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ラジン国編
162.転移装置だよ
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「こっちだよー」
ノムルが向かったのは、直径二メートルほどの、円柱の建物だった。四つ並ぶ円柱のうち二つには、それぞれ列ができている。
少なそうな列に、ノムルと雪乃は並んだ。
「ここはなんですか?」
建物の中に順番に人が入っていくが、出てくる人はいない。
逆に、誰も並んでいない二つの建物からは、次々と人が出てくる。あの小さな建物に入りきれるとは思えない人数だ。
「転移装置だよ。ほら、飛竜のところで見ただろう?」
飛竜から逃げるために、用意していた荷馬車に組み込まれていた術式を、雪乃は思い出す。
「ラジンには主要ポイントに転移装置が設置してあって、瞬間移動できるようになっているんだ。まあ、この新型を使うのは、俺も初めてなんだけどねー。以前は行き先ごとに箱があって、魔力を込めるだけでよかったんだよー。ただそれだと、設置する箱の数が多くてねー」
へらりと笑うノムルに、雪乃はちょっと不安を覚える。
話が聞こえていた前に並ぶ若者が、振り向いた。
「使い方を教えようか?」
「大丈夫。仕組みは分かってるから」
列が進み、雪乃たちの番になる。
円柱の中に入ると、そこには魔方陣が描かれていた。
雪乃はノムルに指示されるまま、魔法陣の中央に立つ。
「魔法ギルド本部」
こつんと、ノムルの杖が床を突く。それを合図に魔方陣から光があふれ出し、雪乃とノムル、ぴー助を包んだ。
「おお!」
「ぴー」
眩い光に視界が覆われ、少しして光が消えていく。
「ん?」
「ぴ?」
光が消えて目に映ったのは、先ほどと変わらない光景だった。
白い円柱状の壁、下には魔方陣。
雪乃とぴー助は顔を見合わせたが、ノムルは気にせず魔方陣から出て行く。扉を開けた先は、国境の町ではなく、どこかの屋内に繋がっていた。
「ノムルさん、ここは?」
「魔法ギルドだよ。魔法使いはもちろん、魔術師とか、薬師とか、まあ研究好きの集まりみたいなもんだねえ」
冒険者ギルドと違い、大理石に似た床に白壁という、美術館か大きな病院に来たような、清潔感あふれる内装だった。
すれ違う人や、喫茶スペースで談話していた人達が、雪乃たちを見ている。ぽかんと口を半開きにする人、なぜか目を輝かせている人、嘲るような笑みを浮かべる人。
反応は幾種類かに分かれたが、注目を浴びていることは間違いないようだ。
雪乃はノムルに隠れるように、すぐ脇を歩いた。
ノムルはロビーを真っ直ぐに進み、受付に向かう。
「俺の部屋って、まだ残っている?」
冒険者ギルドの認定証とは違う、虹色の金属板を取り出したノムルは、受付の青年に渡した。
「もちろんです! お帰りをお待ちしておりました、ノムル様。すぐにご案内します!」
椅子から立ち上がり、輝く目でノムルを見つめている。
青年の張り上げた声がロビーに響くとに、嘲るような笑みを浮かべていた人たちは、罰が悪そうに辺りを見回して身を縮めた。
居合わせた人々の目は、きらきらと輝いて、まるで教祖様を拝む新興宗教の信者のようだ。
恐怖を感じた雪乃は、ノムルのローブを握り締める。
「どうしたの? ユキノちゃん。抱っこが御所望かな?」
ノムルは信者達にも負けない、輝かしい笑顔を雪乃に向けた。
冷静さを取り戻した雪乃は、ぱっと枝を開いて離れる。
何事もなかったように澄ます雪乃だが、ノムルはにやにやと見ている。雪乃はぷくりと頬葉を膨らませた。
「案内はいいよ。自分の部屋の場所を忘れるほど、耄碌していないから。それより、調合室は空いてる?」
受付の青年に視線を戻したノムルは、注目を受けていることには気付いていないのか、呑気な声で会話を続ける。
「もちろんです!」
「じゃあ明日から使うから、予約しといて」
「はい! 助手は何名ご入り用でしょうか?」
「いらない」
ノムルの返答に、青年は目に見えて落胆した。周囲を見回せば、他の見物客達も、肩を落としていた。
「それと、この子の登録しといてくれる?」
その言葉で、ノムルに注がれていた視線は、一気に雪乃へと向かう。
