『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ドューワ国編

127.食道の辺りに空間魔法が

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 日が暮れだすと、テーブルを埋め尽くす豪華な夕食が運ばれてきた。台車の上にはまだまだ載っているようだ。
 雪乃は一つ一つ、じっくりと観察する。
 そしてノムルは、次々と口に放り込んでいく。
 毎度のことながら、見事な食べっぷりである。きっと食道の辺りに空間魔法が仕込まれているのだろうと、雪乃は推測している。
 西洋芥子をたっぷり付けた腸詰肉が、パキンッと軽い音を立て、口の中へと入っていった。
 雪乃の視線が強くなっていることに気付いたノムルは、腸詰肉に添えてあったキャベツらしき野菜の塩漬けをとって食べる。

「すっぱ。酢漬け?」

 ソーセージなどに添えられているザワークラウトは、その特徴である酸味からか酢漬けと勘違いする人もいるが、キャベツの千切りを塩漬けにして発酵させたものである。
 ノムルはパンを手に取り、そのままかぶりつく。残念ながら、パンは白かった。
 ドューワ国の様子から某国をイメージしていた雪乃は、黒パンを期待していたのだが、城の料理には使われていないようだ。
 あちらの世界でも黒パンは庶民の食べ物で、王族貴族が口にすることは無かっただろうが。

 黒パンは小麦ではなく、ライ麦から作る。発酵にも、ライ麦から作るサワー種が使われる。
 独特の酸味があるため口に合わないと言う日本人が多い。初めて食べる際は注意が必要だ。
 ちなみ一部で言われているほど硬くはない。
 本場の小説などに出てくる硬いとされる黒パンは、保存性を高めるために乾燥させたもので、保存状態が良ければ半年以上も保存できる。
 とはいえ食べ頃の黒パンも、日本のふんわりパンに比べれば、ずっしりと食べ応えがあるし、よく噛む必要はあるが。
 チーズやハーブを乗せて焼いて食べるのも美味しいが、過発酵気味に寝かせて焼いた、味の濃い黒パンを食パンに挟んだ、パンinパンも美味しい。

 それはさておき、雪乃は周囲の空気がおかしいことに気付く。
 侍女も執事も、顔を曇らせて雪乃をちらちらと見ているではないか。
 もしや何か失態を犯してしまったかと、慌てて自分の言動を振り返る。

「ユキノ様、先ほどからまったくお召し上がりになっておられませんが、お口に合わないのでしょうか?」

 どうやら違ったようだ。
 ほっと胸をなで下ろしつつも、誤解の無いように訂正する。

「御気になさらないでください。私は基本的に食事は見て楽しむ派なので」
「はあ」

 納得はしていないようだが、とりあえず引いてくれた。流石は王城に使える従者達だ。
 食事を終えると、ノムルは早々に人払いをしてしまう。

「さってと、ここは森に囲まれているし、ユキノちゃんもゆっくり眠れそうだね」
「そうですね」

 雪乃とノムルは顔を見合わせて、にっこりほほ笑む。
 ノムルは窓を開けると、雪乃を抱えて外に飛び出した。四階だが彼には関係ない。ふわりと着地して、森の中へと消えていく。

「おやすみ、ユキノちゃん」
「おやすみなさい、ノムルさん」

 暗い森の中、雪乃は地面に根を張り、視界を閉じた。
 そして出発の朝、雪乃とノムルはもう一人の同行者、マーク王子殿下を紹介された。
 サラサラキラキラの金色の髪に、整った顔立ち。眠り病を患っているため、伏せられたまぶたの下の瞳は見えないが、碧色の美しい瞳だという。
 眉目秀麗、金髪碧眼、そして王子様の必須アイテムであるカボチャパンツを穿いた、ザ・王子様だった。
 ただし気になる点が二点。
 ベッドに横たわっていると思っていたマーク王子は、なぜか立ち姿だった。氷漬けにされて。

「アイス国の王族は、氷魔法の名門でもあるからねー」

 どうやら病気の進行を止めるために、リリアンヌ王女が凍らせたらしい。決して喧嘩した腹いせでも、雪女だった訳でもない。
 低体温で命を落とすのではないかと心配したが、問題ないとのことだった。
 そしてもう一つ。マーク王子は十八歳だと聞いていたのだが、氷の中にいる王子はどう見ても、

「子供に見えるんだけど?」

 とノムルが指摘したとおり、身長も顔も、小学生の低学年くらいにしか見えなかった。

「ええ。可愛らしいでしょう? 子供の頃から、大人になったら私よりも大きくなると仰っていたのですけど、十八になってもこのお姿ですの」

 ふふっと、リリアンヌ王女は左手を頬に当て、朗らかにほほ笑む。

「ですが殿方は、このお年になっても急激に成長することもおありとか。困りましたわ。……やはりこのまま……」

 眉を下げた顔も美しいが、最後の呟きは国際問題にならないだろうかと、雪乃は肝を冷やした。
 しかし、

「まったく仰るとおりです」
「永遠にこの愛らしいお姿でいてほしいですわ」

 ドューワ国側も、同じ意見らしい。
 思わず雪乃は、マーク王子に同情の目を向けてしまった。

「何でじっと見てるの? まさかユキノちゃん、こんな子が趣味なの?!」

 ノムルの焦ったような声に、一斉に視線が雪乃へと集まる。リリアンヌ王女は口元を手で押さえ、目が潤んでいる。

「ご安心ください。人のものに手を出す趣味はありません。そもそも人間の雄には興味ありませんから」
「「「……」」」

 きっぱりと雪乃は否定したのだが、なぜか沈黙が落ちた。

「ま、まあ、ユキノ様くらいのお年でしたら、そういうこともありますわよね」
「そうでございますわね。私の妹も、小さい頃はパピパラと結婚するのだと申しておりましたもの」

 ほほほほほと、リリアンヌ王女や侍女たちは淑やかな笑い声を上げる。 

「え? ユキノちゃん、パピパラが好きなの?」
「否定はしませんが、私のタイプはハシビロコウさんです」
「誰?!」

 すぐさまノムルは確認した。
 雪乃はドキュメンタリー番組で見た鳥の姿を思い出し、うっとりと頬に手を添える。

「あの喧嘩を売っているかのような厳つい目つき。よく飛べるな?! とつっこみたくなる、大きな頭とくちばし。そして魚を獲るときに見せる、見事な腹打ちならぬ顔面打ち。あれほど素晴らしい男は、人間にはいないでしょうね」
「いや、それ褒めてるの? どの辺が良いのか、おとーさんにはさっぱり分からないよ?!」
「彼の魅力が分からないとは……」

 やれやれと、雪乃は頭を左右に振る。

「俺が悪いの? たぶん、誰も分からないと思うよ?」

 ノムルは文句を垂れているが、雪乃は取り合わない。居合わせた従者達がノムルに同調しているが、雪乃の目には映っていなかった。

「理不尽だ」

 ぽつりと、ノムルはこぼした。
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