61 / 385
ドューワ国編
113.樹人の杖が重宝されているのって
しおりを挟む
「でも本当に鬱陶しかったんだよ? わざとらしく、ちらつかせてさー。あ、思い出したら苛ついてきた。ユキノちゃん、癒してー。しかしあいつ、何がしたかったんだろうね?」
抱きついてきたノムルの頬を枝で押しのけながら、雪乃は考察する。
樹人の杖の性質とノムルの過去話から導き出される推測を、不確かだとは思いつつ言葉に乗せた。
「たぶん、見せびらかしたかったんでしょうね。制御の難しい樹人の杖を使いこなせるようになったことを。もしかしたら、ノムルさんに認めてもらいたかったんじゃないですか?」
「えー、そんな理由? うざ」
「むしろこんな人に頑張ってアピールしていた、その方に同情します」
「なんで? 被害者は俺でしょう? 俺を慰めてよ」
「丁重にお断りします」
深々と頭を下げる雪乃。だらだらと文句を続けるノムル。
マイペースな師弟のやり取りを、少女達は今度こそ、ぽかんと口を開けて見つめた。
「え? 樹人の杖が重宝されているのって、見得のためなの?」
「ある意味、一流の魔法使いになったか、見極めになるのかもしれないな。樹人の杖を使いこなせるレベルなら一流、暴走させてしまうならば二流以下、とか?」
「じ、じゃあ、樹人の杖を愛用されている方々は? ローレン様とか、ジーク様とか……」
呆気に取られるマリー、あごに指を添え納得したように頷いたラーム。
自分の中の何かが壊れていくのを感じたミレイは、その場にへたり込んだ。
「ん? ローレン? ジーク? 聞いたこと無い名前だけど、そいつらが君の言っていた、一流の魔法使いなの? 二つ名は?」
目を向けたノムルを、ミレイは残る力を振り絞ってきっと見返す。そして、最後の抵抗とばかりに声を張り上げた。
「黒バラのローレン様、金色の稲妻ジーク様よ! 我が国の冒険者ギルドが誇る、魔法使いのツートップよ!」
「ぜんっぜん聞いたことないや」
かあっと、ミレイの顔に血が上る。
「あなたのような冒険者モドキでは、口を利いてもらうどころか、お姿を見ることもないでしょうね」
声を荒げたミレイの袖を、マリーとラームが引っ張った。
「ちょっと、それは言っちゃ駄目でしょう?」
「そうだよ。年長者に対して、いくらなんでも失礼だ」
「事実でしょう?」
少女たちは小声で言い争いを始めた。冒険者モドキは、Dランク冒険者を揶揄する言葉だ。
揉める少女たちを眺めていた雪乃だが、ついっと顔の向きを変えてノムルを見る。その視線に険を感じて、ノムルは「ん?」と眉根を寄せた。
「ノムルさん、ランクの詐称はいけないって、ヤナのギルドマスターが言ってましたよ」
「いやいや、濡れ衣だって。俺はDランクだなんて言ってないでしょう? 一緒にいたんだから聞いてたよね?」
「……。確かに言ってませんね」
「「「え?」」」
師弟の話に、少女達は言い争いを止めた。口を開けたまま、丸くなった目にノムルを映す。
「えっと、Cランク、ですか?」
ためらいがちに、ラームが尋ねる。
「いいや?」
のんびりと、ノムルは答える。
「まさかのBランク?」
怪訝な表情で、マリーが問うた。
「違うねえ」
髭おやじはへらりと笑みを零す。
「そう、その年でEランクなのね」
あごに手を添え頷くミレイ。
「いやいや、下がってるし。というかそれ、ユキノちゃんより下じゃん」
「「「え?」」」
少女たちの声が重なる。戸惑いと驚きに、表情が凍り付いている。
「ユキノちゃんも冒険者なの? そんなに幼いのに?」
「そっち?!」
がくりと肩を落としたノムルの横で、三人の少女に囲まれた雪乃は困惑していた。顔を覗かれないよう、フードを枝で抑えて死守する。
「ユキノちゃんって、まだ子供だよね? 四歳くらいに見えるんだけど?」
「はっ! もしや、まともな食事を与えられず……」
「なんて酷いのかしら!」
少女たちの冷たい視線が、次々とノムルを射る。全てかすり傷一つ負わせることなく、跳ね返されているようだが。
「何勝手に話作ってるのさ?」
ノムルは苦く顔をしかめたが、少女たちはスルーした。
「えっと、特例でDランクに認定してもらいました」
「特例?! 何したの?」
「えっと……」
助けを求めるようにノムルに目を向ければ、ひらひらと手を振られる。
冷たくあしらわれるとは考えていなかった雪乃は、自分でも驚くことにショックを受け、しゅんと萎れる。
少女達に取り囲まれている危険よりも、ノムルに見放されてしまったことが悲しかった。
その様子を見て、ノムルは満足そうに笑みをこぼす。
「仕方ないなあ。ほら、ユキノちゃんが怖がってるじゃないか。散った散った」
ノムルがほんのわずかに杖を揺らすと、少女達は空中に浮かんで、雪乃から二メートルほど先に着地した。
その隙を突いて、雪乃はノムルに駆け寄り、ローブの裾にひしとしがみ付いた。
「おや? 珍しいね。ユキノちゃんから抱き付いて来るなんて」
「抱きついていません。ローブにしがみ付いただけです」
「もっと素直になって良いんだよー?」
からからとノムルは笑うが、雪乃はふくれっ面だ。
一方、少女たちの顔には、驚愕と戸惑いが張り付いていた。
「い、今、私たちは空を飛んでなかったかい?」
「ええ。空って簡単に飛べるの?」
マリーとラームは、唯一魔法の使えるミレイに、答えを求めて顔を向ける。二人の瞳に映るのは、現実を受け入れられずに視線を彷徨わせることしかできない、青ざめた友の姿だった。
「あ、あのう、二つ名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
呆然としながらも、ミレイは声を振り絞る。
しかし返ってきた答えは、
「え? 嫌」
という、あっけない一言だった。
「そ、そうでよね。これだけ失礼なことをしたんだもの」
「いや、それはどうでもいいんだけどね。俺、あの呼び方、嫌いなんだよね」
苦々しく顔を歪めるノムルを見上げた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。
「そういえば冒険者ギルドでも言い争っていましたけど、そんなに酷いのですか?」
「ん? そうだねえ、勝手に付けられちゃったんだよねえ。せめて本人の許可を取ってほしいよねえ? もちろん、呼び始めたやつらには、ちゃんとお仕置きしたよ? 支部一つ丸焦げになっちゃったけど」
へらりと笑うノムルの様子に、雪乃も少女達も総毛立った。
これ以上、この話題を続けてはいけない! そう察した雪乃は話題を変えようと、言葉を
「……闇の道化師」
発する前に、ミレイ爆弾が投下された。
抱きついてきたノムルの頬を枝で押しのけながら、雪乃は考察する。
樹人の杖の性質とノムルの過去話から導き出される推測を、不確かだとは思いつつ言葉に乗せた。
「たぶん、見せびらかしたかったんでしょうね。制御の難しい樹人の杖を使いこなせるようになったことを。もしかしたら、ノムルさんに認めてもらいたかったんじゃないですか?」
「えー、そんな理由? うざ」
「むしろこんな人に頑張ってアピールしていた、その方に同情します」
「なんで? 被害者は俺でしょう? 俺を慰めてよ」
「丁重にお断りします」
深々と頭を下げる雪乃。だらだらと文句を続けるノムル。
マイペースな師弟のやり取りを、少女達は今度こそ、ぽかんと口を開けて見つめた。
「え? 樹人の杖が重宝されているのって、見得のためなの?」
「ある意味、一流の魔法使いになったか、見極めになるのかもしれないな。樹人の杖を使いこなせるレベルなら一流、暴走させてしまうならば二流以下、とか?」
「じ、じゃあ、樹人の杖を愛用されている方々は? ローレン様とか、ジーク様とか……」
呆気に取られるマリー、あごに指を添え納得したように頷いたラーム。
自分の中の何かが壊れていくのを感じたミレイは、その場にへたり込んだ。
「ん? ローレン? ジーク? 聞いたこと無い名前だけど、そいつらが君の言っていた、一流の魔法使いなの? 二つ名は?」
目を向けたノムルを、ミレイは残る力を振り絞ってきっと見返す。そして、最後の抵抗とばかりに声を張り上げた。
「黒バラのローレン様、金色の稲妻ジーク様よ! 我が国の冒険者ギルドが誇る、魔法使いのツートップよ!」
「ぜんっぜん聞いたことないや」
かあっと、ミレイの顔に血が上る。
「あなたのような冒険者モドキでは、口を利いてもらうどころか、お姿を見ることもないでしょうね」
声を荒げたミレイの袖を、マリーとラームが引っ張った。
「ちょっと、それは言っちゃ駄目でしょう?」
「そうだよ。年長者に対して、いくらなんでも失礼だ」
「事実でしょう?」
少女たちは小声で言い争いを始めた。冒険者モドキは、Dランク冒険者を揶揄する言葉だ。
揉める少女たちを眺めていた雪乃だが、ついっと顔の向きを変えてノムルを見る。その視線に険を感じて、ノムルは「ん?」と眉根を寄せた。
「ノムルさん、ランクの詐称はいけないって、ヤナのギルドマスターが言ってましたよ」
「いやいや、濡れ衣だって。俺はDランクだなんて言ってないでしょう? 一緒にいたんだから聞いてたよね?」
「……。確かに言ってませんね」
「「「え?」」」
師弟の話に、少女達は言い争いを止めた。口を開けたまま、丸くなった目にノムルを映す。
「えっと、Cランク、ですか?」
ためらいがちに、ラームが尋ねる。
「いいや?」
のんびりと、ノムルは答える。
「まさかのBランク?」
怪訝な表情で、マリーが問うた。
「違うねえ」
髭おやじはへらりと笑みを零す。
「そう、その年でEランクなのね」
あごに手を添え頷くミレイ。
「いやいや、下がってるし。というかそれ、ユキノちゃんより下じゃん」
「「「え?」」」
少女たちの声が重なる。戸惑いと驚きに、表情が凍り付いている。
「ユキノちゃんも冒険者なの? そんなに幼いのに?」
「そっち?!」
がくりと肩を落としたノムルの横で、三人の少女に囲まれた雪乃は困惑していた。顔を覗かれないよう、フードを枝で抑えて死守する。
「ユキノちゃんって、まだ子供だよね? 四歳くらいに見えるんだけど?」
「はっ! もしや、まともな食事を与えられず……」
「なんて酷いのかしら!」
少女たちの冷たい視線が、次々とノムルを射る。全てかすり傷一つ負わせることなく、跳ね返されているようだが。
「何勝手に話作ってるのさ?」
ノムルは苦く顔をしかめたが、少女たちはスルーした。
「えっと、特例でDランクに認定してもらいました」
「特例?! 何したの?」
「えっと……」
助けを求めるようにノムルに目を向ければ、ひらひらと手を振られる。
冷たくあしらわれるとは考えていなかった雪乃は、自分でも驚くことにショックを受け、しゅんと萎れる。
少女達に取り囲まれている危険よりも、ノムルに見放されてしまったことが悲しかった。
その様子を見て、ノムルは満足そうに笑みをこぼす。
「仕方ないなあ。ほら、ユキノちゃんが怖がってるじゃないか。散った散った」
ノムルがほんのわずかに杖を揺らすと、少女達は空中に浮かんで、雪乃から二メートルほど先に着地した。
その隙を突いて、雪乃はノムルに駆け寄り、ローブの裾にひしとしがみ付いた。
「おや? 珍しいね。ユキノちゃんから抱き付いて来るなんて」
「抱きついていません。ローブにしがみ付いただけです」
「もっと素直になって良いんだよー?」
からからとノムルは笑うが、雪乃はふくれっ面だ。
一方、少女たちの顔には、驚愕と戸惑いが張り付いていた。
「い、今、私たちは空を飛んでなかったかい?」
「ええ。空って簡単に飛べるの?」
マリーとラームは、唯一魔法の使えるミレイに、答えを求めて顔を向ける。二人の瞳に映るのは、現実を受け入れられずに視線を彷徨わせることしかできない、青ざめた友の姿だった。
「あ、あのう、二つ名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」
呆然としながらも、ミレイは声を振り絞る。
しかし返ってきた答えは、
「え? 嫌」
という、あっけない一言だった。
「そ、そうでよね。これだけ失礼なことをしたんだもの」
「いや、それはどうでもいいんだけどね。俺、あの呼び方、嫌いなんだよね」
苦々しく顔を歪めるノムルを見上げた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。
「そういえば冒険者ギルドでも言い争っていましたけど、そんなに酷いのですか?」
「ん? そうだねえ、勝手に付けられちゃったんだよねえ。せめて本人の許可を取ってほしいよねえ? もちろん、呼び始めたやつらには、ちゃんとお仕置きしたよ? 支部一つ丸焦げになっちゃったけど」
へらりと笑うノムルの様子に、雪乃も少女達も総毛立った。
これ以上、この話題を続けてはいけない! そう察した雪乃は話題を変えようと、言葉を
「……闇の道化師」
発する前に、ミレイ爆弾が投下された。
10
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる