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ドューワ国編
98.赤頭巾の緑バージョン
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「ユキノちゃんは、この二つを買うんだねー?」
「はい」
「じゃあ俺は、これにしようかなー」
ノムルが選んだのは、緑色の服と頭巾を身につけた、女の子の人形だった。
「ほら、ユキノちゃんに似てるでしょう?」
「いえ、私はこんな服は着ません」
「……」
いわゆる赤頭巾の緑バージョンだ。元の世界で人間として生きていた頃にも、そんな愛らしい服を着たことはない。そもそも着る機会も無かったが。
そしてこの世界では、着ないどころか人間でさえない。
「いいんだよ。これがユキノちゃんなの」
「……」
すね始めた大人を視界から外し、雪乃はそうっとその場を離れる。
「これをお願いします」
「はいはい、二つで百八十バルね」
「はい。ありがとうございます」
「ちょっ?! ユキノちゃん?!」
ロリコンのおじさんは放っておいて、雪乃はさっさと会計を済ませると、店を出る。
「待ってよ、ユキノちゃん! おばちゃん、これ会計」
「おばちゃん?」
店番をしていたお姉さんの額に、青筋が浮かぶ。地を這うような低い声に、魔王・ノムルも顔負けの、どす黒い炎のオーラが背後に揺らめいている。
「お、オネーサン、会計をお願いします」
「はあーい、九十バルね」
「……はい」
さっきのオーラはどこへ行ったとばかりに、オネーサンはにこやかに、鈴のような愛らしい声で対応してくれた。
半目になったノムルは思わず思考を手放したが、支払いを終えると急いで雪乃の後を追って店を飛び出した。
店の中からは見えない位置で、雪乃はちょこんと座ってノムルを待っている。ほっと胸をなで下ろしたノムルは、ゆっくりと近付いた。
「駄目だろう? 勝手に離れたら。さらわれたらどうするのさ?」
ノムルも雪乃の前にしゃがみ込み、しかめっ面をして見せる。
少し考えた雪乃は、真剣な声で答えた。
「それは困りますね。誘拐犯の人達の命が危険です」
「そこじゃないから」
項垂れたノムルだが、すぐに顔を上げて雪乃の頭をなでる。
「さあ、行こうか?」
「はい」
雪乃の財布を空間魔法に戻して、ノムルは雪乃の手を引いて歩きだした。
「ノムルさん」
「うん?」
「ガラスへの強化魔法って、ありますか?」
「……。後でかけてあげるね」
「お願いします」
広場に着くと、ネーデルの冒険者ギルドで聞いていた通り、複数の馬車が停まっていた。その馬車を目にした雪乃は、葉を輝かせる。
「ノムルさん、ジャック・オ・ランタンですよ!!」
「ジャック? 誰それ?」
馬たちの引く馬車はオレンジ色に塗られ、幌の凹みや車輪の陰で、カボチャに似た形になっていた。
上部に設けられた三角の窓はまさに目。小さめの扉が四つ付いていて、口のように見える。少々歪ではあるが、その姿は秋にお目にかかる、カボチャのお化けに見えなくもない。
さらにその馬車を引くのは、大きなネズミ、もといカピバラに似た生物だった。
「あれは馬車と呼んで良いのでしょうか? 鼠車ですか?」
「馬車でいいんじゃないの?」
なぜか興奮気味の雪乃に若干引きながら、ノムルはスノホワ行きの馬車を探す。
「おじさーん、スノホワ行きはどれー?」
「スノホワなら、御者台の上にランゴが掛かっているよ」
「ありがとー」
ランゴはリンゴに似た青い実だ。雪乃とノムルはランゴの目印を探して、広場の馬車を確認していく。
御者台の上に掛かっている行き先を示すアイテムは、羊やカエル、クッキーなど、色々あって見ていても楽しい。
だがしかし、いくら探せどもランゴの実を掛けた馬車は見つからない。
人を乗せた馬車が一台、また一台と、広場を去っていく。しばらくすると別の馬車がやってきたが、その御者台に掛かっているのは靴だった。
馬車から客が下りると御者は靴を外し、小さな弦楽器を掛ける。これも違うみたいだ。
「来ませんね」
「今日はもう行っちゃったのかなー」
二人は顔を見合わせて、すぐに戻した。
「馬車の時刻表とか、案内所とかはないのでしょうか?」
「適当だと思うよ?」
