『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
97 / 385
北国編

149.飲み物はセルフで

しおりを挟む
「ムダイだ。いるかい?」

 木製の扉を人差し指と中指の背で軽く叩き、声をかける。室内から声が届き、杖が床を突く音がわずかに響いた。

「お久しぶりです、ムダイさん。どうぞ入ってください」

 扉が開いて顔を見せたのは、フレックだった。女性には色気を醸し出して籠絡していくのに、ムダイには子犬のように素直な笑顔を見せる。
 その笑顔に陥落される女性も多いのだが、二人は気付いていない。
 わずかに視線を下げたムダイの眉間に皺が寄る。フレックも苦笑をこぼした。

「立ち話もなんですから」
「ああ、お邪魔するよ」

 男二人が戸口の中へと消え、ぱたりと扉が閉まる。

「驚いたでしょう?」

 テーブルを囲む椅子の一つに腰を下ろしたフレックは、そう言って笑った。その顔が以前と変わらぬ爽やかなもので、ムダイは逆に違和を感じる。

「あ、飲み物はセルフでお願いできますか? どこかに飲みに行っても良いですけど」
「いや、勝手に入れさせてもらうよ。フレックも飲むだろう?」

 キッチンに向かいながら声をかけて、ムダイはしくじったと後悔した。
 フレックは両腕が無くなっていた。お茶を用意したところで、一人で飲めるのだろうか?
 顔色を悪くしたムダイだが、幸いにも背を向ける格好になっていたため、フレックには見えてないようだ。すぐに表情を繕う。

「じゃあ、お願いしても良いですか? 俺のカップは二段目の棚の、赤いのでお願いします」
「分かった」

 幸いにも、フレックは気付かなかったようだ。お茶を勧めることも問題なかったようだと、ほっと胸をなで下ろす。
 ムダイは湯を沸かしてお茶を用意する。
 お茶を入れたフレックと自分のカップを持ち、ムダイはテーブルに戻った。

「すみません、もう少し近くに置いてもらえますか?」
「ああ、すまない」

 何気なく置いたカップを、フレックは近付けるように頼む。手が使えないのだから、直接口を付けて飲むのだろうと、ムダイは言われるままに近づける。

「ありがとうございます」

 予想通り、フレックはカップを手に持つことなく、唇を近付けて啜った。
 フレックが指定したカップは、木製の下部分が弧を描いているカップだった。不安定な形に見えたが、実際に使っているところを見ると、起き上がりこぼしのように傾けてもすぐに立ち上がることに気付く。
 これならば、倒してこぼすこともないだろう。
 手足の欠けた姿を見たときは衝撃だったが、案外、無ければないでどうにかなるようだと、ムダイは安堵した。
 実際は色々と大変なのかもしれないが。

「最初はきつかったですよ。何で助けたんだって、ナルツやマグレーンたちを怒鳴りつけたかった。ここへは戻らずに、どこかへ消えてしまいたいって、本気で思ったくらいです」

 心を読んだかのように紡ぎ出された言葉に、ムダイは目を見開く。

「けど、ある人の話を聞いてたお蔭で、開き直れたんですよ。俺も、他のメンバーも。……まあ、ナルツはまだ、燻ってるみたいですけど」

 フレックは困ったように笑う。そして、

「それで、何か用があったんですよね? 見舞いだけじゃないんでしょう?」

 と、鋭い眼差しをムダイに向けた。

「ああ」

 瞬時に表情を改めたムダイは、フレックの眼差しに頷き、用件を切り出す。

「ノムル・クラウと共に行動したと聞いた。そのとき彼と共にいた、子供について教えてほしい」

 いつも素直なフレックの目が、探るようにムダイを刺す。その視線を隠そうとしないのは、それが無駄だと理解しているからだろう。

「なぜですか?」

 警戒の濃さに、ムダイは口許に弧を描く。
 ノムル・クラウが連れていた子供がただの子供であれば、この反応は異様だ。つまりその子供には、何かがあるということになる。
 フレックが信頼できる人間と分類しているはずのムダイに対してまで、ここまであからさまに警戒することを加味すれば、それは秘匿すべきことだと察せられる。
 冒険者ギルドで聞いたノムル・クラウの言動も考慮すれば、その秘密はムダイが探していたものに違いないだろう。
 可能性は、確信へと変わる。悪い方向で。
 笑みを消したムダイは、鋭く切り込む。

「単刀直入に聞く。ノムルさんと一緒にいた子供は、人間ではなかったのではないかい?」

 フレックの瞳孔がわずかに揺れたのを、ムダイは見逃さなかった。

「何を言っているんですか? 人間じゃないなんて……。ああ、獣人とかエルフを疑っているんですね?」

 いつもの人懐っこい笑顔を浮かべたフレックに、先ほどの動揺は欠片もない。
 だがその言葉が偽りであり、何かを誤魔化そうとしていることを、ムダイは見抜いていた。そしてそれは、ムダイが導き出した答えに対して、肯定を意味するということも。

「隠さなくて良い。正直に答えてくれ。そいつの種族は何だ?」
「いやっすねえ、そんなの人間に決まってますよ。確かにフードを被ってましたけど、獣人やエルフなんて、そうそういるわけ」
「フ・レ・ッ・ク?」

 威圧のこもった声に、フレックの笑顔が固まる。
 にっこりと笑うムダイは、今までフレックが見たことのない、黒い笑顔を浮かべていた。あの魔王のように。
 魔王ムダイは、ふうっと息を吐くと、黒いオーラを霧散させた。

「誤解しているようだから、こっちから話すね。君を信じて口にすることだから、決して他言はしないと約束してほしい」

 真摯な瞳を向けられて、フレックも表情を引き締めて頷く。

「僕が『プレイヤー』を探していることは知っているね?」

 フレックは頷いた。
 ネーデルの冒険者ギルドの掲示板に貼られた、数多の依頼。その中に、長く貼り出されたままの依頼があった。
 『プレイヤー』という言葉に関する情報を求めるという、それだけの依頼。
 凶暴な魔物を相手にする必要も無く、ただその言葉の意味を伝えれば良いだけの、安全で楽な依頼。そう考えた冒険者たちは、その依頼に殺到した。
 その結果、全員がボコボコにされて、『手を出してはいけない依頼』と、危険視されるようになった依頼だ。
 その謎の言葉に関する情報提供を依頼した者こそ、ムダイだった。

「ノムルさんと一緒にいる子供は、『プレイヤー』である可能性が高いと僕は見ている」
「どういうことですか? そもそも、『プレイヤー』って何なんですか? 仮にそうだとして、あの子をどうするつもりですか?」
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...