弓を練習させてもらってはいたのだが、そこまで自信があるわけではないし、そもそも動く的など相手にしたことはないし、動く相手を狙うのであれば、ある程度狙いを付ける時間も短くする必要があるだろう。それに、前回練習したのはあくまで前の世界での話だし、ユウキの感覚でも1か月も前のことだ。
 いやまぁ、わざわざ危険を呼び寄せる必要はないから、次の町に着いてから練習するのが得策なのだろうか。

「ニーナ、僕戦闘とかしたことないんだけど、少しは戦ったほうがいいのかな」
「……いいえ。戦いなどしなくて済むのであれば、避けるべきです」

 それもそうか、とようやく気付く。
 わざわざ戦って危険を呼び込むよりも、危険少なくスルーできるのならばそっちの方がいいに決まってる。
「ニーナはいいこと言うなぁ」
「……もしかして、戦いたかったのですか?」
「いやそんなことはないけど」
 一瞬、ルイジールを手にかけたときの感触が手に蘇った気になり、少しだけ身震いする。

「……戦いを恐れるのは、臆病者だけではありません」

 不意にニーナがそんなことをいうので、顔を向ける。
「確かに、強くなるためには戦いは重要です。しかし、ただ戦って殺すだけというのであれば、それは戦闘狂と変わりません」
 ニーナの持論なのだろうか、すらすらと言葉を並べていく。
「私の考える強さとは、戦いにおける技術だけではなく、何かを守るための心を伴うものです。ただ戦いの技術だけ磨いたのでは、決して手に入らない『何か』を持つ者です」
「うん、――わかる気がする」
 ユウキはそれに賛同する。
 前の世界が平和だったのは、戦いの技術がなかったから、戦う武器を持たない社会だったから、というわけではない。
 拳で人を殴り続ければ相手を殺すことはできるだろうし、首を絞めても相手は死ぬだろう。
 そもそも武器ではなくても、殺せる道具ならいろいろあった。包丁をはじめ、ナイフやカッター、ハサミ。日常に転がっている道具でも、ある程度の硬さがあれば鈍器として使えるのだ。

「……戦うだけでは得られない何か、……私はそんな強さが欲しいです」
「――そうだね」

 そんなことを話しながら、ただ北東へまっすぐ歩き続ける。
 実際にどういう人物が具体的に強いと言えるのか、という問いに、ニーナはすかさずルイジールの名を挙げた。
 本当に慕われていたんだな、と実感しながら歩き続けるうち、辺りが薄暗くなってきたのに気付く。スマホを取り出して時間を見てみれば、すでに夕方の6時。この辺りはどうやら、日本に似た時間構成になっているらしい。地理的に遠出をした場合、時差とかもやはりあるのだろうか。

「そろそろ、野営準備でもしましょうか」
「え?テントとか持ってないけど」
「はい、私も持っていません」

 どういうことかと聞いてみれば、ニーナは少し高い木を指さした。
「あのような高い木に結界を張ります。その枝の上を借りて寝るのです」
 そんな動物みたいな、と言いかけて気付く。そういえばリュンクスは獣人だったか。
「結界を張るなら地面でも良くない?」
「そういえばルイジール様もそうしていましたね」
 別にそれでもいいらしい。
 木登りが苦手なユウキは少しだけほっとするのだった。
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