『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

102.雪乃は思わず拳を握り

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「ん、んめ゛え゛え゛え゛え゛えええええ゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 必死に頭を動かし、殻を割ろうともがいている。真っ白い毛が現れているが、まだ顔が出てくるには時間が掛かりそうだ。

「が、頑張れ!」

 雪乃は思わず拳を握り、バロメッツを応援する。

「んめ゛え゛え゛え゛え゛えええええ゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 叫び声と同時に頭を突き出し、そこで動きを止める。疲れたのか、ぴくりとも動かない。
 不安に駆られながらも、雪乃は静かに見守った。
 ふるりと、白い毛が揺れる。

「んめ゛え゛え゛え゛え゛えええええ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 休んで回復した力を一気に使い、バロメッツは殻を割った。くりんっと丸い黒目を持つ、真っ白な毛色の可愛い子ヤギが、バロメッツの実から顔を出す。

「めー……」

 疲れたように弱弱しい声で鳴いた子ヤギに、雪乃はメロメロだ。

「よく頑張りましたね! 偉いです! 良い子ですね!」

 潤んだ視界で、子ヤギを褒めちぎる。
 子ヤギも雪乃に気が付いたようで、雪乃をじいっと見つめると、

「めえー」

 と、愛らしく鳴いた。その仕草に、雪乃の胸の辺りがきゅんっと締め付けられる。

「ああ、なんて可愛いのでしょう! 子ヤギは世界で一番可愛いという話も聞きますが、まさに天使ですね。愛くるしいです」

 雪乃はそうっと子ヤギを撫でてみる。
 子ヤギは嫌がる素振りも見せず、嬉しそうに目を細め、雪乃に頭を摺り寄せた。

「っ!」

 もう我慢できないとばかりに、雪乃は子ヤギの頭を抱きしめ、何度も撫でてやる。子ヤギも舌を伸ばし、雪乃の頬を舐めた。
 その様子を見ていたノムルは、ひやりとするが、生まれたばかりの子ヤギは舐めるだけで、雪乃を食べるつもりはないようだ。

「本当に可愛い子ですね。ランタと名付けましょう」

 雪乃は飽きることなく子ヤギの頭を撫で回していたのだが、そう口にした途端、

「めえー」

 と、バロメッツは雪乃から顔を離し、一鳴きする。そして淡く輝き、雪乃の中へと消えていった。

「ランタ?!」

 とつぜんの別れに、雪乃は驚愕の声を上げる。

「ら、ランタ? そんな……」

 あれほど頑張って生まれてきたというのに、ほんのわずかな間しかこの世界を見ることなく、雪乃の中へと消えてしまった。
 天からは無常にも、カードが降ってくる。
 バロメッツを採取したことと、必要数を達成したことを同時に告げる、無情なカードだった。どうやらバロメッツは、一体だけで良かったらしい。

「うっ、うう……。ランタ……」

 雪乃は枝を折り、その場に座り込んだ。
 新たな薬草を入手した喜びよりも、可愛いランタを失った悲しみのほうが、大きかった。

「あのさあ、ユキノちゃん?」

 嘆き悲しむ雪乃に、いつもと変わらぬ呑気な声が掛けられる。

「今は放っておいてください。樹人としての生き方が、これほど辛かったなんて……」

 差し出された手を払い、雪乃は悲しみに暮れる。

「いや、ユキノちゃん、そんなに悲しいなら、バロメッツを生やせばいいんじゃないの?」
「……」

 雪乃の幹が無意識に、顔をノムルへ向ける。悲しみはすっかり消えていた。

「盲点でした」

 正面に顔を戻した雪乃は、呆然と呟いた。そんな雪乃を、ノムルは苦笑交じりに優しく見守っている。

「出でよ、ランタ!」

 雪乃は服を脱ぎ捨てると、召喚呪文よろしく、魔力を込めてバロメッツを生やす。樹人の体から、白い毛が現れた。

「めー」
「……」
「……」

 雪乃は幹を回し、自分の左肩を凝視する。

「めー」

 ぺろりと頬を舐め、つぶらな瞳で見つめるランタ。
 幹を逆に回して少し離れた所を見れば、ノムルが四つん這いになり、地面を叩いて爆笑していた。

「……。そうですよね。バロメッツはヤギの顔だけが生えるんでしたね」
「めー」

 雪乃の左肩から生える、子ヤギの顔。つぶらな瞳で愛らしく見つめられても、流石にこれはきつい。
 思考が停止し、枝で顔を覆う。

「こんな悪魔がいたような……。はっ! まさか魔王への布石ですか?!」
「めー?」

 つぶらな瞳に雪乃を映して首を傾げるランタ。顔だけ見れば愛くるしいことこの上ないが、視点を下げると色々な問題が露見する。

「どうしましょう?」

 雪乃は空を見上げて考えた。
 ちなみにバロメッツから得られるレシピは、『包帯』だった。口から吐き出すらしい。

「はー。笑った。腹筋痛い」
「……」

 まだ笑いが収まっていない様子のノムルが、震えながらもなんとか立ち上がる。目には涙を湛えていた。

「もう最高。やっぱりユキノちゃんといると、楽しいねえ」
「……。喜ンデイタダケタヨウデ幸イデス」
「めー」
「ふはっ」

 耐え切れないようで、ノムルは再び噴き出す。
 葉を唇のように尖らせた雪乃は、不満を顕わにノムルを睨んだ。

「ごめん、ごめん」

 笑いを残したままノムルは謝ると、提案をする。

「マンドラゴラと合成してみたら?」
「おお!」

 足を持ち、自由に歩けるマンドラゴラたち。上手く合成すれば、自力で動けるランタを作成できる。
 と、一瞬だけ同意しかけたのだが、雪乃はその考えを思い直した。
 たしかにマンドラゴラと合成すれば、ランタは雪乃から独立し、自力で動けるようになるかもしれない。けれどマンドラゴラたちは、単独でも意思を持つ植物だ。
 ランタを上書きしてしまったら、マンドラゴラの意識はどうなってしまうのだろうか?
 雪乃がそう告げると、ノムルは困ったように、けれどどこか嬉しそうに微笑んだ。

「本当に甘いねえ。でもまあ、ユキノちゃんらしいけど」

 ぽんぽんと雪乃の頭を撫でると、ランタの額を人差し指で軽く触れる。

「でも、この姿はいただけないなあ。隠し切れないよ?」

 露見すれば討伐されるかもしれない現状で、この目立つ外見は危険すぎる。ローブで隠そうにも、肩にヤギの頭があっては、隠せるものではない。
 そう分かっていても、ランタを吸収してしまうことは気が咎めた。

「しばらくはランタはしまっておきなよ。俺も出せるようになる方法を考えてあげるからさ」
「……はい」

 感情論以外に、反対する理由は見つからない。

「ランタ、いい子だから眠っていてね。きっと自由にしてあげるから」
「めー」

 ランタは雪乃をぺろりと舐めて頬擦りをすると、自ら枝の中に消えていった。
 傷心の雪乃と手をつなぎ、ノムルは森の中を進んで行く。
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