『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

101.ノムルが手に掲げているのは

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「もちろん、ユキノちゃんに着てもらおうと思って。ちゃんとユキノちゃんも抵抗なく着れるように、選んできたからさ」
「いつの間に用意したんですか?!」

 満面の笑顔でノムルが手に掲げているのは、緑色を基調とした、ドイツの民族衣装、ディアンドルに似た衣装一式だった。
 長袖の白いブラウス、紐で留めるタイプの常磐緑色のボディスと足元まで隠すふわりと広がったスカート、そして薄緑色のエプロンが揃っている。
 もちろん、もしも人間と遭遇した時でも雪乃の姿を誤魔化せるように、常磐緑色の頭巾とミトン、薄緑色のスカーフもしっかり準備していた。
 つまり、赤頭巾ちゃんが着ている服の色違いだ。
 思わず遠くの空を眺めてしまった雪乃は、悪くないはずだ。

「だってさあ、いつも味気ないローブじゃ、つまらないでしょう? ユキノちゃんだって、たまにはお洒落したいよね?」
「いえ、私は必要ありません」
「遠慮しなくていいんだよー? 俺には着れないし」

 にっこりと黒い笑顔を浮かべながら、ノムルはディアンドルを掲げて雪乃に迫る。
 じりじりと下がる雪乃。追い詰めるノムル。下がる雪乃、追い詰めるノムル。下がる……。

「……」
「おー、可愛いねー」

 虚ろな眼差しで森の奥を眺める雪乃は、ノムルの手により見事、緑頭巾ちゃんと化していた。
 雪乃だって女の子だ。可愛い服を着せてもらって、嬉しくないわけではない。正直言えば、ちょっと嬉しいし、はしゃぎたい気持ちもある。けれど、目の前の光景からは、目を逸らしたくなるのだ。
 ノムルはいつの間にか、野球ボールを二回りほど大きくした、水晶玉のような透明な球体を手にしていた。それを様々な方向に移動しては、雪乃に向けている。

「ユキノちゃん、こっち向いてー。あ、スカートの裾を持ってくれる?」
「……。完全にノムルさんの玩具になってます」
「はい、ユキノちゃん、笑ってー」

 コスプレ会場の撮影会に、放り込まれてしまった気分になってくる。
 薬草を見つけて戻ってきたマンドラゴラも巻き込んで、撮影会はしばらく続いた。

「わー?」

 状況の分からないマンドラゴラも、根を傾げる。しかし楽しければ全て良しのマンドラゴラは、すぐにノムルの期待に応えだした。

「はーい、ユキノちゃんの肩に座ってー」
「わー」
「今度は足元に並んでみようかー?」
「わー」
「……」

 付いていけないのは、どうやら雪乃だけのようだ。

「わー」

 雪乃はがっくり項垂れた。

「わー?」

 そんなこんなで撮影会も終わり、ノムルが昼食を終えると、ようやくマンドラゴラの案内を受けて、二人は歩きだしたのだった。
 手にはなぜか蔓で編んだ、籠まで持たされている。
 半目になりながら、雪乃は黙々とマンドラゴラの後を追った。

「ふ、ふふふ。次の薬草は、必ずゲットしてみせましょう」

 変なスイッチが入ってしまったようで、薄笑いを浮かべながら意気込む。しかし、

「わー」
「……」
「……」

 辿り着いた森の奥。
 木々が途切れて現れた、可憐な花が咲き乱れる一面の花畑を前に、雪乃はがく然として立ちすくんだ。
 それも耐え切れず、根から崩れ落ち、枝を突く。
 隣に立つノムルさえも、表情を失っていた。

「ねえ、ユキノちゃん」
「はい、なんでしょう?」
「あの花、なんていう名前か、分かる?」
「……」

 雪乃は沈黙をもって答えとする。
 答えたくない。答えたくなどなかった。いや、これだけの群生地ならば、不足分を一気に採取して、レシピを手に入れることが可能だろう。
 けれど、それでも認めたくはなかったのだ。
 ぐっと握りこんだ雪乃の枝が、小刻みに震える。心の中で唇を噛みしめ、雪乃は声を絞り出す。
 あの花の名を―― 
 
「か、カマーフワラー、です……」

 口の中に、鉄の味が広がるようだ。口も血もないのだが。
 視界を閉じて、やるせなさを必死に耐えた。

「あの苦労は、なんだったのでしょうか……?」

 悪夢のようなムツゴロー湿原での日々を思い出し、雪乃は今一度、苦悶に喘ぐ。
 根を傾げたマンドラゴラは、状態異常に陥った雪乃に登る。

「わー」

 マンドラゴラは、いつだって通常運転だ。
 雪乃の上で元気に跳ね、それからノムルの山高帽を目指し、捕獲される。
 二人はそのまま小一時間ほど、その場に固まっていた。

「ユキノちゃん、切り替えていこう。これでカマーフラワーの呪縛からは、解放されるんだ」
「そ、そうですね」

 よろよろと立ち上がった雪乃は、不足していたカマーフラワーを摘み、新たなレシピを手に入れたのだった。

「でもまあ、綺麗だよね」
「そうですね」
「じゃあ、撮影を始めようか? 可愛いユキノちゃんには、絶好の撮影スポットだよね」
「……」

 ノムルも通常運転に戻ったようだ。
 雪乃の苦難は、まだまだ続く。

「はーい、ユキノちゃん、可愛いよー」
「……」

 魔王様は完全に娘にでれでれの、親ばかと化していた。

「もう次に行きますよ! 協力してくださるバロメッツさんを探して、デンゴラコンも手に入れないといけないんですから!」
「えー?」
「わー?」
「……」

 雪乃は額を押さえると、一人と一匹を置いたまま、森の中を進んでいった。

「ちょっとユキノちゃん! 置いていかないでよ」
「知りません!」

 ぷんすか怒りながら、雪乃はずんずんと進んで行く。その後ろをへらりと笑いながら、ノムルが追いかける。そしてマンドラゴラは、どこかへ行った。
 木々の間を抜け、腰どころか肩より高い草を分けながら、雪乃は森の中を進んで行く。
 森を歩くには似つかわしくない、ふわりと広がるスカートが邪魔になりそうだが、ノムルの魔法が掛かっているのか、草や枝に引っかかることなく進んでいる。破れるどころか、汚れる気配もなかった。 

「んめ゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」

 とつぜん耳元で響き渡った叫び声に、雪乃は飛び退く。耳はないのだが、キーンッと高い耳鳴りがして、目の前に星が飛んでいた。

「うわあ、吃驚したなあ」

 全く驚いた様子はない呑気な声が、ノムルから発せられる。表情をうかがえば、やはりいつもの似非臭い笑顔を浮かべていた。

「んめ゛え゛え゛え゛え゛えええええ゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」
  
 二度目の叫び声は、一度目よりもさらに強烈だった。雪乃の葉も、びりびりと震える。
 見るとバロメッツの実が裂け、ヤギが生まれるところだった。
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