『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ラジン国編

163.説明を求めます

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「「「え?」」」

 それらは彼等にとって、ありえない光景である。

「「「ええーーっ?!」」」

 大きな声が、魔法ギルドに響いた。
 びくりと肩を振るわせた雪乃は、ノムルのローブに身を隠し、そっと顔を覗かせる。

「状況がわかりません。説明を求めます」
「ん? いやあ、冒険者ギルドだけじゃ、ユキノちゃんを守りきれないかなーって思って。魔法ギルドの認定証も取得して、さらに俺の子供ってことを認めさせれば、万全かなあーって」
「お気遣いありがとうございます? いえ、そっちではなく」
「いえいえー。書類なんてなくても、ユキノちゃんが俺の娘であることは、変わりないんだけどねー。人間の世界は色々と面倒だからさー」

 どうやら冗談ではなく、樹人の雪乃を気づかって、色々と考えてくれていたようだ。単にノムルの欲望を、実現化しようとしているような気もしなくもないが。
 しかしそれも気になってはいたが、雪乃は他にも気になることがあった。

「このギルドの方々の反応は、どういったことなのでしょう? ノムルさん、魔法ギルドでも何かやらかしたんですか?」
「ひどっ! ユキノちゃん、もっと俺のこと信用してよ」
「無理です」
「うわっ。傷付くなあ」

 大げさに胸を押さえてカウンターに突っ伏すノムルに、雪乃は冷めた眼差しを向ける。
 そんな雪乃の態度に業を煮やしたのか、受付の青年がカウンターから出てきた。

「君、ノムル様に対して失礼だよ」

 雪乃はきょとんと青年を見上げる。

「ノムル様は、多くの魔法使いを救い、数々の偉業を成し遂げた、至高の魔法使いだ。王族でさえ、ノムル様へのお目通りを願い出て、何年もお待ちになられているんだぞ?」

 青年の言葉に、雪乃はノムルを見た。ドヤ顔に笑みを浮かべる姿は、胡散臭い。

「ノムルさん」
「なになにー?」
「面倒なのは分かりますが、王様を放置して遊んでたら駄目ですよ。後で余計に面倒になっても知りませんよ?」
「いや、そこ?!」

 人並みはずれた偉業も名声も、小さな樹人には通じなかったみたいだ。

「まーいいけどねー。雪乃ちゃんはそういう所も可愛いもんねー。あ、書類は超特急でお願いね」

 へらりと笑いかけるノムルに、青年は頬を赤く染めた。

「はい、すぐにご用意いたします!」

 ノムルに向かって勢いよく頭を下げると、雪乃を一睨みしてからカウンターの奥に戻っていった。

「さ、こっちだよー」
「はい」

 建物の奥へと入っていくノムルに追いつくと、雪乃はノムルのローブをぎゅっと握った。
 あちらこちらから、敵意の込もる視線が注がれている。
 自分は歓迎されてはいないのだと、雪乃はしょんぼり萎れた。

「大丈夫だよ」

 そう言ってノムルはいつものように、へらりと笑ったが、とてもそうは思えない。
 ここまでの道中でも、嫌な視線を浴びることはあった。それでも雪乃一人に、ここまで強烈な敵意はなかった。
 そんな雪乃の気持ちに気付かないのか、ノムルは頬をだらしなく緩めている。

「ユキノちゃんが甘えてる。かわいーなー」
「……」

 頭上からこぼれ落ちてきた言葉に、雪乃はぺしっと、ノムルのローブを振り払った。

「さっさと薬を調合しますよ」
「えー? もっと甘えてもいいんだよー? 恥ずかしがらなくても良いのにー。あ、でも、塩対応があるからこそ、甘さが引き立つわけで……。うーん、悩むなあー」
「……」

 変態オヤジの脳内思考が駄々漏れである。
 視界を糸のように細めた雪乃は、これ以上刺激しないように、決して目を合わせようとはしなかった。

「ねー、ユキノちゃーん、お揃いのローブと杖を仕立てない?」
「お断りします」
「えー?」

 そんなやり取りをしているうちに、部屋に着いたようだ。
 扉にドアノブは付いていない。小さな魔法石の付いた四角い金属版が、扉脇にインターホンのように設置されている。
 ノムルが手をかざすと、扉は横にスライドして開いた。
 視線を感じて雪乃が顔を上げると、ノムルがへらりと笑って感想を求めている。雪乃はすぐに顔を下ろしてスルーする。
 この世界では珍しいのかもしれないが、雪乃には見慣れたドアだ。

 不満そうなノムルは置いておいて、部屋の中へと入る。
 白一色で塗りつぶされた広い部屋には、ソファとテーブルが置かれていた。
 奥には寝室があり、別の部屋には机に椅子、空いた壁際には本棚が置かれている。トイレやシャワールームもあるようだ。だが、それだけだ。
 私的な部屋と言うよりも、ホテルの一室と言ったほうがしっくりくる。生活感はほとんどない。

「ここがノムルさんのお部屋ですか?」
「まあね。とはいっても、二、三年に数日しか泊まらないけど」

 部屋を見学していた雪乃は、不思議そうにノムルを見上げた。
 困ったように笑んだノムルは、ローブと帽子を脱ぎ捨ててソファに座る。生成りのシャツに、草色の緩いズボンというラフな格好で、くつろぎ始めた。
 ぴー助もノムルの隣に着地する。
 雪乃は床に放り投げられたローブを畳むと、帽子も拾ってソファの端に重ねる。

「ふあっ?」

 急に抱き上げられて、雪乃から変な声が漏れた。
 膝の上に着地した雪乃の頭の上に、ノムルはあごを乗せる。

「少しの間だから、我慢してね? 薬ができたら、すぐに出るからさ」

 雪乃の胸が、とくんっと跳ねた。
 おずおずとノムルの表情をうかがうと、暗い瞳でどこか遠くを見ていた。傷付いているような、怒っているような、いつもと違う雰囲気に、雪乃は戸惑う。

「ノムルさん」
「ん?」
「私は一人でも平気ですから、無理はしないでください」
「ん?」

 ひしと枝を握り締め、訴える雪乃に、ノムルは首を傾げる。

「旅は一人でも続けられますから、だから」
「ん? ん?!」

 必死に言い募る雪乃に対し、ノムルの眉間には、深いしわが刻まれていく。

「ちょっとユキノちゃん? それ、どういう意味さ?」
「ですから、もう薬の材料もレシピも揃ったのですから、無理に私に付き合わなくても良いですよって」
「はあ? それって、もう俺と一緒に旅しないってこと? 何が気に入らないのさ? さっきはあんなに甘えてきたくせに!」

 荒げられた声に怯みそうになりながらも、雪乃はぐっと力を込めて言葉を紡ぐ。

「気に入らないことなんて……ありますけど」
「あるんだ」
「いや、だって……」

 冒険者ギルドを吹き飛ばしたり、竜巻を起こしたり、雪山を滑走させられたり、ぴー助を巨大化させられたり、コスプレさせられたり……。
 思い返した雪乃は、ちょっと考える。

「……離れたほうが、良い?」

 今まで無事に過ごせたことは、奇跡かもしれない。
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