『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

119.売れば良いじゃん

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「普通に馬車を買おうか? ここならウサウマやパピパラも手に入りやすいし」
「これからも旅は続くわけですから、それも良いと思いますが、最後まで世話ができるでしょうか?」
「え? そんなの売れば良いじゃん」
「……」

 雪乃はじろりとノムルを見上げた。

「え?」

 この世界では必要な時に動物を買い、不要になれば売るというのが一般的だ。
 裕福な生活をしている一部の人間はともかく、そうでない人々にとって、動物は家族や愛玩用ではなく、財産なのだ。

「納得はいきませんが、受け入れましょう。手放すことになっても処分するわけではなく、次に必要としてくれる人に譲渡すると考えれば、受け入れられます。良い人を探します!」

 ぐっと力を込める雪乃に、ノムルも受付嬢もちょっと引き気味だ。

「まあ納得してくれたなら良いや。んじゃあ、見に行こうか」
「はい!」

 そうして冒険者ギルドを後にしようとしたのだが、傍らで話を聞いていた冒険者に呼び止められた。
 二十代前半ほどの、茶色い髪の男だ。

「馬車を自分で調達するつもりか?」
「ん? まあね」

 面倒くさそうに、ノムルは答える。

「余所者らしいから一応言っておくが、マロン山に向かうには、パピパラは使えないぞ?」 
「何でさ?」

 不思議そうにノムルが首を傾げれば、男は分かりやすく太い溜め息を吐いた。
 ノムルの口角がぴくりと跳ねる。

「駄目ですよ、ノムルさん。えっと、それはパピパラさんが山には向かないということでしょうか?」

 沸点の低いノムルを抑えてから、雪乃が冒険者の男に向き合う。
 男は少し目を見開いたが、ノムルと雪乃を見比べて、雪乃のほうが話が通じると判断したようだ。腰を曲げて目線を近づけると、頷いた。

「そうだよ。パピパラは寒さに弱い。ブレメより北じゃ、弱って使えない」
「それは可哀そうなことをするところでした。教えていただきありがとうございます」

 雪乃は丁寧に幹を曲げる。
 事前に世話の注意点などの情報は得るつもりだったが、ここで教えてもらえたのは幸いだった。
 表情を和らげた男とは逆に、ノムルは不機嫌そうに顔をゆがめる。

「パピパラが駄目なら、ウサウマがいるじゃん。馬っていう手もあるし?」

 唇を尖らせるノムルを、男は冷めた目で見る。

「ウサウマは草食のせいか、おとなしいと勘違いしている人間が多いが、気性が荒い。気に入らない相手には決して従わないし、魔物を返り討ちにするような顎と脚力だぞ? 子供を襲った例もあるし、こんな小さな子供がいるなら避けるべきだ」
「ユキノちゃん、馬車を買うのは最終手段だ。依頼以外でも、マロン山に向かう馬車がないか探してみよう。最悪、歩いて行けば良い」

 雪乃が襲われるかもしれないと聞いて、ノムルの態度は一変した。
 何度も食べられていることを思い出した雪乃にも、否やはない。

「ノムルさんにお任せします」
「了解」

 話が決まったところで、

「あのう」

 と、別の男が声をかけてきた。
 雪乃とノムルは揃って振り返る。
 丁寧な物腰の、面長の男が立っていた。ここがブレメの町であることを考慮して、ロバ面というべきだろうか。
 受付嬢とパピパラたちの件で声をかけてきた男は、少し驚いた顔をしている。
 なんとなく、男の正体に気付きつつ、雪乃はノムルの顔を見た。ノムルは「よく気付いたね」と言いたげに、にやりと笑む。やはり合っているようだ。

「私は当ギルドのマスターをしています、ロック・バーバーと申します。少し奥でよろしいでしょうか?」

 雪乃とノムルは頷いて、ロックの後ろを付いていく。
 冒険者ギルドを訪れるたびに、ギルドマスターの執務室に呼ばれている気がするが、それにも慣れてきた雪乃だった。
 部屋の扉を閉め、防音魔法を展開したロック・バーバーは、二人にソファを勧める。
 自らも対面に腰を下ろし、ようやく本題に入った。

「念のため、魔法ギルドの認定証を見させていただいても?」

 ノムルはわずかに顔をしかめたが、空間魔法から虹入りの金属片を取り出し、ロックに見せた。

「確かに、至高にして孤高の魔法使い、ノムル・クラウ様で間違いございません。失礼いたしました」

 ロックは虹色の金属片を受け取ることなく、一瞥しただけで丁寧に腰を折る。

「わざわざこっちの確認をするってことは、面倒な依頼を押し付けられるのかな?」

 険を顕わにした言葉にも、ロックは苦笑をこぼすだけで、柔和な表情を崩すことはない。

「お察しの通り、Sランク冒険者のみに依頼される、国家機密にも等しい内容です。しかしノムル・クラウ様でしたら、充分にその資格はおありかと」
「回りくどいことは良いよ。何をさせたいのさ?」

 柔和な顔のロックに対し、ノムルは不機嫌そうに頭を掻いた。ロックはにっこりと笑む。

「現在ドューワ国に、アイス国の要人が滞在しておられます。明後日、アイス国へ向けて帰国される予定ですが、その護衛をお願いいたしたいのです」

 ノムルの表情が真顔になり、ロックを見つめる。
 流石のノムルも、王族や貴族が相手となると緊張するようだと、雪乃は微笑ましくノムルを見つめる。

「……。ユキノちゃん、その視線やめて?」
「なぜでしょう?」
「何か誤解されている気がする」

 眉根を寄せて顔を向けるノムルに、雪乃はふふっと笑う。

「恥ずかしがらなくても大丈夫ですよ。人間とは、身分に反応するものです」
「いやいや、やっぱり何か誤解しているでしょ?」
「ふふ」

 げっそりとした顔を、ノムルはロックに戻した。

「そんな相手の護衛を、冒険者に依頼して良いの? それに帰国っていうことは、すでに充分な護衛を連れてきてるんだよね?」

 探るような視線を向けるノムルに、ロックも息を吐く。

「さてさて。しかし念には念を入れてという言葉もございます」
「こちらが意思を示さない限り、詳細は明かさないってことか」
「国のことですので、ご理解くださいますようお願いいたします」

 ロックはあくまで低姿勢を崩さない。
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