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ルモン大帝国編
90.人間を信用してない
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「待ってください、ノムル様!」
我に返ったマグレーンは、慌てて引き止める。声が届いたのか、ノムルの足が止まった。
ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、彼等の表情は青ざめる。
「俺、あんまり人間を信用してないんだよね」
「「「え?」」」
嫌な予感しかしない三人の背中には、冷たい汗が滝のように流れていた。
恐怖と困惑で動きを止めた三人の咽に、ノムルの杖がちょんと触れる。
「ユキノちゃんの情報を他言することを禁ずる」
魔力を込めた声が、ノムルの口から発せられた。同時に三人の咽から口に向かって、びりっと刺激が奔る。
口封じの魔法を掛けられたのだと、マグレーンとタッセは瞬時に判断し、ヤガルにも伝える。
本来ならば、当人の許可を取らずに行使することは禁じられている魔法だ。しかし雪乃の秘密を決して漏らすまいと密かに誓っていた三人は、抗議することなく受け入れた。
むしろ、これでうっかり洩らしてしまうことも無いと、粗忽なヤガルは安堵したほどだ。
部屋を出たノムルを、待ち構えていたルッツが捕まえる。中に入ろうとしても、タッセの魔法で扉が開かなかったのだ。
「出てきたか。何があった? 食事は食べてきたのか?」
ノムルはルッツの言葉を無視して階段を下り、受付に向かう。雪乃がノムルの腕から抜けようと体をよじっているが、抜け出せる気配は無かった。
「ルービスまでの機関車は、次はいつ出る?」
「え? そろそろ出る時間かと思いますが……」
「そう、ありがとう」
「おいっ?!」
受付の職員から機関車の時間を聞くと、ノムルはそのままギルドを出て行く。
後ろからルッツが追いかけてくるが、振り返りはしない。身体強化の魔法を使うと、一気に駅へと向かった。
「おい、話はまだ終わってないぞ?! ……まさかこのまま出て行くつもりか?」
去り行く草色のローブに、ルッツは呆然と呟く。
台風どころか、竜巻のような男だったと、ルッツは思った。
「白昼夢でも見てたのか?」
「……。現実です」
別れも告げられなかったとフレックたちも嘆いたが、それもあの二人らしいと、苦い笑いが込み上げてくる。
それでも駅に行くというのなら、追いかければ間に合うかもしれない。
現実逃避していたルッツは頭を振り、ギルドマスターとしての仕事を遂行するため、駆け出した。マグレーンもそれに続く。
「ルービスまで二人! まだ出発してないよね?」
駅に着いたノムルは、人込みの中を滑るように進み、窓口へと割り込んだ。長蛇の列となっていたが、誰も気付いていない。
いや、一人は気付いている。
「ノムルさん! 順番はちゃんとまぼっべぐばばび」
即効で顔をノムルの胸に押し付けられ、何を言っているのか聞き取れなかったが。
「もうすぐ出ますね。急いでください。車輌はどうしますか?」
「二等で」
「売り切れていますね」
「空いてるのはどこ?」
「一等か四等になります」
「じゃあ、一等」
迷わず答えたノムルに、対応していた駅員は顔を上げて固まった。後ろの長蛇の列も、近くにいた人間も、足を止め、雑談を止め、ノムルに注目する。
「え? 四等にした方がいいですよ?」
ノムルの外見を見て払えないと思ったのだろう、駅員は遠慮なくそう言った。
「いいから早くしてよ。時間がないんでしょ? 乗り遅れたらお前に賠償させるよ?」
顔をしかめた駅員は、舌打ち交じりに切符の値段を伝える。
「じゃあ、これで」
「え?」
瞬時に空間魔法から金貨を取り出したノムルは、駅員の前に盛った。
庶民の半年分の生活費にも匹敵する金額だ。通常ならば事前に従者がやってきて、奥の部屋で主のために購入していく。
発車時間目前に、駆け込みで買って乗り込むような車輌ではない。
「あの、えっと……」
目の前に置かれた大金に、駅員は目を白黒させる。古びたローブを着ているような男が、払えるわけがないとでも考えていたのだろう。
