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ルモン大帝国編
71.顔から駄々漏れだった
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そんなこんなで山道を下りきり、馬車はオーレンの町へと近付いたのだった。
「……。えーっと」
町の入り口で待ち構えていた兵士達は、その光景にどう対処すれば良いのか、さっぱり分からなかった。
程近い場所に巣を作った飛竜の討伐が失敗した場合、飛竜がオーレンの町に攻めてくる可能性もある。そのため、こうして町の入り口に領主の私兵が集結していたのだ。
そんな彼らの目に映るのは、竜巻に巻き上げられた、見覚えのある冒険者たち。
遠目に見たときは、馬車が竜巻に追われていると焦ったが、目の前まで来てみれば、竜巻は馬車に付き従うように控えている。
何これどういう状況? という心の声が、兵士たちの顔から駄々漏れだった。
「運ぶ人が現れたなら、もう下ろしてもいいね?」
竜巻が消え、放り出された冒険者達は意識を失っている。
それはそうだろう。五時間以上もの間、竜巻の中を回転させられていたのだ。途中で何度か休憩を挟んだとはいえ、むしろよく無事だったものだと、雪乃も帝都の冒険者達も感心した。
「情けないなあ。竜種の討伐に参加したってことは、Aランクもいるんでしょう? この程度も耐えられないなら、降格すべきだね。オーレンのギルドって、基準が甘いんじゃないの?」
ノムルの言葉にそういうものなのかと、雪乃は納得しかける。けれどヤガルを初めとする帝都の冒険者達が、首を左右にぶんぶんと振っていたので、違うと気付いた。
ゴホンッと咳払いが聞こえて顔を向けると、兵士たちの中から男が歩み出てきた。他の兵と違いマントを付けていることから、彼等の上役だろう。とりあえず、兵士長と呼ぶ。
緊張する兵士たちの空気に、冒険者達も背筋を伸ばす。
「幾つか確認しても?」
「どうぞー」
ノムルは通常運転のようだ。
「飛竜はどうなったのかね?」
「どこかに飛んで行ったよ。人里にはもう近付かないだろうから安心しなよ」
兵士長は訝しげに顔をしかめた。
「近付かないという根拠は?」
「経験かな?」
「貴殿は今までにも竜種の討伐経験が? それほどの腕前には見えぬが」
ノムルの格好を上から下まで見た兵士長は、その古びた旅装から、ノムルの力量を推し量ったようだ。兵士達の中には、嘲笑を浮かべる者までいる。
帝都の冒険者達は不快感を顕わに睨みつけた。
ノムルはわずかに顎を上げ、見下すような視線を兵士達に向けると、言い放つ。
「竜種の討伐くらい、大したことじゃないだろう? というか、こんな所で待ってるほど暇なら、君達がさっさと追い払えば良かったんじゃない?」
「何をっ?!」
顔を赤くした兵士の一人が飛び出そうとしたが、兵士長は手を軽く上げると同時に鋭く一瞥して、それを制した。
「失礼ながら、身分証を確認させていただいても?」
「ああ、どうぞ」
空間魔法から取り出した冒険者ギルドの認定証を、ノムルは指に挟んで軽く放り投げた。受け取った兵士長は視線を落とし、目を瞠る。
「し、失礼いたしました」
「いいよいいよー」
右手を左胸に置き、慌てて礼を取る兵士長に、兵士達も瞠目したが、急いでそれに倣った。
何者かは分からないが、兵士長が一目置く相手であることくらいは、流石に理解できる。
「どうぞ、お返しします」
「うん」
両手で恭しく差し出された認定証を受け取ると、ノムルは空間魔法に放り込む。そして、
「それで、こいつらなんだけどさー」
と、まだ伸びているオーレンの冒険者達に視線を向けた。
「ついでだから、冒険者ギルドまで運んどいてくれない? 町の中で竜巻は、ちょっと迷惑でしょう?」
「わかりました」
兵士長が了承したのを見てとると、ノムルは空間魔法から、オーレンの冒険者達が乗っていた荷馬車を出した。
ナルツも乗っていた馬を、兵士達に預ける。
「んじゃ、もう行って良いかな? こっちの依頼は急ぎらしいんで」
「はっ。後で領主が挨拶に伺うかもしれませんが、いずれにおられますでしょうか?」
「そういうの嫌いだから、いらないって伝えといて」
「ですが……分かりました」
言葉を飲み込んだ兵士長は、恭しく礼を取り、一行を町の中へと入れた。
「ノムルさんって、もしかして貴族とかだったりします?」
「まっさかあ。元は孤児だよー? 親の顔なんて知らないねえ。ユキノちゃんとお揃いだねー」
笑顔で答えるノムルから、雪乃はさり気無く顔を逸らした。
雪乃は両親の顔は知っている。樹人としての両親は知らないが、人間・雪乃の両親は、彼女がこの世界に迷い込むまで、たしかに存在していた。
(まあ、顔を合わせたのは随分前だけど)
揺れる馬車の中で、雪乃の胸がちくりと痛んだ。
オーレンの町は、この世界に来てから目にしてきた町とは異なった。
町には街灯が立ち並び、家も三階建てや四階建てのアパートが、道の両端を埋めている。
すでに日も暮れかけている時間帯だ。店になっている一階部分は、すでに閉まっている店舗が多かったが、食堂や雑貨屋などはまだ開いていた。
「明日ゆっくり見物しようね」
「はい」
馬車から身を乗り出して町の様子を窺う雪乃を、ノムルは優しげな瞳で見守る。
ラツクは馬車を冒険者ギルドの前に着けた。一階建てのギルドは、この町ではよく目立つ。
本来の予定では、まずラツクの目的地に先に向かい、そこで解散となるはずだったのだが、フレックの身を気づかい、ここで解散としてくれたようだ。
「ここからは護衛は不要ですので、依頼達成のサインをさせていただきますね。ありがとうございました」
「いやあ、こちらこそ、乗せてもらってありがとうね」
ノムルの言葉に、ラツクは苦笑を禁じえない。
楽をするために馬車を選んだと言うが、ノムルの魔法を使えば馬車など使わずとも、パーパスからオーレンへ移動するなど、容易いことだろう。
しかし藪を突付いて蛇どころか、鬼まで出かねない相手だ。深入りはしない。
去って行く馬車に手を振って、雪乃とノムル、それに帝都の冒険者達は、オーレンの冒険者ギルドへと入った。
からりと木鈴が鳴る。
夕暮れ時のギルドは、慌しい喧騒に包まれていた。
それぞれが自分のことで手一杯といった様相で、入ってきた雪乃たちに向けられる視線も、めっきりと少なかった。
それがオーレンという町の特色なのか、時間によるものなのか、雪乃には判別がつかない。
時に怒鳴り声が響くカウンターを、雪乃は驚いたように見ていた。
「あちゃー、やっぱこの時間は、こうなるよねえ」
上から聞こえてきた声で、時間によるものだったのだと答えが出る。
「俺たちだけなら、明日でも良かったんですけどね」
「本当、面倒なのに引っかかったよねー」
「……すみません」
帝都の冒険者達は、揃ってノムルに頭を下げた。
「……。えーっと」
町の入り口で待ち構えていた兵士達は、その光景にどう対処すれば良いのか、さっぱり分からなかった。
程近い場所に巣を作った飛竜の討伐が失敗した場合、飛竜がオーレンの町に攻めてくる可能性もある。そのため、こうして町の入り口に領主の私兵が集結していたのだ。
そんな彼らの目に映るのは、竜巻に巻き上げられた、見覚えのある冒険者たち。
遠目に見たときは、馬車が竜巻に追われていると焦ったが、目の前まで来てみれば、竜巻は馬車に付き従うように控えている。
何これどういう状況? という心の声が、兵士たちの顔から駄々漏れだった。
「運ぶ人が現れたなら、もう下ろしてもいいね?」
竜巻が消え、放り出された冒険者達は意識を失っている。
それはそうだろう。五時間以上もの間、竜巻の中を回転させられていたのだ。途中で何度か休憩を挟んだとはいえ、むしろよく無事だったものだと、雪乃も帝都の冒険者達も感心した。
「情けないなあ。竜種の討伐に参加したってことは、Aランクもいるんでしょう? この程度も耐えられないなら、降格すべきだね。オーレンのギルドって、基準が甘いんじゃないの?」
ノムルの言葉にそういうものなのかと、雪乃は納得しかける。けれどヤガルを初めとする帝都の冒険者達が、首を左右にぶんぶんと振っていたので、違うと気付いた。
ゴホンッと咳払いが聞こえて顔を向けると、兵士たちの中から男が歩み出てきた。他の兵と違いマントを付けていることから、彼等の上役だろう。とりあえず、兵士長と呼ぶ。
緊張する兵士たちの空気に、冒険者達も背筋を伸ばす。
「幾つか確認しても?」
「どうぞー」
ノムルは通常運転のようだ。
「飛竜はどうなったのかね?」
「どこかに飛んで行ったよ。人里にはもう近付かないだろうから安心しなよ」
兵士長は訝しげに顔をしかめた。
「近付かないという根拠は?」
「経験かな?」
「貴殿は今までにも竜種の討伐経験が? それほどの腕前には見えぬが」
ノムルの格好を上から下まで見た兵士長は、その古びた旅装から、ノムルの力量を推し量ったようだ。兵士達の中には、嘲笑を浮かべる者までいる。
帝都の冒険者達は不快感を顕わに睨みつけた。
ノムルはわずかに顎を上げ、見下すような視線を兵士達に向けると、言い放つ。
「竜種の討伐くらい、大したことじゃないだろう? というか、こんな所で待ってるほど暇なら、君達がさっさと追い払えば良かったんじゃない?」
「何をっ?!」
顔を赤くした兵士の一人が飛び出そうとしたが、兵士長は手を軽く上げると同時に鋭く一瞥して、それを制した。
「失礼ながら、身分証を確認させていただいても?」
「ああ、どうぞ」
空間魔法から取り出した冒険者ギルドの認定証を、ノムルは指に挟んで軽く放り投げた。受け取った兵士長は視線を落とし、目を瞠る。
「し、失礼いたしました」
「いいよいいよー」
右手を左胸に置き、慌てて礼を取る兵士長に、兵士達も瞠目したが、急いでそれに倣った。
何者かは分からないが、兵士長が一目置く相手であることくらいは、流石に理解できる。
「どうぞ、お返しします」
「うん」
両手で恭しく差し出された認定証を受け取ると、ノムルは空間魔法に放り込む。そして、
「それで、こいつらなんだけどさー」
と、まだ伸びているオーレンの冒険者達に視線を向けた。
「ついでだから、冒険者ギルドまで運んどいてくれない? 町の中で竜巻は、ちょっと迷惑でしょう?」
「わかりました」
兵士長が了承したのを見てとると、ノムルは空間魔法から、オーレンの冒険者達が乗っていた荷馬車を出した。
ナルツも乗っていた馬を、兵士達に預ける。
「んじゃ、もう行って良いかな? こっちの依頼は急ぎらしいんで」
「はっ。後で領主が挨拶に伺うかもしれませんが、いずれにおられますでしょうか?」
「そういうの嫌いだから、いらないって伝えといて」
「ですが……分かりました」
言葉を飲み込んだ兵士長は、恭しく礼を取り、一行を町の中へと入れた。
「ノムルさんって、もしかして貴族とかだったりします?」
「まっさかあ。元は孤児だよー? 親の顔なんて知らないねえ。ユキノちゃんとお揃いだねー」
笑顔で答えるノムルから、雪乃はさり気無く顔を逸らした。
雪乃は両親の顔は知っている。樹人としての両親は知らないが、人間・雪乃の両親は、彼女がこの世界に迷い込むまで、たしかに存在していた。
(まあ、顔を合わせたのは随分前だけど)
揺れる馬車の中で、雪乃の胸がちくりと痛んだ。
オーレンの町は、この世界に来てから目にしてきた町とは異なった。
町には街灯が立ち並び、家も三階建てや四階建てのアパートが、道の両端を埋めている。
すでに日も暮れかけている時間帯だ。店になっている一階部分は、すでに閉まっている店舗が多かったが、食堂や雑貨屋などはまだ開いていた。
「明日ゆっくり見物しようね」
「はい」
馬車から身を乗り出して町の様子を窺う雪乃を、ノムルは優しげな瞳で見守る。
ラツクは馬車を冒険者ギルドの前に着けた。一階建てのギルドは、この町ではよく目立つ。
本来の予定では、まずラツクの目的地に先に向かい、そこで解散となるはずだったのだが、フレックの身を気づかい、ここで解散としてくれたようだ。
「ここからは護衛は不要ですので、依頼達成のサインをさせていただきますね。ありがとうございました」
「いやあ、こちらこそ、乗せてもらってありがとうね」
ノムルの言葉に、ラツクは苦笑を禁じえない。
楽をするために馬車を選んだと言うが、ノムルの魔法を使えば馬車など使わずとも、パーパスからオーレンへ移動するなど、容易いことだろう。
しかし藪を突付いて蛇どころか、鬼まで出かねない相手だ。深入りはしない。
去って行く馬車に手を振って、雪乃とノムル、それに帝都の冒険者達は、オーレンの冒険者ギルドへと入った。
からりと木鈴が鳴る。
夕暮れ時のギルドは、慌しい喧騒に包まれていた。
それぞれが自分のことで手一杯といった様相で、入ってきた雪乃たちに向けられる視線も、めっきりと少なかった。
それがオーレンという町の特色なのか、時間によるものなのか、雪乃には判別がつかない。
時に怒鳴り声が響くカウンターを、雪乃は驚いたように見ていた。
「あちゃー、やっぱこの時間は、こうなるよねえ」
上から聞こえてきた声で、時間によるものだったのだと答えが出る。
「俺たちだけなら、明日でも良かったんですけどね」
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帝都の冒険者達は、揃ってノムルに頭を下げた。
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