104 / 385
北国編
156.ともかく、真っ赤な
しおりを挟む
時間は少し遡る。雪乃たちはブレメに入ると、冒険者ギルドに立ち寄った。
受付に向かい、情報を貰っているときに、ギルド内の空気が変わったのだった。
奥の部屋から現れた青年に、冒険者たちの視線が集まっている。
「お久しぶりです、ノムルさん」
ノムルの近くまで来た青年は、にこりとほほ笑んで、声をかけた。
ざわりと、周囲の空気が震えた。緊張がひりひりと葉を揺らす。
現れた青年は、二メートルくらいありそうな長身で、動くたびに朱色のマントがたなびいた。真紅の鎧から溢れた肉体までも、硬く盛り上がる筋肉という鎧で覆われている。だがゴツいという印象は受けない。いわゆる細マッチョというやつだろうか。
腰ほどまで伸びる赤髪は、歌舞伎の獅子を思わせる。切れ長の目には緋色の瞳が埋まり、整った鼻筋の下には柔和な唇が笑みを描いているのに、隙がない。
品性を感じる顔立ちに、野性味も加わった青年には、男からはその鍛え上げられた肉体に、女からはその端整な顔立ちに、羨望の眼差しを注がれている。
一部の男たちからは、逆の視線も混じっているようだが。
ともかく、真っ赤な青年だった。
「久しぶりだねえ。竜殺しのムダイ」
ノムルの口からこぼれた二つ名に、雪乃は慌ててぴー助を抱きしめた。
その様子をみたムダイは、困ったように笑う。とたんに、女性陣から黄色い悲鳴が上がった。
数歩よろけたり、その場に座り込んでしまった女性までいる。
昭和のアイドル神話を現実で目の当たりにして、雪乃は思わずノムルたちを忘れて凝視してしまった。
「心配しなくても、人のものに手を出したりしませんよ」
「その言葉、忘れるなよ? ユキノちゃんとぴー助は、俺のものだから」
「それは忘れようがありませんね。ノムル・クラウのものに手を出すなんて、命が幾つあっても足りませんから」
口許に笑みを浮かべたまま鋭い眼光を向けるノムルに、ムダイは頬を掻く。
存在だけで威圧感が半端無い青年だが、どうやら敵意を向けているわけではないようだ。どちらかというと、ノムルが一方的に不快感を射出している。
「ところで、そちらのお嬢さんとお話がしたいのですが、少しお借りできますか?」
ムダイの目が、雪乃へと落ちる。
身を強張らせた雪乃を、ムダイの視線から遮るように、ノムルは背に押しやった。
「ふざけんな。俺の娘に手を出そうなんて、百年早いんだよ」
ぴくりと、ムダイの眉が跳ねる。
「ノムルさんの娘さん? ご冗談を。それと誤解しないでください。僕に幼女趣味はありませんから」
にっこりとほほ笑むムダイに、女達から黄色い悲鳴が上がった。
いや、訂正しよう。男も混じっていた。
逆に高ランクと思しき冒険者たちは、警戒を強めている。
竜種を一人で討伐するような、Sランクの中でも更に規格外の冒険者だ。彼がその気になれば、止められる者はいないだろう。
まだ温和な空気をまとっているが、相対している正体不明の魔法使いの態度は、いつ彼の怒りに触れてもおかしくない。
ならば原因となりそうな魔法使いを咎め、謝罪させれば良いはずなのだが、こっちはこっちで、何だかえげつないオーラを纏っている。
場数を踏んでいる者ほど、これは触れてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
微笑を浮かべるムダイと、完全に喧嘩腰のノムル。
二人の間には火花が飛び交い、一触即発かと思える緊張した空気が漂っている。
雪乃はうーんっと考える。
この状況に首を突っ込んでいくことは、さすがに控えたほうが良いと思った。けれど、どうやら相手の目的は、雪乃のようである。
そして、このままだとノムルが暴走しかねない。
「ギルド破壊四件目……」
半目になって遠くを見つめた雪乃から、呟きと共に白い何かが出てきた。
ふるりと震えた雪乃は、現実に戻る。
ここは空気を読まないと言われようとも、暴走を止めなければと、意欲を燃やす。
「ノムルさん、こちらの方は、どなたでしょうか?」
思い切って声を出した。
蚊の鳴くような、小さな声だったが。
「んー? ユキノちゃんは気にしなくていいよー? ただの戦闘狂の馬鹿だから」
にっこり笑って答えるノムル。
居合わせた冒険者やギルドの職員達は、心の中で盛大につっ込んだ。
「「「うをいっ!!」」」
目と口が動いているものもいるが、何とか声は出なかった。
