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ルモン大帝国編
84.ちゃんと躾はしないと
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「おい、こりゃあ、どうなってんだ?」
敷地の外から放たれた威圧のこもる声に、一同は振り向く。
ネーデル支部のギルド職員や冒険者達は、揃って安堵に表情を緩め、ノムルの視線には険が宿る。
「喧嘩を売ってこられたから買っただけだよ。正当防衛だね。まだ文句があるって言うなら、ついでに買ってもいいけど?」
「……。ノムルさん」
すでにやる気満々なノムルを、冬眠から覚めた雪乃は溜め息混じりに嗜めた。
外から声をかけてきた男は、茶色い目を鋭くしてノムルを睨む。
白いシャツにグレーのベストとズボンで品良くまとめている。冒険者にしては御硬い格好だが、肉体は鍛えられているようだ。
肩より少し長い栗色の髪を後ろで一つに束ねた男は、油断なく構えたまま動かない。ノムルの目的を、見極めようとしているのだろう。
「えー。だってこいつら、ユキノちゃんを虐めたんだよ? ちゃんと躾はしないと」
「毎回毎回、やりすぎです!」
「ひどいよユキノちゃん、俺は君のためにやってるのに」
ノムルは眉をハの字に下げると、心底から悲しんでいるとばかりに、肩を落とす。
「私を出汁にして暴れているだけでしょう? もう、そんなことばかりするなら、別行動にしますよ?」
「えー」
不満気な声を上げたノムルに、先ほどの悲壮感は影も形もない。完全な演技だったのだと、誰が見ても明らかだった。
ナルツたちは頭痛を覚えて額を押さえる。ギルド職員や冒険者達は、先ほど起こった出来事と、起こした人物のイメージのギャップに、困惑した。
様子をうかがっていた栗色の髪の男もまた、眉間に皺を寄せて戸惑いの表情を浮かべている。
「とりあえず、誰でも良い。状況を説明してくれ」
百聞は一見に如かずという言葉があるが、中には百見も意味を成さないこともあるようだ。
「では俺が」
代表してナルツが進み出る。
「彼等はノムルさんと、ユキノちゃんです」
紹介されていることに気付いた雪乃は、ノムルとの口論を止めて栗色の男に向き直る。
「ユキノです」
ぺこりと幹を曲げて挨拶すると、栗色の男は拍子抜けしたように緊張を緩め、口元に笑みを浮かべた。
「冒険者ギルドのルモン大帝国支部を任されている、ギルドマスターのルッツ・イーグスだ」
「イーグスっていうと、たしか機関車や車が移動するための、魔術式や魔法石を開発した一族か」
ノムルの言葉に、雪乃は「ほう」と感嘆の声を上げ、ルッツをまじまじと見た。
機関車の存在がネーデルで重きを得ていることは、確かめるまでもないだろう。それを開発した一族とあらば、この国でも重用されているはずだ。
元々貴族だったのか、平民だったのかは知らないが、現在は爵位に付いていると想像できる。
しかし目の前の人物は、貴族にしてはラフな外見と性格のようだ。
「まあな。だが俺は少々毛色が違ってな、小難しい魔術式よりも、体を使うほうが性に合ってたようで、家を出てここで世話になっている。それで、なんでこんな騒ぎを起こした?」
「だから正当防衛だって」
ルッツは雪乃に対して見せた微笑を消して、ギルドマスターの顔に戻ると、ノムルに問うた。しかしその答えは、先ほどと変わらない。
本人から事情を聞くのは骨が折れそうだと判断したルッツは、ナルツへ説明の続きを促がす。
視線を受け取ったナルツは、事のあらましを伝えた。
「それでこの惨状か?」
「ええ、まあ」
状況は理解したが、だからといって納得できるものではない。
ギルド職員の態度は、ギルドの長として見逃すわけにはいかないし、事情も聞かずに旅の冒険者を責め立て、連れの子供にまで手を出した女冒険者二人にも、ペナルティが必要だろう。
「だがなあ」
それにしても、である。
「やりすぎだろう」
四階建ての高層アパートの一階は、壁を失い風通しも見晴らしも良くなっている。
氷漬けにされていた女冒険者二人は、解放されたものの、寒さからか恐怖からか、震え上がってまともな会話もできそうにない。
喧嘩など珍しくもない冒険者ギルドではあるが、ここまで破壊されたことは、ルッツの知る限りなかった。
「とりあえず、さらし者は勘弁だ。魔法使いは魔力を提供しろ。原因はお前達にもあるみたいだからな。拒否は許さんぞ」
ルッツの言葉を受けて、冒険者ギルドにいた魔法使いたちが集まる。
