『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
38 / 385
ルモン大帝国編

90.人間を信用してない

しおりを挟む
「待ってください、ノムル様!」

 我に返ったマグレーンは、慌てて引き止める。声が届いたのか、ノムルの足が止まった。
 ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、彼等の表情は青ざめる。

「俺、あんまり人間を信用してないんだよね」
「「「え?」」」

 嫌な予感しかしない三人の背中には、冷たい汗が滝のように流れていた。
 恐怖と困惑で動きを止めた三人の咽に、ノムルの杖がちょんと触れる。

「ユキノちゃんの情報を他言することを禁ずる」

 魔力を込めた声が、ノムルの口から発せられた。同時に三人の咽から口に向かって、びりっと刺激が奔る。
 口封じの魔法を掛けられたのだと、マグレーンとタッセは瞬時に判断し、ヤガルにも伝える。
 本来ならば、当人の許可を取らずに行使することは禁じられている魔法だ。しかし雪乃の秘密を決して漏らすまいと密かに誓っていた三人は、抗議することなく受け入れた。
 むしろ、これでうっかり洩らしてしまうことも無いと、粗忽なヤガルは安堵したほどだ。
 部屋を出たノムルを、待ち構えていたルッツが捕まえる。中に入ろうとしても、タッセの魔法で扉が開かなかったのだ。

「出てきたか。何があった? 食事は食べてきたのか?」

 ノムルはルッツの言葉を無視して階段を下り、受付に向かう。雪乃がノムルの腕から抜けようと体をよじっているが、抜け出せる気配は無かった。

「ルービスまでの機関車は、次はいつ出る?」
「え? そろそろ出る時間かと思いますが……」
「そう、ありがとう」
「おいっ?!」

 受付の職員から機関車の時間を聞くと、ノムルはそのままギルドを出て行く。
 後ろからルッツが追いかけてくるが、振り返りはしない。身体強化の魔法を使うと、一気に駅へと向かった。

「おい、話はまだ終わってないぞ?! ……まさかこのまま出て行くつもりか?」

 去り行く草色のローブに、ルッツは呆然と呟く。
 台風どころか、竜巻のような男だったと、ルッツは思った。

「白昼夢でも見てたのか?」
「……。現実です」

 別れも告げられなかったとフレックたちも嘆いたが、それもあの二人らしいと、苦い笑いが込み上げてくる。
 それでも駅に行くというのなら、追いかければ間に合うかもしれない。
 現実逃避していたルッツは頭を振り、ギルドマスターとしての仕事を遂行するため、駆け出した。マグレーンもそれに続く。


「ルービスまで二人! まだ出発してないよね?」

 駅に着いたノムルは、人込みの中を滑るように進み、窓口へと割り込んだ。長蛇の列となっていたが、誰も気付いていない。
 いや、一人は気付いている。

「ノムルさん! 順番はちゃんとまぼっべぐばばび」

 即効で顔をノムルの胸に押し付けられ、何を言っているのか聞き取れなかったが。

「もうすぐ出ますね。急いでください。車輌はどうしますか?」
「二等で」
「売り切れていますね」
「空いてるのはどこ?」
「一等か四等になります」
「じゃあ、一等」

 迷わず答えたノムルに、対応していた駅員は顔を上げて固まった。後ろの長蛇の列も、近くにいた人間も、足を止め、雑談を止め、ノムルに注目する。

「え? 四等にした方がいいですよ?」

 ノムルの外見を見て払えないと思ったのだろう、駅員は遠慮なくそう言った。

「いいから早くしてよ。時間がないんでしょ? 乗り遅れたらお前に賠償させるよ?」

 顔をしかめた駅員は、舌打ち交じりに切符の値段を伝える。

「じゃあ、これで」
「え?」

 瞬時に空間魔法から金貨を取り出したノムルは、駅員の前に盛った。
 庶民の半年分の生活費にも匹敵する金額だ。通常ならば事前に従者がやってきて、奥の部屋で主のために購入していく。
 発車時間目前に、駆け込みで買って乗り込むような車輌ではない。

「あの、えっと……」

 目の前に置かれた大金に、駅員は目を白黒させる。古びたローブを着ているような男が、払えるわけがないとでも考えていたのだろう。

「早く。何してるのさ?」

 不機嫌なノムルは、つま先で小刻みに地面を叩く。雪乃は未だノムルのローブに顔を押し付けられ、もごもご言っている。

「ち、ちょっとお待ちください!」
「おい! 機関車が出るだろう?!」

 ノムルの制止する声も聞かず、駅員は奥へと駆け込んでいった。
 窓口に残された、金貨の山。野次馬たちの視線は釘付けである。
 手癖の悪い者は当然、手を伸ばして盗ろうとする。

「ぎゃあーーっ?!」

 つんざく悲鳴。金貨に触れた途端、その手の持ち主は悲鳴を上げて黒焦げになった。
 ノムルのローブに顔を押し付けられていて、何があったのか見えていない雪乃の体が、びくりと揺れる。

「「「え?」」」

 その所業をやってのけたと思われる魔法使いは、呪文の詠唱も、杖を振るうこともしていなかった。それどころか悲鳴を上げて倒れた盗人を、一瞥さえしない。
 どうやらこの魔法使いの仕業ではないと考えたのか、別の手が下からそうっと金貨に伸びる。

「ぎえええーーーっ?!」

 やっぱり黒焦げになって倒れた。
 この魔法使いの仕業だと、野次馬達は息を飲む。そこへ、

「ちょっと! まだなの?! 機関車止めといてくれてるんだろうね? これで乗り遅れたりしたら、駅壊しちゃうよ?」

 物騒な言葉が発せられた。

「に、逃げろーーっ!」
「「「「「ぎゃああーーーっ!!」」」」」

 我先にと野次馬達は逃げ出し、事情を知らない群集も、訳の分からないまま逃げ出した。
 駅から逃げ出てきた人並みに、駅前の道も混乱状態に陥る。いたるところで悲鳴が上がり、罵声が発せられ、人々は逃げ惑う。
 遅れて駅前に辿り着いたルッツとマグレーンは、空を仰いだ。

「これって、犯人は……」
「まだ駅は無事です。呼び止めますか?」
「いや、もう放っておこう。これ以上は俺の心が持たん」
「……。了解」

 もう事情聴取もその他の話もどうでもいい。
 一秒でも早く、魔王がこの町から出て行ってくれるよう、ルッツは心の底から深く祈った。

「ノムルさん! どうして問題ばかり起こすんですか?」
「えー? 俺は悪くないって」
「そろそろ自覚してください!」
「ええー?」

 客足の消えた駅の中では、小さな魔法使いが大きな魔法使いを叱りつけるという、シュールな光景が展開されていた。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...