「ひどいですね。まるで人を狂人か何かのように。ただの趣味ですよ」
「つまり、合ってるってことだろ? 魔物だとうと人間だろうと、強いやつがいると聞いたら喜んで飛んで行く」
「ですから、趣味ですって」
それが戦闘狂というものではないのだろうかと、雪乃は笑顔のムダイにつっ込みを入れたかった。
それはともかく、雪乃は引っかかったことを確認するため、ノムルのローブを引っ張った。
「何? ユキノちゃん」
「……」
魔王様はただの親ばかに戻った。
変わり身の早さに、思わず目が点になった雪乃だが、ふるりと幹を振って意識を戻す。
ノムルのローブを引いて、耳を貸してもらう。
「もしかして、駅弁さんですか?」
「そーそー。でも心配しなくても大丈夫だよ? コイツ、俺より弱いから」
「「「なにいっ?!」」」
一斉に上がった叫び声に、雪乃はびくりと跳ねて、辺りを見回す。
声を出さないよう、必死に耐えていた冒険者たちは、
「「「あ。」」」
と、我に返って両手で口を覆った。
まるで「自分は声を上げてませんよー」とアピールするかのように、そっぽを向いて、何事もなかったように振舞っている冒険者までいる。
「そうですね、今のところ全敗です。でも次は勝ちますから」
「言ってろ」
ムダイが笑顔で肯定したため、冒険者たちから目玉が飛び出しそうになっている。
けれどノムルは、冷ややかに返すだけだ。
「あのう」
と、雪乃は右枝を上げた。
「少しお話をしてきては駄目ですか?」
「え?」
予想外だったのだろう。
ノムルから再び宿っていた魔王が剥がれ落ち、高い声がこぼれた。
「ちょっと、ユキノちゃん? 説明したでしょう? こんな危ないやつと二人きりなんて、駄目だって。なにされるかわからないよ?」
思いっきりうろたえている。わたわたと手を動かし、泣き出しそうな顔で、雪乃を説得に掛かり始めた。
「ぴー」
「ほら、ぴー助だって、止めとけって言ってるだろう?」
涙目になって雪乃にしがみ付いているぴー助まで持ち出して、必死に止める。
「いや、あの、ノムルさん? 僕って、そこまで信用ないですか? 完全に変質者の立場みたいなんですけど?」
「みたいも何も、変質者だろう?」
「え?」
ムダイはがく然として項垂れた。
受付に向かい、情報を貰っているときに、ギルド内の空気が変わったのだった。
奥の部屋から現れた青年に、冒険者たちの視線が集まっている。
「お久しぶりです、ノムルさん」
ノムルの近くまで来た青年は、にこりとほほ笑んで、声をかけた。
ざわりと、周囲の空気が震えた。緊張がひりひりと葉を揺らす。
現れた青年は、二メートルくらいありそうな長身で、動くたびに朱色のマントがたなびいた。真紅の鎧から溢れた肉体までも、硬く盛り上がる筋肉という鎧で覆われている。だがゴツいという印象は受けない。いわゆる細マッチョというやつだろうか。
腰ほどまで伸びる赤髪は、歌舞伎の獅子を思わせる。切れ長の目には緋色の瞳が埋まり、整った鼻筋の下には柔和な唇が笑みを描いているのに、隙がない。
品性を感じる顔立ちに、野性味も加わった青年には、男からはその鍛え上げられた肉体に、女からはその端整な顔立ちに、羨望の眼差しを注がれている。
一部の男たちからは、逆の視線も混じっているようだが。
ともかく、真っ赤な青年だった。
「久しぶりだねえ。竜殺しのムダイ」
ノムルの口からこぼれた二つ名に、雪乃は慌ててぴー助を抱きしめた。
その様子をみたムダイは、困ったように笑う。とたんに、女性陣から黄色い悲鳴が上がった。
数歩よろけたり、その場に座り込んでしまった女性までいる。
昭和のアイドル神話を現実で目の当たりにして、雪乃は思わずノムルたちを忘れて凝視してしまった。
「心配しなくても、人のものに手を出したりしませんよ」
「その言葉、忘れるなよ? ユキノちゃんとぴー助は、俺のものだから」
「それは忘れようがありませんね。ノムル・クラウのものに手を出すなんて、命が幾つあっても足りませんから」
口許に笑みを浮かべたまま鋭い眼光を向けるノムルに、ムダイは頬を掻く。
存在だけで威圧感が半端無い青年だが、どうやら敵意を向けているわけではないようだ。どちらかというと、ノムルが一方的に不快感を射出している。
「ところで、そちらのお嬢さんとお話がしたいのですが、少しお借りできますか?」
ムダイの目が、雪乃へと落ちる。
