『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ルモン大帝国編

88.色褪せた枯葉が

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「ゆ、ユキノちゃん?!」

 驚愕と不安が、声ににじみ出ていた。
 青々と茂っていたはずの小さな樹人には、色褪せた枯葉が混じっているではないか。

「どうかしたのか?」

 異変を察知したルッツは、足を止め振り返る。他の面々も、心配そうに雪乃を見つめる。
 その中で、ヤガルが雪乃の顔を覗き込もうと膝を折った。
 ノムルはとっさに雪乃を抱きしめ、その顔を隠す。

「この近くに、森か林は?」
「は?」
「いいから、早く教えろ!」

 素っ頓狂な声を上げるヤガルに、ノムルは怒鳴りつける。そのまま全員を一睨みした。

「そんなもの、この辺にはないぞ?」
「え? 草原は? 草や木が生い茂るような」

 ナルツたちは首を捻り考え込む。
 先進国家であるルモン大帝国、その首都ネーデルは、地面さえ石畳に覆われている。

「公園に行けば、木はありますよ? 後は植物園とか?」
「公園はどこ?」
「それならギルドを左に出て、緑の看板が見えたら右に曲がって、しばらくいけば」

 と説明もそこそこに、ノムルは身体強化の魔法を使うと、雪乃を抱き上げて駆け出した。

「「「え?」」」

 取り残された職員達も冒険者達も、呆然としたまま事態を理解できない。
 ただ疾風のごとく走り去った魔法使いを見送った。



「ユキノちゃん、しっかりして!」

 雪乃を抱き抱えたノムルは、必死に走った。
 地面を蹴って跳躍すると、壁を駆け、屋上へと上る。そのまま隣の建物の屋上へと跳び移り、そして次へと、三階建てから六階建てまである高層アパートの上を、ノムルは駆けていく。

「あった!」

 開けた土地に、緑の葉が見えた。
 芝生の上に着地したノムルは、急いで雪乃を地面に下ろす。

「さあ、ユキノちゃん。地面だよ? 根を張って」

 返事はないが、雪乃の周りの地面が少し盛り上がった。水も必要だろうと、魔法で水を作り出し、根元に掛けてやる。
 小さな樹人から、一息つくように息がこぼれ出た。ノムルもほっと胸をなで下ろし、雪乃の正面に腰を下ろす。

「ごめんよ、ユキノちゃん。早く気付いてあげられなくて。でも今度からは、辛くなったらすぐに言うんだよ?」

 ノムルは気付いていなかったが、彼は極自然に優しく笑んでいた。

「ノムル様!」
「ノムルさん!」

 声に振り向けば、マグレーンとヤガル、タッセが駆け付たところだった。

「げ。」

 考えてみればこの場所は彼等に教えてもらったのだから、彼等がやってくることは予想できていたはずなのだ。それにもかかわらず、ノムルは失念していた。
 彼らしくない失態である。

「チビは大丈夫か?」

 駆け寄るなり、ヤガルは膝を付いて雪乃の顔を覗こうと体を曲げた。

「ちょっと、何してんのさ」
「へ? ぶ?!」

 ノムルの手がヤガルの目を覆い、押しのける。妙な声が聞こえたが、気にしない。

「誰がユキノちゃんの顔を覗いていいって言った? 怖かったねえ、ユキノちゃん?」
「いや、ノムルさん?」

 ヤガルに発したドスの利いた声が、雪乃に向かうなり一瞬にして柔らかく戻った。
 尻餅を付いたままのヤガルは、呆気に取られている。
 子供の顔を覗こうとしただけで吹っ飛ばされるとか、理不尽だろう。そんな常識が通じる相手ではないことは、ヤガルたちもここまでで理解させられてはいたが。
 呆気に取られているヤガルたちを牽制しながら、ノムルは雪乃の頬に手を伸ばす。
 枯れた葉が落ちないように、これ以上傷つけないように、そうっと優しく触れた。

「ユキノちゃん、少しは楽になった?」

 魔法を使って声が漏れないように、自分と雪乃を包む。それから柔らかく聞いた。

「ノ、ムルさ、ん」
「うん? なあに?」

 今までに聞いたことの無い弱々しい声に、ノムルは表情を歪める。

「ふ、」
「ふ?」
「腐葉土が欲しいです」
「……」

 ノムルはふるふると震えた。
 こめかみを挟み込むように指で押さえ、目元を覆う。
 雪乃は樹人。樹人の栄養は、やっぱり肥料だった。そして公園の痩せた土では、彼女の腹を満たすことはできなかったようだ。
 しかし動けない状態の雪乃を、一人残していくわけにはいかない。
 ちらりと、ノムルは横目でマグレーンたちを見る。
 雪乃の正体はできるだけ隠したいが、彼女に強い恩義を感じている彼らならば、他言はしないだろう。
 仮に雪乃を魔物と咎めるならば、それなりの対応を取ればいい。口を封じる方法は、幾らでもある。
 雪乃に覚らせない方法も――

「悪いんだけど、肥料を買ってきてよ」
「「「は?」」」

 言われた言葉が理解できず、三人は間抜けな顔で問い返す。いや、言葉の意味自体は理解しているが、この状況でなぜそんな発言が出て来たのかが、さっぱり意味が分からなかった。

「早く買って来いよ」
「「「はいっ!」」」

 混乱している間にも、ノムルに魔王が光臨しようとしていた。
 三人は直立して返事をすると、急いで街の中へと走る。数分して戻ってきた彼等の腕には、様々な種類の肥料があった。

「「「お待たせしました!」」」
「……」

 ここでノムルは困った。
 植物に与える肥料など、どれも同じだろうと考えていたのに、材料を確認するとそれぞれ異なる。しかも割合も色々だ。

「どれがいいんだ?」

 目の前に並んだ肥料を睨みつける。  
 『綺麗なラバを咲かせる肥料』『コンメ用』『元気スクスク』……。
 とりあえず、特定の植物用は除外した。

「えーっと、何に使うんですか?」

 おそるおそる、マグレーンは尋ねる。

「弱った樹人にはどれがいいんだ?」
「「「は?」」」
「だからー、樹人用の肥料はどれだ?」
「「「はあっ?!」」」

 本気で意味が分からないと、三人は天を仰いだ。
 黒い鳥が飛んでいく。あ、白い物を落とした。
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