「……」
日本で生まれ育った雪乃は、電車もバスも決まった時刻に発着するというイメージを持ってしまうが、それは元の世界でも特殊なことだった。
一分ずれることさえ騒ぎになる電車や新幹線は、海外から訪れた人には驚きの出来事なのだと、よくネタにされていたほどだ。
「今のうちに、人形に強化魔法を掛けておこうか?」
「お願いします」
ノムル人形とカイ人形が壊れないよう、しっかりと強化魔法を掛けてもらった雪乃は、無くさないように枝に掛けた。
そのガラスの人形に、別の魔法も掛けられていたことは、小さな樹人は知らない。
「あ、また馬車が来たよー」
「今度こそランゴだといいですね」
靴が外された馬車に、ランゴが掛かる。それを見て二人は立ち上がり、馬車へと向かった。
「スノホワまで」
「はいよー。一人二百バル、先払いだ」
「はーい」
「お願いします」
代金を支払ったノムルと雪乃は、さっそく馬車に乗り込む。
馬車の中は二人掛けの椅子が四列並んでいた。
「お客さん、旅の人? ドューワは始めてかい?」
「俺は何度か来たことあるけど、この子は初めてかな」
こくりと雪乃が首肯すれば、御者は愉快そうに笑った。
「じゃあ嬢ちゃんは、パピパラ車は初めてだな?」
「あのネズミさんはパピパラさんと仰るのですね。よろしくお願いします」
馬車から前方のパピパラにお辞儀する雪乃を、ノムルも御者も微笑ましく見る。
「結構スピードが出るから、町を出たらしっかりつかまっておくんだぞ」
「おー! パピパラさんは足が速いのですか!」
葉を輝かせて雪乃はパピパラを見つめた。
温泉に浸かってのんびりしているイメージのカピバラとは、少し違うようだ。まあ実際の所、温泉に浸かるカピバラというのは、日本くらいらしいが。
パピパラやグレーム森林の話で盛り上がっているうちに、馬車には次々と客が乗り込んできた。
席が埋まると、御者は手綱を振るう。それを合図にパピパラは歩きだした。筆のように先端が広がる細い尻尾が、足に合わせて揺れている。
速いと言われて緊張していたが、小走りの馬車と変わらないスピードだった。うん、町を出るまでは。
ーーーーーーーーーーーー
※1バル≒10~20円です。
「はい」
「じゃあ俺は、これにしようかなー」
ノムルが選んだのは、緑色の服と頭巾を身につけた、女の子の人形だった。
「ほら、ユキノちゃんに似てるでしょう?」
「いえ、私はこんな服は着ません」
「……」
いわゆる赤頭巾の緑バージョンだ。元の世界で人間として生きていた頃にも、そんな愛らしい服を着たことはない。そもそも着る機会も無かったが。
そしてこの世界では、着ないどころか人間でさえない。
「いいんだよ。これがユキノちゃんなの」
「……」
すね始めた大人を視界から外し、雪乃はそうっとその場を離れる。
「これをお願いします」
「はいはい、二つで百八十バルね」
「はい。ありがとうございます」
「ちょっ?! ユキノちゃん?!」
ロリコンのおじさんは放っておいて、雪乃はさっさと会計を済ませると、店を出る。
「待ってよ、ユキノちゃん! おばちゃん、これ会計」
「おばちゃん?」
店番をしていたお姉さんの額に、青筋が浮かぶ。地を這うような低い声に、魔王・ノムルも顔負けの、どす黒い炎のオーラが背後に揺らめいている。
「お、オネーサン、会計をお願いします」
「はあーい、九十バルね」
「……はい」
さっきのオーラはどこへ行ったとばかりに、オネーサンはにこやかに、鈴のような愛らしい声で対応してくれた。
半目になったノムルは思わず思考を手放したが、支払いを終えると急いで雪乃の後を追って店を飛び出した。
店の中からは見えない位置で、雪乃はちょこんと座ってノムルを待っている。ほっと胸をなで下ろしたノムルは、ゆっくりと近付いた。
「駄目だろう? 勝手に離れたら。さらわれたらどうするのさ?」
ノムルも雪乃の前にしゃがみ込み、しかめっ面をして見せる。
少し考えた雪乃は、真剣な声で答えた。
「それは困りますね。誘拐犯の人達の命が危険です」
「そこじゃないから」
項垂れたノムルだが、すぐに顔を上げて雪乃の頭をなでる。
「さあ、行こうか?」
「はい」
雪乃の財布を空間魔法に戻して、ノムルは雪乃の手を引いて歩きだした。
「ノムルさん」
