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北国編
151.ある意味徹底していて潔い
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「で、何作ってるのー?」
「シュークリームですよー。結婚式には、シュークリームの山を作って、お祝いするという習慣もあるのですよ」
シュークリームはキャベツに似ていることから、キャベツを表すシューとクリームをあわせて名付けられたという説がある。
ヨーロッパの中には、子供はキャベツ畑から生まれるという話もあり、子宝や豊作を祈ってウェディングケーキに用いられることがある。
アイス国のお菓子はシャーベットや果実氷など、ともかくアイス系だ。ある意味徹底していて潔い。
けれど夏ならば美味しいと喜んで食べれるが、冬の氷の城で食べたいものではない。
実際、賓客は少ししか食べていなかったそうだ。
砂糖は貴重品らしいので手に入らなかったが、甘い樹液があるという。しかし雪乃は、樹液の使用を断わった。
木に開けられた穴に、中が空洞になっている筒を差し込んで、何日も掛けて樹液を取り出す。その光景は、樹人にはかなり衝撃的な光景だった。
雪乃は激しくふるふるした。
そんなわけで、ポポポの実を利用している。
ポポポの実はリンゴのような香りを撒き散らしながら、バナナのような甘みと、カスタードクリームのような食感を持つ果物だ。
熱帯の果物に見えるが、一度雪に埋まらないと発芽しないという性質を持つ、温かい地域では育たない植物である。
そのポポポの実を丁寧に裏ごしし、過熱してさらに糖度を上げたものを、甘味料として使うことにした。
アイス国にしか育たないポポポの実を使うことで、この国の特色も出せる。
「カスタードクリームを作らずとも、ポポポの実をクリーム代わりに使っても良かったかもしれませんね」
などといいつつ、雪乃は手早くカスタードクリームを作り終えた。粗熱をとっている間に、シュー皮も焼けるだろう。
料理人たちは、雪乃の手元を鬱陶しいほどに凝視して、そのレシピを憶えようとしている。
「あ、私のレシピは分量が適当なので、後で改良を加えたほうがいいかもしれません」
「え?」
菓子作り担当の料理人が、思わずといった様子で声を上げた。
「全て目分量と勘です」
「え?」
菓子作りは分量が違えば、別の菓子になる。
小麦粉、卵、砂糖、油脂が基本の材料で、これらの割合を変えることで、クッキーになったり、スポンジケーキになったり、シフォンケーキになったり、カップ……まあ、色々と分岐するわけだ。
分量が重要ということで、一番分かりやすいのはパウンドケーキだろう。四つの材料が全て同量であることが、パウンドケーキと呼ばれる条件だ。
四種を合わせて一ポンドという説と、一ポンドずつ混ぜ合わせるという説に分かれるが。ちなみに使う油脂はバターである。
そんなわけで、レシピを憶えていないとまともに作れない菓子が多いのだが、シューとカスタードクリームは、これから少し外れる。
基本の分量はあるのだが、加熱しながら作るため、生地の状態を見ながら分量を調節する必要がある。
その為、作り慣れていれば多少分量がずれても何とかなるのだった。というより、火加減や調理時間で分量が変わってくる。
カスタードクリームに至っては、好みで配合を変えることが多い。
レシピ本もメモもないこの世界では、地球の菓子を作ろうとしても失敗する可能性が高い。しかしシュークリームならば、配合を憶えていなくても失敗しないだろうと、雪乃は作ってみせることにしたのだった。
呆然としている菓子職人は放っておいて、雪乃は粗熱を取ったカスタードクリームを濾していく。冷めてからも濾すと、より滑らかになる。
雪乃の趣味としては、滑らかよりぽってりしているクリームのほうが好きなのだが、王族貴族は舌当たりのよいほうが喜ぶだろう。ということで、丁寧に作っている。
「シュー皮は、サクッとしたい場合は、お出しする直前にクリームを詰めます。しっとりさせたい場合は、事前にクリームを詰めて寝かせます。これは好みですね」
焼きあがったシュー皮も窯から取り出し、粗熱を取っていく。
一度に全てクリームを詰めて、半分はこの場で、残りは夕食の後に食べてもらおうと、雪乃は算段をつける。
