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北国編
159.救命講習って
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「じゃあ、今度は僕が質問するね? 君って医療関係に務めていたの?」
「いいえ? そもそも社会人ではないですから」
「え?」
ムダイはきょとんと瞬きながら雪乃を見つめる。
「人工呼吸とか広めてたよね? それに大怪我の手当ても、率先して行っていたって聞いたんだけど?」
「救命処置は趣味です。手当ては治癒魔法を教えていただいていましたし、樹人は薬草関係のスキルが中心でしたので」
さらりと答えたユキノを、ムダイは怪訝な表情で凝視した。
「どんな趣味? いや、スキルはあっても、実際に見るのってきつくない? 俺はこっちに来てから、魔物を倒すこと自体はスキルのお蔭で苦労してないけど、血とか生々しくてまだ慣れないんだけど?」
思い出したようにムダイは顔をしかめる。
それほど嫌ならば倒さなければ良いのにと、雪乃は不思議そうに眉をひそめた。
「楽しいですよ? 救命講習。フレックさんたちの怪我は、そこまで酷い見た目ではありませんでしたから」
血は出ていたし、手足が取れてはいたのだが、頭とお腹の中身は出ていなかった。
「救命講習って、楽しむものなのか? いや、手足が欠損してたら充分、酷いだろう? あっちじゃ出血する怪我なんて、まず目にすることもないし」
ムダイはブツブツと呟きながら、あちらの生活を思い出す。
その呟きを拾った雪乃は、不思議そうに瞬く。
「崖から落ちたり、校舎から落ちたり、ガラスにつっ込んだりしたときに、血まみれになることも珍しくないですよね?」
「は? そんなことは普通、起こらないだろう?」
「え?」
「ええ?!」
雪乃はぽてりと幹を傾げ、ムダイはあ然として雪乃を見る。
「それぞれ三回は見てますよ? さすがに全身火達磨は、私の学校にはいませんでしたけど」
「いたら全国ニュース確実だよ?!」
「隣の小学校であったそうです。報道は……記憶にないですね」
「……」
頭を抱えてムダイは俯く。肩がふるふると震えていた。
「それって、全部一人で?」
俯いたまま、ぽつりとたずねた。
「いいえ? 別々ですね。あ、一人で制覇した男子もいましたよ? 男子って、どうして崖や壁を見ると、登りたがるんでしょうね?」
「いや、僕は登りたいと思ったことは……」
どうやらムダイは、ゲーム好きのインドア派だったらしい。
「まあ、いいや。とりあえず、これからは僕も一緒に行動するということで良いかな?」
「はあっ?! 何でお前と一緒に行動しないといけないんだよ?」
ノムルが復活した。
「なぜって、雪乃ちゃんは僕と同郷のようですし、一緒にいたほうが安心するよね?」
「特にこだわりはないです」
「……」
即答した雪乃に、ムダイは固まる。
「ほら、ユキノちゃんだって、お前みたいな危険人物とは一緒にいたくないって、言ってるだろう?」
そこまでは言っていない。しかし日本人だからという理由で、行動を共にしたいとも思ってはいなかった雪乃は、無理に否定もしない。
「でも困った時は、色々とサポートできると思うよ? こっちに来てからの生活は、僕のほうが長いと思うし。地位の認められた人間が傍にいれば、安心だよ? 金銭面でも援助できるし」
「俺がいるから必要ない」
「あちらの話をしたいときもあるでしょう?」
「俺が聞くから問題ない」
ノムルに人形のように抱えられ、ムダイから勧誘を受け、雪乃争奪戦が繰り広げられる。
「はふう」
と一つ大きな溜め息を吐いた雪乃は、ムダイに向き直る。
「ムダイさん、お気持ちはありがたいのですが、私は一人で平気ですので、気になさらないでください」
「いやいや、君だけノムルさんと行動するなんて、見過ごせないよ」
「……」
雪乃争奪戦ではなく、雪乃を出汁に、ノムルと行動を共にしたかっただけのようだ。
薄くした視界にムダイを映した雪乃は、なおも続く男二人の口論を冷めた眼差しで眺める。このまま放っておいても、埒が明きそうにない。
仕方なく、雪乃から切り出すことにした。
「分かりました。ムダイさん、取引をしましょう」
