106 / 385
北国編
158.百回は死んだらしい
しおりを挟む
「しかし、よく僕がプレイヤーだって気付いたね?」
どこか別の世界に行ってしまった魔法使いは放っておいて、日本人同士で話を進める。
「ええ、駅弁がないと騒いだ冒険者がいらっしゃると聞きまして、同郷の方がいると予測はしていました。それに名前が『無題』ですからね」
雪乃がこの世界に来ることになったきっかけのゲーム『無題』。彼はその題名を名乗っていた。
「なるほど。でも駅弁は大事だろう?」
「そうですね。機関車の旅には欠かせません」
「ぴー」
ムダイはお茶をすすりながら、会話を続ける。ぴー助も分からないながらも、話に入ろうと声を上げた。
「しかし、何で樹人? というか、よく樹人でそこまで進化できたね。ネタで選ぶやつはいても、動けるようになるまで育てたやつ、初めて見たよ。よっぽどの精神力だよね?」
「ええ、まったく情報が無くて驚きました。でも意外と楽しかったですよ? 森で日向ぼっこしたり」
「……そう」
「ぴー」
ずずずっと、ムダイはお茶をすする。
音も光もない土の中で、動くこともできず丸一日近く放置され、発芽した直後に鹿に食べられてやり直しという、なんとも謎仕様のスタートだったのだ。
結局動けるようになるまでに、十日ほど掛かった。
「いやしかし、僕以外にも飛ばされてたとは、他にもいるのかな?」
「凄いゲームですよね」
「そうだねー。初めからぶっ飛んでたけどね。スライムを選んだ知り合いは、泣いてたよ? 百回は死んだらしい」
「……」
半目になって天井の先を見つめるムダイは、あの謎書き込みをしていた初期プレイヤーたちの友人なのかもしれない。
インターネットにあふれるスライムからの救援要請や泣き言は、膨大だった。
「ログアウトの方法は、分からないんですよね?」
「ああ、わからないね。たぶん、もう帰れないと思うよ?」
「そうですか」
「うん」
深刻な内容であるはずなのに、二人は世間話のように淡々と話す。
いつの間にか、ぴー助は話に加わることも諦めて、雪乃の隣で丸くなって眠っていた。
ノムルは未だに別の世界に旅立ったままだ。
「ムダイさんは、あちらに未練は?」
「こっちの方が性に合ってるし? 雪乃ちゃんは?」
「私も似たようなものですね」
望郷の念を抱くことなく、淡々と話している二人は、色々と壊れているのかもしれない。
「でもまあ、安心したよ」
「?」
不思議そうに顔を上げた雪乃に、ムダイは柔らかくほほ笑む。
「もし僕以外にも飛ばされているプレイヤーがいたら、困っているかもしれないって心配していたけど、けっこう楽しそうにしているみたいだから」
きょとんと見つめた雪乃は、横目にノムルを見てから葉を揺らす。
「親切な人たちに助けていただきましたから」
「いやあ、ノムルさんをそういうふうに言えることが凄いよ。基本、他人に興味のない人だからねえ。僕なんて、会うたびにパーティーを組んでほしいってお願いしてるのに、振られてばかりだよ」
「確かにそういうところはあるかもしれません」
雪乃は苦笑を返す。
ムダイの言うとおり、ノムルは他人に無関心だ。雪乃は出会いが良かったとしか言いようがない。
彼が探している薬のヒントになるかもしれない存在として認知されたから、雪乃自身も見てもらえたのだから。
「って、何二人で仲良く話してるのさ! ユキノちゃん、浮気?」
「……。何の話ですか?」
「俺のほうが、ユキノちゃんを大切にしてるよ? こんな戦闘狂の女好き、ユキノちゃんのおとーさんには相応しくないよ?」
遠い世界から帰ってきた途端に騒ぎ出した魔法使いのおっさんを、雪乃は冷めた目で見る。ムダイも口を開けて固まっていた。
「お父さん?」
「くっ! お前にユキノちゃんのおとーさんの座は渡さん! 赤ちゃんユキノちゃんを知っていようと、今は俺がユキノちゃんのおとーさんなんだからな!」
「……」
首の辺りに腕を回されて、後ろから抱きつかれながら、雪乃は半目で天井を見上げる。
ムダイは困惑した顔で、雪乃とノムルを交互に見ていた。
「なんでお父さん?」
「私も謎です」
ノムルに聞いてもまともな答えは得られないと判断したのか、ムダイはノムルを指差し、雪乃に尋ねた。
それに対して、雪乃は抑揚のない声で答える。
「くっ! 嫁にもやらんぞ!」
「いや、いらないです」
「なっ?! ユキノちゃんをいらないとか、お前、趣味が悪すぎるだろう? 大丈夫か?」
