『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

55.そっち?!

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「オーレンに向かえば、帝都に行く馬車があるわけ?」
「いえ、オーレンから帝都までは機関車が出ていますので、歩いて行くよりも快適に早く着くかと。機関車代は依頼の報酬で賄えますし、更に飛竜を討伐すれば、一等車輌を利用しても充分お釣りが出ます」

 機関車の乗車代は高額で、執着地点のオーレンから帝都まで向かうとなれば、二日ほどの護衛で稼げる金額ではない。
 しかし今回は、上位ランクの冒険者を多数雇うという前提であったため、それらをノムルに全て回せば、一般人が使う四等車輌どころか二等車輌でも充分に足りる。
 ノムルはちらりと雪乃に視線を落とす。案の定、雪乃はどこかソワソワとして、興味を示しているようだ。
 この世界の陸路での移動手段は、徒歩や馬や牛などが牽く馬車が主である。機関車という乗り物は、ルモン大帝国などの一部の大国、それも主要な都市だけで走っている程度で、滅多にお目にかかれるものではない。
 世間を知らない小さな樹人は、目にするだけで間違いなく驚くだろうと、ノムルは顔が弛むのを抑えられない。
 だがしかし、

「竜! 見たいです!」
「そっち?!」

 雪乃が食いついたのは、機関車ではなく竜だった。
 なにせ竜といえば、空想生物の中でも屈指の人気と、偉大さを誇る生物ではないか。それが実在すると聞いて、興奮しない人間がいるだろうか?
 フードからわずかに覗く葉を煌かせて、雪乃はサウザン・ロスクの説明を食い入るように聞いている。

「ユキノちゃん、竜が好きなの?」
「もちろんです! 鱗ですか? 毛ですか? 羽毛ですか? まさかの禿ですか? お友達にはなれますか?」
「……。ユキノちゃん、とりあえず落ち着こう? 質問がおかしいから。特に後ろから二つ目」

 ノムルは魔物にとって、竜がどの様な存在なのかと気になった。だがしかし、第三者もいるこの場所で、それを聞くわけにはいかない。
 とりあえず、話を進める。

「じゃあ、その護衛依頼を受けるよ。飛竜の討伐もセットなの?」
「いえ、飛竜の討伐は別の依頼です。現在パーパスとオーレンの両ギルドに討伐依頼が出ていますが、まだ討伐達成はされていません。何組か挑戦したのですが、失敗に終わっています」
「そう、でも飛竜討伐と護衛依頼の同時受注は無理だろう? 飛竜を討伐していたら、護衛はできない」

 護衛している馬車の前に出てくれば、その時に討伐することもできるが、遭遇することなく目的地に到着する可能性もある。
 受注した依頼を達成できない場合はペナルティが発生するため、もし護衛と飛竜討伐を同時に受注した場合、オーレンまで辿り着いた後で、飛竜を倒すために来た道を戻らなくてはいけなくなる。

「ええ、ですが飛竜討伐は緊急を要するため、今回は特別処置として、ペナルティは無し、飛竜討伐を達成した場合は報酬をお支払するということで如何でしょう? 一時的に受注を止めますので、討伐の可否に関わらず、オーレンに着きましたら、冒険者ギルドで手続きをして頂くことが条件になりますが」
「ふうん、まあ、それならいいかな? ユキノちゃんはどう?」

 と視線を下げれば、先ほどまで楽しそうにしていた雪乃は、どこかしょげた様子だ。

「え? ユキノちゃん? どうしたの? 心配しなくても大丈夫だよ?」

 慌てて声を掛ければ、雪乃がわずかに顔を上げた。

「竜を殺すのですか?」
「え? あー……」

 しゅんっと項垂れる雪乃の姿に、ノムルも二の句が継げない。
 そう、雪乃は樹人だ。人間にとっては恐ろしい竜も、魔物達にとっては違う存在なのだろう。
 ムツゴロー湿原で多くの魔植物を刈っていた時には、そこまで嫌がる素振りを見せなかったため、すっかりノムルの頭から抜け落ちていた。
 まああれは植物だし、見た目が酷いものばかりだったので、同情も哀愁も感じる余地が無かったのかもしれないが。

「えーっと、ユキノちゃん、まだ殺すと決まったわけじゃないんだよ? ただ、道を塞がれていたら、邪魔だろう?」

 ノムルはしゃがみこんで目線を合わせると、弁明を開始した。

「討伐はしてもしなくても良いってことだから、様子を見て考えよう? それともオーレンには向かわず、帝都まで歩くかい?」 

 護衛の馬車に乗せてもらい、そこから機関車で帝都に向かうほうが、ずっと楽だし早い。しかしノムルは雪乃に強要するつもりはなかった。
 のんびり歩いて帝都に向かうのも悪くはないというのが、旅人ノムルの考えだ。

「ノムルさん」
「うん?」
「竜は見たいです!」
「うん」
「でも、殺すのは……」

 俯く雪乃の頭を、ノムルは優しくぽんぽんと撫でる。

「大丈夫だよ。飛竜の討伐はどっちでも良いってことなんだから、無理に討伐する必要はない。目的は護衛なんだから、もし襲われても追い払えばいいさ」

 実際のところ、ノムルにとっては飛竜はそれほど脅威ではない。
 一撃で楽に葬れるかと聞かれれば、はさすがに答えに窮するが、自分が負けるとは思っていなかった。
 それに竜種は頭が良く、相手が自分よりも強いと気付けば、無理な攻撃はせず撤退する。だから竜種が危機感を抱く程度の魔法を一つ使えれば、追い払うことは難しくないのだ。
 竜種を追い払うレベルの魔法を幾つも行使できるノムルにとって、逃げ足の早い飛竜は討伐こそ面倒だが、身を守ることに関しては、まったく問題のない相手だった。
 そう説明すると、雪乃はほっと安心したように顔を上げる。
 聞き耳を立てていた冒険者達の頬は、揃って引き攣っていたが。
 そしてノムルに飛竜を倒すだけの力が有るにも関わらず、倒す気がないと知ったサウザン・ロスクは、なんとも複雑な表情で肩を落としていた。

「では、オーレンまでの護衛依頼を、お二人で受注するということでよろしいですか?」
「うん、そうだね」
「出発は護衛が決まり次第ということでしたので、急ではありますが、本日中でもよろしいでしょうか?」
「うん、いいよ」
「一応、飛竜討伐もお付けしてもよろしいでしょうか? 先ほど説明したとおり、ペナルティはありません」
「あー……、まあ、気が向いたらってことで」
「ありがとうございます」

 道中、何が起こるか分からない。どうせオーレンのギルドにも、護衛任務の達成を報告に行かなければならないのだから、まあ支障はないだろうとノムルは依頼を受けた。
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