『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

113.樹人の杖が重宝されているのって

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「でも本当に鬱陶しかったんだよ? わざとらしく、ちらつかせてさー。あ、思い出したら苛ついてきた。ユキノちゃん、癒してー。しかしあいつ、何がしたかったんだろうね?」

 抱きついてきたノムルの頬を枝で押しのけながら、雪乃は考察する。
 樹人の杖の性質とノムルの過去話から導き出される推測を、不確かだとは思いつつ言葉に乗せた。

「たぶん、見せびらかしたかったんでしょうね。制御の難しい樹人の杖を使いこなせるようになったことを。もしかしたら、ノムルさんに認めてもらいたかったんじゃないですか?」
「えー、そんな理由? うざ」
「むしろこんな人に頑張ってアピールしていた、その方に同情します」
「なんで? 被害者は俺でしょう? 俺を慰めてよ」
「丁重にお断りします」

 深々と頭を下げる雪乃。だらだらと文句を続けるノムル。
 マイペースな師弟のやり取りを、少女達は今度こそ、ぽかんと口を開けて見つめた。

「え? 樹人の杖が重宝されているのって、見得のためなの?」
「ある意味、一流の魔法使いになったか、見極めになるのかもしれないな。樹人の杖を使いこなせるレベルなら一流、暴走させてしまうならば二流以下、とか?」
「じ、じゃあ、樹人の杖を愛用されている方々は? ローレン様とか、ジーク様とか……」

 呆気に取られるマリー、あごに指を添え納得したように頷いたラーム。
 自分の中の何かが壊れていくのを感じたミレイは、その場にへたり込んだ。

「ん? ローレン? ジーク? 聞いたこと無い名前だけど、そいつらが君の言っていた、一流の魔法使いなの? 二つ名は?」

 目を向けたノムルを、ミレイは残る力を振り絞ってきっと見返す。そして、最後の抵抗とばかりに声を張り上げた。

「黒バラのローレン様、金色の稲妻ジーク様よ! 我が国の冒険者ギルドが誇る、魔法使いのツートップよ!」
「ぜんっぜん聞いたことないや」

 かあっと、ミレイの顔に血が上る。

「あなたのような冒険者モドキでは、口を利いてもらうどころか、お姿を見ることもないでしょうね」

 声を荒げたミレイの袖を、マリーとラームが引っ張った。

「ちょっと、それは言っちゃ駄目でしょう?」
「そうだよ。年長者に対して、いくらなんでも失礼だ」
「事実でしょう?」

 少女たちは小声で言い争いを始めた。冒険者モドキは、Dランク冒険者を揶揄する言葉だ。
 揉める少女たちを眺めていた雪乃だが、ついっと顔の向きを変えてノムルを見る。その視線に険を感じて、ノムルは「ん?」と眉根を寄せた。

「ノムルさん、ランクの詐称はいけないって、ヤナのギルドマスターが言ってましたよ」
「いやいや、濡れ衣だって。俺はDランクだなんて言ってないでしょう? 一緒にいたんだから聞いてたよね?」
「……。確かに言ってませんね」
「「「え?」」」

 師弟の話に、少女達は言い争いを止めた。口を開けたまま、丸くなった目にノムルを映す。

「えっと、Cランク、ですか?」

 ためらいがちに、ラームが尋ねる。

「いいや?」

 のんびりと、ノムルは答える。

「まさかのBランク?」

 怪訝な表情で、マリーが問うた。

「違うねえ」

 髭おやじはへらりと笑みを零す。 

「そう、その年でEランクなのね」

 あごに手を添え頷くミレイ。

「いやいや、下がってるし。というかそれ、ユキノちゃんより下じゃん」
「「「え?」」」

 少女たちの声が重なる。戸惑いと驚きに、表情が凍り付いている。

「ユキノちゃんも冒険者なの? そんなに幼いのに?」
「そっち?!」

 がくりと肩を落としたノムルの横で、三人の少女に囲まれた雪乃は困惑していた。顔を覗かれないよう、フードを枝で抑えて死守する。

「ユキノちゃんって、まだ子供だよね? 四歳くらいに見えるんだけど?」
「はっ! もしや、まともな食事を与えられず……」
「なんて酷いのかしら!」

 少女たちの冷たい視線が、次々とノムルを射る。全てかすり傷一つ負わせることなく、跳ね返されているようだが。

「何勝手に話作ってるのさ?」

 ノムルは苦く顔をしかめたが、少女たちはスルーした。

「えっと、特例でDランクに認定してもらいました」
「特例?! 何したの?」
「えっと……」

 助けを求めるようにノムルに目を向ければ、ひらひらと手を振られる。
 冷たくあしらわれるとは考えていなかった雪乃は、自分でも驚くことにショックを受け、しゅんと萎れる。
 少女達に取り囲まれている危険よりも、ノムルに見放されてしまったことが悲しかった。
 その様子を見て、ノムルは満足そうに笑みをこぼす。

「仕方ないなあ。ほら、ユキノちゃんが怖がってるじゃないか。散った散った」

 ノムルがほんのわずかに杖を揺らすと、少女達は空中に浮かんで、雪乃から二メートルほど先に着地した。
 その隙を突いて、雪乃はノムルに駆け寄り、ローブの裾にひしとしがみ付いた。

「おや? 珍しいね。ユキノちゃんから抱き付いて来るなんて」
「抱きついていません。ローブにしがみ付いただけです」
「もっと素直になって良いんだよー?」

 からからとノムルは笑うが、雪乃はふくれっ面だ。
 一方、少女たちの顔には、驚愕と戸惑いが張り付いていた。

「い、今、私たちは空を飛んでなかったかい?」
「ええ。空って簡単に飛べるの?」

 マリーとラームは、唯一魔法の使えるミレイに、答えを求めて顔を向ける。二人の瞳に映るのは、現実を受け入れられずに視線を彷徨わせることしかできない、青ざめた友の姿だった。

「あ、あのう、二つ名をお伺いしてもよろしいでしょうか?」

 呆然としながらも、ミレイは声を振り絞る。
 しかし返ってきた答えは、

「え? 嫌」

 という、あっけない一言だった。

「そ、そうでよね。これだけ失礼なことをしたんだもの」
「いや、それはどうでもいいんだけどね。俺、あの呼び方、嫌いなんだよね」

 苦々しく顔を歪めるノムルを見上げた雪乃は、ぽてんと幹を傾げる。

「そういえば冒険者ギルドでも言い争っていましたけど、そんなに酷いのですか?」
「ん? そうだねえ、勝手に付けられちゃったんだよねえ。せめて本人の許可を取ってほしいよねえ? もちろん、呼び始めたやつらには、ちゃんとお仕置きしたよ? 支部一つ丸焦げになっちゃったけど」

 へらりと笑うノムルの様子に、雪乃も少女達も総毛立った。
 これ以上、この話題を続けてはいけない! そう察した雪乃は話題を変えようと、言葉を

「……闇の道化師」

 発する前に、ミレイ爆弾が投下された。
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