『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

65.自分でもちょっと

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「もう少し、詳しく説明してくれるかなあ?」

 額に手を添え、ノムルはためらいながらも尋ねた。

「ここは人間達の縄張りなので、人間達が何度も攻撃してくるかもしれないから、場所を移動してほしいとお願いしたんです」
「やっぱり話せるんだ。凄いなー。で?」
「飛竜さんが仰るには、『自分でもちょっと、巣を作る場所、間違えちゃったかなー』って後悔しているそうなんです。でも、『もう卵を一つ産んじゃって動けないから、どうにもなんないんだよねー』ということらしいです」
「……。ごめん、ユキノちゃん。どこにツッコミを入れれば良いのか、俺には分からないよ」

 片手で目元まで覆ったノムルは、斜め下へと顔を落とした。
 そんな仕草を目にした冒険者たちは、何か問題が起ったのかと息を飲む。彼らの下までは、雪乃たちの会話は聞こえていないのだ。

「えっと、新しい巣まで卵を運べってこと?」

 確認するノムルの言葉に、なぜか飛竜は、驚いたように目と口を開いた。
 その間抜けな姿に、ノムルはあ然とするが、冒険者達は咆哮が放たれると身構える。

「それはまったく思い付かなかったそうです」
「あ、そう。じゃあ、どうしてほしいの?」

 ノムルは呆れ気味に確かめる。

「竜種は子煩悩なので、子竜が泣くと近くにいる竜種が集まってきて、目についた動く者たちに対して、有無を言わさず攻撃するそうです。なので、ここに放置したまま移動すると大惨事になりかねないので、動くに動けなくて困っているそうです」
「何その新情報。竜種が子煩悩なんて、初めて聞いたよ。っていうか、卵を産んだら巣立ちまで梃子でも動かないのって、そんな理由からだったの?!」

 今度は頭を抱えて天を仰ぎ始めた魔法使いに、冒険者達の緊張は更に高まる。いつでも迎撃できるように、武器を構えた。
 勝ち目は無いと分かっている。だがそれでも、この絶望的な状況の自分たちを助けるために、わざわざやってきてくれた魔法使いと、彼らの命を救ってくれた子供だ。
 残したまま逃亡するという選択肢など、彼らには無かった。

「もう、せっかくだし、ユキノちゃんが貰って育てちゃえば?」
「え?」
「王族とか騎士団の中には、騎竜を持つ者もいるから問題ないよ? 育てば移動も楽になるし、そこらの人間や魔物じゃ相手にならないから、ユキノちゃんの護衛にも調度良いんじゃない?」

 ノムルの説明を聞いて雪乃は戸惑うが、飛竜は目を輝かせて乗り気のようだ。腹の下から大きな翡翠のような卵を咥えて、雪乃に差し出した。

「あー、決定したみたいだね。じゃあ、貰っていこうか?」
「ええ?」
「君は他の地に行くんだよね?」

 当事者となる子供たちの意見は聞かず、保護者同士で勝手に話は進んでいく。
 頷いた飛竜に頷き返すと、ノムルは飛竜を覆う檻を解除すると共に、治癒魔法を発動させる。飛竜の体に刻まれた傷は、僅か三秒ほどで跡形も無く消えた。
 会話の聞こえていない冒険者達に、戦慄が走る。
 深手を負わせていたはずの飛竜の傷が、一瞬で回復してしまったのだから。
 竜種の回復力は凄まじいとは聞いていたが、また初めから戦わなければならないのかと、絶望に襲われる。
 いや、それよりも、今一番危険な場所にいるのは、自分たちではない。恩人の命が危険に晒されていると、彼らは目の前の壁を打ち砕こうと攻撃を開始し、声を張り上げる。
 けれどその声は壁に遮られ、魔法使いと子供には届かなかった。

「んじゃあ、今度は人間とは関わらない、奥地で頼むね」

 ノムルの言葉に頷いた飛竜は、羽を伸ばして飛び立つ。

「あ、お元気でー!」

 一拍遅れて、雪乃も大きく手を振って見送る。
 飛竜は子供を頼むとでも言いたげに、雪乃とノムルの上を旋回すると、夕日に向かって飛んでいった。

「え? 飛竜が逃げた?」
「どういうことだ?」

 夕日に溶け込む飛竜を眺めながら、冒険者達は呆然と佇んだ。

「はい、ユキノちゃん、卵だよ。ユキノちゃんの好きな竜が手に入ったね」
「ちゃんと育てられるでしょうか?」
「大丈夫じゃない? 竜種の卵は放っておいても勝手に孵るし、餌は自分で調達するでしょう?」
「……」

 雪乃は自分で情報を集めて、しっかり育てようと心に誓った。

「さて、飛竜の問題は解決だねえ。戻ろっか?」
「そうですね」

 貰った卵をしっかりと抱きかかえ、雪乃はノムルに付いて歩き出す。何かを忘れている気がしたが、思い出せないので、まあ良いかと気にせず歩いていると、

「ちょっと待ったーっ!」

 と、声が掛かった。
 振り向けば、冒険者達が駆けて来る。飛竜が飛び立つと共に、彼らの動きを止めていた障壁は消えていた。

「あ、忘れていました」
「そうだねえ。ちゃんと口封じはしておかないとねえ」
「……」

 呆れたようにノムルを見るが、気に止める様子は無い。
 新たな被害者の誕生かと、雪乃はふるふると震えた。

「どうなってんだ?」
「うん? 何が?」

 最初に雪乃達の下に駆けつけたヤガルが問いかければ、ノムルはつれない返事を返す。

「なんで飛竜は逃げていったんだ?」
「問題が解決したからでしょう?」
「いや、逃がしたら駄目だろ?」
「なんで?」
「え?」

 質問に質問で返され、ヤガルは言葉を失う。そこに駆けつけてきたマグレーンが、ヤガルの肩を哀れむように叩き、バトンを奪い取った。
 ノムルに挑むような視線を飛ばし、口を開く。

「あんたの力なら、飛竜に止めを刺せたのでは?」
「そうかもしれないね」
「それなのに、なぜ逃がした? こんな人里近くで飛竜を逃がせば、オーレン辺りで被害が出るかもしれない」

 責めるような口調には、自分達が討伐に失敗した以上、強くは出れないと苛立ちも篭っていた。

「大丈夫だよ。あれはもう、人里には近付かない。そう躾けておいたから」
「なっ?!」

 ノムルの答えに、冒険者達は驚きの声を上げる。野生の竜種には躾などできないというのが、世界の常識だ。
 それはノムルも知っているし、実際、ノムルは飛竜と対話などできない。けれど事実を知らせる必要もない。

「そんなことができるなんて、聞いたことが無い」
「実力不足なんじゃないの? そんなことより」
「そんなこと? 大問題じゃないか!」

 マグレーンが言い募るが、雪乃は気付いた。ノムルの笑顔が魔王化していっていることに。
 これは一荒れ来るなと、雪乃は沈む夕日を眺める。
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