『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

54.放置で良いんですか?

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「さて、そろそろ反省もしただろうし、俺達も暇じゃないからね。さっさと手続きを終わらせて、次の町に行こうか?」
「え?」

 立ち上がったノムルに、一同は呆気に取られて目を向ける。今度は雪乃も混ざっていた。

「ノムルさん、これ、放置で良いんですか?」

 いくらこのギルドを管理する人物に問題があったとはいえ、建物をほぼ全壊にしたまま去るのは、僅かでも常識の欠片があれば、躊躇われる行為だ。
 だがノムルにそんな欠片は見当たらない。
 ギルドの職員達は、祈るように雪乃を見つめた。情けないと言われようとも、この魔王のごとき魔法使いに物申せるのは、隣にいる小さな子供ただ一人なのだから。

「うん? 自業自得じゃない? 放っておけばいいよ」

 けれどその祈りも虚しく、魔王はにっこりと微笑む。

「でも……」

 と、雪乃は項垂れる。
 放って行くのは罪悪感が募る。だが正直に出頭して捕まれば、正体が露見してどんな目に合わされるか分からない。
 賠償金を支払うにしても、イグバーンからお礼にと貰ったお金があるが、それでは足りないだろう。
 結局、ノムルの言うとおり、放っておいて逃げるしか道はなかった。
 萎れながらもソファから下りた雪乃は、ノムルの後を追うように歩きだす。

「あー、もう! そんな顔をしないでよ。本当、調子狂うなあ」
「ごめんなさい」

 頭を掻き毟るノムルに、雪乃は力なく謝る。
 この騒動の原因を作ったのも、何もできずに去るのも、自分に力が無いからだと情けなく思った。

「これはユキノちゃんを傷付けたことに対する、見せしめなの。なのにユキノちゃんが悲しむんじゃ、意味が無いでしょう?」

 しゃがみこんだノムルは、困ったように雪乃の顔を覗き込む。それから乱暴に雪乃の頭を撫でると、

「お前ら、ユキノちゃんに感謝しろよな」

 と言って、杖で床を突いた。その途端に、崩壊していたはずのギルドの建物は、映像を巻き戻すように、僅か数秒で元の状態に戻った。
 ギルドの職員も、冒険者達も、遠目に見物していた町の人たちまでも、その様子に呆気に取られている。そして驚きに満ちた歓声が上がった。

「ノムルさん、凄いです!」

 雪乃も葉を輝かせて、ノムルに尊敬の眼差しを送る。ノムルも満更でもないようで、顔がにやついている。

「ん? 大したことじゃないよ? 冒険者ギルドの建物は、基本的に壊れてもすぐに修復できるように、形状記憶魔法が掛けられているからね。核となっている魔法石さえ無事なら、全壊していてもあっと言う間に元通りさ」
「おお!」

 やはりあの口ひげは形状記憶魔法によるものだったのかと、雪乃はしたり顔で頷いた。
 雪乃もどこかずれているのかもしれない。

 元通りになったギルドで、さっそく雪乃の入国手続きと、認定証の書き換えを行った。
 手続きはサウザン・ロスク自らが行い、来たときと違って、スムーズすぎるほどスムーズに進んだ。 
 冒険者、特に魔法使い達は、ノムルに声を掛けたそうにしていたが、他の冒険者達に諌められて、渋々諦めていた。
 小さな同行者のお蔭で怒りを解き、ギルドも修復してもらえたが、次は無いということは全員理解している。

「帝都行きの護衛ってある?」

 入国手続きをしてもらいながら、ノムルは受付に座っているギルド職員に聞いた。
 本来なら依頼内容が張り出された掲示板で確認してから、受注したい依頼を受付で確認するのだが、ノムルはその手間さえ面倒だと省いたのだが、咎める人間はいなかった。
 声を掛けられた職員は、慌てて依頼内容が書かれた紙の束を漁る。

「えっと、すみません、帝都まで直接の馬車は無いですね。帝都方面ですと、三日後に護衛依頼があったんですが、すでに受注済みですね。次は一ヵ月後に同じ依頼主で、間にもしかしたら急な依頼が来るかもしれませんが」
「じゃあいいや」
「も、申し訳ありません」

 ギルド職員は何度も深々と頭を下げた。その顔色は青ざめていて、今にも意識を失ってしまいそうだ。
 見かねたサウザン・ロスクがギルド職員の耳元で何か囁くと、はっと目を見張ってから、慌てて依頼書を確認し始めた。

「あった、ありました」

 少しばかり生気の戻った表情で、書類の束から抜き出した依頼書をサウザン・ロスクに渡す。
 サウザン・ロスクは手続きを終えた認定証を雪乃に返し、受け取った依頼書をカウンターの上に提示した。

「まずは認定証の確認をどうぞ」

 小さな金属板を受け取ったノムルは、それを確認してから雪乃に渡す。

「はい、ユキノちゃん。暫定は取れて、正式に登録されたから安心してね」
「ありがとうございます」

 受け取った雪乃も金属板を見るが、何と書かれているのかはさっぱり読めない。ただ、以前書かれていた文字が消えていたので、それが暫定を意味する文字だったのだろうと想像した。
 袖を通してローブの中に入れた認定証は、無くさないように腰辺りの枝に掛けた。
 二人が認定証を仕舞い終えるのを待ち、サウザン・ロスクは依頼書の説明を始める。

「こちらはオーレンまでの護衛依頼になります。ここからオーレンまでは馬車で二日ほどの道程なのですが、途中に飛竜が巣を作っていまして、現在は大幅に遠回りするルートが使われています。こちらの依頼も、駄目で元々と出されたものなのですが、如何でしょう? 出発は受注次第、今の時間でしたら、今日中に出発も可能です」

 窺うように、サウザン・ロスクはノムルをそっと見る。
 討伐する必要はなくとも、竜種が出てくる危険のある街道を護衛するなど、並の冒険者では無理だ。
 AクラスとBクラスを混ぜた、複数人の護衛を組むのが妥当だろう。
 だが目の前の冒険者は、認定証に刻まれたランクはAだが、実力はSクラスを凌ぐ。共にいる子供がどれほどの腕前かは知らないが、護衛だけならばノムル一人でも充分だろうと、サウザン・ロスクは目処を付けたのだ。
 そしてもう一つ、これ以上この冒険者がパーパスに滞在するのは、あまり好ましくないという思惑もあった。
 ギルドの腐敗を解決してくれた恩はあるが、もうじき領主がやってきて揉めることは想像に容易い。
 今の状況なら、被害は冒険者ギルドだけに留まるため、冒険者ギルドが訴えない限り、ノムルが罪に問われることは無い。しかし、である。
 領主の弟に手を出したのだ。どんな難癖を付けられるか、分かったものではない。
 そうなった場合、この魔王のような男が憤怒に駆られ、町を破壊しないとも限らないではないか。
 一刻も早く、この男をパーパスの町から遠ざけねばならない。
 サウザン・ロスクは使命に燃えていた。
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