51 / 385
ドューワ国編
103.ぷりっケツです!
しおりを挟む
「ねー、ユキノちゃん?」
「なんでしょう?」
まだ心の傷が癒えていない雪乃は、俯いたまま気のない返事をする。
「あれ、どう思う?」
問われて顔を上げた雪乃は、固まった。
線のように細くなった視界を、細かく開閉する。幹を回して明後日の方向を眺め、気を取り直してノムルの示す植物を確認した。
地面に積み上げられた羊毛のような白い毛の山から、小さな毛玉がぽこりと生えている。毛玉は時折ぴょこぴょこと、前後に揺れていた。
なんとも愛らしく、悶えそうなその姿は、惑うことなき、
「ぷりっケツです!」
だった。
「……。ぷりっけつ? また新しい言葉だなあ」
困ったように笑ったノムルだったが、萎れた葉が元気を取り戻したことに安堵する。
じいっと見つめていた雪乃はゆっくりと近付くと、毛玉を突付く。毛玉は驚いたように、ぷるりと震えた。
「おおー!」
愛らしさに、ついつい何度も触ってしまいそうになるが、動くことでエネルギーを使いすぎて、弱ってしまってはかわいそうだ。
とりあえず薬草図鑑を開き、調べてみる。まあ、何となく予想は付いているのだが。
「プランタ、ですね」
ちなみに手に入れたレシピは、『外傷の手当てに役立つ脱脂綿』だった。
こうなると、タルタリカにも期待が高まる。
『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』。綿花が元となって創りだされた空想上の植物、つまり、バロメッツの正式名である。
雪乃の葉がキラーンっと輝いた。
頭だけのバロメッツ、お尻と尻尾のプランタ、そして、あまり見たくはないが残りのタルタリカ。
三種類とも揃えて合成すれば、ランタをきちんと召喚できるかもしれない。
「ふ、ふふふふ……」
思わず笑みがこぼれてしまった。
雪乃は迷わずプランタを吸収する。そして次に目指すべき薬草も決まった。
「さあ、ノムルさん! 次はタルタリカを回収しますよ! ランタを完全な姿にして、召喚するのです!」
「おー」
ぱちぱちと力なく拍手をしたノムルは、張り切って歩き始めた雪乃に付いていく。
彼は正直、ランタのことなどどうでも良かった。それよりも、
「ねーユキノちゃん、そろそろ服を着ようよー?」
である。
せっかく可愛い服をこっそり買って、巧く押し切って着せたのに、バロメッツのせいで半日も経たずに脱ぎ捨てられてしまったのだ。
ランタへの好感度は上がるどころか、下がりきっている。
「タルタリカが見つかるまでは、このままで良いです。どうせ脱がなければいけませんし」
「えー?」
好感度はさらにだだ下がり、底を突き抜けそうである。
「じゃあさー、俺が先に見つけたら、森の奥にいる間は、さっきの服を着るってことでどおー?」
「……」
「どおー?」
にーっこり笑顔でだめ押ししてみる。
一緒に旅を続けている間に、ノムルは雪乃の性格をすっかり掴んでいた。
雪乃は嫌なことははっきりと断わるが、強くおねだりすれば折れやすい。それでも駄目なときは……。
「あーあー。こんなに頑張ってるのに、ユキノちゃん、冷たい。やっぱり人間なんて、好きになれないよねー? 植物のマンドラゴラやバロメッツのほうが、信用できるよねー。あーあー、仕方ないよねー。人間は樹人の敵だものねー」
「うっ、そういうつもりでは……」
ノムルは雪乃に気付かれぬよう、ニヤリと暗黒の笑みを浮かべる。
「人間が用意した服なんて、着たくないよね? やっぱり俺は、まだまだ信用されていないんだなー」
「そ、そんなことはありません! わ、分かりました! 着ます、着ますから!」
隠すこともなく、ノムルはにっこりと笑った。ほんの数秒前までは、肩を落として項垂れて、哀愁が漂いまくっていたというのに。
まんまと罠に嵌ってしまったことに気付いた雪乃だが、もう手遅れだ。
満面に笑みを咲かせるノムルに対して、ふるふると震えることしかできない。
「の、ノムルさんが先に見つけたらですからね」
「うん。ユキノちゃんより先に見つければ良いんだよね?」
「……。はい」
しょんぼりと萎れる雪乃だが、まだ対抗策はある。ノムルより先に見つければ良いのだ。
雪乃は樹人、樹人は森に愛されている。そして、マンドラゴラもいる。
「わー」