受付の青年も、カウンターから身を乗り出して、雪乃を見た。その眉間に皺が寄り、表情は不快に染まっていく。
「失礼ですが、こちらは?」
「うん? ああ、俺の隠し子」
へらりと笑ったノムルに、青年はがく然として表情を失い、ロビーにはどよめきが広がった。
いつの間にか、廊下や階段から、人々があふれるように湧いてきて、ノムルたちを窺っていた。
「ノムル様が子供を儲けたという噂は、本当だったのか」
「私は弟子を取ったと聞きましたが?」
「なんにしても、羨ましい」
嫉妬を超える、殺気にも近い視線が、雪乃に突き刺さる。
「ノムルさん、嘘はいけません。隠されてもいませんし、ノムルさんから生まれた記憶もありません」
「うわ、酷いなあ。というか、俺、男だからね? 産まなくてもお父さんになれるからね?」
「え?」
「え?」
見詰め合う雪乃とノムル。
周囲からは安堵の吐息が漏れる。
だがしかし、爆弾発言の投下は終わらなかった。
「まあいいや。というわけで、養子縁組の手続きしたいんだけど、書類とか集めといてくれる」
「え?」
「「「えええ?!」」」
突拍子もない流れに、雪乃は混乱した。
それ以上に、聞いていた人間たちのほうが混乱した。というか、混沌に陥った。
「ノムル様の養子?!」
「お待ちください! 子供を望まれるのでしたら、うちの子供を!」
「いや、私を!」
遠巻きにしていた人達が、争うようにノムルの前に進み出て、自分や自分の子供をアピールし始めた。
雪乃はとっさにノムルのローブにしがみ付く。ぴー助は雪乃を守るように、羽を広げた。
おびえた様子の雪乃を目に映したノムルの眉が、不機嫌そうに寄る。
「あのさあ、ユキノちゃんを怖がらせないでくれる?」
怒りのこもった低い声に、魔法使いたちは一斉に逃げ出した。防御魔法を使える者は、防御結界を展開し始めている。
なんとも慣れた様子だ。
「駄目ですよ、ノムルさん。暴力は禁止です」
「大丈夫だよ? ちゃんと加減するって」
「ノムルさんの加減は当てになりません」
「ええー。酷いなあ」
最大出力の防御結界を張り、警戒する者。物陰に逃げ込んだ者。逃げ遅れて床にへばり付いて頭を庇っている者。
しかし来るべきものが来ず、おそるおそる様子を窺う。彼らの目に飛び込んできたのは、小さな子供に説教される、ノムル・クラウの姿だった。
ノムルが向かったのは、直径二メートルほどの、円柱の建物だった。四つ並ぶ円柱のうち二つには、それぞれ列ができている。
少なそうな列に、ノムルと雪乃は並んだ。
「ここはなんですか?」
建物の中に順番に人が入っていくが、出てくる人はいない。
逆に、誰も並んでいない二つの建物からは、次々と人が出てくる。あの小さな建物に入りきれるとは思えない人数だ。
「転移装置だよ。ほら、飛竜のところで見ただろう?」
飛竜から逃げるために、用意していた荷馬車に組み込まれていた術式を、雪乃は思い出す。
「ラジンには主要ポイントに転移装置が設置してあって、瞬間移動できるようになっているんだ。まあ、この新型を使うのは、俺も初めてなんだけどねー。以前は行き先ごとに箱があって、魔力を込めるだけでよかったんだよー。ただそれだと、設置する箱の数が多くてねー」
へらりと笑うノムルに、雪乃はちょっと不安を覚える。
話が聞こえていた前に並ぶ若者が、振り向いた。
「使い方を教えようか?」
「大丈夫。仕組みは分かってるから」
列が進み、雪乃たちの番になる。
円柱の中に入ると、そこには魔方陣が描かれていた。
雪乃はノムルに指示されるまま、魔法陣の中央に立つ。
「魔法ギルド本部」
こつんと、ノムルの杖が床を突く。それを合図に魔方陣から光があふれ出し、雪乃とノムル、ぴー助を包んだ。
「おお!」
「ぴー」
眩い光に視界が覆われ、少しして光が消えていく。
「ん?」
「ぴ?」
光が消えて目に映ったのは、先ほどと変わらない光景だった。
白い円柱状の壁、下には魔方陣。
雪乃とぴー助は顔を見合わせたが、ノムルは気にせず魔方陣から出て行く。扉を開けた先は、国境の町ではなく、どこかの屋内に繋がっていた。
「ノムルさん、ここは?」
「魔法ギルドだよ。魔法使いはもちろん、魔術師とか、薬師とか、まあ研究好きの集まりみたいなもんだねえ」
冒険者ギルドと違い、大理石に似た床に白壁という、美術館か大きな病院に来たような、清潔感あふれる内装だった。
