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ドューワ国編
97.ニューデレラの町
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国境を越えた先に広がるニューデレラの町は、ガラス細工の器や飾り、カラクリ時計を売っている店が多かった。
「もうお昼だね。何食べようか?」
「何が名物でしょうか?」
国境越えに時間が掛かり、気付けば太陽は空高く昇っていた。
「確か、大きなネズミが有名じゃなかったかな?」
「……。ネズミ肉ですか」
途端にテンションの下がった雪乃は、昼食の選択をノムルに任せた。食べるのはノムルなのだから、選択する権利は元々ノムルにあるはずなのだが。
「じゃあ、あそこにしようか。魔女鍋」
「……。蜥蜴料理ですか」
蜥蜴の絵が書かれた看板と、ノムルが口にした店名に、雪乃はふるりと震えたが、勇気を出してノムルの後に続く。
中には大時計が飾られ、窓はステンドグラスだ。アンティーク調の内装ではあるが、おどろおどろしいものは見当たらなかった。
「適当にこの町の名物をちょうだい」
「はーい」
両サイドに三つ編みを垂らした、赤毛の女の子が元気良く返事をし、調理場へと声をかける。
そうして出てきたのは、ガラスの器に盛られた橙色のスープとチーズ、それに灰の山だった。
「「はい?」」
揃って声を出したが、わざとではない。
ノムルはおもむろに赤毛の女の子を見つめ、それから灰の山へと視線を戻す。
「え? これを食べるの? 食べれるの??」
いつになく困惑しているノムルの姿は、レアかもしれないと、雪乃は心のカメラでしっかり連写しておいた。
もちろん雪乃も、周囲で踊りまわる困惑を、追い払えずにいるのだが。
戸惑う二人に、赤毛の女の子はしてやったりと口許に弧を描く。
「もちろん、灰は食べないでくださいね。この中にモイが埋まっているんですよ。それをフォークで取り出して、灰を拭いてからチーズを絡めて食べてください。灰のお蔭で温かいままなので、チーズが溶けて絡まって、美味しいですよ」
「なるほど」
さっそくノムルは灰の山にフォークを突き刺し、一口サイズのモイを取り出す。用意されている布巾で軽く拭き、チーズの塊に乗せた。
モイの熱で、チーズがとろりと溶けていく。たっぷりのチーズを絡めたモイを、ノムルは口に放り込んだ。
「あふっ」
予想以上に熱かったのだろう。閉じることができない口の中で、モイが泳いでいた。
「ノムルさん、お水です」
「はひはと」
雪乃の差し出したグラスを受け取り、水を流しいれる。それでも芯から熱されたモイは冷めそうにないが、舌に絡みつく溶けたチーズからは逃れられた。
少しずつゆっくりと、モイは小さくなって咽の奥へと落ちていく。
「いやあ、美味しいんだけど、熱かった」
「大丈夫ですか?」
口の中を冷やすように、ノムルは水を飲み干す。空になったグラスを持って、雪乃は水を貰いにいった。
その間に、ノムルは灰の山を眺めて思考する。
このまま食べると熱くて舌を火傷しかねないが、冷めればチーズが絡まない。そこで、モイをチーズに乗せて、冷めるのを待つことにした
水を持って雪乃が戻ってくると、今度はオレンジ色のスープを口に運ぶ。
「うん、ミナミウリのスープだね。冷たいや」
「ミナミウリですか……。冷たいのなら、交互に食べると良いのでは?」
「そうしよう」
やはりこの世界の植物名は、何かが間違っていると微妙な気持ちを抱きながら、雪乃はノムルが食事をする光景を、楽しそうに眺める。
そんな雪乃を、ノムルは不思議そうに見た。
「ユキノちゃんさあ、食べるの見てて楽しい?」
「お邪魔でしょうか?」
「いや、構わないけど。食べ物が好きなのに食べれないわけじゃん。目の前で食べられたら、苛つかない?」
雪乃はきょとんとノムルを見つめると、くすくすと笑い出す。
「食べれないのは仕方ないですから。でも食べ物への興味は消えないんですよね。どんな味なんだろう? とろとろかな? 甘いのかな? って。だから見て楽しんだり、教えてもらって、食べた気分になるんですよ」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
「ふーん。まあ、ユキノちゃんが良いならいいけど」
と、ノムルは再び食事を開始した。
