ぼくのかんがえたさいきょうそうび

佐伯 緋文

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第一章

ぼくのつーるのなぞ(1)

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 昨夜色々ツールに触ってみて、改めてユウキは考える。
 現実世界にいた時、ツールに触れずにキッズ携帯をツールに差し込んだ時には、確かに携帯は圏外になった。あの芸人探偵もそれを見て驚いていたので間違いないだろう。

 カンカンカンカン、というけたたましい音はユウキの耳に確かに届いているが、ユウキはそれをすでに認識していない。

 しかし昨夜は指だけツールに触れただけで、携帯は圏外になった。
 大きな違いは何だろうか、と考えて、ふとユウキは気付く。
 ユウキ自身がどちらの世界に属しているか、ということだ。
 ならば、現実世界で携帯だけが今の世界に触れた際、電波が通らなかったのは何故だろうか。指が触れなければ、電源さえあればいつだってスマホは動き続けるというのに。
 指が触れることで現実の電波がこちらに通らなくなる理由があるのだろう。ならばその理由は何か。それがわかれば色々と使い道を知れそうな気もする。

 もはや惰性のように手を動かしながら、ユウキの思考はそれでも回る。

 現実の電波は、確かにツールを経由してこちらに届いている。位置情報も、黒崎との会話にしても、それがなければ成立しない。現実とのリンクは確かに存在している。
 指でツールが完全に塞がれたというわけでもない。それに、仮にもし塞いだところで、金属でもなければ完全に電波を遮断するのは難しいはずだ。
 電波を遮断したのでなければ、どうして電波はこちらに届かなくなるのだろう。
 何度か指だけを入れたり引っ込めたりして確かめたが、ほんのわずかでも指がツールに触れたら電波は切れたので、前提条件に間違いはないだろう。

 不意にユウキは手を止めて、まだわずかに熱の残るそれを水に漬け、手近な砥石を引き寄せて、再び手を動かす。

 指がツールに触れた時に電波が切れるのなら、その時に何かが起きているのは確かだ。
 問題はその時に何が起きているか、だ。
 現実世界にいた時にはどうだったか。
 樹の皮は現実に持ち込むことはできず、カッターは折れはしたものの樹を傷付け、小刀は樹を傷付けたが、その際の木屑は現実世界には来なかったと思う。
 鉛筆はこちらの世界に落ちた、と考えるなら、現実世界からこちらの世界に物を送ることはできたはず。ならばこちらの世界にいる今なら、現実世界に何かを送ることも出来るはずだ。

 動かしていた手を止め、ユウキはもはや慣れたと言ってもいい手際で、手に持った布でを拭いた。

「できた」

 思わず声を上げてから、騒音でそれが耳に届かない不自然さに、思わずユウキは辺りを見回した。考え事をしていたせいか、それともこの騒音に慣れてしまったのかはわからないが、とりあえず一度苦笑してから、今作ったばかりのミゼリコルデの説明欄をもう一度読む。

<ミゼリコルデ>
[ステータス]
 系列:短剣
 攻撃:22
 属性:無
 武器レベル:3
 質:優良
 耐久:99/99
[説明]
 ダガーよりも細く長く作られた短剣。
 ミゼリコルデとして最高級と呼んで差し支えない部類の逸品。
 もはやミゼリコルデとしては過分な性能であろう。

 ようやくの2つ目。1つ目は作り始めてすぐに出来ていたのだが、なんだかコレクション的な意味合いで残しておきたいと考え、ユウキは2つ目が出来るまで繰り返していた。
 生産/鍛冶技術(未)は18レベル。いつ(未)が取れるのだろうか。とりあえずミゼリコルデの段階を終えているが、とりあえず2つ目の大成功品ができるまで繰り返したわけだ。

【作成可能】
 鉄のインゴッド(簡略化)
 銅のインゴッド(簡略化)
 ダガー(簡略化)
 ミゼリコルデ
 バゼラード
 スティレット
 フセット

 17レベルの時には見忘れていたが、18レベルになっても作成可能にミゼリコルデの簡略化は結局出ず、むしろ作れるものの幅が2つも増えていた。
 スティレットとフセットの造りはどうやらほとんど同じもののようで、スティレットに目盛を刻んだものをフセットと呼ぶようだ。
……まぁ、きっと次はバゼラードを作れと言われるだろう、とユウキはさほど気にしていないが。


「さすがに前回よりは時間がかかったな」
 ランスの評価は、さらりとしたものだった。
 ランスはふたつ作ったなどと知る由もないので、実は時間がかかったのは別の理由であるなどと知る由もないが、それでもダガーの時同様、間違いなく逸品と呼べる代物だ。
 ミゼリコルデでここまで作れるのであれば、一足飛ばしてスティレットでも作らせてみるか、などと少し甘やかしかけたが、ルイドの顔を思い出した。

「……次はバゼラードだな。」

 ユウキは「やっぱり」などと考えながら、「わかりました」とだけ口に出した。
 初めて作るものなので、ランスから作り方を教えてもらえるだろう。
 スキルを起動しながら一度やれば感覚的に習得できるのだが、最初の一回はどうしても教えてもらう必要がある。だからバゼラードは今のユウキには作れないのだ。

「だがまぁ今日は帰れ。少し根を詰めたように見えるぞ」
「え、……そうですか?」

 少し意外ではあったが、ランスが苦笑するのを見て気付いた。
 そういえば、今日は朝から何も食べていないような気がする。気付いたからというわけではないだろうが、ユウキの腹がいいタイミングで景気のいい音を立てたので、ランスは「ほら見ろ」とユウキを部屋から追い出した。


「それで、わざわざ私たちの分も食事を買って来たのですか」
「さすがに食べたあとだなんて知らなかったんだよ」
 思わず苦笑しつつ、ユウキは串肉にかぶり付いた。道すがらいい匂いをさせていたので衝動買いしたのだが、思わずニーナとマリーの顔が浮かび、ついつい3人分買ってしまったのだ。
 肉はどこか鶏肉にも似ていて、少しクセは強いようだが甘辛いタレが絡み、どこか現実のやきとりに似ている。強いクセはタレに消されるわけでもなく、好き嫌いはあるだろうが、このクセを好きだという人はいるだろう。

 不意に、黒崎からの連絡はないか、とツールを開く。

 どうやら連絡はなかったようで、いくつかのプッシュ通知が反応しただけでスマホは沈黙した。それでも何度か振動したのを見て、マリーが緊張したような顔をしたが。

「マリーはスマホが怖いの?」
「え?いえ、スマホというより、まりょ――」

 何かを言いかけたマリーは、そこで言葉を止め、次いで「あっ」と慌てたように口を噤む。
 その上で続けられた、「何でもありません」「怖くはないです」という言葉に説得力などあるはずもない。
「マリー、何か隠し事があるのなら――」
「い、いえいえ、隠してなんか――」
 などと何度かの不毛なやり取りを経て、ニーナが小さな声で「弁えなさい」と呟いたのを聞いて、ようやく小さく溜息を吐いてから、マリーは観念した。

「私は魔力の流れを、目で見ることができます」
「……それが、スマホから出てるってこと?」
「恐らくそうなんだと思うんですが」
 少し言い淀むような間を開けて、マリーはその間に、いい説明方法はないかと考える。

「すみません失礼します、このあたりから発生しているように見えますね」

 結果としてマリーは、言葉で説明するよりもわかりやすいだろうと、指で発生源のあたりをさした。
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