『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

64.動けるなら手伝え!

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 横たわるタッセには、マグレーンが手当てに当たっていた。パトのほうは、上半身を腕で支えながら、飛竜を凝視している。
 目線の先を追えば、飛竜は自分たちには目もくれず、一人の魔法使いを相手にしていた。
 壊滅状態の自分たちは、止めを刺すほどの価値も無いと侮られたかと、憤りが湧いてくる。

「ヤガル?! 動けるなら手伝え!」

 飛竜へ挑もうと一歩踏み出した槍使いを、マグレーンが呼ぶ。
 ちらと飛竜の様子を窺って舌打ちを漏らしながら、槍使い――ヤガルはマグレーンの下へ走った。

「それ持ってパトの所へ行って、傷口に貼って。あと、こっちは口に放り込んで食べさせて」
「何だこれ?」

 掌ほどの丸い葉と、中央線に棘が並ぶトカゲの尻尾のような肉厚の葉に、ヤガルは眉をひそめる。

「何って、お前の体にも貼ってるだろ?」

 言われて自分の体を見ると、マグレーンの指摘どおり、そこら中に丸い葉っぱが張られていた。すでに痛みは消えていたが、そこは彼が傷を負っていた部分だ。

「何か知らないけど、治癒魔法を使わなくても、貼るだけで傷が治るんだよ。あとこっちは、苦いけど回復力が半端ないから」

 早口で捲くし立てたマグレーンは、追い立てるようにヤガルに薬草を持たせて、パトの下へと向かわせた。
 その最中、ナルツの声が上がる。

「フレック!」

 喜びを含んだ声に、マグレーンもヤガルも、弾けるように顔を上げた。まさかという驚愕と期待の色が、その瞳に含まれている。
 
「フレック、しっかりしろ! フレック!」

 ナルツはフレックの肩を揺さぶり、涙に顔を塗らして叫ぶ。駆けつけた雪乃は勢いそのままに、ナルツに飛び蹴りを食らわした。

「怪我人に何をしているんですか?!」
「あ、ああ。すまん」

 怪我の手当ては済ませたが、フレックの状態はまだ安心とはいえない状態なのだ。呼吸も脈も止まっていたことから、脳にダメージが蓄積されている可能性だってある。
 それを抜きにしても、体調の悪い人間を揺さぶれば、症状は悪化するに決まっている。
 枕元に座り込んだ雪乃は、呼吸と脈が戻っていることを確認し、ほっと安堵の息を吐く。フレックの肩をぺしぺしと叩くと、彼の耳元へ顔を寄せた。

「フレックさん、聞こえますか? 聞こえたら返事をするか、どこか動かしてください」

 雪乃が声を掛けると、フレックは苦しそうに、それでも口を動かそう唇を震わせる。

「よし。ナルツさん、これの皮を剥いて、切り刻んで少しずつ食べさせてあげてください。少しずつですよ? 咽に詰まったら危険ですからね」
「分かった」

 小さな子供に足蹴にされたうえに叱り飛ばされた衝撃からか、ナルツの涙は瞬時に引いていた。頭も平常を通り越し、冷めすぎて思考が停止している。
 言われたとおりに特性アエロ草の皮を剥き、剣で細切れにしてフレックの口に少しずつ運んでいく。
 その様子を確認した雪乃は、今度はマグレーンの元に向かった。
 もう少し掛かりそうだが、手当ては順調に進んでいる。残る一人もヤガルが治療を開始した。

「後は任せます」

 そう言い残し、雪乃はノムルに向かって駆け出す。ぽてぽてぽてぽてと、大人が歩くのと変わらない速さだが、小さな体は走った。

「え? ちょっと待て! そっちは危険だ!」
「大丈夫です。あなた達はそこで、怪我人の治療に専念してください。飛竜はノムルさんにお任せください!」 
「「「ええ?!」」」

 冒険者達は、思わず声を揃えた。
 この殺伐とした現場に似つかわしくない、幼い子供。この場に存在するだけでも異様なのだ。それなのに、よりによって飛竜に向かっていこうとしている。
 止めなければと、動ける三人は追いかけようとして、その動きを阻害された。見えない壁が、冒険者達と飛竜の間を隔てていたのだ。

「おい、どうなっている?」
「あの子を連れ戻さないと!」
「戻って来い!」

 混乱と心配で、叫び声を上げる。しかしその感情を向けられた雪乃は、振り返りさえしない。
 そして、子供の前に一人の魔法使いが舞い降りた。ただ一人で飛竜の攻撃をかわしていた、草色のローブに山高帽を被る魔法使い。
 その表情にはわずかに疲れが見えるが、いつも以上ににこやかだ。

「やあ、ユキノちゃん。お疲れ様」
「ノムルさんも、ありがとうございます。飛竜さんとお話がしたいのですが、できそうですか?」

 他の人間が聞いたら、何を言い出したのかと顔をしかめられるだろう。しかしノムルは、笑顔で答える。

「動きを止めれば良いかな?」
「はい、お願いします」

 ノムルは呪文を詠唱し、右手で大きく四角を描く。それを押し出すように手を動かせば、透明な檻が出現して飛竜を閉じ込めた。
 雪乃はノムルと共に、檻の手前まで進む。そして、飛竜の正面に立った。
 閉じ込められた飛竜は怒り、尾や爪で檻を攻撃するが、檻が破られることは無い。
 雪乃はただ静かに、飛竜の目を見上げ続けた。飛竜もまた、ノムルを警戒しながらも、緋色の瞳に雪乃を映す。

 ノムルは雪乃から渡されていた特性アエロ草を齧りながら、雪乃を見守る。
 もちろん、飛竜への警戒も緩めてはいない。冒険者達が邪魔しないように、手も打ってある。
 二時間は経過しただろう。暴れ続けていた飛竜が、少しずつおとなしくなってきた。
 けれど雪乃は、見つめ続けることを止めようとはしない。飛竜の瞳の中心に映る、小さき者は、雪乃一人となっていた。

 更に一時間は経過しただろうか。空は日が沈み始め、青に朱が混じり始めていた。
 雪乃がそっと右手を上げる。まるで飛竜の頬を撫でるように、優しく包み込むような仕草を見せた。
 もちろん、雪乃と飛竜の間にはまだ檻が有り、実際に触れる事はないのだが。
 しかしその動きに合わせ、飛竜の瞼が微かに下がり、雪乃を優しく見つめ始める。

「嘘だろう?」

 傷も癒え、すっかり元気を取り戻していた冒険者達は、その光景に瞠目した。
 竜種の中には、気性が優しく、卵から育てることで騎竜となる種も存在する。しかし野生に生まれた竜種は、人に心を許すことは無いというのが常識だった。
 驚愕に満ちた視線の中、雪乃は飛竜を見つめ続ける。

「ノムルさん」
「何?」
「竜の卵って、どうしたらいいですか?」
「……」

 飛竜と見詰め合ったまま、雪乃は傍らに立つノムルに尋ねた。
 この世界の常識を知らない雪乃は、分からないことは彼に聞くことにしているのだ。
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