「うん?」
「ガラスへの強化魔法って、ありますか?」
「……。後でかけてあげるね」
「お願いします」
広場に着くと、ネーデルの冒険者ギルドで聞いていた通り、複数の馬車が停まっていた。その馬車を目にした雪乃は、葉を輝かせる。
「ノムルさん、ジャック・オ・ランタンですよ!!」
「ジャック? 誰それ?」
馬たちの引く馬車はオレンジ色に塗られ、幌の凹みや車輪の陰で、カボチャに似た形になっていた。
上部に設けられた三角の窓はまさに目。小さめの扉が四つ付いていて、口のように見える。少々歪ではあるが、その姿は秋にお目にかかる、カボチャのお化けに見えなくもない。
さらにその馬車を引くのは、大きなネズミ、もといカピバラに似た生物だった。
「あれは馬車と呼んで良いのでしょうか? 鼠車ですか?」
「馬車でいいんじゃないの?」
なぜか興奮気味の雪乃に若干引きながら、ノムルはスノホワ行きの馬車を探す。
「おじさーん、スノホワ行きはどれー?」
「スノホワなら、御者台の上にランゴが掛かっているよ」
「ありがとー」
ランゴはリンゴに似た青い実だ。雪乃とノムルはランゴの目印を探して、広場の馬車を確認していく。
御者台の上に掛かっている行き先を示すアイテムは、羊やカエル、クッキーなど、色々あって見ていても楽しい。
だがしかし、いくら探せどもランゴの実を掛けた馬車は見つからない。
人を乗せた馬車が一台、また一台と、広場を去っていく。しばらくすると別の馬車がやってきたが、その御者台に掛かっているのは靴だった。
馬車から客が下りると御者は靴を外し、小さな弦楽器を掛ける。これも違うみたいだ。
「来ませんね」
「今日はもう行っちゃったのかなー」
二人は顔を見合わせて、すぐに戻した。
「馬車の時刻表とか、案内所とかはないのでしょうか?」
「適当だと思うよ?」
「……」
日本で生まれ育った雪乃は、電車もバスも決まった時刻に発着するというイメージを持ってしまうが、それは元の世界でも特殊なことだった。
一分ずれることさえ騒ぎになる電車や新幹線は、海外から訪れた人には驚きの出来事なのだと、よくネタにされていたほどだ。
「今のうちに、人形に強化魔法を掛けておこうか?」
「お願いします」
ノムル人形とカイ人形が壊れないよう、しっかりと強化魔法を掛けてもらった雪乃は、無くさないように枝に掛けた。
そのガラスの人形に、別の魔法も掛けられていたことは、小さな樹人は知らない。
「あ、また馬車が来たよー」
「今度こそランゴだといいですね」
靴が外された馬車に、ランゴが掛かる。それを見て二人は立ち上がり、馬車へと向かった。
「スノホワまで」
「はいよー。一人二百バル、先払いだ」
「はーい」
「お願いします」
代金を支払ったノムルと雪乃は、さっそく馬車に乗り込む。
馬車の中は二人掛けの椅子が四列並んでいた。
「お客さん、旅の人? ドューワは始めてかい?」
「俺は何度か来たことあるけど、この子は初めてかな」
こくりと雪乃が首肯すれば、御者は愉快そうに笑った。
「じゃあ嬢ちゃんは、パピパラ車は初めてだな?」
「あのネズミさんはパピパラさんと仰るのですね。よろしくお願いします」
馬車から前方のパピパラにお辞儀する雪乃を、ノムルも御者も微笑ましく見る。
「結構スピードが出るから、町を出たらしっかりつかまっておくんだぞ」
「おー! パピパラさんは足が速いのですか!」
葉を輝かせて雪乃はパピパラを見つめた。
温泉に浸かってのんびりしているイメージのカピバラとは、少し違うようだ。まあ実際の所、温泉に浸かるカピバラというのは、日本くらいらしいが。
パピパラやグレーム森林の話で盛り上がっているうちに、馬車には次々と客が乗り込んできた。
席が埋まると、御者は手綱を振るう。それを合図にパピパラは歩きだした。筆のように先端が広がる細い尻尾が、足に合わせて揺れている。
速いと言われて緊張していたが、小走りの馬車と変わらないスピードだった。うん、町を出るまでは。
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※1バル≒10~20円です。
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