身を強張らせた雪乃を、ムダイの視線から遮るように、ノムルは背に押しやった。
「ふざけんな。俺の娘に手を出そうなんて、百年早いんだよ」
ぴくりと、ムダイの眉が跳ねる。
「ノムルさんの娘さん? ご冗談を。それと誤解しないでください。僕に幼女趣味はありませんから」
にっこりとほほ笑むムダイに、女達から黄色い悲鳴が上がった。
いや、訂正しよう。男も混じっていた。
逆に高ランクと思しき冒険者たちは、警戒を強めている。
竜種を一人で討伐するような、Sランクの中でも更に規格外の冒険者だ。彼がその気になれば、止められる者はいないだろう。
まだ温和な空気をまとっているが、相対している正体不明の魔法使いの態度は、いつ彼の怒りに触れてもおかしくない。
ならば原因となりそうな魔法使いを咎め、謝罪させれば良いはずなのだが、こっちはこっちで、何だかえげつないオーラを纏っている。
場数を踏んでいる者ほど、これは触れてはいけないと、頭の中で警鐘が鳴り響いていた。
微笑を浮かべるムダイと、完全に喧嘩腰のノムル。
二人の間には火花が飛び交い、一触即発かと思える緊張した空気が漂っている。
雪乃はうーんっと考える。
この状況に首を突っ込んでいくことは、さすがに控えたほうが良いと思った。けれど、どうやら相手の目的は、雪乃のようである。
そして、このままだとノムルが暴走しかねない。
「ギルド破壊四件目……」
半目になって遠くを見つめた雪乃から、呟きと共に白い何かが出てきた。
ふるりと震えた雪乃は、現実に戻る。
ここは空気を読まないと言われようとも、暴走を止めなければと、意欲を燃やす。
「ノムルさん、こちらの方は、どなたでしょうか?」
思い切って声を出した。
蚊の鳴くような、小さな声だったが。
「んー? ユキノちゃんは気にしなくていいよー? ただの戦闘狂の馬鹿だから」
にっこり笑って答えるノムル。
居合わせた冒険者やギルドの職員達は、心の中で盛大につっ込んだ。
「「「うをいっ!!」」」
目と口が動いているものもいるが、何とか声は出なかった。
「ひどいですね。まるで人を狂人か何かのように。ただの趣味ですよ」
「つまり、合ってるってことだろ? 魔物だとうと人間だろうと、強いやつがいると聞いたら喜んで飛んで行く」
「ですから、趣味ですって」
それが戦闘狂というものではないのだろうかと、雪乃は笑顔のムダイにつっ込みを入れたかった。
それはともかく、雪乃は引っかかったことを確認するため、ノムルのローブを引っ張った。
「何? ユキノちゃん」
「……」
魔王様はただの親ばかに戻った。
変わり身の早さに、思わず目が点になった雪乃だが、ふるりと幹を振って意識を戻す。
ノムルのローブを引いて、耳を貸してもらう。
「もしかして、駅弁さんですか?」
「そーそー。でも心配しなくても大丈夫だよ? コイツ、俺より弱いから」
「「「なにいっ?!」」」
一斉に上がった叫び声に、雪乃はびくりと跳ねて、辺りを見回す。
声を出さないよう、必死に耐えていた冒険者たちは、
「「「あ。」」」
と、我に返って両手で口を覆った。
まるで「自分は声を上げてませんよー」とアピールするかのように、そっぽを向いて、何事もなかったように振舞っている冒険者までいる。
「そうですね、今のところ全敗です。でも次は勝ちますから」
「言ってろ」
ムダイが笑顔で肯定したため、冒険者たちから目玉が飛び出しそうになっている。
けれどノムルは、冷ややかに返すだけだ。
「あのう」
と、雪乃は右枝を上げた。
「少しお話をしてきては駄目ですか?」
「え?」
予想外だったのだろう。
ノムルから再び宿っていた魔王が剥がれ落ち、高い声がこぼれた。
「ちょっと、ユキノちゃん? 説明したでしょう? こんな危ないやつと二人きりなんて、駄目だって。なにされるかわからないよ?」
思いっきりうろたえている。わたわたと手を動かし、泣き出しそうな顔で、雪乃を説得に掛かり始めた。
「ぴー」
「ほら、ぴー助だって、止めとけって言ってるだろう?」
涙目になって雪乃にしがみ付いているぴー助まで持ち出して、必死に止める。
「いや、あの、ノムルさん? 僕って、そこまで信用ないですか? 完全に変質者の立場みたいなんですけど?」
「みたいも何も、変質者だろう?」
「え?」
ムダイはがく然として項垂れた。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる