『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

120.こういう仕事は

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「アイス国に着いてからの行動に制限は?」

 依頼を受けるべきか見極めるため、ノムルは質問を続けた。

「依頼はドューワ国からアイス国へ向かう道中のみ。アイス国での滞在におきましては、特に依頼は受けておりません」
「了解」

 確認を終えたノムルは、こちら側の条件を伝える。
 まず第一に、こちら側の事情は追求しないこと。そして――

「ねえ、ユキノちゃん?」
「なんでしょう?」

 ノムルの口調になんだか嫌な予感を覚えて、雪乃は警戒する。

「俺の経験から、こういう仕事は制服を支給される場合も多いんだ」
「……。お断りします」

 雪乃は樹人。姿を晒すことはできない。
 人間用の制服など、着れるはずがないのだ。それはノムルも良く知っているはずだった。
 だがしかし、

「ええー? ユキノちゃんのメイドさんが見たいなー」
「断固、お断りします! そもそも、グレーム森林でやったじゃないですか。あれで充分です!」

 コスプレに目覚めてしまったのか、あるいは元からなのか、ノムルは雪乃に対してメイド役を強く希望した。

「あれは偽者じゃないか。今度は本物だよ? それにドューワ国の服はデザインが良いって、女性に人気なんだよ?」
「どこ情報ですか? それに同行するのはアイス国です」

 怒った様子の雪乃と、へらへらと笑う変態を前に、置いてけぼりのロック・バーバーは、静かに紅茶を嗜む。
 本日は南方から取寄せた香り豊かな渋みのある紅茶に、ミルクをたっぷり入れた、スパイシーでありながらマイルドなお茶だった。

「それでは冒険者の事情に踏み込まないこと、制服の強要はしないこと、この二点を確認後に、改めてご返事を頂くということでよろしいでしょうか?」

 華麗なスルーで、できるギルドマスター、ロック・バーバーは話をまとめた。

「えー? 後半は要らないのにー」
「よろしくお願いします」

 不満そうなノムルは置いておき、雪乃は丁寧に幹を曲げる。
 思わずといった様子で苦笑をこぼしたロックは、さらに話を進め、アイス国についても説明してくれた。

「アイス国は氷の国で、食べ物も全て凍っています。滞在中の食料は、ドューワ国で用意していったほうがよろしいでしょう。護衛中は依頼主のほうで準備はしてくださりますが、到着後は、その恩恵には預かれないと考えておいてください」

 北欧のあの山をイメージしていた雪乃だが、どうやら北極や南極のような環境らしい。
 雪乃はおもむろにノムルを見る。
 冬山の移動は危ないと言われて納得したが、春までの数ヶ月、氷の国で暮らせるのだろうかと、不安になってきた。
 視線を感じたノムルが、へらりと笑う。

「大丈夫だよ。ユキノちゃんの周りはちゃんと、暖かい空気で包んでおくから」
「……」

 心強い言葉だが、これはノムルの側を離れたとたんに、うっかり冬眠しかねない。つまり、雪乃はノムルの側から離れられないということだ。
 まだ寒くはないのに、雪乃はふるりと震えた。

「では話を通して見ますので、明日、また来てください」
「了解」
「よろしくお願いします」

 ぺこりと幹を曲げる雪乃にほほ笑み、ロックは二人を見送る。
 冒険者ギルドを後にした雪乃とノムルは、必要なものを揃えるために、町へと繰り出した。

「土はグレーム森林で確保しておいたけど、水も欲しいよね?」
「そうですね。凍りそうですけど」
「解かすから大丈夫だよー。まあ、空間魔法に入れておけば、凍ることはないけど」

 必要なものが少々おかしいが、気にしてはいけない。なにせ雪乃は樹人。人間とは必要とするものが違うのだから。

「ノムルさんの準備もちゃんとしてくださいね」
「俺のことを心配してくれてるの? ユキノちゃん、優しー」

 雪乃の物ばかり気を回しているノムルに、感謝しながらも釘を刺したのだが、なぜか抱きつかれて頬擦りされた。

(解せません。最近のノムルさんは、別のネジも吹っ飛んでいる気がします)

 枝でノムルの頬を押し返しながら、雪乃は眉間に葉を寄せた。
 ローブ越しとはいえ、細い枝が突き刺さって頬がくぼんでいるが、ノムルに気にする様子はない。

「恥ずかしがりやだなー。ユキノちゃんは。もっとお父さんに甘えても良いんだよー?」

 トチ狂った台詞が脳ミソを震わせ、雪乃の幹がゆっくりと回る。

「……。いつからノムルさんが、私のお父さんになったのでしょうか?」

 確かに時折、そんな設定を提示されることはあるが、雪乃はその度に断わっていたはずだ。
 納得のいかない雪乃に、ノムルはきょとんと目を見張る。それから、

「えー? グレーム森林でー、樹人と会わないって決めた後に、言ったじゃん。『おとーさん』って。恥ずかしそうに可愛い声でさー」

 デレデレと両手を頬に当てて、軟体動物のように揺れた。
 雪乃はおもむろに空を見上げると、自分の記憶を引っ張り出す。
 樹人に会わないと決めて、女性冒険者と別れて、森の外へと向かって進み出して……。

「言ってないと思いますよ?」
「恥ずかしがらなくていいんだよー。ノムルさんは、いつでも雪乃ちゃんのお父さんになってあげるからさー」
「いえ、本当に」
「……」

 デレ親父は沈黙した。
 じいっと注意深く観察してみても、雪乃に言葉を偽っている気配はない。
 ぽてんっと幹を傾げた雪乃は、本気で憶えていないようだ。

「どういうこと?」

 ノムルは顎に手を当て、眉間に皺を寄せる。今までに見せたことのない、真剣な表情だった。

「そもそも、そんなことを言うような状況じゃなかったですよね? 同胞たちのテンションの高さに、正直、ドン引きでしたから」
「……あ。まさか……」

 ノムルに衝撃が走る。
 あの異常なハイテンション、繰り返されるドサドサバッサーの訳の分からなさ。
 直前にあったことなど、普通の人間ならば、記憶から吹っ飛ぶほどの衝撃だった。

「樹人どもめ!」
「ちょっ?! ノムルさん? どうしていきなり魔王が降臨するんですか?!」

 慌てふためき諌める雪乃の前で、魔王ノムルは怒りの炎に包まれていた。
 
「お、落ち着いてください。今度は何で怒っているんですか?!」

 こんな街中で魔法をぶっ放されたら、洒落にならない被害を出しかねない。どうにかして抑えなければと、雪乃はノムルのローブを掴み、怒りの原因を尋ねる。
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