狂

引退

　役付きに長澤が任命されて２ヶ月。
　雪音はボスの執務室にいた。

「どうだ、あいつの様子は。やってけそうか。」

「とても優秀だと思います。覚えが早かったので私としてはとても助かってます。」

「そうか・・・。」

　ボスは高そうな椅子に深く体を沈めた。雪音はそんなボスを執務机を挟んで見ている。

「２年前に拾ってきたんだが、堅物でな。成績はいいんだが。」

「実力主義ですからね。」

「そうだな。俺がそういう組織を作っただけだ。」

　ボスはおもむろにタバコを取り出す。雪音はスーツの内ポケットからライターを取り出し、ボスの口元に持っていった。

「虎に仕込まれたか。」

「・・・そうですね。」

　幹部たちとうまく渡り合うために、虎が雪音におしえた処世術の一つだ。
　ボスはタバコを深く吸うと、ゆっくり煙を吐き出して雪音を見た。

「虎が引退するらしい。」

　雪音はボスからの予想外の言葉に目を細めた。

「今年いっぱいで離れたいと打診があった。あんだけ貢献してくれた上に、年齢も年齢だ。引き止めるわけにはいかねぇな。」

　ボスは納得せざるを得ない、といった態度だ。雪音も何も言えずにいた。

「覚悟しとけ、雪音。きちんと親離れしろよ。・・・紅雷もな。」

「その話はどこまで広がっているんですか。」

「お前と紅雷だけだ。近々、幹部会で報告するようだ。俺は止めねぇよ。」

「・・・はい。」