『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

103.ぷりっケツです!

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「ねー、ユキノちゃん?」
「なんでしょう?」

 まだ心の傷が癒えていない雪乃は、俯いたまま気のない返事をする。

「あれ、どう思う?」

 問われて顔を上げた雪乃は、固まった。
 線のように細くなった視界を、細かく開閉する。幹を回して明後日の方向を眺め、気を取り直してノムルの示す植物を確認した。
 地面に積み上げられた羊毛のような白い毛の山から、小さな毛玉がぽこりと生えている。毛玉は時折ぴょこぴょこと、前後に揺れていた。
 なんとも愛らしく、悶えそうなその姿は、惑うことなき、

「ぷりっケツです!」

 だった。

「……。ぷりっけつ? また新しい言葉だなあ」

 困ったように笑ったノムルだったが、萎れた葉が元気を取り戻したことに安堵する。
 じいっと見つめていた雪乃はゆっくりと近付くと、毛玉を突付く。毛玉は驚いたように、ぷるりと震えた。

「おおー!」

 愛らしさに、ついつい何度も触ってしまいそうになるが、動くことでエネルギーを使いすぎて、弱ってしまってはかわいそうだ。
 とりあえず薬草図鑑を開き、調べてみる。まあ、何となく予想は付いているのだが。

「プランタ、ですね」

 ちなみに手に入れたレシピは、『外傷の手当てに役立つ脱脂綿』だった。
 こうなると、タルタリカにも期待が高まる。
 『プランタ・タルタリカ・バロメッツ』。綿花が元となって創りだされた空想上の植物、つまり、バロメッツの正式名である。
 雪乃の葉がキラーンっと輝いた。
 頭だけのバロメッツ、お尻と尻尾のプランタ、そして、あまり見たくはないが残りのタルタリカ。
 三種類とも揃えて合成すれば、ランタをきちんと召喚できるかもしれない。

「ふ、ふふふふ……」

 思わず笑みがこぼれてしまった。
 雪乃は迷わずプランタを吸収する。そして次に目指すべき薬草も決まった。

「さあ、ノムルさん! 次はタルタリカを回収しますよ! ランタを完全な姿にして、召喚するのです!」
「おー」

 ぱちぱちと力なく拍手をしたノムルは、張り切って歩き始めた雪乃に付いていく。
 彼は正直、ランタのことなどどうでも良かった。それよりも、

「ねーユキノちゃん、そろそろ服を着ようよー?」

 である。
 せっかく可愛い服をこっそり買って、巧く押し切って着せたのに、バロメッツのせいで半日も経たずに脱ぎ捨てられてしまったのだ。
 ランタへの好感度は上がるどころか、下がりきっている。

「タルタリカが見つかるまでは、このままで良いです。どうせ脱がなければいけませんし」
「えー?」

 好感度はさらにだだ下がり、底を突き抜けそうである。

「じゃあさー、俺が先に見つけたら、森の奥にいる間は、さっきの服を着るってことでどおー?」
「……」
「どおー?」

 にーっこり笑顔でだめ押ししてみる。
 一緒に旅を続けている間に、ノムルは雪乃の性格をすっかり掴んでいた。
 雪乃は嫌なことははっきりと断わるが、強くおねだりすれば折れやすい。それでも駄目なときは……。

「あーあー。こんなに頑張ってるのに、ユキノちゃん、冷たい。やっぱり人間なんて、好きになれないよねー? 植物のマンドラゴラやバロメッツのほうが、信用できるよねー。あーあー、仕方ないよねー。人間は樹人の敵だものねー」
「うっ、そういうつもりでは……」

 ノムルは雪乃に気付かれぬよう、ニヤリと暗黒の笑みを浮かべる。

「人間が用意した服なんて、着たくないよね? やっぱり俺は、まだまだ信用されていないんだなー」
「そ、そんなことはありません! わ、分かりました! 着ます、着ますから!」

 隠すこともなく、ノムルはにっこりと笑った。ほんの数秒前までは、肩を落として項垂れて、哀愁が漂いまくっていたというのに。
 まんまと罠に嵌ってしまったことに気付いた雪乃だが、もう手遅れだ。
 満面に笑みを咲かせるノムルに対して、ふるふると震えることしかできない。

「の、ノムルさんが先に見つけたらですからね」
「うん。ユキノちゃんより先に見つければ良いんだよね?」
「……。はい」

 しょんぼりと萎れる雪乃だが、まだ対抗策はある。ノムルより先に見つければ良いのだ。
 雪乃は樹人、樹人は森に愛されている。そして、マンドラゴラもいる。

「わー」

 キラーンと葉を輝かせ、雪乃は振り向いた。

「え?」

 雪乃は固まった。

「んじゃあ、お先にー」
「え?」
「わー」
「ええーーっ?!」

 片枝を伸ばしてノムルの背を呆然と見送ることしかできない雪乃は、己の過ちに気付く。
 そう、『ユキノより先に』見つければ良いのだ。たとえマンドラゴラが見つけてこようと、雪乃が見つけるより先にノムルが見つけてしまえば、ノムルの勝利である。

「ふみゃあああああーーーっ!」

 気付いた雪乃は叫び声を上げ、そしてノムルとマンドラゴラの後を必死に追いかけた。
 足が長く、身体強化の魔法で人間離れしたスピードで走れるノムルに、追いつけるはずもないのに、一生懸命に走った。
 ぽてぽてぽてぽてぽてぽて……と、一生懸命に走ったのだった。

「走るユキノちゃんも、可愛いねー」
「わー」

 余裕をかますおじさんと、よく分からないが楽しそうだとはしゃぐマンドラゴラは、一足以上先に、タルタリカ発見を成し遂げる。

「わー」
「わーい。お着替えしようねー?」

 マンドラゴラは通常運転、ノムルはへらりと黒い笑顔を浮かべていた。
 そしてタルタリカを目の前にした雪乃の反応は、

「……」

 嵌められた悔しさとか、虚しさも吹っ飛ぶほどの、無言。目が点。そして穴が空くほどの凝視。

「あ、足が生えています」
「そうだねー」
「わー」

 地面から生える、白い足。
 何のホラーかと問い質したくなった雪乃は、きっと間違っていない。

「じゃあ、引っこ抜くねー」

 と、毎度同じみの魔法でタルタリカをノムルが引っこ抜けば、土から出てきたのは白い塊だった。
 一瞬だけコンニャクイモを連想して現実逃避した雪乃だが、何とか目に映るものを脳へと送り込む。樹人なので、脳は付いていないかもしれないが。
 ひらりと天から降ってきたカードに書かれていたメッセージは、

『タルタリカ。ヤギーを合成するには、残り三株必要です』

 だった。
 そう、地面から生えていた足は、一本だけだったのだ。

「バラバラ事件……」

 雪乃はお空を見上げて、ぽつりと呟いた。
 何とか意識を現実へと引き戻した雪乃は、もう一度カードを見つめる。そして、一つの抜け道を発見したのだった。
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