美味しそうに食べるノムルを、やっぱり雪乃は楽しそうに眺めている。
食事を終えると、二人は馬車が集まるという広場に向かった。
その途中で、雪乃は足を止める。ガラス張りの雑貨屋の中には、ガラスの木が飾られていて、小さなガラスの人形がぶら下がっていた。
お姫様や王子様、女の子や男の子といった可愛らしい人形の中で、雪乃の瞳は二つの人形に囚われる。
「ノムルさん、私のお財布を出していただけますか?」
「いいよー。欲しい物があったの?」
こくりと頷く雪乃に、ノムルは柔らかく目を細めた。
「俺が買ってあげよっか?」
「自分で買うから大丈夫です」
ノムルから財布を受け取ると、雪乃は店の中に入った。
この世界のお金は硬貨が基本で、持ち歩くには重くてかさばる。そのため、普段はノムルの空間魔法に預けているのだ。
雪乃は外から見たガラスの木に一直線に向かう。だが人形を取ろうとして、ためらった。
棚の上の木は雪乃には高くて、手が届きそうにない。それに、枝の指では落としてしまいそうだ。
「どれが良いの?」
傍らに立ったノムルが問いかける。
「あちらの魔法使いと、そっちの獣人さんをお願いします」
雪乃が示した人形を見たノムルは、わずかに目を丸くし、それからだらしなく表情を緩めた。
「これはもしかして、俺の代わりかなー?」
ガラスの魔法使いは、緑色のローブを着て山高帽を被っている。杖の色は残念ながらノムルの黒い杖と違い、茶色だが、それでも充分ノムルの特徴を抑えていた。
そしてもう一つの人形は、黒い服を着た狼の獣人だ。ノムルの目が、険を帯びる。
「これはもしかして、俺と行動する前にユキノちゃんといた獣人かな? ……ちょっと嫉妬しちゃうかも」
「はい。……って、え?」
すぐに肯定してしまったが、その問いの不自然さに気付き、雪乃はノムルを見つめた。
「あの、ノムルさん、獣人って?」
ノムルと出会ったジョイの馬車に乗り込むとき、見送りに来てくれた獣人のカイたちを、ノムルは見ている。
その際、雪乃を心配する獣人たちは、ジョイだけでなく、同乗するノムルにも雪乃を頼むと話をしてはいた。だが、彼等は常にフードを被り、耳を隠していたのだ。
「んー? ああ、フードを被ってても、すぐに分かるよ。耳の部分が出っ張ってたからね。まあ獣人を見たことない人は、気付かないかもしれないけど」
からからと笑うノムルを眺めながら、あらためて油断できない人だと雪乃は思う。
「もうお昼だね。何食べようか?」
「何が名物でしょうか?」
国境越えに時間が掛かり、気付けば太陽は空高く昇っていた。
「確か、大きなネズミが有名じゃなかったかな?」
「……。ネズミ肉ですか」
途端にテンションの下がった雪乃は、昼食の選択をノムルに任せた。食べるのはノムルなのだから、選択する権利は元々ノムルにあるはずなのだが。
「じゃあ、あそこにしようか。魔女鍋」
「……。蜥蜴料理ですか」
蜥蜴の絵が書かれた看板と、ノムルが口にした店名に、雪乃はふるりと震えたが、勇気を出してノムルの後に続く。
中には大時計が飾られ、窓はステンドグラスだ。アンティーク調の内装ではあるが、おどろおどろしいものは見当たらなかった。
「適当にこの町の名物をちょうだい」
「はーい」
両サイドに三つ編みを垂らした、赤毛の女の子が元気良く返事をし、調理場へと声をかける。
そうして出てきたのは、ガラスの器に盛られた橙色のスープとチーズ、それに灰の山だった。
「「はい?」」
揃って声を出したが、わざとではない。
ノムルはおもむろに赤毛の女の子を見つめ、それから灰の山へと視線を戻す。
「え? これを食べるの? 食べれるの??」
いつになく困惑しているノムルの姿は、レアかもしれないと、雪乃は心のカメラでしっかり連写しておいた。
もちろん雪乃も、周囲で踊りまわる困惑を、追い払えずにいるのだが。
戸惑う二人に、赤毛の女の子はしてやったりと口許に弧を描く。
「もちろん、灰は食べないでくださいね。この中にモイが埋まっているんですよ。それをフォークで取り出して、灰を拭いてからチーズを絡めて食べてください。灰のお蔭で温かいままなので、チーズが溶けて絡まって、美味しいですよ」
「なるほど」
さっそくノムルは灰の山にフォークを突き刺し、一口サイズのモイを取り出す。用意されている布巾で軽く拭き、チーズの塊に乗せた。
モイの熱で、チーズがとろりと溶けていく。たっぷりのチーズを絡めたモイを、ノムルは口に放り込んだ。
「あふっ」
予想以上に熱かったのだろう。閉じることができない口の中で、モイが泳いでいた。
「ノムルさん、お水です」
「はひはと」
雪乃の差し出したグラスを受け取り、水を流しいれる。それでも芯から熱されたモイは冷めそうにないが、舌に絡みつく溶けたチーズからは逃れられた。
少しずつゆっくりと、モイは小さくなって咽の奥へと落ちていく。
「いやあ、美味しいんだけど、熱かった」
「大丈夫ですか?」
口の中を冷やすように、ノムルは水を飲み干す。空になったグラスを持って、雪乃は水を貰いにいった。
その間に、ノムルは灰の山を眺めて思考する。
このまま食べると熱くて舌を火傷しかねないが、冷めればチーズが絡まない。そこで、モイをチーズに乗せて、冷めるのを待つことにした
水を持って雪乃が戻ってくると、今度はオレンジ色のスープを口に運ぶ。
「うん、ミナミウリのスープだね。冷たいや」
「ミナミウリですか……。冷たいのなら、交互に食べると良いのでは?」
「そうしよう」
やはりこの世界の植物名は、何かが間違っていると微妙な気持ちを抱きながら、雪乃はノムルが食事をする光景を、楽しそうに眺める。
そんな雪乃を、ノムルは不思議そうに見た。
「ユキノちゃんさあ、食べるの見てて楽しい?」
「お邪魔でしょうか?」
「いや、構わないけど。食べ物が好きなのに食べれないわけじゃん。目の前で食べられたら、苛つかない?」
雪乃はきょとんとノムルを見つめると、くすくすと笑い出す。
「食べれないのは仕方ないですから。でも食べ物への興味は消えないんですよね。どんな味なんだろう? とろとろかな? 甘いのかな? って。だから見て楽しんだり、教えてもらって、食べた気分になるんですよ」
「そういうものなの?」
「そういうものです」
「ふーん。まあ、ユキノちゃんが良いならいいけど」
と、ノムルは再び食事を開始した。
美味しそうに食べるノムルを、やっぱり雪乃は楽しそうに眺めている。
食事を終えると、二人は馬車が集まるという広場に向かった。
その途中で、雪乃は足を止める。ガラス張りの雑貨屋の中には、ガラスの木が飾られていて、小さなガラスの人形がぶら下がっていた。
お姫様や王子様、女の子や男の子といった可愛らしい人形の中で、雪乃の瞳は二つの人形に囚われる。
「ノムルさん、私のお財布を出していただけますか?」
「いいよー。欲しい物があったの?」
こくりと頷く雪乃に、ノムルは柔らかく目を細めた。
「俺が買ってあげよっか?」
「自分で買うから大丈夫です」
ノムルから財布を受け取ると、雪乃は店の中に入った。
この世界のお金は硬貨が基本で、持ち歩くには重くてかさばる。そのため、普段はノムルの空間魔法に預けているのだ。
雪乃は外から見たガラスの木に一直線に向かう。だが人形を取ろうとして、ためらった。
棚の上の木は雪乃には高くて、手が届きそうにない。それに、枝の指では落としてしまいそうだ。
「どれが良いの?」
傍らに立ったノムルが問いかける。
「あちらの魔法使いと、そっちの獣人さんをお願いします」
雪乃が示した人形を見たノムルは、わずかに目を丸くし、それからだらしなく表情を緩めた。
「これはもしかして、俺の代わりかなー?」
ガラスの魔法使いは、緑色のローブを着て山高帽を被っている。杖の色は残念ながらノムルの黒い杖と違い、茶色だが、それでも充分ノムルの特徴を抑えていた。
そしてもう一つの人形は、黒い服を着た狼の獣人だ。ノムルの目が、険を帯びる。
「これはもしかして、俺と行動する前にユキノちゃんといた獣人かな? ……ちょっと嫉妬しちゃうかも」
「はい。……って、え?」
すぐに肯定してしまったが、その問いの不自然さに気付き、雪乃はノムルを見つめた。
「あの、ノムルさん、獣人って?」
ノムルと出会ったジョイの馬車に乗り込むとき、見送りに来てくれた獣人のカイたちを、ノムルは見ている。
その際、雪乃を心配する獣人たちは、ジョイだけでなく、同乗するノムルにも雪乃を頼むと話をしてはいた。だが、彼等は常にフードを被り、耳を隠していたのだ。
「んー? ああ、フードを被ってても、すぐに分かるよ。耳の部分が出っ張ってたからね。まあ獣人を見たことない人は、気付かないかもしれないけど」
からからと笑うノムルを眺めながら、あらためて油断できない人だと雪乃は思う。
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