『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

77.もう魔王でいいや

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 ルモン大帝国には、機関車が走っている。オーレンも帝都から伸びる路線の終着駅の一つに数えられる。
 機関車の車輌は一等から四等まであるが、一等は高位貴族や豪商など向けの一車輌貸切であり、高価な調度品で設えられているとルーザイは聞いていた。
 当然だが、その切符の価格は、庶民には簡単には手が出せない額である。
 二等は向かい合わせの椅子が並ぶだけの個室だが、ゆったりとした広さで、座り心地の良い布張りの椅子が使われている。
 貴族はもちろん、稼ぎの良いAランク冒険者ならば、奮発すれば乗れなくは無いだろう。ただし、帝都から終着駅オーレンまでの距離となると、やはり厳しい価格となる。
 三等は木製椅子の個室で、二人掛けと六人掛けが通路を挟んで並ぶ。大柄な男が六人だと狭いが、通常の体格ならば問題ないだろう。高額報酬の依頼を達成した冒険者ならば、乗れなくはない。
 四等は木製の椅子が並ぶ車輌で、最も価格が安い。それでも馬車に比べると高額になるが、旅に掛かる時間や、移動時の食料や宿泊を含めれば、そこまで割高とも言えないだろう。
 その機関車の二等車輌を、魔王――ルーザイの心理としては、もう魔王でいいや――は要求してきた。

 通常であれば一蹴したところだが、しかし、相手は魔王の如き魔法使いである。
 無理に断われば、再びギルドの建物を塵にされかねない。いや、それで済めば良いがとさえ、ルーザイの思考は後ろ向きになっていた。
 けれど幸運なことに、ルーザイにはこの費用を捻出するための、算段もあった。
 討伐は失敗したが、飛竜は巣を棄てて移動したという。
 竜種が巣を放棄した場合、七日から十日の期間を開けて、最低でも二回、Bランク以上の冒険者を含む、二人以上で確かめに行く事が義務付けられている。
 巣に竜種が帰営している危険性も考慮して、確認に行く冒険者への報酬は、けっこう高額なのである。
 この際に支払われる予定の報酬を、切符代に宛がおうと考えたのであった。
 もちろん、理由も無く行えば横領である。しかしルーザイは、冒険者達が進んでこの依頼を無償で引き受けてくれるだろうと、確信していた。
 
「あの間抜け達については、それで良いよ。俺もそれなりに発散したし、きちんとギルドマスターの仕事もしてるみたいだし」

 どうやら八人の処罰に誤りは無かったようだと、ルーザイはかすかに胸をなでおろす。

「それより問題はさあ」

 和やかとまではいかないながらも落ち着いていた空気が、一気に凍りつく。
 魔王降臨である。

「お前のところの職員と、冒険者達の躾って、どうなってるの?」

 来た嗚呼ーーーっ!! と、ルーザイは心の中で叫んだ。
 そう、ノムルが朝からギルドマスターの執務室で、紅茶とアマモイパイを食べながら待っていたのは、事後報告を聞くためでもあったが、本題はこっちである。
 決してアマモイパイを堪能するためではない。
 ルーザイにしても、ギルド職員にしても、この町の冒険者達にしても、昨夜の騒動で充分な罰を受けている気分ではあるが、気分だけである。
 一時的とはいえ、重症を負わされたルーザイや一部の冒険者達は、罰を受けたと判断しても良いだろう。
 ルーザイなんて、ギルドマスターだからという理由だけで巻き込まれたことを考えれば、むしろ怒っていいはずだ。
 だが昨日、被害者であるはずの帝都の冒険者達やノムルたちに対して取った、ギルドの職員や冒険者達の言動は、目に余る。
 実害こそ無かったが、余所者だからといって話を聞かず、暴言どころか手まで出したなど、許される行為ではない。
 目の前で仲間がボコボコにされたとか、建物が一瞬で消失したとか、精神的には十二分な報復を受けた気はするが、それで帳消しとはならないのだろう。
 そもそもノムルはあの八人よりも、こっちに怒りの重点を置いていた。なにせ雪乃まで巻き込まれたのだから。

「とりあえず、飛竜が巣を放置したかどうかの確認は、無償で行わせる。あの場にいたギルド職員は、一定期間の減俸処分。冒険者達も賠償金のペナルティを与える。それと、Cランク以上の冒険者達は再試験を受けさせ、基準に達していない者は降格させる。俺は本部に連絡して、裁定を待つつもりだ」

 ルーザイは額に汗を滲ませながら、ノムルの反応を待った。

「そこまでしなくて良いですよ」

 口を開いたのは、子供のほうだった。

「ユキノちゃん?!」
「これからは、証拠もないのに一方的に責めないこと。ギルドの職員さん達は、公正であること。あと、ナルツさん達にきちんと謝ってください。フレックさんは今回の飛竜討伐で、手足を失ったんです。他の方達も、命を失ってもおかしくない怪我でした。彼らは嘘なんてついていません」

 フードに隠れて見えない目が、ひたとルーザイを捉える。

「分かっている。彼等へは誠意を持って対応させてもらう。今回の件でそれぞれが支払う賠償金や、減俸分は、帝都から応援に来てくれた冒険者達に支払うつもりだ」

 不満気な顔をしていたノムルだが、大きく息を吐き出す。

「分かった。それでいいよ。本来なら冒険者の怪我は自己責任なんだけどね。切符はいつ用意できる?」
「ご希望の車輌が空いていれば、午後の便だな」
「了解。それじゃあ、少し町を見物してくるから。行こう、ユキノちゃん」
「はーい」

 用は終わったとばかりに、ノムルはギルドマスターの執務室を去って行く。
 部屋から出て行く際、雪乃は振り返り、ぺこりとお辞儀をしてから扉を閉めた。
 妙なコンビだと苦笑を零したルーザイは、ソファにもたれて体重を預ける。

「疲れた」
「ええ、本当に」

 モストルも声に出して同意する。
 あれは決して、敵に回してはいけない存在だ。

「職権乱用は問われるだろうな」
「オーレン支部の総意ですから、大丈夫かと」

 二人は大きく息を吐き出し、肩を落とした。それも午後の機関車が発つまでの辛抱だ。


「ユキノちゃんさあ、その店、何の店か分かってる?」

 街を散歩していた雪乃の目は、釘付けとなっていた。
 三階建てのアパートの一階には、カフェが入っている。店の前にも白く丸い机と椅子が並ぶ洒落たカフェは、まだ早い時間だというのに女性客で賑わっていた。
 白磁の器からスプーンで掬い取られたのは、一口サイズの白い団子。注目すべきは、その団子に絡み付いている、若草色の汁。

「あれは、なんでしょうか?」
「ユキノちゃん、君、食べれないのに、何で食べ物への関心が強いの?」

 ぽてんと幹を傾げながら、雪乃はノムルを見上げる。
 無自覚な雪乃に苦笑を漏らしつつも、ノムルは雪乃を伴いカフェに入った。
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