『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ラジン国編

175.大勢が消えたあのとき

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 正気を取り戻したヴォーリオが、真剣な眼差しで俺を見据えた。

「君は大勢が消えたあのとき、どこにいた?」

 俺はわずかにたじろいだ。
 でももう以前のように、抵抗も許されずに殴られることはないと思い直して、正直に軍の鍛錬場にいたことを伝えた。
 長い沈黙に不安が募る。
 そしてヴォーリオは、深く息を吐き出してから、俺に視線を戻した。

「あの事件は、魔法が原因だ。そしてその発生源は、軍の鍛錬場だった」

 俺の咽が、どくりと音を立てた。
 その後のことは、あまり憶えてないかな。
 気付けば俺は、魔法使いを救った英雄として担ぎ上げられていた。

「ではノムル様、アラージ国改め、ラジン国の王として、即位していただけますか?」

 ふかふかの豪華な椅子に座らされて、その前では、大勢の魔法使いが俺の前に膝を突いていた。

「王?」
「然様です。アラージ国の忌々しき王族を廃し、魔法使いたちを解放したノムル様こそ、新たに建国されたラジン国の玉座に」
「嫌だ」

 もったい付けた言葉を途中で切り捨てた途端、ざわりと空気が揺れた。

「しかし、ノムル様」
「王様っていうのは、少数派の人間を苦しめても平気な顔して、ふんぞり返っているやつのことだろう? そんなのになりたくない!」

 その時の俺が知っている王様はさ、俺たちを苦しめているやつらの、親玉っていうイメージしかなかったんだよね。
 だから、そんなのになるなんて御免だって、どんなに頼まれても、首を横に振って断わった。

 結局、国という形を保ちながら、ギルドを立ち上げて国の運営を行うっていう、ちょっと変わった国になっちゃったんだよね。
 そんで、ヴォーリオに巧いこと言われてさ、魔法ギルドの総帥の座に就いちゃったわけ。

 ――これがずっと黙ってた、俺の過去だよ」

 と、ノムルは雪乃を抱きしめる腕を、少し引き寄せる。
 雪乃はしばらく沈黙した。
 ノムルを包む空気は、凪のように穏やかだ。過去を吐き出したことで、気持ちが落ち着いたのかもしれない。

「消えた人たちは、どうなったのでしょう?」

 ぴくりと、ノムルの指が跳ねた。
 目を閉じて数度呼吸を繰り返した後、静かに答えた。

「誰も見つかってないよ。ヴォーリオたちの見解では、たぶん、死んだんだろうって。俺もそう思う」

 かさりと、葉が音を立てた。
 ノムルの目元が、雪乃の頭上に押し当てられる。

「俺が怖い? 感情が暴発したら、どれだけの被害を出すか分からない。――世界を滅ぼしてしまうかもしれない」

 震える手で強く雪乃を抱きしめながら、ノムルは喘ぐように紡いだ。
 雪乃は枝を伸ばす。
 ノムルの頭を撫でようとしたが、小さな樹人の枝は短く、頬に触れるので精一杯だった。

「魔王が降臨している時は、ちょっと怖いときもあります。でも、いつもは怖くなんかないですよ? 私の知っているノムルさんは、我が道を突き進む、空気を読まない変人です」
「いや、それ褒めてないし、慰めてもないからっ!」

 ふふっと、雪乃は笑んだ。
 ようやくノムルらしい声が聞こえた。

「強くなります」
「ん?」
「筋肉ムキムキの、強い魔法使いに」
「いや、樹人に筋肉は……じゃなくて、どうしてそうなるのさ?」

 眉をひそめるノムル。雪乃は顔を上向ける。

「だって、今のノムルさんが暴走するのは、私に何かあったときでしょう? 私が強くなって、心配掛けないようにして、ついでにノムルさんの暴走を止めれば、全て解決です」

 ノムルも雪乃から額を離し、下を見た。
 小さな樹人と、視線がかち合う。

「最悪、また暴走して人類全て消滅させても、私までは消さないでしょう? 独りぼっちにはしません。ついでに、ノムルさんが必要とするくらいの酸素は、作ってみせましょう」
「なにそれ? 世界にユキノちゃんと二人きりー?」
「ぴー!」
「ぴー助も残るそうですよ」
「あはは。ぴー助はいなくてもいいや」
「ぴっ?!」

 怒るぴー助を適当にあしらいながら、ノムルは膝の上でくつろぐ樹人の子供を見つめる。
 こんな風に穏やかな時間を過ごせる日が来るなんて、想像したことがあっただろうか? こんな温かな気持ちを、抱いたことがあっただろうか?
 きっとこれが幸せという感情なのだと、ノムルは雪乃と出会ってから知った、胸の温かみを噛みしめる。

「ユキノちゃん」
「なんでしょう?」
「ずっと傍にいてね?」

 雪乃はノムルの顔を見る。
 口元に笑みを浮かべようとして、なんだか歪んでしまっている。真剣な眼差しは、今にも泣き出しそうで、涙と共に、縋りたい気持ちを押し込めているようだ。

「しょうがないですね。放っておいたら何するか分かりませんから、ノムルさんが必要としてくださる限り、一緒にいますよ」
「約束だよー? 絶対だからねー?」
「はい」
「絶対だからねー?」
「はい」
「絶対」
「しつこいで、す?」

 と、幹をぐるんと回した雪乃は、きょとんと瞬いた。

「ノムルさん?」
「うん?」
「それは、なんでしょう?」

 ノムルの手には、契約書のようなものがあった。魔法の国だけに、文字がキラキラ輝いている。

「これ? 契約書だよ? お互いにサインしてー、血判を押すとー、腕輪になるんだ。契約違反をすると、急激に縮小して腕がもげちゃうっていう」
「お断りします」

 雪乃は速攻で辞退した。
 そもそも樹人に血判は無理だろう。

「えー? 酷いよ! さっきのは嘘だったと? 純真なノムルおとーさんを騙したの? ユキノちゃんって悪女?」
「違います。そうではなくて、そんな契約をしたら、手首可愛さに傍にいるような感じがするじゃないですか。私は純粋に、ノムルさんと一緒にいたいだけです」

 と言った雪乃は、ノムルの顔を見て失言に気付く。気付いても遅いのだが。

「そっかそっかー。ユキノちゃんは、おとーさんと一緒にいたいんだねー。うんうん、おとーさんも、ユキノちゃんと一緒にいたいよー?」

 頬擦りしてくるノムルに枝を突っ張りながら、雪乃はがくりと項垂れた。
 どんな過去があろうと、ノムルはやはり、ノムルだった。

「ユキノちゃーん、もっと素直になりなよー? 意地っ張りなユキノちゃんも可愛いけど、甘えるのも大切だよー?」

 変態であることに、変わりはないらしい。
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