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西の神社
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「大御神、西の女神からご招待のお手紙をいただきました。2月末日、いかがでしょうか。」
女神の巫女から届いた手紙には、三月の雛祭りを見せたい、拝殿が工事明けできれいになったので見せたい、といった旨が書かれていた。
「うん。」
一日を終え、湯あみも食事も終えられソファでお休みになっている大御神は短くそう答えた。
「三月一日から雛祭りなので、こちらの例祭にも間に合います。」
「行ってみようかな。こんなに遠くに行くのは初めてだね。」
泊まりで出かけることも東日本地域を出ることも今までなかった。大御神はどう思っていらっしゃるか分からないが、私は不安だ。
二月末日。夕方まで礼拝があり、それを終えてから西の神社へ向けて出発した。大御神の移動は基本的に車なので6時間ほどかかる。いくら高級車とは言えど、慣れない長時間移動はかなり疲れる。
「大御神、お身体など大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。朔こそ無理しないで。」
「ありがとうございます。」
こんなやり取りを数回挟みつつ、23時ごろ到着した。女神側近の巫女が拝殿の前で出迎える。
「お待ちしておりました、大御神様。本殿にて女神様がお待ちしております。」
拝殿まで大御神をお送りし、本殿の扉にその姿が消えるのを見届けた後、別の巫女が私を迎えにきた。
「大巫女様、こちらにお部屋を用意してあります。」
案内に従って社務所の奥へ入っていく。客室が併設された社務所のようだ。部屋は十畳ほどの和室と、奥には風呂と厠がある。和室の真ん中には机と四つの座椅子付きの座布団、机の上には急須と茶葉、湯呑みとポットが置かれていた。初めての外泊で落ち着かない気持ちを鎮めるためにお茶を入れて座椅子に座ってみる。いつもなら自分も湯あみを終え、眠くて仕方ない時間だ。が、今日は眠くならない。日常と違う環境に体が適応できずにいる。
試しに風呂に入ってみた。いつもなら湯浴みの後は眠くなるから。しかしそれでも落ち着かない。布団を箪笥から取り出し、敷いて横になるも眠れず。そんなこんなで日付も変わってしまった。
大御神は大丈夫だろうか。お一人で湯浴みに向かわれたのだろうか。髪を乾かし忘れていらっしゃらないだろうか。そもそも渡した風呂敷をちゃんとお持ちになっているだろうか。お腹は空いていないだろうか。お疲れになっていないだろうか。
自分の知らないところで大御神が誰かと過ごす、そんなことが今までなかったから不安なのだ。おそらく先ほど大御神を本殿へ案内した巫女が私と同じ役なのだろう。あの巫女は毎回私と同じように不安になるのだろうか。まともに会話をしたことのない女神の巫女に一方的に同情してしまう。
そんなことを布団の中で考えていると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「はい。」
ドアを開けると、この部屋へ案内してくれた巫女が立っていた。
「お、お休みのところ申し訳ありません。大御神様がお呼びです。」
「わかりました。少しお待ちください。すぐ行きます。」
思いも寄らない来客に頭の中は軽く混乱している。が、急いで寝巻きの上から巫女装束の上を急いで着付ける。きちんと切る時間もないので仕方がない。髪は梳いたそのままだし、化粧もしていないがそれほどの時間はないようだ。
「お待たせいたしました。」
小走りする巫女の背中を急いで追った。
女神の巫女から届いた手紙には、三月の雛祭りを見せたい、拝殿が工事明けできれいになったので見せたい、といった旨が書かれていた。
「うん。」
一日を終え、湯あみも食事も終えられソファでお休みになっている大御神は短くそう答えた。
「三月一日から雛祭りなので、こちらの例祭にも間に合います。」
「行ってみようかな。こんなに遠くに行くのは初めてだね。」
泊まりで出かけることも東日本地域を出ることも今までなかった。大御神はどう思っていらっしゃるか分からないが、私は不安だ。
二月末日。夕方まで礼拝があり、それを終えてから西の神社へ向けて出発した。大御神の移動は基本的に車なので6時間ほどかかる。いくら高級車とは言えど、慣れない長時間移動はかなり疲れる。
「大御神、お身体など大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だよ。朔こそ無理しないで。」
「ありがとうございます。」
こんなやり取りを数回挟みつつ、23時ごろ到着した。女神側近の巫女が拝殿の前で出迎える。
「お待ちしておりました、大御神様。本殿にて女神様がお待ちしております。」
拝殿まで大御神をお送りし、本殿の扉にその姿が消えるのを見届けた後、別の巫女が私を迎えにきた。
「大巫女様、こちらにお部屋を用意してあります。」
案内に従って社務所の奥へ入っていく。客室が併設された社務所のようだ。部屋は十畳ほどの和室と、奥には風呂と厠がある。和室の真ん中には机と四つの座椅子付きの座布団、机の上には急須と茶葉、湯呑みとポットが置かれていた。初めての外泊で落ち着かない気持ちを鎮めるためにお茶を入れて座椅子に座ってみる。いつもなら自分も湯あみを終え、眠くて仕方ない時間だ。が、今日は眠くならない。日常と違う環境に体が適応できずにいる。
試しに風呂に入ってみた。いつもなら湯浴みの後は眠くなるから。しかしそれでも落ち着かない。布団を箪笥から取り出し、敷いて横になるも眠れず。そんなこんなで日付も変わってしまった。
大御神は大丈夫だろうか。お一人で湯浴みに向かわれたのだろうか。髪を乾かし忘れていらっしゃらないだろうか。そもそも渡した風呂敷をちゃんとお持ちになっているだろうか。お腹は空いていないだろうか。お疲れになっていないだろうか。
自分の知らないところで大御神が誰かと過ごす、そんなことが今までなかったから不安なのだ。おそらく先ほど大御神を本殿へ案内した巫女が私と同じ役なのだろう。あの巫女は毎回私と同じように不安になるのだろうか。まともに会話をしたことのない女神の巫女に一方的に同情してしまう。
そんなことを布団の中で考えていると、部屋のドアを叩く音が聞こえた。
「はい。」
ドアを開けると、この部屋へ案内してくれた巫女が立っていた。
「お、お休みのところ申し訳ありません。大御神様がお呼びです。」
「わかりました。少しお待ちください。すぐ行きます。」
思いも寄らない来客に頭の中は軽く混乱している。が、急いで寝巻きの上から巫女装束の上を急いで着付ける。きちんと切る時間もないので仕方がない。髪は梳いたそのままだし、化粧もしていないがそれほどの時間はないようだ。
「お待たせいたしました。」
小走りする巫女の背中を急いで追った。
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