ぴたりと、男たちの言い争いが止まる。
「へえ? 僕にメリットを与えるほどの取引材料が、君にあるの?」
ムダイは余裕の笑みさえ浮かべて、雪乃を見下ろす。
小さな樹人の戦闘力など知れている。そして、この世界に来てからの経験も、ムダイが上であろう。
何より魔物である樹人は、正体が露見しただけで、その身を危険に晒すことになる。
ムダイが雪乃に対してメリットを与えることは出来ても、その逆は難しい。
いったい何を提示するつもりかと、ムダイは雪乃を見据えた。
その内なる声を見抜き、雪乃は薄く笑む。
「カレーです」
ピシャーンと、雷光が閃いた。
衝撃に、ムダイは震える。
「か、カレーがあるのか? もう二度と食べれないと、諦めていたのに……」
がく然として、視線を彷徨わせた。
雪乃はニヤリと笑む。
ムダイの目は、困惑しながらも、一縷の希望に縋るように、雪乃へと動いた。
勝敗は決したようだ。
「カレーは美味いと思うし、『プレイヤー』はカレー好きとは聞いてたけど、ここまでとはねえ」
さすがのノムルも、呆れたように頬を掻いたのだった。
そんなわけで、雪乃とノムルはカレー粉を作成し、ムダイに引き渡した。
「ほ、本当にカレーだ」
ムダイは匂いをかぎ、わずかに舐め、感動に打ちひしがれている。
「カレーの匂いがします」
すんすんと自分の匂いを嗅いだ雪乃は、肩を落として項垂れる。やっぱりカレー臭は辛い。
「ハーブ系を生やしたら? ラベンダーとか、柑橘系とか」
「おお!」
ムダイのアドバイスを受け、雪乃は香水にも使われている、ムラサキダーを生やした。
紫色の小さな花が、ブドウのように鈴生りについた花だ。地球のラベンダーに似た香りがする。
これで解決だと、雪乃は葉を輝かせたのだが、ムダイの笑顔が嘘臭くなっていた。ノムルにいたっては、
「ユキノちゃん、何か色々混ざって、逆にくさい」
と、顔をしかめてはっきりと言い放った。
「ノムルさん、女の子に対して、思っても口にしてはいけない言葉ですよ」
「えー? 本当のこと言ってあげないと、恥掻くのはユキノちゃんだよー? 知らないところで『あのこ、くさーい』って言われるの、嫌だよね?」
「……ソウデスネ」
確かにその通りだが、もう少しそっと教えてほしいと思った雪乃であった。
「いいえ? そもそも社会人ではないですから」
「え?」
ムダイはきょとんと瞬きながら雪乃を見つめる。
「人工呼吸とか広めてたよね? それに大怪我の手当ても、率先して行っていたって聞いたんだけど?」
「救命処置は趣味です。手当ては治癒魔法を教えていただいていましたし、樹人は薬草関係のスキルが中心でしたので」
さらりと答えたユキノを、ムダイは怪訝な表情で凝視した。
「どんな趣味? いや、スキルはあっても、実際に見るのってきつくない? 俺はこっちに来てから、魔物を倒すこと自体はスキルのお蔭で苦労してないけど、血とか生々しくてまだ慣れないんだけど?」
思い出したようにムダイは顔をしかめる。
それほど嫌ならば倒さなければ良いのにと、雪乃は不思議そうに眉をひそめた。
「楽しいですよ? 救命講習。フレックさんたちの怪我は、そこまで酷い見た目ではありませんでしたから」
血は出ていたし、手足が取れてはいたのだが、頭とお腹の中身は出ていなかった。
「救命講習って、楽しむものなのか? いや、手足が欠損してたら充分、酷いだろう? あっちじゃ出血する怪我なんて、まず目にすることもないし」
ムダイはブツブツと呟きながら、あちらの生活を思い出す。
その呟きを拾った雪乃は、不思議そうに瞬く。
「崖から落ちたり、校舎から落ちたり、ガラスにつっ込んだりしたときに、血まみれになることも珍しくないですよね?」
「は? そんなことは普通、起こらないだろう?」
「え?」
「ええ?!」
雪乃はぽてりと幹を傾げ、ムダイはあ然として雪乃を見る。
「それぞれ三回は見てますよ? さすがに全身火達磨は、私の学校にはいませんでしたけど」
「いたら全国ニュース確実だよ?!」
「隣の小学校であったそうです。報道は……記憶にないですね」
「……」
頭を抱えてムダイは俯く。肩がふるふると震えていた。
「それって、全部一人で?」
俯いたまま、ぽつりとたずねた。