「早く。何してるのさ?」
不機嫌なノムルは、つま先で小刻みに地面を叩く。雪乃は未だノムルのローブに顔を押し付けられ、もごもご言っている。
「ち、ちょっとお待ちください!」
「おい! 機関車が出るだろう?!」
ノムルの制止する声も聞かず、駅員は奥へと駆け込んでいった。
窓口に残された、金貨の山。野次馬たちの視線は釘付けである。
手癖の悪い者は当然、手を伸ばして盗ろうとする。
「ぎゃあーーっ?!」
つんざく悲鳴。金貨に触れた途端、その手の持ち主は悲鳴を上げて黒焦げになった。
ノムルのローブに顔を押し付けられていて、何があったのか見えていない雪乃の体が、びくりと揺れる。
「「「え?」」」
その所業をやってのけたと思われる魔法使いは、呪文の詠唱も、杖を振るうこともしていなかった。それどころか悲鳴を上げて倒れた盗人を、一瞥さえしない。
どうやらこの魔法使いの仕業ではないと考えたのか、別の手が下からそうっと金貨に伸びる。
「ぎえええーーーっ?!」
やっぱり黒焦げになって倒れた。
この魔法使いの仕業だと、野次馬達は息を飲む。そこへ、
「ちょっと! まだなの?! 機関車止めといてくれてるんだろうね? これで乗り遅れたりしたら、駅壊しちゃうよ?」
物騒な言葉が発せられた。
「に、逃げろーーっ!」
「「「「「ぎゃああーーーっ!!」」」」」
我先にと野次馬達は逃げ出し、事情を知らない群集も、訳の分からないまま逃げ出した。
駅から逃げ出てきた人並みに、駅前の道も混乱状態に陥る。いたるところで悲鳴が上がり、罵声が発せられ、人々は逃げ惑う。
遅れて駅前に辿り着いたルッツとマグレーンは、空を仰いだ。
「これって、犯人は……」
「まだ駅は無事です。呼び止めますか?」
「いや、もう放っておこう。これ以上は俺の心が持たん」
「……。了解」
もう事情聴取もその他の話もどうでもいい。
一秒でも早く、魔王がこの町から出て行ってくれるよう、ルッツは心の底から深く祈った。
「ノムルさん! どうして問題ばかり起こすんですか?」
「えー? 俺は悪くないって」
「そろそろ自覚してください!」
「ええー?」
客足の消えた駅の中では、小さな魔法使いが大きな魔法使いを叱りつけるという、シュールな光景が展開されていた。
我に返ったマグレーンは、慌てて引き止める。声が届いたのか、ノムルの足が止まった。
ほっと胸をなで下ろしたのも束の間、彼等の表情は青ざめる。
「俺、あんまり人間を信用してないんだよね」
「「「え?」」」
嫌な予感しかしない三人の背中には、冷たい汗が滝のように流れていた。
恐怖と困惑で動きを止めた三人の咽に、ノムルの杖がちょんと触れる。
「ユキノちゃんの情報を他言することを禁ずる」
魔力を込めた声が、ノムルの口から発せられた。同時に三人の咽から口に向かって、びりっと刺激が奔る。
口封じの魔法を掛けられたのだと、マグレーンとタッセは瞬時に判断し、ヤガルにも伝える。
本来ならば、当人の許可を取らずに行使することは禁じられている魔法だ。しかし雪乃の秘密を決して漏らすまいと密かに誓っていた三人は、抗議することなく受け入れた。
むしろ、これでうっかり洩らしてしまうことも無いと、粗忽なヤガルは安堵したほどだ。
部屋を出たノムルを、待ち構えていたルッツが捕まえる。中に入ろうとしても、タッセの魔法で扉が開かなかったのだ。
「出てきたか。何があった? 食事は食べてきたのか?」
ノムルはルッツの言葉を無視して階段を下り、受付に向かう。雪乃がノムルの腕から抜けようと体をよじっているが、抜け出せる気配は無かった。
「ルービスまでの機関車は、次はいつ出る?」
「え? そろそろ出る時間かと思いますが……」
「そう、ありがとう」
「おいっ?!」
受付の職員から機関車の時間を聞くと、ノムルはそのままギルドを出て行く。
後ろからルッツが追いかけてくるが、振り返りはしない。身体強化の魔法を使うと、一気に駅へと向かった。
「おい、話はまだ終わってないぞ?! ……まさかこのまま出て行くつもりか?」
去り行く草色のローブに、ルッツは呆然と呟く。
