『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

104.完膚なきまでに

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「ノムルさん、勝負はまだこれからです!」
「え?」
「タルタリカの必要数は四! 残り三本、見つけるまで保留です!」

 ふんすと鼻息荒くふんぞり返った雪乃だが、この行動が返って自分を追い込むことになるとは気付いていない。
 ノムルに魔王が宿り、ニヤリと笑む。
 ふるりと雪乃は震えるが、もう後戻りはできない。

「そっかー、そうだねー。目的はタルタリカじゃなくて、ランタだもんねー?」
「そ、そうです!」

 怯えを隠した雪乃は、胸元で二つの拳を握り締めた。

「うん、分かったー。……完膚なきまでに負かせてあげるね」
「え?」

 ノムルは上機嫌で鼻歌まで歌いだす始末だ。
 色々と危ない所へ足を踏み込んでしまったようだと、雪乃はふるふる震える。
 勝負は予想を裏切ることなく、〇対四でノムルの完全勝利に終わった。
 こうしてグレーム森林に、緑頭巾ちゃんが復活したのだが……。

「明日はこれねー。明後日はこっち。その次の日はー、これとこれ、どっちが良いかなー?」
「……?!」

 ノムルの空間魔法からは、緑頭巾以外にも、雪乃の衣装が次から次へと出てくる出てくる。
 いつの間に買っていたのだとか、どこで仕入れたのだとか、気になることはたくさんあった。
 けれどそれ以上に、このおっさんは、もしやそっちの趣味なのでは? と、雪乃に一抹の不安が過ぎる。

「あ、これは絶対に外せないな」

 ノムルの手に掲げられた衣装を見た雪乃は、ボンッと音を立てて紅葉した。

「せ、セクハラ禁止ですーーっ!!」
「あはははー。何を言っているのかなー? 約束を守れない子には、お仕置きしちゃうぞー?」
「わー」
「わー」
「わー」
「めー」

 もちろん彼女の隣には、楽しいことが大好きなマンドラゴラたちの他に、愛くるしい小ヤギの姿があった。

「ふ、ふにゃあああーーー!」

 グレーム森林の奥地に、小さな子供の悲鳴が響く。

 バロメッツ・ランタを顕現させるために奮闘していた雪乃だが、もちろん他の薬草も採取していた。
 融筋病の治療薬に必要なデンゴラコンも、もちろん採取している。ノムルよりも大きな大根に似たデンゴラコンを、雪乃はしばし、動きを止めて見上げた。

「大きいですねー」
「ねー」
「わー」

 移植条件の三株と、融筋病用に十株ほど採取して、デンゴラコンの採取も完了とした。
 その他にもグレーム森林にしか自生していない固有種はもちろん、まだ未採取の薬草も順調に採取していっている。
 ノムルと共に行動するようになってから忘れていた、平穏な日々を送っていた。
 人前には出れない姿ではあるが。

「ノムルさん、そろそろローブを」
「だーめ」
「……」

 本日の雪乃は、シスター風である。
 頭を覆うヴェールには、顔を隠すためのフェイスヴェールも付いていた。そして胸元には、クロスの代わりに星が描かれた銀貨が揺れている。

「黒い修道服にフェイスヴェールを着用すると、裏世界の住人っぽくなりそうだったから、緑色にしてみたよー」
「……。アリガトウゴザイマス」

 雪乃には理解できないこだわりに、諦めたように項垂れた。
 しかしノムル所有のコスプレ衣装を見ていると、日本人なのではないかと思わずにはいられない。
 彼が偽りを言っているのかもしれないと、雪乃は穿った目を向けた。
 それはさておき、と、雪乃はノムルをヴェール越しに観察する。
 グレーム森林に入ってからの彼は、なんだか緊張しているように見える。何かを警戒しているような、そんな気配を感じていた。
 この森にも魔物が棲んでいるので、警戒すること事態は当たり前だろう。けれど飛竜さえも翻弄するノムルが、雪乃に気取られるほど緊張している時があるというのは、不気味であった。
 
「もう必要なものは集めたよね? そろそろ森の出口へ向かおうか?」
「はい」

 同意した雪乃を連れて、ノムルは北へと進路を変える。
 グレーム森林の北側に隣接するブレメの町は、別名・音楽の町とも呼ばれる、音楽に溢れた町らしい。
 有名な音楽学校が在り、世界中から有望な音楽家の卵たちが通っている。
 さらにこの町で認められれば、各国の王族や貴族のお抱えになることも夢ではないそうだ。そのため、多くの音楽家達が集まってくる。
 また郊外に行けば、パピパラやウサウマといった、旅に欠かせない動物たちの牧場が多くある町としても有名で、旅立ちの町とも呼ばれているのだという。

 雪乃たちもブレメの町に行き、しっかりと旅支度をしてから、次の目的地であるマロン山を目指す予定だ。
 森林の中に散っているマンドラゴラたちにも、植物を介して「戻っておいでー」と声をかけておいた。
 戻ってきたマンドラゴラたちは、雪乃の前に仁王立ちして胸を張る。

「今回もありがとうございました。助かりました」
「わー」
「わー」
「わー」

 雪乃がお礼を言うと、よじ登って枝葉の間に消えていった。一匹ずつ回収しながら、ブレメの町を目指して森の中を進んでいく。

「そろそろローブを……」
「もう少し大丈夫だって」
「……」

 何度目かのやり取りを交わしたときだった。
 ノムルの目が、鋭く木々の間を射抜いていく。雪乃も異変を感じ、身構えた。
 鳥たちが飛び立ち、ランタも怯えるように雪乃に隠れている。
 そして――
 女の子の悲鳴が聞こえた。

「ノムルさんっ! ランタ!」
「うん、分かってる」
「めー」

 雪乃はノムルに目配せすると、裾をまくって幹を露出させて、ランタを回収する。いつでもノムルに抱き上げられても良いよう、衝撃に身構えた。

「さ、放っておいて行こうか」
「へ?」

 思わず雪乃の声が裏返った。
 ノムルが何を言ったのか理解できず、彼の顔を見上げて固まってしまう。

「助けに行かないんですか?」

 問う雪乃に、ノムルは冷ややかな眼差しを落とした。

「こんな奥まで入ってきたのは、覚悟を持ってのことだよ? 襲われても自業自得。助ける必要なんてないんだよ」

 ノムルの言うことは一理あるだろう。危険地帯に自ら足を踏み入れたのだ、その結果がどうなろうと、それはその人間自身の責任だ。
 通りがかった者に助ける義務はない。助けに行くことは、自らを危険に晒す行為だ。しかもすでに危機に陥っている人間をかばいながらでは、難易度が急上昇する。
 溺れている人を見つけたら、助けに飛び込むのではなく人を呼べとも言う。自分は泳げると思っていても、溺れる人にしがみ付かれて沈んでしまうことは多い。
 だから、

「分かりました。じゃあ、ノムルさんは先に進んでください。後で追いかけますから」
「え?」

 雪乃は一人で駆け出した。

「ちょっと! ユキノちゃん一人じゃ危ないって!」

 ノムルに頼ってばかりではいけない。助けたいと思ったのは雪乃なのだから、責任は雪乃一人で負うべきだろう。
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