『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

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ラジン国編

178.この幸運に感謝を!

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「あ? 決まってるだろう? ユキノちゃんはこの世界で一番、可愛いからだ」
「「「……」」」

 ノムルは何を当たり前のことを? とばかりに、きっぱり断言した。
 はふうと息を吐き出しながら、雪乃は額を押さえる。
 この状況で、この回答はない。いくらなんでも無い。そもそも意味が分からない。
 意味が分からなすぎて全員の思考が停止している状況を見ると、最善策だったのかもしれない。いや、そんなはずはないのだが。

 しかしこれは好機である。
 雪乃はきらりーんと葉を輝かせた。
 ここにいる人達が納得し、ノムルも合意するであろう策を、今のうちに提起するのだ。
 決して、逃げているわけではない。嫌だから押し付けようなんて考えてはいない。この幸運に感謝を! なんて、決して思ってはいないのだ。もちろん。

「ノムルさん、お願いがあります!」

 右枝を大きく挙げて、声を張り上げる。
 声が嬉しそうに弾んでいるように聞こえたのは、きっと気のせいである。
 雪乃を目にしたノムルの眉間に、皺がよった。

「ユキノちゃんが何を言おうとしているのか、おとーさんは何となく分かるけど、今回は駄目だよ? 二回目なんだから、しっかり反省してもらわないと」

 魔王の目には憤怒が宿っているが、ここで負けるわけにはいかない。
 雪乃はぐっと力を込めて、両枝先を握り締める。

「ここにいる皆さんは、ノムルさんの研究に、協力したいだけなんです!」
「ユキノちