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ルモン大帝国編
78.ウグンダ汁粉
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「あの女性が食べてるやつ、一つお願い」
「はい? ああ、ウグンダ汁粉ですね」
ノムルを見て一瞬怪訝な目をした店員は、隣に立つ小さな子供を見て、相好を崩す。
空いている席に適当に座ったノムルの対面に座ると、雪乃はあらためて店内を見回した。
蓄音機に似た機械から音楽が流れ、壁には雪乃の身長よりも大きな置時計がはまっている。
店内の装飾は、今まで見てきた町よりも近代化しているようだ。
きょろきょろと首を動かしているユキノを、ノムルは楽しそうに見ている。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
にっこりと笑った店員は、当然のようにウグンダ汁粉を雪乃の前に置いた。
身を乗り出した雪乃は、ウグンダ汁粉をじいっと観察する。
白い団子のようなものは、コンメを切ったもののようだ。そして問題の緑色の汁を、雪乃は睨むように凝視していた。
「名前から推察するに、ウグイス餡かずんだ餡のどちらかと思いますが、まさかごちゃ混ぜにしていないでしょうね?」
ちなみに、ウグイス餡は青エンドウ豆から、ずんだ餡は枝豆から作る餡である。
東北ではお馴染みのずんだ餡であるが、他の地域で『ずんだ』として買った食べ物が、食べてみるとウグイス餡を使用していたということが稀にある。
ずんだ好きの雪乃の落ち込みっぷりといったら、二日は思考に霞が掛かるほどだった。
「はいはい、観察はもういい?」
「……。はい。味の感想をお願いします。できれば使われている素材を教えていただけると助かります」
「りょーかい」
躊躇いなく雪乃の前から白磁の器を取り上げ、自分の前へと移動したノムルは、スプーンも手に取り、うぐんだ汁粉をすくう。そしてそのまま自分の口へと流し込んだ。
店内にいた人々の視線がノムルに向かい、動きを止めた。次第に彼女たちの眉間に皺が寄り、表情が険しくなる。
「あー、餅コンメだねえ。緑の汁は、蜜を加えて甘くしたウグンダだねえ」
「ウグンダ? そんなメマがあるのですか?」
「メマ? 違うよ? ウグンダは木の葉だよ?」
「……」
雪乃は斜め下へと視線を落とし、それから頭を抱えた。
「お豆じゃない? 餡子じゃないの?」
見た目といい、名前といい、完全にお汁粉だと思い込んでいた雪乃は、混乱した。
「オマメ? アンコ? それもプレイヤー料理?」
「そうですね。お豆はメマの呼び名です。餡子はお豆から作る、甘くて使い勝手の良い、お菓子の素材です」
「へえー。これがそれに似てたわけね」
「はい」
感心しながら、ノムルは二口目を頬張る。
「餅コンメにこういう食べ方があったとはねえ。甘い味付けでも、けっこういけるんだね」
「そうですね。餅コンメは甘い味付けで食べることも多かったですよ」
「へえー。今度、作ってねえ」
「了解しました」
和やかに話している間にも、白磁の器に盛り付けられていたウグンダ汁粉は、どんどん減っていく。
その減少に合わせるように、店内の空気は刺々しくなっていった。
「あの男、なんなの? 小さな子のおやつを奪って食べるとか」
「外見からして怪しいもの。人攫いじゃないの?」
なんだか酷い言われようである。
確かにノムルが身に付けているローブも帽子も、古びてはいるが、浄化魔法で清潔に保たれている。綻びもなく、着用には問題のない状態だ。
古びて少々色褪せているのも、長く大切に着ているからだろう。
むっとして、雪乃は店内の女性達を睨み返す。雪乃も最初の頃は、ノムルを胡散臭く思っていたのだが、すっかり記憶の彼方へ消えていた。
そんな雪乃の様子を、ノムルは嬉しそうに見ている。
「気にしなくていいよ。俺は他人の目とか、興味ないから」
「でも」
「いや本当に。そんなものに一々囚われてたら、人生つまらないでしょう? それにユキノちゃんは理解してくれているもの。充分だよ」
へらりと笑って手を伸ばすと、雪乃の頭をフード越しに撫で回した。