「クリームを詰めるときは、皮に穴を開けて注入する方法と、切込みを入れてクリームを絞り、蓋をする方法があります。他にも、こんな細工も可愛いですよ」
「ほう」
お城の料理に使うのだからと、雪乃は上下に切ったシュー皮の上側を、二つに切り割る。それを羽のように飾り付け、S字に絞って焼いておいたシューを前方に立てれば、白鳥の出来上がりだ。
一つを雪乃が作って見せると、後は菓子職人達が盛り付け始めたのでお任せする。
ちなみにカスタードクリームはまだ温かい。
日本では要冷蔵とされるシュークリームだが、すぐに食べるのであれば、冷やす必要はない。
そもそもここは氷の国。少しでも暖かい料理を提供するべきだろう。
冷めにくいカスタードは、そういう意味でもちょうど良かった。
「料理のほうですが、基本的には温かいものを。特にとろみの有るもの、辛味のあるものは、体を温めるので好まれると思います」
雪乃の言葉に真剣に耳を傾ける者がいる一方で、怪訝な様子で顔をしかめる者もいる。
「温かい食べ物を差し出すのは、侮辱行為に当たる」
アイス国では、温かい食べ物は『自分の体を守る魔力も持たない』という意味を持つらしい。そのため、王族や貴族の食べ物は冷たい物で、温かい食べ物は貧民の食べ物だという考えが根付いている。
なんというストイックな国民性。
「アイス国の文化を否定するつもりはありません。けれど異国から来る人々は、寒さに強くないのです。どうか弱さを受け入れてあげてください」
逆らうことなく、雪乃は下手に出る。
事実、雪と氷に閉ざされた国で生活することは、慣れていないときつい。温かな国から来た人間には、アイス国に入っただけで、体を壊しかねない寒さなのだ。
大体にして、王族であるリリアンヌ王女でさえ、移動の際は魔法使いを雇って温かくしているのだから。
雪乃の言葉に、料理人たちはしぶしぶと言った顔で頷いた。内心からは優越感がにじみ出ていたが。
そんな中でも、ノムルは安定のマイペースで、出来上がったシュークリームを頬張っていた。
「これって西のほうのお菓子だよね? クリームの味は違うけど」
どうやらシュークリームは、この世界にも存在しているらしい。
「ほう。ぜひ見物しなければ」
キラーンっと、雪乃の目元の葉が輝いた。
「シュークリームですよー。結婚式には、シュークリームの山を作って、お祝いするという習慣もあるのですよ」
シュークリームはキャベツに似ていることから、キャベツを表すシューとクリームをあわせて名付けられたという説がある。
ヨーロッパの中には、子供はキャベツ畑から生まれるという話もあり、子宝や豊作を祈ってウェディングケーキに用いられることがある。
アイス国のお菓子はシャーベットや果実氷など、ともかくアイス系だ。ある意味徹底していて潔い。
けれど夏ならば美味しいと喜んで食べれるが、冬の氷の城で食べたいものではない。
実際、賓客は少ししか食べていなかったそうだ。
砂糖は貴重品らしいので手に入らなかったが、甘い樹液があるという。しかし雪乃は、樹液の使用を断わった。
木に開けられた穴に、中が空洞になっている筒を差し込んで、何日も掛けて樹液を取り出す。その光景は、樹人にはかなり衝撃的な光景だった。
雪乃は激しくふるふるした。
そんなわけで、ポポポの実を利用している。
ポポポの実はリンゴのような香りを撒き散らしながら、バナナのような甘みと、カスタードクリームのような食感を持つ果物だ。
熱帯の果物に見えるが、一度雪に埋まらないと発芽しないという性質を持つ、温かい地域では育たない植物である。
そのポポポの実を丁寧に裏ごしし、過熱してさらに糖度を上げたものを、甘味料として使うことにした。
アイス国にしか育たないポポポの実を使うことで、この国の特色も出せる。
「カスタードクリームを作らずとも、ポポポの実をクリーム代わりに使っても良かったかもしれませんね」
などといいつつ、雪乃は手早くカスタードクリームを作り終えた。粗熱をとっている間に、シュー皮も焼けるだろう。
料理人たちは、雪乃の手元を鬱陶しいほどに凝視して、そのレシピを憶えようとしている。
「あ、私のレシピは分量が適当なので、後で改良を加えたほうがいいかもしれません」
「え?」
菓子作り担当の料理人が、思わずといった様子で声を上げた。
「全て目分量と勘です」
「え?」
菓子作りは分量が違えば、別の菓子になる。
小麦粉、卵、砂糖、油脂が基本の材料で、これらの割合を変えることで、クッキーになったり、スポンジケーキになったり、シフォンケーキになったり、カップ……まあ、色々と分岐するわけだ。
分量が重要ということで、一番分かりやすいのはパウンドケーキだろう。四つの材料が全て同量であることが、パウンドケーキと呼ばれる条件だ。
四種を合わせて一ポンドという説と、一ポンドずつ混ぜ合わせるという説に分かれるが。ちなみに使う油脂はバターである。
そんなわけで、レシピを憶えていないとまともに作れない菓子が多いのだが、シューとカスタードクリームは、これから少し外れる。
基本の分量はあるのだが、加熱しながら作るため、生地の状態を見ながら分量を調節する必要がある。
その為、作り慣れていれば多少分量がずれても何とかなるのだった。というより、火加減や調理時間で分量が変わってくる。
カスタードクリームに至っては、好みで配合を変えることが多い。
レシピ本もメモもないこの世界では、地球の菓子を作ろうとしても失敗する可能性が高い。しかしシュークリームならば、配合を憶えていなくても失敗しないだろうと、雪乃は作ってみせることにしたのだった。
呆然としている菓子職人は放っておいて、雪乃は粗熱を取ったカスタードクリームを濾していく。冷めてからも濾すと、より滑らかになる。
雪乃の趣味としては、滑らかよりぽってりしているクリームのほうが好きなのだが、王族貴族は舌当たりのよいほうが喜ぶだろう。ということで、丁寧に作っている。
「シュー皮は、サクッとしたい場合は、お出しする直前にクリームを詰めます。しっとりさせたい場合は、事前にクリームを詰めて寝かせます。これは好みですね」
焼きあがったシュー皮も窯から取り出し、粗熱を取っていく。
一度に全てクリームを詰めて、半分はこの場で、残りは夕食の後に食べてもらおうと、雪乃は算段をつける。
「クリームを詰めるときは、皮に穴を開けて注入する方法と、切込みを入れてクリームを絞り、蓋をする方法があります。他にも、こんな細工も可愛いですよ」
「ほう」
お城の料理に使うのだからと、雪乃は上下に切ったシュー皮の上側を、二つに切り割る。それを羽のように飾り付け、S字に絞って焼いておいたシューを前方に立てれば、白鳥の出来上がりだ。
一つを雪乃が作って見せると、後は菓子職人達が盛り付け始めたのでお任せする。
ちなみにカスタードクリームはまだ温かい。
日本では要冷蔵とされるシュークリームだが、すぐに食べるのであれば、冷やす必要はない。
そもそもここは氷の国。少しでも暖かい料理を提供するべきだろう。
冷めにくいカスタードは、そういう意味でもちょうど良かった。
「料理のほうですが、基本的には温かいものを。特にとろみの有るもの、辛味のあるものは、体を温めるので好まれると思います」
雪乃の言葉に真剣に耳を傾ける者がいる一方で、怪訝な様子で顔をしかめる者もいる。
「温かい食べ物を差し出すのは、侮辱行為に当たる」
アイス国では、温かい食べ物は『自分の体を守る魔力も持たない』という意味を持つらしい。そのため、王族や貴族の食べ物は冷たい物で、温かい食べ物は貧民の食べ物だという考えが根付いている。
なんというストイックな国民性。
「アイス国の文化を否定するつもりはありません。けれど異国から来る人々は、寒さに強くないのです。どうか弱さを受け入れてあげてください」
逆らうことなく、雪乃は下手に出る。
事実、雪と氷に閉ざされた国で生活することは、慣れていないときつい。温かな国から来た人間には、アイス国に入っただけで、体を壊しかねない寒さなのだ。
大体にして、王族であるリリアンヌ王女でさえ、移動の際は魔法使いを雇って温かくしているのだから。
雪乃の言葉に、料理人たちはしぶしぶと言った顔で頷いた。内心からは優越感がにじみ出ていたが。
そんな中でも、ノムルは安定のマイペースで、出来上がったシュークリームを頬張っていた。
「これって西のほうのお菓子だよね? クリームの味は違うけど」
どうやらシュークリームは、この世界にも存在しているらしい。
「ほう。ぜひ見物しなければ」
キラーンっと、雪乃の目元の葉が輝いた。
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