「どう答えればいいんですか?! うわっ、親ばか面倒臭っ」
整った顔立ちが、忌々しげに歪んだ。
雪乃は「はふう」と息を吐く。
「そういえば、一つ気になっていたんですけど」
と、雪乃はノムルを無きものと認識を変え、ムダイに話しかける。
「ちょっとユキノちゃん?! 何か冷たい!」
「何?」
「おいっ、ユキノちゃんは俺と話してるんだぞ? 割り込むなよ!」
何か怒っているが、ムダイもスルーを決め込むことにしたようだ。
「ムダイさんはずばり、レッド志望ですね」
きらりと雪乃の目元が光る。
赤髪に緋色の瞳、真紅の鎧に朱色のマント。全身赤ずくめである。ここまで赤いとなると、赤にこだわる理由があるはずだ。
「どういうこと?」
ノムルは首を傾げるが、誰も見ていない。
「えっと、どちらかといえば、ピンチに現れる黒とかが」
「? 違うのですか」
雪乃はきょとん瞬く。俯いて少し考え込んだ後、はっと気付いて顔を上げた。
「まさか、血がお好き……」
ムダイを見つめたまま身を引いた雪乃は、ふるふると震える。
「いや、単に赤が好きなだけだから。というか、何を想像してるのかな?」
なんだか良い笑顔だ。ムダイも魔王候補になれるかもしれない。
雪乃はふるふるふると震えた。
ムダイに怯える雪乃に対して、なぜかノムルは満面の笑みを浮かべて両手を広げている。その笑顔をじとっとした目で見上げた雪乃は、ふるふるを止めて姿勢を正した。
じめじめと湿度を上げながら、きのこを栽培している魔法使いがいるようだが、スルーしておく。
「つまりムダイさんは、ブラックに憧れながら、レッドに浮気をしていると」
「さらっと流したね。それにしても、何か誤解を生みそうな言い方だね」
「しかしブラックは、ノーマルカラーである時もあります」
「また流すのか。そうだねえ。じゃあ銀とか金とかのほうが良いかな?」
「イエローは性別が不安定ですね。いっそそういう人にすれば良いのに」
「斬新だねえ」
お茶をすすりながら、二人は久しぶりの日本的会話を楽しんだ。
「……ユキノちゃんが冷たい……」
梅雨時にも負けぬ湿度に、ヌメヌメした生物の幻覚さえ見えてきそうだ。
どこか別の世界に行ってしまった魔法使いは放っておいて、日本人同士で話を進める。
「ええ、駅弁がないと騒いだ冒険者がいらっしゃると聞きまして、同郷の方がいると予測はしていました。それに名前が『無題』ですからね」
雪乃がこの世界に来ることになったきっかけのゲーム『無題』。彼はその題名を名乗っていた。
「なるほど。でも駅弁は大事だろう?」
「そうですね。機関車の旅には欠かせません」
「ぴー」
ムダイはお茶をすすりながら、会話を続ける。ぴー助も分からないながらも、話に入ろうと声を上げた。
「しかし、何で樹人? というか、よく樹人でそこまで進化できたね。ネタで選ぶやつはいても、動けるようになるまで育てたやつ、初めて見たよ。よっぽどの精神力だよね?」
「ええ、まったく情報が無くて驚きました。でも意外と楽しかったですよ? 森で日向ぼっこしたり」
「……そう」
「ぴー」
ずずずっと、ムダイはお茶をすする。
音も光もない土の中で、動くこともできず丸一日近く放置され、発芽した直後に鹿に食べられてやり直しという、なんとも謎仕様のスタートだったのだ。
結局動けるようになるまでに、十日ほど掛かった。
「いやしかし、僕以外にも飛ばされてたとは、他にもいるのかな?」
「凄いゲームですよね」
「そうだねー。初めからぶっ飛んでたけどね。スライムを選んだ知り合いは、泣いてたよ? 百回は死んだらしい」
「……」
半目になって天井の先を見つめるムダイは、あの謎書き込みをしていた初期プレイヤーたちの友人なのかもしれない。
インターネットにあふれるスライムからの救援要請や泣き言は、膨大だった。
「ログアウトの方法は、分からないんですよね?」
「ああ、わからないね。たぶん、もう帰れないと思うよ?」
「そうですか」
「うん」
深刻な内容であるはずなのに、二人は世間話のように淡々と話す。
いつの間にか、ぴー助は話に加わることも諦めて、雪乃の隣で丸くなって眠っていた。
ノムルは未だに別の世界に旅立ったままだ。
「ムダイさんは、あちらに未練は?」
「こっちの方が性に合ってるし? 雪乃ちゃんは?」
「私も似たようなものですね」
