狂

戦い方

「お疲れですか？」

　雪音が本部のデスクで書類仕事を片付けていると、後ろから長澤が声をかけた。

「今日の任務、俺でも行けますよ。」

「・・・いや、大丈夫。」

　虎と話し、雪音の中でも整理をつけたつもりだった。それでも不眠気味なのは今後をひどく恐れているのだろう。そしてそれを他人に見透かされるほど、表情や態度の出ていることに気づき、雪音は自分に呆れた。

「これ、来週の割り振り。把握お願いします。」

「はい。・・・休んだ方がいいと思いますよ。」

　長澤は来週の任務の割り振りに目を通し、雪音をもう一度見た。

「俺、まだ余裕あるんで。」

「大丈夫です。じゃあ私は行くんで、机の資料ボスに渡しておいてください。」

「・・・はい。」

　一緒にいることが多くなり、長澤にも雪音のほとんど動かない表情や変わらない態度から、わずかな体調や機嫌の差が掴めるようになってきた。
　最近、ここ１週間ほど、ずっと顔色が悪い。元から白い肌は、青に近い色に。雰囲気も凛と鋭い空気感は薄まったように感じられる。

　今日の雪音が受け持った任務は、確かに幹部候補に上がったばかりの長澤には荷が重いと言われるような仕事だ。だからこそ、万全でない雪音が一人で行くこともとても心配である。たとえ万全であっても、十分危険な任務である。注意力が少しでも削がれれば簡単に死んでしまうだろう。
　長澤は雪音のことを先輩として、幹部レベルの実力者として認めている。尊敬すら抱いている。だからこそ、後輩として雪音のことを案じていた。

　長澤は雪音を尾行することにした。怒られたら謝ればいい。殴られるくらいなら甘んじて受けよう。雪音が任務を失敗し、死んでしまうことに比べれれば大したことではない。