『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

99.パピパラの可愛い尻尾は

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「うにゃああああぁぁぁぁーーーっっ?!」
「あははー。ユキノちゃん、大丈夫ー?」
「ふ、風圧が! フードがああーー! いや、それよりも葉っぱ……いえ、なんでもあり、うにゃああぁーーーっっ!!」」
「あー、はいはい。抑えとくから安心して」

 思わず叫ぶ雪乃。他の客も、悲鳴を上げていた。平然としているのは、御者とノムルくらいだろう。
 パピパラの可愛い尻尾は、目にも留まらぬ速さで揺れていた。扇風機の『強』と良い勝負ができそうなくらいに。

「結構どころじゃないです! 機関車より早くないですか?!」

 現代社会の車や電車、新幹線と、速い乗り物には慣れていたはずだが、それでも早い。さらに車体に風が入るために、体感速度は一気に上昇している。いや、揺れの激しさが問題か。
 なんにせよ、気分はジェットコースターか、飛行機の離着陸といったところ。しかもガッタンガッタン揺れて、小さな樹人の体は、椅子の上を跳ね続ける。

「お、恐るべし、パピパラさん」

 スノホワに到着して馬車を下りた雪乃は、パピパラに畏敬の眼差しを送った。
 ちなみに乗り合わせた他のお客さんは、いつまで経っても馬車から下りては来ない。堂々と覗いたノムルによると、白目を向いて眠っていたそうだ。

「それ、眠っていたのではなく、失神していたのだと思いマスヨ?」

 よく思い返してみれば、ルービスの馬車降り場に到着した馬車から、中々お客さんが出てこなかった。
 どの馬車も同じように停車した後に、休んでから出てくるので、そういう仕組みなのだと思っていたのだが、違ったようである。

「いやあ、到着と同時に降りる人なんて、久しぶりだねえ」

 御者が愉快そうに笑う。

「乗せていただきありがとうございました」
「ああ、また利用してくれ」
「ありがとうございます」

 知った上で乗るのならば楽しそうだが、知らずに乗せられたら地獄だ。いや、知っていても短距離に限ると、雪乃は馬車から遠ざかっていった。

「さってと、もうすぐ日暮れだけど、グレーム森林まで行っておこうか? 今夜こそちゃんと根を張って休ませてあげるからね」
「ありがとうございます。でもノムルさんは、宿を取ったほうが良いのでは?」

 心遣いはありがたいが、ノムルに無理をさせたくはない。
 けれどノムルは笑い、雪乃を抱き上げると一直線に森へと駆けた。
 グレーム森林の場所は、あの暴走の最中に、御者からちゃっかり聞いていたようだ。
 あのGが掛かるほどの猛スピードに慣れている御者も凄いが、普通に会話までこなしていたノムルは本当に人間なのかと、雪乃はジト目で見つめてしまう。
 
「俺はどこでも寝れるから気にしなくていいよー? 宿で一人で寝るより、ユキノちゃんと一緒に野宿したほうが、よく眠れるみたいだし」

 空が赤く染まる頃、グレーム森林に到着したノムルは、雪乃を下ろすと根を張らせる。そして自分は、空間魔法から取り出した『きのこ尽くし弁当』に舌鼓を打った。

「あ、これ美味い。もう一個貰っとけば良かったかな?」
「森できのこを見つけたら、採取しておきましょうか」
「そうだねえ」

 久しぶりに栄養豊富な柔らかな大地に根を張り、雪乃もふるふると震えて喜びを表す。
 空が濃藍色に染まり星が輝きだすころ、雪乃は深い眠りに就いた。

 夜が明けると、二人は森の奥へと歩きだす。早朝だからか、人影は少ない。未採取の薬草を集めながら進んでいたが、充分奥まで入ったところで、雪乃は辺りを見回す。

「誰も見ていませんね」
「うん、大丈夫みたいだよー」

 ノムルも周囲を確認してくれたようだ。
 安心した雪乃は魔力を込めて、マンドラゴラたちを呼び出す。ローブの袖や裾、衿から、もぞもぞと小さなマンドラゴラが這い出してきた。

「今回も薬草探しに協力してくださいね。特にデンゴラコンをお願いします」
「わー」
「わー」
「わー」

 雪乃の指示を受け、マンドラゴラたちは森の奥へと一斉に駆け出した。
 デンゴラコンは融筋病の治療に必要な薬草の一つのため、なるべく多く必要になる。とはいえ、取りすぎて生態系に影響を与えないよう、注意する必要はある。

「ユキノちゃんはデンゴラコンの他に、バロメッツや野生のランゴとミナミウリなんかが必要なんだっけ?」
「そうですね。グレーム森林にしか生息していない薬草だけでも、制覇したいです」

 もちろん他のまだ採取していない薬草も、見つけたら吸収していく予定だ。
 野生のランゴとミナミウリは、森に入って浅い所で必要数を回収することができた。

「ねーねー、ユキノちゃん。俺にも魔物文字、教えてもらってもいいー?」
「それは構いませんけど、難しいですよ? 音を表す文字と、意味を表す文字がありますから」
「意味? なにそれ?」

 日本語は地球の言語でも複雑怪奇なことで有名だ。音をそのまま表したひらがなとカタカナ、それに意味を象って作られた漢字から成り立つ。
 日本語を話せるのならば、ひらがなを憶えれば何とかなるが、この世界では勝手に翻訳されているため、意味を理解するのは難易度が高い。
 そして問題の漢字。絵から作られた文字の数は、二千字、教育漢字でも一千字を超える。さらにそれを組み合わせて単語を作るのだから、日本語を学ぼうとした海外の人から、悲鳴が上がるのも頷ける。
 ちなみに読み書きのできない小さな子供には、ひらがなよりも漢字の方が理解しやすく憶えやすいという報告もある。
 対象を抽象化した漢字は、記号や絵と同じように、子供の頭に入りやすいそうだ。
 そう考えると、絵本や児童書の文字をひらがなだらけにするのは、大人の自己満足で、子供にとってはマイナスなのかもしれない。
 そんなことを考えながら、雪乃はノムルに説明する。

「たとえば、木はこう書きます」

 地面に棒を使い、『木』と書く。
 ノムルは文字をじっと見つめてから、周囲に生える木を幾つも見つめる。

「なるほど、木の形を線で表しているわけか」
「そうですね。他にも、作った文字を組み合わせて作った文字もあります」

 と、今度は『森』と書いた。
 じいっと眺めていたノムルは、にやりと口角を上げる。

「たくさんの木だねえ。これ、森でしょう?」
「正解です」

 雪乃の賞賛と拍手に、ノムルは満足そうだ。

「面白いねー。謎々みたいだ」
「町に戻ったら、あいうえお表を用意しますね」
「あいうえお表?」
「音を表す文字の一覧ですよ」
「へー」

 興味津々といった表情のノムルを、雪乃は微笑ましく見る。自分が生まれ育った場所の文化に興味を持ってもらえることは、素直に嬉しい。
 ただ興味を持ってくれるなら。
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