キラーンと葉を輝かせ、雪乃は振り向いた。
「え?」
雪乃は固まった。
「んじゃあ、お先にー」
「え?」
「わー」
「ええーーっ?!」
片枝を伸ばしてノムルの背を呆然と見送ることしかできない雪乃は、己の過ちに気付く。
そう、『ユキノより先に』見つければ良いのだ。たとえマンドラゴラが見つけてこようと、雪乃が見つけるより先にノムルが見つけてしまえば、ノムルの勝利である。
「ふみゃあああああーーーっ!」
気付いた雪乃は叫び声を上げ、そしてノムルとマンドラゴラの後を必死に追いかけた。
足が長く、身体強化の魔法で人間離れしたスピードで走れるノムルに、追いつけるはずもないのに、一生懸命に走った。
ぽてぽてぽてぽてぽてぽて……と、一生懸命に走ったのだった。
「走るユキノちゃんも、可愛いねー」
「わー」
余裕をかますおじさんと、よく分からないが楽しそうだとはしゃぐマンドラゴラは、一足以上先に、タルタリカ発見を成し遂げる。
「わー」
「わーい。お着替えしようねー?」
マンドラゴラは通常運転、ノムルはへらりと黒い笑顔を浮かべていた。
そしてタルタリカを目の前にした雪乃の反応は、
「……」
嵌められた悔しさとか、虚しさも吹っ飛ぶほどの、無言。目が点。そして穴が空くほどの凝視。
「あ、足が生えています」
「そうだねー」
「わー」
地面から生える、白い足。
何のホラーかと問い質したくなった雪乃は、きっと間違っていない。
「じゃあ、引っこ抜くねー」
と、毎度同じみの魔法でタルタリカをノムルが引っこ抜けば、土から出てきたのは白い塊だった。
一瞬だけコンニャクイモを連想して現実逃避した雪乃だが、何とか目に映るものを脳へと送り込む。樹人なので、脳は付いていないかもしれないが。
ひらりと天から降ってきたカードに書かれていたメッセージは、
『タルタリカ。ヤギーを合成するには、残り三株必要です』
だった。
そう、地面から生えていた足は、一本だけだったのだ。
「バラバラ事件……」
雪乃はお空を見上げて、ぽつりと呟いた。
何とか意識を現実へと引き戻した雪乃は、もう一度カードを見つめる。そして、一つの抜け道を発見したのだった。
「なんでしょう?」
まだ心の傷が癒えていない雪乃は、俯いたまま気のない返事をする。
「あれ、どう思う?」
問われて顔を上げた雪乃は、固まった。
線のように細くなった視界を、細かく開閉する。幹を回して明後日の方向を眺め、気を取り直してノムルの示す植物を確認した。
地面に積み上げられた羊毛のような白い毛の山から、小さな毛玉がぽこりと生えている。毛玉は時折ぴょこぴょこと、前後に揺れていた。
なんとも愛らしく、悶えそうなその姿は、惑うことなき、
「ぷりっケツです!」
だった。
「……。ぷりっけつ? また新しい言葉だなあ」
困ったように笑ったノムルだったが、萎れた葉が元気を取り戻したことに安堵する。
じいっと見つめていた雪乃はゆっくりと近付くと、毛玉を突付く。毛玉は驚いたように、ぷるりと震えた。
「おおー!」
愛らしさに、ついつい何度も触ってしまいそうになるが、動くことでエネルギーを使いすぎて、弱ってしまってはかわいそうだ。
とりあえず薬草図鑑を開き、調べてみる。まあ、何となく予想は付いているのだが。
「プランタ、ですね」
ちなみに手に入れたレシピは、『外傷の手当てに役立つ脱脂綿』だった。
こうなると、タルタリカにも期待が高まる。
『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』。綿花が元となって創りだされた空想上の植物、つまり、バロメッツの正式名である。
雪乃の葉がキラーンっと輝いた。
頭だけのバロメッツ、お尻と尻尾のプランタ、そして、あまり見たくはないが残りのタルタリカ。
三種類とも揃えて合成すれば、ランタをきちんと召喚できるかもしれない。
「ふ、ふふふふ……」
思わず笑みがこぼれてしまった。
雪乃は迷わずプランタを吸収する。そして次に目指すべき薬草も決まった。
「さあ、ノムルさん! 次はタルタリカを回収しますよ! ランタを完全な姿にして、召喚するのです!」
「おー」
ぱちぱちと力なく拍手をしたノムルは、張り切って歩き始めた雪乃に付いていく。
彼は正直、ランタのことなどどうでも良かった。それよりも、