それぞれに小さな魔法石を配ると、ルッツは一回り大きな魔法石を掲げ、呪文を唱えた。
魔法石が輝き始め、呼応するようにギルドの床に魔方陣が浮かび上がる。消失したはずの壁が、大地から生えるようにして復元されていく。
数分もすると、元通り壁の存在する空間へと戻った。
協力した魔法使い達は、床に膝を突き、肩で息をしている。何とか立っている者たちも、杖に体重を預けて辛そうだ。
それでも魔法を使えない冒険者達から歓声が上がると、座り込んでいた魔法使い達も、若干の笑顔を見せる。
「ほらね。壊しても直るんだから、気にすること無いんだって」
「お見事でした」
「「「……」」」
魔法使いたちの笑顔も、冒険者達の興奮の表情も、そのまま固まった。
つっこみたいことは色々あるが、きっと更なる困惑に襲われるに決まっている。
彼等は沈黙こそが正解と、何も聞かなかったことにした。
「折角だし、何か面白い依頼がないか見てみよっか?」
「はい!」
雪乃はスキップ混じりでノムルに付いて行く。
ギルドの奥には広いスペースがあり、幾つかのボードが設置されていた。壁にもボードにも、依頼書が貼り付けられている。
昼前と言う時間で隙間だらけになっているが、朝はもっと多くの依頼書で埋まっているのだろう。
壁だけでは収まらない多くの依頼に、この国の規模が透けて見えるようだ。
雪乃はゆっくりと見ていく。ノムルに道中で文字を教わっていたので、一文字一文字を目で追った。
「ユキノちゃん、ちゃんと読めてる?」
真剣に見つめていると、ノムルが声をかけてきた。
「んー、まだまだですね」
この世界に来た時から予想はしていたのだが、ノムルから文字を教えてもらうようになり、はっきりと判明したことがある。
雪乃の耳に届く言葉は、自動的に翻訳されていた。そのため文字を憶えても、まったく意味が分からない言葉の羅列に見える。
「あ、これは分かります! リーア草、三十株ですね!」
「……。薬草だけは得意だねえ」
胸を張った雪乃に、ノムルは笑みを零す。
薬草名はこの世界の言葉のままなので、文字が読めるようになれば理解できた。
他にも分かる単語がないかと依頼書を追う雪乃を置いて、ノムルは他の依頼書にも目を通していく。その目が色褪せた一枚の依頼書に留まり、鋭く光る。
ユキノの様子をうかがったノムルは、気付かれないようにその一枚を取り、受付に移動した。
敷地の外から放たれた威圧のこもる声に、一同は振り向く。
ネーデル支部のギルド職員や冒険者達は、揃って安堵に表情を緩め、ノムルの視線には険が宿る。
「喧嘩を売ってこられたから買っただけだよ。正当防衛だね。まだ文句があるって言うなら、ついでに買ってもいいけど?」
「……。ノムルさん」
すでにやる気満々なノムルを、冬眠から覚めた雪乃は溜め息混じりに嗜めた。
外から声をかけてきた男は、茶色い目を鋭くしてノムルを睨む。
白いシャツにグレーのベストとズボンで品良くまとめている。冒険者にしては御硬い格好だが、肉体は鍛えられているようだ。
肩より少し長い栗色の髪を後ろで一つに束ねた男は、油断なく構えたまま動かない。ノムルの目的を、見極めようとしているのだろう。
「えー。だってこいつら、ユキノちゃんを虐めたんだよ? ちゃんと躾はしないと」
「毎回毎回、やりすぎです!」
「ひどいよユキノちゃん、俺は君のためにやってるのに」
ノムルは眉をハの字に下げると、心底から悲しんでいるとばかりに、肩を落とす。
「私を出汁にして暴れているだけでしょう? もう、そんなことばかりするなら、別行動にしますよ?」
「えー」
不満気な声を上げたノムルに、先ほどの悲壮感は影も形もない。完全な演技だったのだと、誰が見ても明らかだった。
ナルツたちは頭痛を覚えて額を押さえる。ギルド職員や冒険者達は、先ほど起こった出来事と、起こした人物のイメージのギャップに、困惑した。
様子をうかがっていた栗色の髪の男もまた、眉間に皺を寄せて戸惑いの表情を浮かべている。
「とりあえず、誰でも良い。状況を説明してくれ」
百聞は一見に如かずという言葉があるが、中には百見も意味を成さないこともあるようだ。
「では俺が」
代表してナルツが進み出る。
「彼等はノムルさんと、ユキノちゃんです」
紹介されていることに気付いた雪乃は、ノムルとの口論を止めて栗色の男に向き直る。
「ユキノです」
ぺこりと幹を曲げて挨拶すると、栗色の男は拍子抜けしたように緊張を緩め、口元に笑みを浮かべた。
「冒険者ギルドのルモン大帝国支部を任されている、ギルドマスターのルッツ・イーグスだ」
「イーグスっていうと、たしか機関車や車が移動するための、魔術式や魔法石を開発した一族か」
ノムルの言葉に、雪乃は「ほう」と感嘆の声を上げ、ルッツをまじまじと見た。
機関車の存在がネーデルで重きを得ていることは、確かめるまでもないだろう。それを開発した一族とあらば、この国でも重用されているはずだ。
元々貴族だったのか、平民だったのかは知らないが、現在は爵位に付いていると想像できる。
しかし目の前の人物は、貴族にしてはラフな外見と性格のようだ。
「まあな。だが俺は少々毛色が違ってな、小難しい魔術式よりも、体を使うほうが性に合ってたようで、家を出てここで世話になっている。それで、なんでこんな騒ぎを起こした?」
「だから正当防衛だって」
ルッツは雪乃に対して見せた微笑を消して、ギルドマスターの顔に戻ると、ノムルに問うた。しかしその答えは、先ほどと変わらない。
本人から事情を聞くのは骨が折れそうだと判断したルッツは、ナルツへ説明の続きを促がす。
視線を受け取ったナルツは、事のあらましを伝えた。
「それでこの惨状か?」
「ええ、まあ」
状況は理解したが、だからといって納得できるものではない。
ギルド職員の態度は、ギルドの長として見逃すわけにはいかないし、事情も聞かずに旅の冒険者を責め立て、連れの子供にまで手を出した女冒険者二人にも、ペナルティが必要だろう。
「だがなあ」
それにしても、である。
「やりすぎだろう」
四階建ての高層アパートの一階は、壁を失い風通しも見晴らしも良くなっている。
氷漬けにされていた女冒険者二人は、解放されたものの、寒さからか恐怖からか、震え上がってまともな会話もできそうにない。
喧嘩など珍しくもない冒険者ギルドではあるが、ここまで破壊されたことは、ルッツの知る限りなかった。
「とりあえず、さらし者は勘弁だ。魔法使いは魔力を提供しろ。原因はお前達にもあるみたいだからな。拒否は許さんぞ」
ルッツの言葉を受けて、冒険者ギルドにいた魔法使いたちが集まる。
それぞれに小さな魔法石を配ると、ルッツは一回り大きな魔法石を掲げ、呪文を唱えた。
魔法石が輝き始め、呼応するようにギルドの床に魔方陣が浮かび上がる。消失したはずの壁が、大地から生えるようにして復元されていく。
数分もすると、元通り壁の存在する空間へと戻った。
協力した魔法使い達は、床に膝を突き、肩で息をしている。何とか立っている者たちも、杖に体重を預けて辛そうだ。
それでも魔法を使えない冒険者達から歓声が上がると、座り込んでいた魔法使い達も、若干の笑顔を見せる。
「ほらね。壊しても直るんだから、気にすること無いんだって」
「お見事でした」
「「「……」」」
魔法使いたちの笑顔も、冒険者達の興奮の表情も、そのまま固まった。
つっこみたいことは色々あるが、きっと更なる困惑に襲われるに決まっている。
彼等は沈黙こそが正解と、何も聞かなかったことにした。
「折角だし、何か面白い依頼がないか見てみよっか?」
「はい!」
雪乃はスキップ混じりでノムルに付いて行く。
ギルドの奥には広いスペースがあり、幾つかのボードが設置されていた。壁にもボードにも、依頼書が貼り付けられている。
昼前と言う時間で隙間だらけになっているが、朝はもっと多くの依頼書で埋まっているのだろう。
壁だけでは収まらない多くの依頼に、この国の規模が透けて見えるようだ。
雪乃はゆっくりと見ていく。ノムルに道中で文字を教わっていたので、一文字一文字を目で追った。
「ユキノちゃん、ちゃんと読めてる?」
真剣に見つめていると、ノムルが声をかけてきた。
「んー、まだまだですね」
この世界に来た時から予想はしていたのだが、ノムルから文字を教えてもらうようになり、はっきりと判明したことがある。
雪乃の耳に届く言葉は、自動的に翻訳されていた。そのため文字を憶えても、まったく意味が分からない言葉の羅列に見える。
「あ、これは分かります! リーア草、三十株ですね!」
「……。薬草だけは得意だねえ」
胸を張った雪乃に、ノムルは笑みを零す。
薬草名はこの世界の言葉のままなので、文字が読めるようになれば理解できた。
他にも分かる単語がないかと依頼書を追う雪乃を置いて、ノムルは他の依頼書にも目を通していく。その目が色褪せた一枚の依頼書に留まり、鋭く光る。
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