ずれたフードを直しながら、雪乃はノムルを見上げる。
最後の一口を食べ終えたノムルは、微笑を浮かべて席を立った。
「さ、次はどこに行く?」
差し出された手に、雪乃が袖に隠れた枝を乗せると、ノムルはにっこりと笑って歩きだす。
時計屋、化粧品屋、雑貨屋、ハーブティー専門店、土産屋、アロマショップ、薬屋……。
パーパスで収穫したと思われる薬草を使った商品が、多くの店で並んでいる。どうやらムツゴロー湿原で収穫した薬草の中には、オーレンに卸されているものも多いようだ。
「オーレンはパーパスに好意を抱いても、敵意を向ける理由が分からないのですが?」
雪乃は幹を傾げる。
飛竜を誘導して、パーパスの町に被害をもたらそうとした、オーレンの冒険者達。彼等は一体、何が目的だったのか。
「そうだねえ。帝都の冒険者が仕掛けたなら、政局的な争いを疑うところだけど、本当に何を考えていたんだろうねえ?」
こくりと首肯した雪乃は、その目的を考える。
「まあ、気にすることはないさ。帝都のほうに連絡するって言ってたんだから、後は帝国に任せればいいよ」
「そうですね」
樹人の雪乃にできることは限られる。それにあまり首を突っ込んで、正体が露見しても困るのだ。
意識を街へと戻した雪乃は、足を止める。
視線の先にはクッションやエプロンなど、布製品を扱っている店があった。
「クッション? ああ、馬車の移動は、お尻が痛くなるもんねえ。一つ買っておく?」
「……言われてみれば、それも必要かもしれませんね」
荷物はあまり持ちたくないので、雪乃一人ならば買わないが、ノムルが一緒ならば空間魔法に収納してもらえる。
「あれ? 違うの? じゃあ何を見てたのさ?」
ノムルは不思議そうに首を傾げた。店の中を覗き込むが、雪乃が欲しがりそうな物は、他に見つけられない。
「ねー、ユキノちゃん?」
振り返ったノムルは、硬直する。
雪乃が真剣に見定めようとしているもの、それは、
「ユキノちゃんは、抱っこがご所望なのかな?」
抱っこ紐だった。
まあ実物は紐ではなく、赤ん坊を包み込み、抱っこする人間の体に固定させる、留め具の付いた大判の布なのだが。
ノムルがとても爽やかな笑顔を浮かべて両腕を広げているが、雪乃は視界から追放した。
「はい? ああ、ウグンダ汁粉ですね」
ノムルを見て一瞬怪訝な目をした店員は、隣に立つ小さな子供を見て、相好を崩す。
空いている席に適当に座ったノムルの対面に座ると、雪乃はあらためて店内を見回した。
蓄音機に似た機械から音楽が流れ、壁には雪乃の身長よりも大きな置時計がはまっている。
店内の装飾は、今まで見てきた町よりも近代化しているようだ。
きょろきょろと首を動かしているユキノを、ノムルは楽しそうに見ている。
「お待たせしました」
「ありがとうございます」
にっこりと笑った店員は、当然のようにウグンダ汁粉を雪乃の前に置いた。
身を乗り出した雪乃は、ウグンダ汁粉をじいっと観察する。
白い団子のようなものは、コンメを切ったもののようだ。そして問題の緑色の汁を、雪乃は睨むように凝視していた。
「名前から推察するに、ウグイス餡かずんだ餡のどちらかと思いますが、まさかごちゃ混ぜにしていないでしょうね?」
ちなみに、ウグイス餡は青エンドウ豆から、ずんだ餡は枝豆から作る餡である。
東北ではお馴染みのずんだ餡であるが、他の地域で『ずんだ』として買った食べ物が、食べてみるとウグイス餡を使用していたということが稀にある。
ずんだ好きの雪乃の落ち込みっぷりといったら、二日は思考に霞が掛かるほどだった。
「はいはい、観察はもういい?」
「……。はい。味の感想をお願いします。できれば使われている素材を教えていただけると助かります」
「りょーかい」
躊躇いなく雪乃の前から白磁の器を取り上げ、自分の前へと移動したノムルは、スプーンも手に取り、うぐんだ汁粉をすくう。そしてそのまま自分の口へと流し込んだ。
店内にいた人々の視線がノムルに向かい、動きを止めた。次第に彼女たちの眉間に皺が寄り、表情が険しくなる。
「あー、餅コンメだねえ。緑の汁は、蜜を加えて甘くしたウグンダだねえ」
「ウグンダ? そんなメマがあるのですか?」
「メマ? 違うよ? ウグンダは木の葉だよ?」
