『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

117.ああいう大人にだけは

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 バサバサドサーバサバサボキッドサーバサバサ――。

 離れようとする樹人たちが無理に引っ張り合った結果、絡みすぎていた葉は落ち、枝は折れ、無残な姿になった。
 呆然とした雪乃とノムルだったが、当の樹人たちは平気な顔だ。
 どうせもうすぐ冬が来るから気にしなくて良いと、何事もなかったかのように歩きだした。

「ユキノちゃん」
「なんでしょう?」
「ああいう大人にだけは、なっちゃ駄目だからね?」
「……。なれる自信もありません」

 超絶マイペースのノムルに駄目出しされるとは、樹人はとってもマイペースな種族のようだ。

 樹人たちの枝に座らせてもらい、雪乃とノムルは森の中を進んでいく。
 そうして辿り着いた所には、千年は生きていそうな大きな樹人がいた。
 他の樹人たちを凌駕する、高い樹高と太い幹。
 あまりの巨体ゆえに、動くことが難しく、若い者たちに迎えに行ってもらったそうだ。
 その古老の樹人は、雪乃を見るなりぷるぷると震えた。赤く色づいていた葉やランゴの実が、どさどさと降って来る。
 葉は良い。しかしランゴの実は当たると痛いので、雪乃はノムルに抱きかかえられて、かわし続ける羽目になった。

「ちょっと、危ないでしょう?!」

 ノムルが声を荒げたのも、仕方ないだろう。
 だがその直後、ブオオォォォーーと、風の音にも、竜の鳴き声にも聞こえる大きな音が、古老の樹人から発せられた。

「うわっ、煩い!」
「ええっ?!」

 あまりの大音量に、ノムルは顔をしかめる。
 雪乃を抱き上げているため、耳を塞ぐことのできないノムルは、風魔法を展開して耳栓を作った。
 一方の雪乃は、素っ頓狂な声を上げた。

「なに? 何て言っているの?」

 通訳を頼んだノムルは、眉根を寄せる。
 樹人たちに囲まれた時もそうだが、雪乃の様子がおかしい。自然と抱きしめる腕に力がこもった。

「あー、どう説明したら良いのか……。樹人違いではないですか?」

 ノムルに困惑した表情を向けた後、雪乃は古老の樹人に問うた。
 古老の樹人は再び、ブオオォォォーーッと叫び、枝を雪乃に伸ばす。

「ちょっと、何?!」

 すぐさまノムルは地面を蹴り、充分な間合いを取る。しかし、

『ヒイーメエエエエーーーーッッ!』

 という叫び声と共に、全身に衝撃が走った。気付けばノムルは雪乃を抱きしめたまま、古老の樹人に捕まっていた。
 正確には、ノムルに抱きしめられたままの雪乃を、古老の樹人が抱きしめたと書くべきか。
 枝に掴まれた二人は、幹にすりすりされる。

「いったっ! ていうか熱い! 痛っ?!」

 高速でのほっぺすりすりに、樹皮が刺さって痛いやら、摩擦熱で燃えそうやらで、ノムルも悲鳴を上げた。
 体格差のせいで、ノムルは全身が摩り下ろされかけている。普通の人間ならば命の危機に陥っているだろう。

「あーっ! もう! いい加減にしてよね!」

 雷魔法を打ち込んで、枝が緩んだ隙に脱出する。
 全身が傷を負い、血まみれである。火傷の跡もあった。ローブももちろん、ぼろぼろだ。

「おおー! ノムルさん、意外と筋肉ムキムキだったんですね!」
「え? ああ、うん。気に入ったのー?」
「力瘤が見たいです」
「いいよー」

 まだまだ余裕なようだが。
 ノムルがちょっと杖を動かせば、体の傷は一瞬で癒え、破れたローブも元に戻った。

『ヒイーメエエエエーーーーッッ!』

 再び古老の樹人が叫び、枝を伸ばす。
 今度は捕まらないよう、ノムルは身体強化と風の魔法を使い、難なくかわした。無数に伸びてくる枝の動きを把握し、全てが絡むように誘導する。

『ヒイーメエエエエーーーーッッ!』

「気のせいかもしれないけどさ、『姫』って叫んでる?」

 順調に古老の樹人の枝を絡めていきながら、ノムルは雪乃に尋ねる。ほんわりと、雪乃は紅葉した。

「え? 当たってるの? ユキノちゃん、お姫様だったの?」

 雪乃は真っ赤に紅葉した。

「ちょっと待って! どういうこと? 詳しく教えて!!」

 枝が絡んで一本の太い幹へと変形してしまった古老の樹人は、ようやく動きを止める。暴れたせいでまばらになった葉が、しょぼんと萎れた。

「アノデスネ、たぶん、間違いなく、樹人違いだと思うのデスガ」
「その設定で良いから、説明してくれる?」

 挙動不審になっている雪乃を落ち着かせながら、ノムルは状況の把握に努める。

「ええっとですね、そのまま伝えますけど、そのまま伝えただけですからね? 私が言っているわけじゃないですからね!」
「分かったから、話に入って」

 念入りに念には念を入れる雪乃に、ノムルは続きを促がす。

「お爺さんが仰るには、『姫の気配を感じたので会いに行こうとしたら、若い樹人や動物たちに止められて、仕方ないから迎えに行ってもらった』そうです」

 雪乃は俯いて、もじもじしている。しかし古老の樹人も、周囲の樹人たちも、揃ってしきりに頷いている。

「つまり、ユキノちゃんは樹人のお姫様で、この樹人たちはユキノちゃんを迎えに来たってこと?」

 真っ赤に染まった雪乃の代わりとばかりに、樹人たちは大きく頷いた。バッサーと葉が落ちて、辺りは色取り取りの絨毯が敷き詰められている。
 今日一日で、この辺りには小高い丘ができそうな勢いだ。
 ノムルは風魔法で山高帽やローブに積った落ち葉を落とし、埋もれた足を引き抜く。面倒だが放っておくと完全に埋まりかねない。

「ということは、この古木はユキノちゃんの親を知っているってこと?」

 ノムルの問いに、樹人たちは一斉に幹を傾げた。
 樹上には揃って『?』が浮かんでいる。

「樹人は種から育つのですが、鳥や獣が遠くに運んで行ってしまうので、基本的に誰が親で誰が子かは、分からないです。根元で発芽した種は、幼木に育つ前に栄養の取り合いで負けてしまいますし、よほど運が良くなければ、親子関係が分かる樹人は少ないそうです」
「じゃあ、どうしてユキノちゃんがお姫様って分かるの? そもそも、樹人のお姫様って何?」

 頭の冷えてきたノムルは、冷静になったがゆえに混乱し始めた。
 古老の樹人を見上げた雪乃は、話を聞いているうちに事態を理解して項垂れた。ふるふると震える雪乃を諭すように、古老の樹人は訥々と話し続ける。

「ユキノちゃん?」

 心配そうにノムルが声をかけるが、雪乃は答えない。
 ぎゅっと枝を握って、何かに耐えているようだ。

「ユキノ……」

 ノムルは雪乃の頭を包み込むように胸に引き寄せた。

「大丈夫だよ。俺が守ってあげるから」
「ノムルさん……」

 優しい声に、雪乃は震える視界を上向けた。見慣れた顔が、優しく微笑んでいる。
 いつものどす黒い笑顔ではなく、白い笑顔だ。
 そして、それをぶち壊すブオオォォォーーッという絶叫と暴風が、二人に注がれた。

「……」

 白い笑顔は一瞬で黒く染まった。
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