「ねーユキノちゃん、そろそろ服を着ようよー?」
である。
せっかく可愛い服をこっそり買って、巧く押し切って着せたのに、バロメッツのせいで半日も経たずに脱ぎ捨てられてしまったのだ。
ランタへの好感度は上がるどころか、下がりきっている。
「タルタリカが見つかるまでは、このままで良いです。どうせ脱がなければいけませんし」
「えー?」
好感度はさらにだだ下がり、底を突き抜けそうである。
「じゃあさー、俺が先に見つけたら、森の奥にいる間は、さっきの服を着るってことでどおー?」
「……」
「どおー?」
にーっこり笑顔でだめ押ししてみる。
一緒に旅を続けている間に、ノムルは雪乃の性格をすっかり掴んでいた。
雪乃は嫌なことははっきりと断わるが、強くおねだりすれば折れやすい。それでも駄目なときは……。
「あーあー。こんなに頑張ってるのに、ユキノちゃん、冷たい。やっぱり人間なんて、好きになれないよねー? 植物のマンドラゴラやバロメッツのほうが、信用できるよねー。あーあー、仕方ないよねー。人間は樹人の敵だものねー」
「うっ、そういうつもりでは……」
ノムルは雪乃に気付かれぬよう、ニヤリと暗黒の笑みを浮かべる。
「人間が用意した服なんて、着たくないよね? やっぱり俺は、まだまだ信用されていないんだなー」
「そ、そんなことはありません! わ、分かりました! 着ます、着ますから!」
隠すこともなく、ノムルはにっこりと笑った。ほんの数秒前までは、肩を落として項垂れて、哀愁が漂いまくっていたというのに。
まんまと罠に嵌ってしまったことに気付いた雪乃だが、もう手遅れだ。
満面に笑みを咲かせるノムルに対して、ふるふると震えることしかできない。
「の、ノムルさんが先に見つけたらですからね」
「うん。ユキノちゃんより先に見つければ良いんだよね?」
「……。はい」
しょんぼりと萎れる雪乃だが、まだ対抗策はある。ノムルより先に見つければ良いのだ。
雪乃は樹人、樹人は森に愛されている。そして、マンドラゴラもいる。
「わー」
キラーンと葉を輝かせ、雪乃は振り向いた。
「え?」
雪乃は固まった。
「んじゃあ、お先にー」
「え?」
「わー」
「ええーーっ?!」
片枝を伸ばしてノムルの背を呆然と見送ることしかできない雪乃は、己の過ちに気付く。
そう、『ユキノより先に』見つければ良いのだ。たとえマンドラゴラが見つけてこようと、雪乃が見つけるより先にノムルが見つけてしまえば、ノムルの勝利である。
「ふみゃあああああーーーっ!」
気付いた雪乃は叫び声を上げ、そしてノムルとマンドラゴラの後を必死に追いかけた。
足が長く、身体強化の魔法で人間離れしたスピードで走れるノムルに、追いつけるはずもないのに、一生懸命に走った。
ぽてぽてぽてぽてぽてぽて……と、一生懸命に走ったのだった。
「走るユキノちゃんも、可愛いねー」
「わー」
余裕をかますおじさんと、よく分からないが楽しそうだとはしゃぐマンドラゴラは、一足以上先に、タルタリカ発見を成し遂げる。
「わー」
「わーい。お着替えしようねー?」
マンドラゴラは通常運転、ノムルはへらりと黒い笑顔を浮かべていた。
そしてタルタリカを目の前にした雪乃の反応は、
「……」
嵌められた悔しさとか、虚しさも吹っ飛ぶほどの、無言。目が点。そして穴が空くほどの凝視。
「あ、足が生えています」
「そうだねー」
「わー」
地面から生える、白い足。
何のホラーかと問い質したくなった雪乃は、きっと間違っていない。
「じゃあ、引っこ抜くねー」
と、毎度同じみの魔法でタルタリカをノムルが引っこ抜けば、土から出てきたのは白い塊だった。
一瞬だけコンニャクイモを連想して現実逃避した雪乃だが、何とか目に映るものを脳へと送り込む。樹人なので、脳は付いていないかもしれないが。
ひらりと天から降ってきたカードに書かれていたメッセージは、
『タルタリカ。ヤギーを合成するには、残り三株必要です』
だった。
そう、地面から生えていた足は、一本だけだったのだ。
「バラバラ事件……」
雪乃はお空を見上げて、ぽつりと呟いた。
何とか意識を現実へと引き戻した雪乃は、もう一度カードを見つめる。そして、一つの抜け道を発見したのだった。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる