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ルモン大帝国編
89.頼れる仲間はいなかった
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「つまり、ユキノちゃんは人間ではなく樹人で、しばらく根を張っていなかったせいで、お腹が空いて衰弱していると?」
頭痛を覚えながらも、マグレーンはなんとか情報を整理し、言葉を紡ぐ。
ヤガルは顎を落としたまま雪乃を見つめて固まっているし、タッセはなぜがキラキラと輝く瞳でノムルを拝んでいる。
今のマグレーンに、頼れる仲間はいなかった。
「そういうこと。で、どの肥料がいいんだ?」
そんなことを聞かれても、マグレーンだって分からない。なにせ樹人に肥料を与えるなんて話、聞いたことも無い。
そもそも樹人は魔物であり、討伐する相手だ。わざわざ育てようなんて物好きはいないだろう。
しかも、と、マグレーンの頭痛がひどくなる。
もし肥料選びに失敗し、雪乃に万が一のことがあれば、一国家の勢力にも匹敵するとまで噂される、最強の魔法使いの怒りに触れることは、想像に容易い。
決してしくじりは許されない最重要任務だ。
「ゆ、ユキノちゃんは、何か言っていなかったのですか?」
ともかく情報を得ようと、畏怖する心を抑えて口を開いた。
「腐葉土とかいうのが欲しいって」
「それでしたら、これではないでしょうか?」
「ん?」
マグレーンが示したのは、土汚れた麻袋に入った肥料だった。口に付いたラベルに、確かに『腐葉土』と書かれている。
さっそくノムルは袋を開けて、雪乃の足元に広げた。湿った土の臭いが漂う。
「ユキノちゃん、どう?」
「……。味はいまいちですが、空腹は癒えそうです」
「不味いのか。色々あるけど、他も試してみる?」
「とりあえず、このままで……」
先ほどよりは和らいだが、まだどこか辛そうな声である。
ノムルは優しく雪乃を撫でた。
それから一時間ほど経ち、
「ご心配をお掛けしました」
雪乃はぺこりと幹を曲げていた。
大地に根を張り腐葉土を与えられたことで、一応の回復はできたようだ。
「本当に心配したよ。もう無理をしたらだめだよ?」
「はい」
「どこか体調の悪いところは無い?」
眉尻を下げて問うノムルに、ゆきのは「うーん」っと唸りながら、自分の体の様子を確かめる。
「心なしか、チクチクします」
「虫でも付いたのかな?」
「え?」
ノムルを見上げたまま、雪乃は固まった。
雪乃は樹人。木に虫が付くことはままある。しかし、雪乃は人間でもある。
さあっと、血の気が引いた。
「と、取ってください! 虫、怖い!」
「ええ?! 樹人って、虫が駄目なの? ああ、葉っぱ食べられちゃうのか」
パニックを起こしてバタバタと体を動かす雪乃に、ノムルも困惑気味だ。
取り除いてやりたいが、ここでローブを脱がせるわけにはいかない。すでに十二分に目立っていたようで、遠くに野次馬の姿も見える。
なにせ魔法使い三人と、屈強な武人が一人だ。そんな集団が小さな子供を囲んで怪しい行動をしているのだから、通報されていないだけ幸運と言うべきだろうか。
「とりあえず、冒険者ギルドに戻りましょう。個室がありますから、そこで」
「分かった。ユキノちゃん、もう少し我慢してね?」
「う、うう……」
半泣き状態の雪乃を抱き連れて、ノムルたちは冒険者ギルドへと走った。
戻ってきたノムルを目にしたルッツは、何の問題も起こさずに帰ってきたかと、胸をなで下ろした。
だがそれも一瞬のこと、ノムルの表情を見て口から魂らしきものが抜けかける。
魔王の目は血走り、ギラギラと光っているではないか。
「部屋はどこ?」
「こっちです!」
小さな子供を抱きかかえた魔法使い達プラス槍使い一名は、冒険者ギルドの中を駆け抜け、空いている個室に飛び込むと、扉を閉めた。
すぐさまタッセが詠唱を開始し、誰も入れないように魔法を施す。
「さ、脱がすよ」
と、ノムルはふるふるしている雪乃から、ローブを脱がした。
現れた小さな樹人に、改めてマグレーンたちは呆然として、動きを止める。
「うわ、葉に赤い斑点が出てる。なんで?」
雪乃の緑の葉には、ノムルが言うとおり、赤い湿疹が出ていた。幸いにも虫は付いていなかったようだが。
「何の病気だろう? 植物の病気までは、流石に知らないよ。ユキノちゃん、分かる?」
マグレーンとタッセも覗き込むが、二人も対処法がわからない。
薬草の採取経験はあるが、栽培経験は無い。そのため、植物の病気に関してての知識まではないのだ。
「園芸店に行って聞いてみたらどうだ?」
「樹人の病気は分からないだろう」
「見せれば何か分かるかもしれませんけど……」
ヤガルの提案に、マグレーンが首を横に振る。そしてタッセの言葉で、三人は雪乃を凝視した。
「それは無しの方向で」
「そうだな」
「ええ」
却下したマグレーンに、ヤガルとタッセは首肯する。しかし、放っておくわけにはいかない。
三人は必死に考える。脳筋のヤガルは顔が真っ赤になって湯気が出てきたが、それでも無い知恵を振り絞った。
「たぶん、根を張った土地か、頂いた肥料に、好ましくない成分が混ざっていたんだと思います」
小さな樹人の言葉を聞き、三人は凍りつく。
錆びたネジのように、ぎこちなく首をノムルへと回した。予想通り、魔王が光臨しようとしている。
「ノムルさん、マグレーンさんたちは悪くないですよ?」
「なんで?」
雪乃が庇うが、ノムルの怒りは収まらない。
「あの状況では、ベストな行動だったと思います。人間の世界で使われているものの中には、自然界とは相容れないものが多々あるので、そういった物質が含まれていたのでしょう。たぶん、しばらくすれば収まると思いますから」
「そう」
魔王はノムルの体から抜け去ったようだが、ノムルは肩を落としてしょげている。
「早く良くなるような薬草とかあったら教えてよ。とりあえず、治癒魔法を掛けてみようか?」
念のためにと治癒魔法を発動させたが、改善は見られない。ノムルはさらに落ち込んだ。そして、
「出よう」
「はい?」
と言うなり、雪乃にローブを着せ、抱き上げる。
「こんな国、駄目だ。ユキノちゃんが暮らしやすい、緑あふれる自然豊かな森へ行こう!」
「ちょっと、ノムルさん?!」
急展開についていけず、雪乃は困惑の声を上げ、マグレーン達は虚を突かれた。
頭痛を覚えながらも、マグレーンはなんとか情報を整理し、言葉を紡ぐ。
ヤガルは顎を落としたまま雪乃を見つめて固まっているし、タッセはなぜがキラキラと輝く瞳でノムルを拝んでいる。
今のマグレーンに、頼れる仲間はいなかった。
「そういうこと。で、どの肥料がいいんだ?」
そんなことを聞かれても、マグレーンだって分からない。なにせ樹人に肥料を与えるなんて話、聞いたことも無い。
そもそも樹人は魔物であり、討伐する相手だ。わざわざ育てようなんて物好きはいないだろう。
しかも、と、マグレーンの頭痛がひどくなる。
もし肥料選びに失敗し、雪乃に万が一のことがあれば、一国家の勢力にも匹敵するとまで噂される、最強の魔法使いの怒りに触れることは、想像に容易い。
決してしくじりは許されない最重要任務だ。
「ゆ、ユキノちゃんは、何か言っていなかったのですか?」
ともかく情報を得ようと、畏怖する心を抑えて口を開いた。
「腐葉土とかいうのが欲しいって」
「それでしたら、これではないでしょうか?」
「ん?」
マグレーンが示したのは、土汚れた麻袋に入った肥料だった。口に付いたラベルに、確かに『腐葉土』と書かれている。
さっそくノムルは袋を開けて、雪乃の足元に広げた。湿った土の臭いが漂う。
「ユキノちゃん、どう?」
「……。味はいまいちですが、空腹は癒えそうです」
「不味いのか。色々あるけど、他も試してみる?」
「とりあえず、このままで……」
先ほどよりは和らいだが、まだどこか辛そうな声である。
ノムルは優しく雪乃を撫でた。
それから一時間ほど経ち、
「ご心配をお掛けしました」
雪乃はぺこりと幹を曲げていた。
大地に根を張り腐葉土を与えられたことで、一応の回復はできたようだ。
「本当に心配したよ。もう無理をしたらだめだよ?」
「はい」
「どこか体調の悪いところは無い?」
眉尻を下げて問うノムルに、ゆきのは「うーん」っと唸りながら、自分の体の様子を確かめる。
「心なしか、チクチクします」
「虫でも付いたのかな?」
「え?」
ノムルを見上げたまま、雪乃は固まった。
雪乃は樹人。木に虫が付くことはままある。しかし、雪乃は人間でもある。
さあっと、血の気が引いた。
「と、取ってください! 虫、怖い!」
「ええ?! 樹人って、虫が駄目なの? ああ、葉っぱ食べられちゃうのか」
パニックを起こしてバタバタと体を動かす雪乃に、ノムルも困惑気味だ。
取り除いてやりたいが、ここでローブを脱がせるわけにはいかない。すでに十二分に目立っていたようで、遠くに野次馬の姿も見える。
なにせ魔法使い三人と、屈強な武人が一人だ。そんな集団が小さな子供を囲んで怪しい行動をしているのだから、通報されていないだけ幸運と言うべきだろうか。
「とりあえず、冒険者ギルドに戻りましょう。個室がありますから、そこで」
「分かった。ユキノちゃん、もう少し我慢してね?」
「う、うう……」
半泣き状態の雪乃を抱き連れて、ノムルたちは冒険者ギルドへと走った。
戻ってきたノムルを目にしたルッツは、何の問題も起こさずに帰ってきたかと、胸をなで下ろした。
だがそれも一瞬のこと、ノムルの表情を見て口から魂らしきものが抜けかける。
魔王の目は血走り、ギラギラと光っているではないか。
「部屋はどこ?」
「こっちです!」
小さな子供を抱きかかえた魔法使い達プラス槍使い一名は、冒険者ギルドの中を駆け抜け、空いている個室に飛び込むと、扉を閉めた。
すぐさまタッセが詠唱を開始し、誰も入れないように魔法を施す。
「さ、脱がすよ」
と、ノムルはふるふるしている雪乃から、ローブを脱がした。
現れた小さな樹人に、改めてマグレーンたちは呆然として、動きを止める。
「うわ、葉に赤い斑点が出てる。なんで?」
雪乃の緑の葉には、ノムルが言うとおり、赤い湿疹が出ていた。幸いにも虫は付いていなかったようだが。
「何の病気だろう? 植物の病気までは、流石に知らないよ。ユキノちゃん、分かる?」
マグレーンとタッセも覗き込むが、二人も対処法がわからない。
薬草の採取経験はあるが、栽培経験は無い。そのため、植物の病気に関してての知識まではないのだ。
「園芸店に行って聞いてみたらどうだ?」
「樹人の病気は分からないだろう」
「見せれば何か分かるかもしれませんけど……」
ヤガルの提案に、マグレーンが首を横に振る。そしてタッセの言葉で、三人は雪乃を凝視した。
「それは無しの方向で」
「そうだな」
「ええ」
却下したマグレーンに、ヤガルとタッセは首肯する。しかし、放っておくわけにはいかない。
三人は必死に考える。脳筋のヤガルは顔が真っ赤になって湯気が出てきたが、それでも無い知恵を振り絞った。
「たぶん、根を張った土地か、頂いた肥料に、好ましくない成分が混ざっていたんだと思います」
小さな樹人の言葉を聞き、三人は凍りつく。
錆びたネジのように、ぎこちなく首をノムルへと回した。予想通り、魔王が光臨しようとしている。
「ノムルさん、マグレーンさんたちは悪くないですよ?」
「なんで?」
雪乃が庇うが、ノムルの怒りは収まらない。
「あの状況では、ベストな行動だったと思います。人間の世界で使われているものの中には、自然界とは相容れないものが多々あるので、そういった物質が含まれていたのでしょう。たぶん、しばらくすれば収まると思いますから」
「そう」
魔王はノムルの体から抜け去ったようだが、ノムルは肩を落としてしょげている。
「早く良くなるような薬草とかあったら教えてよ。とりあえず、治癒魔法を掛けてみようか?」
念のためにと治癒魔法を発動させたが、改善は見られない。ノムルはさらに落ち込んだ。そして、
「出よう」
「はい?」
と言うなり、雪乃にローブを着せ、抱き上げる。
「こんな国、駄目だ。ユキノちゃんが暮らしやすい、緑あふれる自然豊かな森へ行こう!」
「ちょっと、ノムルさん?!」
急展開についていけず、雪乃は困惑の声を上げ、マグレーン達は虚を突かれた。
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