ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくのどれいのじっか

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 ここまで条件が揃えば、あとやるべきことはいくつかしかない。

 まずユウキはインターネットで、自分の住んでいた県の名前と、隕石というキーワードを打ち込んで検索した。
「隕石が衝突し、高校生死去」
 あ、やっぱり僕死んだんだ。
 などと思いつつもニュースをダウンロードし、読む。
 死んだ日付は一昨日。自分の死んだニュースを読むって変な気分だなぁと思いながらも読み進める。いくつかのニュースを読んで、とりあえず問題はなさそうだ、と判断する。

 次に、携帯の名義を確認。
 これで親の名義とかになってたら目も当てられないところだったが、名義はユウキ自身だった。
 まぁ自分ひとりで行ったわけではなかったから、ユウキが不安になるのも当たり前といえば当たり前なのだが。
 一応携帯の機種を確認すると、やはりサポートはすでに終わってしまっているらしい。つまり携帯が何かの弾みで壊れたりしたら、それでアウトだということだ。

 あぁ、ダメになる理由がいっぱいあるな。

 ユウキはひとつひとつ考える。
 まずは解約の阻止。もしくは、解約されても大丈夫な別の契約の確保。
 次にお金。30万あると言っても、単純計算で3年もたない。
 そして携帯自体の保護。もしくは代用携帯の確保。

 解約阻止は、コールセンターに電話しておけばいいだろうか。……それともいっそ家族に電話して何とかすべきだろうか。家族がダメなら、同じキャリアで別の携帯を準備しよう。
 お金は、……とりあえず今は大丈夫そうなので、後に回そう。
 代用携帯を準備できるならそれでいいが、とりあえずは携帯自体を保護する何かをこっちの世界で用意した方が早い気がする。

 さしあたって、……朝を待って親に電話かな。



 朝6時半頃までインターネットで方法を模索していると、ニーナがようやく起きて来た。
「おはようニーナ。よく眠れた?」
「……はい。ユウキ様は全然眠っていらっしゃらないようですが」
「うん、……眠れなくてね」
 ニーナは少しだけ納得する。地面で初めて寝た時は、ニーナだって苦労した。
 少なくとも、慣れるまでは地面ですぐに寝ろと言っても苦労するだろう。だとしたら、さしあたって毛布や寝袋などを用意した方が寝やすいかもしれない、とルイジールに買ってもらった時のことを思い出す。
 まぁユウキの場合は、眠い時にスマホを見たからというだけの話なのだが。



 数時間ほど歩いていくと、ようやく【北方街】が見えて来た。
「あれがそうです」
「結構時間かかったね」
 ニーナの紹介に苦笑すると、「そうですか?」と不思議そうな声を出すので、ユウキは自分の体力のなさを痛感してしまう。正直言って辛い。実は寝不足で疲れやすいだけなのだが、本人は体力落ちたのかな、などと思っている。

「あの赤い屋根が私の実家です」
「……結構大きいね」
「一応貴族なので」

 ユウキから見たら、借金をしてニーナを売らなければいけなくなったとは思えないほどの豪邸に見える。
 それもそのはず、ニーナの家は敷地の広さに対して土地にあまり価値がなく、もし家を売っていたとしても、結局借金相当額には届かなかったのだ。奴隷になったのがニーナだけでありがたいほどで、一家はルイジールには頭が上がらないほどの恩を感じているほどだ。

「あら、あらあらニーナ!」

 唐突に背後から声をかけられ、2人は振り返る。そこにはニーナと似た尻尾をパタパタと振る、ひとりのリュンクスがいた。
「叔母様、お久しぶ」
「まあまあいつ帰って来たの?帰って来たなら一声かけてくれればいいのに水臭いわね!そうそう今朝いいシュリーが出来たのよ、良かったら後で取りに来てちょうだい」
「わかりました後ほど伺います」
「後ろの殿方にも興味あるわ、その時にでもお話聞かせてちょうだいね、待ってるからねぇ」
 物凄いマシンガントークでまくし立てた勢いのまま、リュンクスの女性は去って行った。
 何だか言葉を挟める隙が見当たらないのだが、ニーナが平然と途中にさらりと言葉を挟んだところで、また戦慄するユウキであった。



 ニーナの家に入ると、ニーナは髪を耳の後ろに追いやり、少し顔を顰めながら目を閉じた。
 そして、1分もしないうち、すぐに髪を戻すと、「こちらです」とスタスタ家の中に入って行く。
 一瞬、誰か待たなくていいのかな、などと考えてから、そういえばニーナの家だったと思い出し、後に続くユウキ。
 外観でも思ったことだが、それにしても広い。途中、誰かの声がする部屋の前をふたつほど通り過ぎているが、ニーナはそれを無視して歩き続ける。
「いいの?声するけど」
「……ひとつ目の部屋はメイドルームです。それから、ふたつ目の部屋から聞こえた声はお母様でした」
「お母さんには会わなくていいの?」
 少しだけ考えたような顔をしつつも、ニーナは歩調を変えようとはしない。

「お父様と会うのが先です」

 なるほど、とユウキは納得する。
 ユウキはその家のしきたりくらいに考えてすっかり忘れているようだが、ニーナの家は貴族なのだ。家長に先に挨拶するのは当然のことだ。



 いくつかの部屋を通り過ぎた後、ニーナはユウキはひとつの部屋に案内した。
「こちらで少々お待ちください」
「うん、わかった」
 言うと、ニーナはぺこりと頭を下げて部屋を出る。
 ふたりきりの時は畏らなくていいのに、とユウキは思うのだが、ニーナにしてみれば、誰かに見られるかもしれないこの状況を「ふたりきり」とは言わない。ルイージの時もそうだったので、公私の区別は付けるべきなのだ。
 ユウキのいる部屋の扉を閉め、ふぅ、と溜息を吐く。もちろん誰もいないのをわかっているからこそだ。
 そうして、ふたつ隣の部屋の前に立ち、やや強めにゆっくりと、コンコン、とドアをノックした。

「どうぞ、扉は開いているよ」

 懐かしい声。
 この暖かいとすら感じる声を聞くのは何年ぶりだろうか。
 少し感傷的になりながらも、鼻の頭に力を入れてそれを受け流す。

「失礼します」

 声をかけて部屋に入ると、少しだけ驚きの表情をした父親がそこにいた。

「ニーナ?」
「はい、お父様」
「ニーナ、ニーナじゃないか、ニーナ!」

 飛びかからんばかりの勢いで椅子を蹴り倒し、慌てたようにニーナに近寄る父親に、思わずくすりと笑ってしまう。ああいけない、不敬不敬。表情をもう一度引き締める。

「お父様、ニーナは逃げません」
「子供の頃のお前は逃げたよ、さぁこっちへおいで」

 やわらかい笑顔。知らず少し早足になりながら、父親の前に立つと、父親は苦笑しながらも抱き締めてくれた。日向の香りにも似た父親の匂いに、思わず目頭が熱くなるが、もう一度鼻に力を込めてそれを押し込んだ。



「ルイジール君が……そうか」
「はい。今は、彼を介錯した方に譲渡され、その方に付いています」
 ことのあらましを父親に伝えると、少し残念そうな顔をした上で、「それで」と言葉を続ける。
「その方は、今どこに?」
「ふたつ隣の待合室に」
「……そうか、すぐ行こう」
 言って父親はベストを着込む。
 今回はホスト側なのだから、別に見た目に気を遣う必要はないのだが、娘の上司に会うのに、失礼な恰好はできないだろう。

――本来は主人と言うのだろうが、何となく親心的に主人というのは気が引けるのだ。
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