「……」
雪乃は斜め下へと視線を落とし、それから頭を抱えた。
「お豆じゃない? 餡子じゃないの?」
見た目といい、名前といい、完全にお汁粉だと思い込んでいた雪乃は、混乱した。
「オマメ? アンコ? それもプレイヤー料理?」
「そうですね。お豆はメマの呼び名です。餡子はお豆から作る、甘くて使い勝手の良い、お菓子の素材です」
「へえー。これがそれに似てたわけね」
「はい」
感心しながら、ノムルは二口目を頬張る。
「餅コンメにこういう食べ方があったとはねえ。甘い味付けでも、けっこういけるんだね」
「そうですね。餅コンメは甘い味付けで食べることも多かったですよ」
「へえー。今度、作ってねえ」
「了解しました」
和やかに話している間にも、白磁の器に盛り付けられていたウグンダ汁粉は、どんどん減っていく。
その減少に合わせるように、店内の空気は刺々しくなっていった。
「あの男、なんなの? 小さな子のおやつを奪って食べるとか」
「外見からして怪しいもの。人攫いじゃないの?」
なんだか酷い言われようである。
確かにノムルが身に付けているローブも帽子も、古びてはいるが、浄化魔法で清潔に保たれている。綻びもなく、着用には問題のない状態だ。
古びて少々色褪せているのも、長く大切に着ているからだろう。
むっとして、雪乃は店内の女性達を睨み返す。雪乃も最初の頃は、ノムルを胡散臭く思っていたのだが、すっかり記憶の彼方へ消えていた。
そんな雪乃の様子を、ノムルは嬉しそうに見ている。
「気にしなくていいよ。俺は他人の目とか、興味ないから」
「でも」
「いや本当に。そんなものに一々囚われてたら、人生つまらないでしょう? それにユキノちゃんは理解してくれているもの。充分だよ」
へらりと笑って手を伸ばすと、雪乃の頭をフード越しに撫で回した。
ずれたフードを直しながら、雪乃はノムルを見上げる。
最後の一口を食べ終えたノムルは、微笑を浮かべて席を立った。
「さ、次はどこに行く?」
差し出された手に、雪乃が袖に隠れた枝を乗せると、ノムルはにっこりと笑って歩きだす。
時計屋、化粧品屋、雑貨屋、ハーブティー専門店、土産屋、アロマショップ、薬屋……。
パーパスで収穫したと思われる薬草を使った商品が、多くの店で並んでいる。どうやらムツゴロー湿原で収穫した薬草の中には、オーレンに卸されているものも多いようだ。
「オーレンはパーパスに好意を抱いても、敵意を向ける理由が分からないのですが?」
雪乃は幹を傾げる。
飛竜を誘導して、パーパスの町に被害をもたらそうとした、オーレンの冒険者達。彼等は一体、何が目的だったのか。
「そうだねえ。帝都の冒険者が仕掛けたなら、政局的な争いを疑うところだけど、本当に何を考えていたんだろうねえ?」
こくりと首肯した雪乃は、その目的を考える。
「まあ、気にすることはないさ。帝都のほうに連絡するって言ってたんだから、後は帝国に任せればいいよ」
「そうですね」
樹人の雪乃にできることは限られる。それにあまり首を突っ込んで、正体が露見しても困るのだ。
意識を街へと戻した雪乃は、足を止める。
視線の先にはクッションやエプロンなど、布製品を扱っている店があった。
「クッション? ああ、馬車の移動は、お尻が痛くなるもんねえ。一つ買っておく?」
「……言われてみれば、それも必要かもしれませんね」
荷物はあまり持ちたくないので、雪乃一人ならば買わないが、ノムルが一緒ならば空間魔法に収納してもらえる。
「あれ? 違うの? じゃあ何を見てたのさ?」
ノムルは不思議そうに首を傾げた。店の中を覗き込むが、雪乃が欲しがりそうな物は、他に見つけられない。
「ねー、ユキノちゃん?」
振り返ったノムルは、硬直する。
雪乃が真剣に見定めようとしているもの、それは、
「ユキノちゃんは、抱っこがご所望なのかな?」
抱っこ紐だった。
まあ実物は紐ではなく、赤ん坊を包み込み、抱っこする人間の体に固定させる、留め具の付いた大判の布なのだが。
ノムルがとても爽やかな笑顔を浮かべて両腕を広げているが、雪乃は視界から追放した。
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