『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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北国編

134.謹んでお願い申し上げます

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「いいえ。しかしこれをここで取るわけにはいきませんので、どうかお見逃しくださいませ」
「……。それは私を信用できぬということか?」

 鋭い眼光が、びしびし刺さってくる。
 深く息を吐き出した雪乃は、はっきりとした口調で答える。

「たとえ女王陛下が私めをお認めになり、守ると仰ってくださったとしても、陛下が貴国を背負われておられます以上、難しいであろうとお答えします。どうか私の素性をこれ以上は探られませぬよう、謹んでお願い申し上げます」

 雪乃は深く頭を垂れた。
 本音を言えば、隣で厭きてきている魔法使いが城をぶっ飛ばしかねないので、これ以上の追求はやめてくださいという気持ちもあるのだが、流石にそれは口に出せない。
 女王は氷の扇に口元を隠し、雪乃を見つめる。
 ぱちりと音を立てて扇子が閉じた時には、笑みが浮かんでいた。

「よかろう。確かにユキノ様の申すとおり。国を背負うておる以上、無闇に約定するわけにはいかぬ。それに」

 と、女王は開いた扇に口元を隠し、ノムルに視線を移す。

「我が国を、かの国の二の舞にするわけにはいかぬからのう」

 含むような言い方に、雪乃は思わず視線を上げる。
 女王の表情は見えなかったが、横に向けて映ったノムルの口元には、苦々しい笑みが浮かんでいた。

「依頼は完了だ。もう良いだろう? こんな所に立たされて、俺も限界なんだよね」

 言葉遣いこそはいつもと変わらないが、声はいつもより低い。謁見の間の空気が、零度を下回りそうだ。

「これは失礼をしました。心ばかりの御礼ですが、晩餐の用意ができておりますゆえ、そちらに案内させましょう」
「落ち着ける部屋を用意してくれれば、それでいいよ。化かし合いの相手は面倒だ」

 女王の口端が、ぴくりと跳ねた。



「ノムルさん、女王様にあの態度は良くないですよ? 不敬罪で捕まったらどうするんですか?」

 謁見の間を出ると、雪乃は隣を歩くノムルに咎めるような視線を送る。
 二人は今、客室へと案内されていた。

「そりゃーもちろん、逃げるさ」
「逃亡生活なんて、面倒なだけですよ? 隠れないといけないし、精神的に疲れるし」
「注意すべきはそこなんだ?」

 ノムルはくつくつと笑う。
 反省の色も見えないノムルに、雪乃はげんなりと肩を落とした。頭に乗っているぴー助を抱きかかえると、咽元を撫でてやる。

「聞かないのかい?」
「何をでしょう?」
「俺が何をしたのか」

 女王の言った、かの国で起こしたことだろうことは、雪乃も分かる。それが道中で出会った人たちどころか、王族までがノムルを特別視する理由の一つであろうことも。

「話したいのなら、聞きますよ?」
「うーん、別に良いかなー」
「だったらいいです」

 雪乃は素っ気なく答える。それに対してノムルは苦笑した。
 ちらりとうかがい見れば、ノムルはいつもよりも元気がないように見える。

「ノムルさんが仕出かすことなんて、どうせ碌なことではありませんから」
「うわ、ひどっ!」
「事実です。ここまでで、どれだけ騒ぎを起こしてきたと思っているんですか?」

 はふうっと、雪乃は盛大に息を吐く。
 建物被害だけでも、冒険者ギルドを三件、吹き飛ばしている。竜巻を起こしたり、雷を発生させたり、もはや天災級だ。
 だがそのどれも、ノムルにとっては軽くデコピンをした程度なのだろうと、雪乃は見ている。
 もしも彼が本気で怒りに染まり、我を忘れることがあれば、以前、彼が口にしたとおり、国ごと滅ぼしかねないのだろう。

「一つだけ、約束していただけますか?」
「なーに?」

 ちょうど客室に到着したようで、案内をしていた執事の足が止まる。氷の扉が、ゆっくりと開いていく。

「自ら望んで命を奪うことだけは、避けてください」

 雪乃は案内された部屋の中へと足を踏み入れる。
 ノムルはとっさに反応できず、雪乃の背を見つめていた。部屋へと入った雪乃も足を止めて振り向く。

「あ、食べるためとか、生きるためは別ですよ? まずはノムルさん自身を大切にしてください」

 にっこりと、雪乃は笑う。もちろん、その表情はノムルからは見えない。例えフードを外していても、人間には分からないだろう。
 それでも、ノムルには雪乃が笑っている姿が見えた気がした。

「ほら、そんなところに突っ立っていると、執事さんが扉を閉められなくて、困っていますよ?」

 雪乃は廊下へと戻り、ノムルの手を引く。引っ張られるまま、ノムルも部屋へと入った。
 その顔には、穏やかな笑みが浮かぶ。

 客間に用意された調度品も、やっぱり氷でできていた。
 透明な椅子に、厚手の絨毯に似た、ふかふかのカバーが掛けられている。雪乃とノムルが座ると、侍女がお茶を運んできた。
 ガラスのティーカップに注がれている紅茶には、気泡を含まない、透明な氷が浮かんでいる。さすがアイス国、氷の質が良い。
 それはさておき、

「……」

 雪乃は思った。

(人間でなくて良かった)

 氷の城でアイスティーを飲まされるなど、どんな罰ゲームだろう。お腹が痛くなりそうだ。
 ちらりと見れば、ノムルは平気で飲んでいる。氷もばりぼり食べている。
 ノムルの魔法で寒くはないとはいえ、ずいぶんと頑丈なお腹をしているようだ。
 何も見なかったことにして、雪乃は部屋の中を観賞することにした。
 壁も柱も天井も、やはり氷でできている。柱には雪の結晶をモチーフにした彫刻が施されていて美しい。
 床は絨毯が敷かれ、直接氷に触れることはなさそうだが、それでも寒そうだ。
 壁際に飾られた彫像も、もちろん氷。
 棚の上には花が活けられているが、花瓶はもちろん氷で、花も凍っている。中の水がどうなっているかは見えないが、おそらく、凍っているのだろう。 
 扉の空いている奥の部屋には、寝台が見える。もちろん、寝台も氷製だ。布団は布だが、温かく眠れるのかは疑問が残る。
 観光には面白そうだが、永住はしたくない部屋だと雪乃は判定を下した。

「食事のほうも、こちらにお運びしたほうがよろしいでしょうか?」
「うん、そうして」

 折角女王が食事の席を設けくれていたというのに、ノムルはさっさとそれを断わってしまっている。
 王族同士ならば国際問題、身分の低い者であれば不敬罪に問われるはずだが、ノムルはそのどちらにも該当しないようだ。
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