台風どころか、竜巻のような男だったと、ルッツは思った。
「白昼夢でも見てたのか?」
「……。現実です」
別れも告げられなかったとフレックたちも嘆いたが、それもあの二人らしいと、苦い笑いが込み上げてくる。
それでも駅に行くというのなら、追いかければ間に合うかもしれない。
現実逃避していたルッツは頭を振り、ギルドマスターとしての仕事を遂行するため、駆け出した。マグレーンもそれに続く。
「ルービスまで二人! まだ出発してないよね?」
駅に着いたノムルは、人込みの中を滑るように進み、窓口へと割り込んだ。長蛇の列となっていたが、誰も気付いていない。
いや、一人は気付いている。
「ノムルさん! 順番はちゃんとまぼっべぐばばび」
即効で顔をノムルの胸に押し付けられ、何を言っているのか聞き取れなかったが。
「もうすぐ出ますね。急いでください。車輌はどうしますか?」
「二等で」
「売り切れていますね」
「空いてるのはどこ?」
「一等か四等になります」
「じゃあ、一等」
迷わず答えたノムルに、対応していた駅員は顔を上げて固まった。後ろの長蛇の列も、近くにいた人間も、足を止め、雑談を止め、ノムルに注目する。
「え? 四等にした方がいいですよ?」
ノムルの外見を見て払えないと思ったのだろう、駅員は遠慮なくそう言った。
「いいから早くしてよ。時間がないんでしょ? 乗り遅れたらお前に賠償させるよ?」
顔をしかめた駅員は、舌打ち交じりに切符の値段を伝える。
「じゃあ、これで」
「え?」
瞬時に空間魔法から金貨を取り出したノムルは、駅員の前に盛った。
庶民の半年分の生活費にも匹敵する金額だ。通常ならば事前に従者がやってきて、奥の部屋で主のために購入していく。
発車時間目前に、駆け込みで買って乗り込むような車輌ではない。
「あの、えっと……」
目の前に置かれた大金に、駅員は目を白黒させる。古びたローブを着ているような男が、払えるわけがないとでも考えていたのだろう。
「早く。何してるのさ?」
不機嫌なノムルは、つま先で小刻みに地面を叩く。雪乃は未だノムルのローブに顔を押し付けられ、もごもご言っている。
「ち、ちょっとお待ちください!」
「おい! 機関車が出るだろう?!」
ノムルの制止する声も聞かず、駅員は奥へと駆け込んでいった。
窓口に残された、金貨の山。野次馬たちの視線は釘付けである。
手癖の悪い者は当然、手を伸ばして盗ろうとする。
「ぎゃあーーっ?!」
つんざく悲鳴。金貨に触れた途端、その手の持ち主は悲鳴を上げて黒焦げになった。
ノムルのローブに顔を押し付けられていて、何があったのか見えていない雪乃の体が、びくりと揺れる。
「「「え?」」」
その所業をやってのけたと思われる魔法使いは、呪文の詠唱も、杖を振るうこともしていなかった。それどころか悲鳴を上げて倒れた盗人を、一瞥さえしない。
どうやらこの魔法使いの仕業ではないと考えたのか、別の手が下からそうっと金貨に伸びる。
「ぎえええーーーっ?!」
やっぱり黒焦げになって倒れた。
この魔法使いの仕業だと、野次馬達は息を飲む。そこへ、
「ちょっと! まだなの?! 機関車止めといてくれてるんだろうね? これで乗り遅れたりしたら、駅壊しちゃうよ?」
物騒な言葉が発せられた。
「に、逃げろーーっ!」
「「「「「ぎゃああーーーっ!!」」」」」
我先にと野次馬達は逃げ出し、事情を知らない群集も、訳の分からないまま逃げ出した。
駅から逃げ出てきた人並みに、駅前の道も混乱状態に陥る。いたるところで悲鳴が上がり、罵声が発せられ、人々は逃げ惑う。
遅れて駅前に辿り着いたルッツとマグレーンは、空を仰いだ。
「これって、犯人は……」
「まだ駅は無事です。呼び止めますか?」
「いや、もう放っておこう。これ以上は俺の心が持たん」
「……。了解」
もう事情聴取もその他の話もどうでもいい。
一秒でも早く、魔王がこの町から出て行ってくれるよう、ルッツは心の底から深く祈った。
「ノムルさん! どうして問題ばかり起こすんですか?」
「えー? 俺は悪くないって」
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