歩夢さん

文字の大きさ
24 / 32

引退3

しおりを挟む
 紅雷は雪音が本部に来る少し前にボスに呼び出されていた。







「虎が引退するそうだ。」

「・・・それほんと?」

「こんな嘘ついてどうするんだ。」

 紅雷は驚きを見せたあと、ソファに座り込みこう言った。

「紅雷のやってた仕事の割り振りはどうなるの?ずっと固定の任務もあるし、幹部の穴も俺が入った穴より大きくなる。」

「冷静だな、ずいぶんと。自分の育ての親がいなくなるのに。」

「・・・確かにそうかもしれないけど、俺もいつまでも子供じゃない。この組織に対して責任がある。」

「成長してんだなぁ・・・。幹部は必然的に雪が入ることになるが、さすがのあいつにも荷が重いだろうな。仕事の一部も雪とお前がやることになるな。」

「それはいつから?」

「今年いっぱいって話だ。幹部を埋めるより任務を埋めたいから、雪音が昇格するのはさらに先だな。」

「雪音には話すの?」

「そうだな、お前的にもその方がいいだろう。」

「うん。よろしくね。」





 雪音がボスから話を聞かされ、多少動揺していることは予想がついていたが、紅雷の想定以上だったようだ。

「日本酒、そんな一気に飲んだら明日に残るよ。」

「うん、わかってる。」

 だいぶ酔っているようだが、それでも止まらないのは動揺した心をごまかすためだろう。

「俺シャワー浴びてくるから、出てきたら終わりにしてね。」

「うん。」

 雪音のから返事を聞いて、紅雷は立ち上がるとバスルームへ向かった。

 紅雷の後ろ姿を見送ると、雪音は盃に新たに日本酒を注ぐ。雪音はかなり酒に強い。しっかり酔うには日本酒や蒸留酒のストレートをハイペースで流し込むしかないのだ。帰ってきてから止まることなく飲み続け、流石にかなり酔いが回っていたがそれでもやめられずにいた。
 黙々と、不安を押し込めるように飲んでいると間も無く、紅雷がバスルームから戻ってきた。

「もう終わり。今水持ってくるから待ってて。」

 紅雷はグラスと瓶を雪音から取り上げるとそれをキッチンへ持っていき、代わりにペットボトルのミネラルウォーターを雪音に渡した。

「ありがとう。」

 雪音は素直に水を飲む。500mlのペットボトルを半分ほど空ける。

「立てる?ベッド行くよ?」

 紅雷は雪音の顔を覗き込む。若干赤らんで目も潤んでいる。何がとは言わないが、やばいな、と紅雷は思うがそれを出さずに雪音の膝裏と背中に腕を回し抱き上げた。雪音は紅雷の首に両腕を回した。

「どうしたの、いつもなら自分で歩くっていうくせに。」

「無理。」

 雪音の不器用な感情表現や甘え方は紅雷の理性を殺すのに十分な威力を持っている。紅雷は寝室にたどり着き雪音をベッドにおろすと、そのまま雪音の唇に自分のを重ねた。雪音も条件反射でそれを受け入れる。

「大丈夫。俺が雪音の席を作っておくから。大丈夫。」

 雪音を落ち着かせるように何度も、大丈夫、と言い続けた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

妻の遺品を整理していたら

家紋武範
恋愛
妻の遺品整理。 片づけていくとそこには彼女の名前が記入済みの離婚届があった。

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

いちばん好きな人…

麻実
恋愛
夫の裏切りを知った妻は 自分もまた・・・。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

初体験の話

東雲
恋愛
筋金入りの年上好きな私の 誰にも言えない17歳の初体験の話。

処理中です...