「いいえ? 別々ですね。あ、一人で制覇した男子もいましたよ? 男子って、どうして崖や壁を見ると、登りたがるんでしょうね?」
「いや、僕は登りたいと思ったことは……」
どうやらムダイは、ゲーム好きのインドア派だったらしい。
「まあ、いいや。とりあえず、これからは僕も一緒に行動するということで良いかな?」
「はあっ?! 何でお前と一緒に行動しないといけないんだよ?」
ノムルが復活した。
「なぜって、雪乃ちゃんは僕と同郷のようですし、一緒にいたほうが安心するよね?」
「特にこだわりはないです」
「……」
即答した雪乃に、ムダイは固まる。
「ほら、ユキノちゃんだって、お前みたいな危険人物とは一緒にいたくないって、言ってるだろう?」
そこまでは言っていない。しかし日本人だからという理由で、行動を共にしたいとも思ってはいなかった雪乃は、無理に否定もしない。
「でも困った時は、色々とサポートできると思うよ? こっちに来てからの生活は、僕のほうが長いと思うし。地位の認められた人間が傍にいれば、安心だよ? 金銭面でも援助できるし」
「俺がいるから必要ない」
「あちらの話をしたいときもあるでしょう?」
「俺が聞くから問題ない」
ノムルに人形のように抱えられ、ムダイから勧誘を受け、雪乃争奪戦が繰り広げられる。
「はふう」
と一つ大きな溜め息を吐いた雪乃は、ムダイに向き直る。
「ムダイさん、お気持ちはありがたいのですが、私は一人で平気ですので、気になさらないでください」
「いやいや、君だけノムルさんと行動するなんて、見過ごせないよ」
「……」
雪乃争奪戦ではなく、雪乃を出汁に、ノムルと行動を共にしたかっただけのようだ。
薄くした視界にムダイを映した雪乃は、なおも続く男二人の口論を冷めた眼差しで眺める。このまま放っておいても、埒が明きそうにない。
仕方なく、雪乃から切り出すことにした。
「分かりました。ムダイさん、取引をしましょう」
ぴたりと、男たちの言い争いが止まる。
「へえ? 僕にメリットを与えるほどの取引材料が、君にあるの?」
ムダイは余裕の笑みさえ浮かべて、雪乃を見下ろす。
小さな樹人の戦闘力など知れている。そして、この世界に来てからの経験も、ムダイが上であろう。
何より魔物である樹人は、正体が露見しただけで、その身を危険に晒すことになる。
ムダイが雪乃に対してメリットを与えることは出来ても、その逆は難しい。
いったい何を提示するつもりかと、ムダイは雪乃を見据えた。
その内なる声を見抜き、雪乃は薄く笑む。
「カレーです」
ピシャーンと、雷光が閃いた。
衝撃に、ムダイは震える。
「か、カレーがあるのか? もう二度と食べれないと、諦めていたのに……」
がく然として、視線を彷徨わせた。
雪乃はニヤリと笑む。
ムダイの目は、困惑しながらも、一縷の希望に縋るように、雪乃へと動いた。
勝敗は決したようだ。
「カレーは美味いと思うし、『プレイヤー』はカレー好きとは聞いてたけど、ここまでとはねえ」
さすがのノムルも、呆れたように頬を掻いたのだった。
そんなわけで、雪乃とノムルはカレー粉を作成し、ムダイに引き渡した。
「ほ、本当にカレーだ」
ムダイは匂いをかぎ、わずかに舐め、感動に打ちひしがれている。
「カレーの匂いがします」
すんすんと自分の匂いを嗅いだ雪乃は、肩を落として項垂れる。やっぱりカレー臭は辛い。
「ハーブ系を生やしたら? ラベンダーとか、柑橘系とか」
「おお!」
ムダイのアドバイスを受け、雪乃は香水にも使われている、ムラサキダーを生やした。
紫色の小さな花が、ブドウのように鈴生りについた花だ。地球のラベンダーに似た香りがする。
これで解決だと、雪乃は葉を輝かせたのだが、ムダイの笑顔が嘘臭くなっていた。ノムルにいたっては、
「ユキノちゃん、何か色々混ざって、逆にくさい」
と、顔をしかめてはっきりと言い放った。
「ノムルさん、女の子に対して、思っても口にしてはいけない言葉ですよ」
「えー? 本当のこと言ってあげないと、恥掻くのはユキノちゃんだよー? 知らないところで『あのこ、くさーい』って言われるの、嫌だよね?」
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