歩夢さん

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隠し事

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「大御神、女神様、大巫女朔媛でございます。御入室の許可を得たく存じます。」

東の社殿と構造自体は同じ社殿のようで、本殿のさらに奥にある扉の前に行くよう神子に言われた。案内してくれた巫女は拝殿までしか入れないようだ。

「朔、おいで。」

扉の向こう側で大御神の声がする。恐る恐る扉を開くと、目の前に大御神が立ち塞がっていた。

「少し外に出たいんだが一人で出るわけにもいかないから。」

「左様でございましたか。」

長身の大御神に視界を塞がれ、部屋の中の様子は伺えないが、大神のお身体から香の薫りががして部屋の中にかなり焚きしめられていたことは想像できた。大御神は後ろ手に扉を閉めてしまったので結局中は見えないまま。

「女神様は…」

「眠っているよ。向こうの巫女がついているから大丈夫。」

いつもとは違う笑顔。きっと嘘の笑顔だ。

もう一度扉を開けようと大御神の横を抜けて手を伸ばした。

「本殿にいてもいいのでしょうか。巫女に話を」

「朔。」

名前を呼ばれる。制止の意味だろう。
頑なに中を見せたがらないらしい。いつも見ているのに今更何があるというのだろう。

仕方なく大御神の方へ振り向くと大御神の寝巻きの浴衣が崩れたままであることに気づいた。着崩れを直しながら尋ねる。

「湯浴みに行かれていないのですか?」

大御神は必ずことが終わると湯浴みに行っていた。そのために着替えも多く風呂敷に包んだはずだ。

「うん。」

「いいのですか?」

「うん。それより朔、さっきまでどこにいたの?」

「私は社務所ですが。」

「そっち行こう。」

私の左手をとって本殿から出ようとする。

「え?いけません!大御神ともあろう方が社務所なんて…。」

とっさに大御神を止める。

「大巫女ともあろう人間が社務所で過ごすことも十分おかしいことでしょ?」

「そうですけど。それより、少し外に出るって話じゃ…。」

「朔。」

 戻ったら有夜様に叱られるのだろうか、そんなことを考えると気が重い。母上にも小言をいただくだろう。

袴の上を脱ぎ、大御神に羽織らせる。

「私のもので恐縮ですが、外はまだ冷えますので。」

「ありがとう。」

先ほど案内してくれた巫女が拝殿にいたので社務所の客室まで人払いを頼み、本殿から大御神とともに客室に戻った。
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