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一族の総意
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女神が来て間も無く1ヶ月。女神の陰湿な嫌がらせに頭を抱えながらも、どうにか毎日過ごしていた。そんな中、夜、大御神を湯浴みに送った後有夜様から呼び出しがあった。
屋敷に行くと、そこには有夜様、そして有夜様の父である宵壱様、その奥方幸恵様が並んでお待ちしていた。
「お待たせして申し訳ございません。ご無沙汰しております、宵壱様、幸恵様、有夜様。」
「久しぶりですね、朔媛さん。」
奥方、幸恵様が笑顔を向けてくるが、その笑顔に恐怖を感じられるほど、この部屋の空気は異様に重かった。
「女神様、お見かけする限りは非常に快活でいらっしゃるが、どうだい?」
有夜様が静かに問いかける。私は耳鳴りさえしそうなこの部屋の重い空気を肺に吸い込んだ。
「はい、体調に問題はないかと思われます。」
「ひと月経った。ご懐妊の兆しはあるのかい?」
有夜様は努めて優しい口調であるものの、私に対する苛つきは隠せていない。
「ひと月では判断しかねます。」
「しとねは?」
「ほとんど可能な限りはご関係を持たれております。」
「実際に目で確認したのかい?」
「えっ…?」
突拍子もない質問に思わず唖然とした。直接覗き見るようなこと、するわけないだろう。
「…朔媛殿、貴女も早く女神にご懐妊いただいて帰って欲しいだろう?」
「そのようなことは…。」
「巫女が来てから何枚の巫女装束を修繕に持ってきた?貴女が一番迷惑を被っているはずだ。」
女神は離れに侵入して私の装束を引き裂くという嫌がらせをよくされていた。他にも大御神の目が及ばないところでいろいろ仕掛けられて確かに疲弊はしている。それでも、大御神と女神にこればかりは任せるしかないと思っていたし、それまで辛抱強くいるつもりだ。
「こればかりは、私の行動でどうにかなるものではありません。ご懐妊まで私は何年でも待ちます。」
「あら、貴女の意思はここに関係ないのよ?」
ここまで黙っていた幸恵様が口を開いた。
「貴女が何年待てようが、何されようが、重要じゃないのよ。我々は今すぐにでもお世継ぎが必要なの。どうにかできない、じゃなくてどうにかするのよ。」
ずっとニコニコ笑っているが、その目はしっかり据わっていた。あぁ、やはりこの方は苦手だ。
「朔媛殿、折り入って頼みがある。」
宵壱様が私を見据える。その目はすべてを見透かしているようで恐ろしい。先代大御神の御子息なのだと改めて感じる。
「貴女は当て馬、を知っているか?」
「存じ上げません。」
「うむ、本来大巫女として知る必要は全くない言葉だ。だが今回、貴女には当て馬になってもらいたい。」
当て馬を知らない以上、何になれと言っているのか理解ができない。
「当て馬とはなんでしょうか?」
「雌馬の発情を促すための雄馬を本来指すんだが、貴女の場合はその逆だ。」
「簡単よ、裸になって、身体の上に乗るだけでいいわ。直接触れれば完璧よ。」
有夜様と幸恵様の説明を聞き、胃の中が逆流するような感覚を覚えた。全身の毛穴から嫌な汗が吹き出す。
最悪だ、私はこの人たちを受け入れられない。
顔面蒼白で、口元を手でおさえ俯く私に、幸恵様は追い討ちをかける。
「貴女、大御神様と大変仲睦まじいと聞いていたから、てっきり喜ぶかと思ったわ。ねぇ」
自分の夫に同意を求めているようだが、宵壱様は黙って私を見据えるだけ。
「朔媛殿、酷な願いだとはわかっているが、今夜にでも引き受けていただきたい。お願いします。」
有夜様は私にお辞儀をした。私はその顔をもう一度見ることなく意識を失った。
屋敷に行くと、そこには有夜様、そして有夜様の父である宵壱様、その奥方幸恵様が並んでお待ちしていた。
「お待たせして申し訳ございません。ご無沙汰しております、宵壱様、幸恵様、有夜様。」
「久しぶりですね、朔媛さん。」
奥方、幸恵様が笑顔を向けてくるが、その笑顔に恐怖を感じられるほど、この部屋の空気は異様に重かった。
「女神様、お見かけする限りは非常に快活でいらっしゃるが、どうだい?」
有夜様が静かに問いかける。私は耳鳴りさえしそうなこの部屋の重い空気を肺に吸い込んだ。
「はい、体調に問題はないかと思われます。」
「ひと月経った。ご懐妊の兆しはあるのかい?」
有夜様は努めて優しい口調であるものの、私に対する苛つきは隠せていない。
「ひと月では判断しかねます。」
「しとねは?」
「ほとんど可能な限りはご関係を持たれております。」
「実際に目で確認したのかい?」
「えっ…?」
突拍子もない質問に思わず唖然とした。直接覗き見るようなこと、するわけないだろう。
「…朔媛殿、貴女も早く女神にご懐妊いただいて帰って欲しいだろう?」
「そのようなことは…。」
「巫女が来てから何枚の巫女装束を修繕に持ってきた?貴女が一番迷惑を被っているはずだ。」
女神は離れに侵入して私の装束を引き裂くという嫌がらせをよくされていた。他にも大御神の目が及ばないところでいろいろ仕掛けられて確かに疲弊はしている。それでも、大御神と女神にこればかりは任せるしかないと思っていたし、それまで辛抱強くいるつもりだ。
「こればかりは、私の行動でどうにかなるものではありません。ご懐妊まで私は何年でも待ちます。」
「あら、貴女の意思はここに関係ないのよ?」
ここまで黙っていた幸恵様が口を開いた。
「貴女が何年待てようが、何されようが、重要じゃないのよ。我々は今すぐにでもお世継ぎが必要なの。どうにかできない、じゃなくてどうにかするのよ。」
ずっとニコニコ笑っているが、その目はしっかり据わっていた。あぁ、やはりこの方は苦手だ。
「朔媛殿、折り入って頼みがある。」
宵壱様が私を見据える。その目はすべてを見透かしているようで恐ろしい。先代大御神の御子息なのだと改めて感じる。
「貴女は当て馬、を知っているか?」
「存じ上げません。」
「うむ、本来大巫女として知る必要は全くない言葉だ。だが今回、貴女には当て馬になってもらいたい。」
当て馬を知らない以上、何になれと言っているのか理解ができない。
「当て馬とはなんでしょうか?」
「雌馬の発情を促すための雄馬を本来指すんだが、貴女の場合はその逆だ。」
「簡単よ、裸になって、身体の上に乗るだけでいいわ。直接触れれば完璧よ。」
有夜様と幸恵様の説明を聞き、胃の中が逆流するような感覚を覚えた。全身の毛穴から嫌な汗が吹き出す。
最悪だ、私はこの人たちを受け入れられない。
顔面蒼白で、口元を手でおさえ俯く私に、幸恵様は追い討ちをかける。
「貴女、大御神様と大変仲睦まじいと聞いていたから、てっきり喜ぶかと思ったわ。ねぇ」
自分の夫に同意を求めているようだが、宵壱様は黙って私を見据えるだけ。
「朔媛殿、酷な願いだとはわかっているが、今夜にでも引き受けていただきたい。お願いします。」
有夜様は私にお辞儀をした。私はその顔をもう一度見ることなく意識を失った。
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