ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくのすまほのつかいみち

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 結界で守られて安全だと言っても、ユウキはなかなか眠れなかった。
 眠れないのを理由に、ついついスマホを弄ってしまうので当たり前と言えば当たり前だ。
 すでに時刻は3時を回ったが、地面で寝るのに慣れないユウキには、もちろん木に寄り掛かって眠るのだって慣れてはいない。

 スマホといえば、と画面の右上を見ると、さっきまで20%程度だった電池残量が、すでに45%ほどまで増えていた。

 この世界に来たときの表示は覚えていないが、残量が少ないとは感じていなかったので、それなりにあったはずだと思う。それが20%程度に減っていたことから、どう考えても「電池は一度減った」。これは事実だろう。
 だが今は、まるで充電でもしているかのように増え続けているのだ。

 一番考えられるのは、この結界だ。

 ニーナは魔法防御呪文の一種だと言っていたが、このメカニズムを説明していた。
 ユウキの理解では、まず、結界はニーナの寝ている木の上から球状に、およそ20メートルほどを外界から隔離する。その隔離の過程によって、まず内部に存在していた動物やモンスターなどは、本能的に慌てたようにこの範囲から外に出ていく。とは言っても緊張状態や興奮状態の場合はその限りではないらしいが。つまり戦闘中は使えないということだろう。
 さらにそれが完了すると、中と外を隔てる魔力の行き来は、外から中だけになるらしい。つまり中から外に魔力は漏れない。生物はどんな存在でも魔力を必要とするらしいが、逆に外から中へは入ってくるので、中にいる存在が必要な分だけ、外から中へと魔力だけが流れ込んで来てくれるため、生物にとってこの結界は害がない、とのことだ。

 ここからはユウキの勝手な想像だが、スマホの充電源はこの「魔力」なのではないだろうか。

 魔力は常に外界から補充される。結界を張る前は、一定の魔力しか供給されなかったスマホだが、結界が張られたことで魔力の吸収の効率が上がったのではないだろうか。
 まぁ、スマホの中で何が起こっているのかなどわかるはずもないので、検証のしようもなかったりするのだが。

 そういえば、とツールを起動する。

 向こうの世界を思い浮かべてみるが、どうやら今「ツール」に映っているところは、特に何かがある場所ではないのか、空間には何も生み出されなかった。
 この世界に来てすぐツールで映し出されたのは、コンクリートの塊だったように思う。
 思うだけでひょっとしたらただの石かもしれないし、それとも違うものかもしれないが。
 迂闊にこの場所から動くわけにもいかないので、ユウキはすぐにツールに退屈した。検証するとしたら明日以降で試そう、と思い、もう一度スマホの画面を開く。

 その瞬間、スマホが音もなく、振動を開始した。

 画面を見れば、上の方にいくつもいくつも通知メッセージが表れては消え、表れては消え。
「ちょ、何これ」
 何これ、とは言ったものの、とても見覚えのある通知メッセージが多い。

【ハモセレガチャ実施中!】
【ハモフレパーティガチャは明日まで】
【ハモセレ/桃太郎登場中!】

 またガチャ更新か、などと苦笑するような某ソシャゲの通知。

【大東さん遂に宇宙へ】
【乃村議員逮捕】
【ウニクロ、新素材開発へ】

 ニュースアプリの通知も目立つ。あの人遂に逮捕されたのか。

【mobile knock/基地に攻撃を受けました】
【mobile knock/指揮官が捕獲されました】
【mobile knock/指揮官が解放されました】

 放置してるアプリの通知まで来てる。

【黒崎:おはよう】
【黒崎:忙しいのか】
【黒崎:おい、未読無視かそれとも忙しいのか】

 Genealogyチャットの通知まで来てる。さすがにここまで来たらもう認めるしかない。

「えええまさかこれ繋がるの……?」

 そう。繋がるのだ。向こうの世界と。
 あの芸人の慌てぶりに考えることを放棄してしまっていたが、考えてみれば、ツールの中にチビた鉛筆を落とした時に気付くべきだったのだ。カッターの時もそうだ。
 その鉛筆は、カッターは、一体どこへ消えたのかと。
 さすがにもう残ってはいまいが、あの時繋がった世界に、あの鉛筆はのだろう。
 カッターはよく分からないが、あの芸人から見えなくなっていた以上、カッターもツールを介してあの時の世界に行ってしまったのだろう。

 人間の手にあるべきではない能力。

 確かに神は、ツールのことをそう表現した。回収できるが回収しない、とも。
 意図があって回収しなかったものなら、使っても構わないだろうか。それとも、死んだ人間が、ネット上とはいえ出没したらマズいものだろうか。

「どの道、ますます寝れなくなったかな」

 もはや苦笑するしかない。
 とはいえ、これでインターネットに繋がってしまったのなら、一体誰が携帯代を支払うのだろう、と考える。
 ユウキの携帯代は元々、ユウキ自身が払っていた。だからユウキの口座にお金が残っていれば、まだ何とかなるだろうか。
 現状繋がっているのなら、解約とか通信停止とかさえ気を付けたら、いける気がする。
 あとは口座の解約か。口座はネットバンクになっているし、家族は誰も知らないはず、と思いながらブラウザを開く。
 たった1日か2日触らなかっただけだというのに、すごく懐かしい気がするのは、いろいろあったからだろうか。
 口座の番号とパスワードを入れてログイン。現在残金、300,259円……って結構あるなぁ、とユウキは考える。まぁお金のかからない趣味しかもたなかったから、お小遣いをためていたらこうなったのだが。

 毎月の料金を確認すると、1か月あたり1万弱。30カ月もつ計算になる。

 とりあえず少しだけほっとするが、やるべきことはまだ多く残っている。
 まず、電話やインターネットが本当に繋がるのかチェックする必要がある。
 一方通行、つまりダウンロード方向にしか働かないとか、そういう可能性だってあるのだ。
 かと言っていきなりこの真夜中――時間はすでに4時。少し明るくなって来ている――に、黒崎にチャットを送るわけにもいかない。
 ユウキは少しだけ考え、Find SPと書かれた、スマホ検索機能をタッチした。
 アカウントを入れ、自分のスマホの位置を検索すると、地図は見覚えのある場所を弾き出した。

「……小学校じゃん」

 ユウキの母校の小学校だ。
 つまりこの辺りは、ユウキの家の近くだということになる。
 まぁ電波は3Gなので、完全な位置を検索してくれるものではないのだが、それでも信頼できる情報だ。

「……感動してる場合じゃなかった」

 ともあれ、これでアップロードできることも判明した。
 あとは電話の方だが、お金のかからない電話と言ったら何があるだろうか、と考え、そういえば通話はし放題のプランだっけ、と思い出す。
 117、とダイヤルし、通話ボタンを押す。

「午前、四時、八分、30秒を、お知らせします」

 スマホの時刻と照らし合わせると、秒単位で合っている。ひとまず電話を切ると、ユウキは思わず「これは勝つる」と呟いた。
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