すれ違う人や、喫茶スペースで談話していた人達が、雪乃たちを見ている。ぽかんと口を半開きにする人、なぜか目を輝かせている人、嘲るような笑みを浮かべる人。
反応は幾種類かに分かれたが、注目を浴びていることは間違いないようだ。
雪乃はノムルに隠れるように、すぐ脇を歩いた。
ノムルはロビーを真っ直ぐに進み、受付に向かう。
「俺の部屋って、まだ残っている?」
冒険者ギルドの認定証とは違う、虹色の金属板を取り出したノムルは、受付の青年に渡した。
「もちろんです! お帰りをお待ちしておりました、ノムル様。すぐにご案内します!」
椅子から立ち上がり、輝く目でノムルを見つめている。
青年の張り上げた声がロビーに響くとに、嘲るような笑みを浮かべていた人たちは、罰が悪そうに辺りを見回して身を縮めた。
居合わせた人々の目は、きらきらと輝いて、まるで教祖様を拝む新興宗教の信者のようだ。
恐怖を感じた雪乃は、ノムルのローブを握り締める。
「どうしたの? ユキノちゃん。抱っこが御所望かな?」
ノムルは信者達にも負けない、輝かしい笑顔を雪乃に向けた。
冷静さを取り戻した雪乃は、ぱっと枝を開いて離れる。
何事もなかったように澄ます雪乃だが、ノムルはにやにやと見ている。雪乃はぷくりと頬葉を膨らませた。
「案内はいいよ。自分の部屋の場所を忘れるほど、耄碌していないから。それより、調合室は空いてる?」
受付の青年に視線を戻したノムルは、注目を受けていることには気付いていないのか、呑気な声で会話を続ける。
「もちろんです!」
「じゃあ明日から使うから、予約しといて」
「はい! 助手は何名ご入り用でしょうか?」
「いらない」
ノムルの返答に、青年は目に見えて落胆した。周囲を見回せば、他の見物客達も、肩を落としていた。
「それと、この子の登録しといてくれる?」
その言葉で、ノムルに注がれていた視線は、一気に雪乃へと向かう。
受付の青年も、カウンターから身を乗り出して、雪乃を見た。その眉間に皺が寄り、表情は不快に染まっていく。
「失礼ですが、こちらは?」
「うん? ああ、俺の隠し子」
へらりと笑ったノムルに、青年はがく然として表情を失い、ロビーにはどよめきが広がった。
いつの間にか、廊下や階段から、人々があふれるように湧いてきて、ノムルたちを窺っていた。
「ノムル様が子供を儲けたという噂は、本当だったのか」
「私は弟子を取ったと聞きましたが?」
「なんにしても、羨ましい」
嫉妬を超える、殺気にも近い視線が、雪乃に突き刺さる。
「ノムルさん、嘘はいけません。隠されてもいませんし、ノムルさんから生まれた記憶もありません」
「うわ、酷いなあ。というか、俺、男だからね? 産まなくてもお父さんになれるからね?」
「え?」
「え?」
見詰め合う雪乃とノムル。
周囲からは安堵の吐息が漏れる。
だがしかし、爆弾発言の投下は終わらなかった。
「まあいいや。というわけで、養子縁組の手続きしたいんだけど、書類とか集めといてくれる」
「え?」
「「「えええ?!」」」
突拍子もない流れに、雪乃は混乱した。
それ以上に、聞いていた人間たちのほうが混乱した。というか、混沌に陥った。
「ノムル様の養子?!」
「お待ちください! 子供を望まれるのでしたら、うちの子供を!」
「いや、私を!」
遠巻きにしていた人達が、争うようにノムルの前に進み出て、自分や自分の子供をアピールし始めた。
雪乃はとっさにノムルのローブにしがみ付く。ぴー助は雪乃を守るように、羽を広げた。
おびえた様子の雪乃を目に映したノムルの眉が、不機嫌そうに寄る。
「あのさあ、ユキノちゃんを怖がらせないでくれる?」
怒りのこもった低い声に、魔法使いたちは一斉に逃げ出した。防御魔法を使える者は、防御結界を展開し始めている。
なんとも慣れた様子だ。
「駄目ですよ、ノムルさん。暴力は禁止です」
「大丈夫だよ? ちゃんと加減するって」
「ノムルさんの加減は当てになりません」
「ええー。酷いなあ」
最大出力の防御結界を張り、警戒する者。物陰に逃げ込んだ者。逃げ遅れて床にへばり付いて頭を庇っている者。
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