望郷の念を抱くことなく、淡々と話している二人は、色々と壊れているのかもしれない。
「でもまあ、安心したよ」
「?」
不思議そうに顔を上げた雪乃に、ムダイは柔らかくほほ笑む。
「もし僕以外にも飛ばされているプレイヤーがいたら、困っているかもしれないって心配していたけど、けっこう楽しそうにしているみたいだから」
きょとんと見つめた雪乃は、横目にノムルを見てから葉を揺らす。
「親切な人たちに助けていただきましたから」
「いやあ、ノムルさんをそういうふうに言えることが凄いよ。基本、他人に興味のない人だからねえ。僕なんて、会うたびにパーティーを組んでほしいってお願いしてるのに、振られてばかりだよ」
「確かにそういうところはあるかもしれません」
雪乃は苦笑を返す。
ムダイの言うとおり、ノムルは他人に無関心だ。雪乃は出会いが良かったとしか言いようがない。
彼が探している薬のヒントになるかもしれない存在として認知されたから、雪乃自身も見てもらえたのだから。
「って、何二人で仲良く話してるのさ! ユキノちゃん、浮気?」
「……。何の話ですか?」
「俺のほうが、ユキノちゃんを大切にしてるよ? こんな戦闘狂の女好き、ユキノちゃんのおとーさんには相応しくないよ?」
遠い世界から帰ってきた途端に騒ぎ出した魔法使いのおっさんを、雪乃は冷めた目で見る。ムダイも口を開けて固まっていた。
「お父さん?」
「くっ! お前にユキノちゃんのおとーさんの座は渡さん! 赤ちゃんユキノちゃんを知っていようと、今は俺がユキノちゃんのおとーさんなんだからな!」
「……」
首の辺りに腕を回されて、後ろから抱きつかれながら、雪乃は半目で天井を見上げる。
ムダイは困惑した顔で、雪乃とノムルを交互に見ていた。
「なんでお父さん?」
「私も謎です」
ノムルに聞いてもまともな答えは得られないと判断したのか、ムダイはノムルを指差し、雪乃に尋ねた。
それに対して、雪乃は抑揚のない声で答える。
「くっ! 嫁にもやらんぞ!」
「いや、いらないです」
「なっ?! ユキノちゃんをいらないとか、お前、趣味が悪すぎるだろう? 大丈夫か?」
「どう答えればいいんですか?! うわっ、親ばか面倒臭っ」
整った顔立ちが、忌々しげに歪んだ。
雪乃は「はふう」と息を吐く。
「そういえば、一つ気になっていたんですけど」
と、雪乃はノムルを無きものと認識を変え、ムダイに話しかける。
「ちょっとユキノちゃん?! 何か冷たい!」
「何?」
「おいっ、ユキノちゃんは俺と話してるんだぞ? 割り込むなよ!」
何か怒っているが、ムダイもスルーを決め込むことにしたようだ。
「ムダイさんはずばり、レッド志望ですね」
きらりと雪乃の目元が光る。
赤髪に緋色の瞳、真紅の鎧に朱色のマント。全身赤ずくめである。ここまで赤いとなると、赤にこだわる理由があるはずだ。
「どういうこと?」
ノムルは首を傾げるが、誰も見ていない。
「えっと、どちらかといえば、ピンチに現れる黒とかが」
「? 違うのですか」
雪乃はきょとん瞬く。俯いて少し考え込んだ後、はっと気付いて顔を上げた。
「まさか、血がお好き……」
ムダイを見つめたまま身を引いた雪乃は、ふるふると震える。
「いや、単に赤が好きなだけだから。というか、何を想像してるのかな?」
なんだか良い笑顔だ。ムダイも魔王候補になれるかもしれない。
雪乃はふるふるふると震えた。
ムダイに怯える雪乃に対して、なぜかノムルは満面の笑みを浮かべて両手を広げている。その笑顔をじとっとした目で見上げた雪乃は、ふるふるを止めて姿勢を正した。
じめじめと湿度を上げながら、きのこを栽培している魔法使いがいるようだが、スルーしておく。
「つまりムダイさんは、ブラックに憧れながら、レッドに浮気をしていると」
「さらっと流したね。それにしても、何か誤解を生みそうな言い方だね」
「しかしブラックは、ノーマルカラーである時もあります」
「また流すのか。そうだねえ。じゃあ銀とか金とかのほうが良いかな?」
「イエローは性別が不安定ですね。いっそそういう人にすれば良いのに」
「斬新だねえ」
お茶をすすりながら、二人は久しぶりの日本的会話を楽しんだ。
「……ユキノちゃんが冷たい……」
梅雨時にも負けぬ湿度に、ヌメヌメした生物の幻覚さえ見えてきそうだ。
7
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる