『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
19 / 385
ルモン大帝国編

71.顔から駄々漏れだった

しおりを挟む
 そんなこんなで山道を下りきり、馬車はオーレンの町へと近付いたのだった。

「……。えーっと」

 町の入り口で待ち構えていた兵士達は、その光景にどう対処すれば良いのか、さっぱり分からなかった。
 程近い場所に巣を作った飛竜の討伐が失敗した場合、飛竜がオーレンの町に攻めてくる可能性もある。そのため、こうして町の入り口に領主の私兵が集結していたのだ。
 そんな彼らの目に映るのは、竜巻に巻き上げられた、見覚えのある冒険者たち。
 遠目に見たときは、馬車が竜巻に追われていると焦ったが、目の前まで来てみれば、竜巻は馬車に付き従うように控えている。
 何これどういう状況? という心の声が、兵士たちの顔から駄々漏れだった。

「運ぶ人が現れたなら、もう下ろしてもいいね?」

 竜巻が消え、放り出された冒険者達は意識を失っている。
 それはそうだろう。五時間以上もの間、竜巻の中を回転させられていたのだ。途中で何度か休憩を挟んだとはいえ、むしろよく無事だったものだと、雪乃も帝都の冒険者達も感心した。

「情けないなあ。竜種の討伐に参加したってことは、Aランクもいるんでしょう? この程度も耐えられないなら、降格すべきだね。オーレンのギルドって、基準が甘いんじゃないの?」

 ノムルの言葉にそういうものなのかと、雪乃は納得しかける。けれどヤガルを初めとする帝都の冒険者達が、首を左右にぶんぶんと振っていたので、違うと気付いた。
 ゴホンッと咳払いが聞こえて顔を向けると、兵士たちの中から男が歩み出てきた。他の兵と違いマントを付けていることから、彼等の上役だろう。とりあえず、兵士長と呼ぶ。
 緊張する兵士たちの空気に、冒険者達も背筋を伸ばす。

「幾つか確認しても?」
「どうぞー」

 ノムルは通常運転のようだ。

「飛竜はどうなったのかね?」
「どこかに飛んで行ったよ。人里にはもう近付かないだろうから安心しなよ」

 兵士長は訝しげに顔をしかめた。

「近付かないという根拠は?」
「経験かな?」
「貴殿は今までにも竜種の討伐経験が? それほどの腕前には見えぬが」

 ノムルの格好を上から下まで見た兵士長は、その古びた旅装から、ノムルの力量を推し量ったようだ。兵士達の中には、嘲笑を浮かべる者までいる。
 帝都の冒険者達は不快感を顕わに睨みつけた。
 ノムルはわずかに顎を上げ、見下すような視線を兵士達に向けると、言い放つ。

「竜種の討伐くらい、大したことじゃないだろう? というか、こんな所で待ってるほど暇なら、君達がさっさと追い払えば良かったんじゃない?」
「何をっ?!」

 顔を赤くした兵士の一人が飛び出そうとしたが、兵士長は手を軽く上げると同時に鋭く一瞥して、それを制した。

「失礼ながら、身分証を確認させていただいても?」
「ああ、どうぞ」

 空間魔法から取り出した冒険者ギルドの認定証を、ノムルは指に挟んで軽く放り投げた。受け取った兵士長は視線を落とし、目を瞠る。

「し、失礼いたしました」
「いいよいいよー」

 右手を左胸に置き、慌てて礼を取る兵士長に、兵士達も瞠目したが、急いでそれに倣った。
 何者かは分からないが、兵士長が一目置く相手であることくらいは、流石に理解できる。

「どうぞ、お返しします」
「うん」

 両手で恭しく差し出された認定証を受け取ると、ノムルは空間魔法に放り込む。そして、

「それで、こいつらなんだけどさー」

 と、まだ伸びているオーレンの冒険者達に視線を向けた。

「ついでだから、冒険者ギルドまで運んどいてくれない? 町の中で竜巻は、ちょっと迷惑でしょう?」
「わかりました」

 兵士長が了承したのを見てとると、ノムルは空間魔法から、オーレンの冒険者達が乗っていた荷馬車を出した。
 ナルツも乗っていた馬を、兵士達に預ける。

「んじゃ、もう行って良いかな? こっちの依頼は急ぎらしいんで」
「はっ。後で領主が挨拶に伺うかもしれませんが、いずれにおられますでしょうか?」
「そういうの嫌いだから、いらないって伝えといて」
「ですが……分かりました」

 言葉を飲み込んだ兵士長は、恭しく礼を取り、一行を町の中へと入れた。

「ノムルさんって、もしかして貴族とかだったりします?」
「まっさかあ。元は孤児だよー? 親の顔なんて知らないねえ。ユキノちゃんとお揃いだねー」

 笑顔で答えるノムルから、雪乃はさり気無く顔を逸らした。
 雪乃は両親の顔は知っている。樹人としての両親は知らないが、人間・雪乃の両親は、彼女がこの世界に迷い込むまで、たしかに存在していた。

(まあ、顔を合わせたのは随分前だけど)

 揺れる馬車の中で、雪乃の胸がちくりと痛んだ。


 オーレンの町は、この世界に来てから目にしてきた町とは異なった。
 町には街灯が立ち並び、家も三階建てや四階建てのアパートが、道の両端を埋めている。
 すでに日も暮れかけている時間帯だ。店になっている一階部分は、すでに閉まっている店舗が多かったが、食堂や雑貨屋などはまだ開いていた。

「明日ゆっくり見物しようね」
「はい」

 馬車から身を乗り出して町の様子を窺う雪乃を、ノムルは優しげな瞳で見守る。
 ラツクは馬車を冒険者ギルドの前に着けた。一階建てのギルドは、この町ではよく目立つ。
 本来の予定では、まずラツクの目的地に先に向かい、そこで解散となるはずだったのだが、フレックの身を気づかい、ここで解散としてくれたようだ。

「ここからは護衛は不要ですので、依頼達成のサインをさせていただきますね。ありがとうございました」
「いやあ、こちらこそ、乗せてもらってありがとうね」

 ノムルの言葉に、ラツクは苦笑を禁じえない。
 楽をするために馬車を選んだと言うが、ノムルの魔法を使えば馬車など使わずとも、パーパスからオーレンへ移動するなど、容易いことだろう。
 しかし藪を突付いて蛇どころか、鬼まで出かねない相手だ。深入りはしない。
 去って行く馬車に手を振って、雪乃とノムル、それに帝都の冒険者達は、オーレンの冒険者ギルドへと入った。
 からりと木鈴が鳴る。
 夕暮れ時のギルドは、慌しい喧騒に包まれていた。
 それぞれが自分のことで手一杯といった様相で、入ってきた雪乃たちに向けられる視線も、めっきりと少なかった。
 それがオーレンという町の特色なのか、時間によるものなのか、雪乃には判別がつかない。
 時に怒鳴り声が響くカウンターを、雪乃は驚いたように見ていた。

「あちゃー、やっぱこの時間は、こうなるよねえ」

 上から聞こえてきた声で、時間によるものだったのだと答えが出る。

「俺たちだけなら、明日でも良かったんですけどね」
「本当、面倒なのに引っかかったよねー」
「……すみません」

 帝都の冒険者達は、揃ってノムルに頭を下げた。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...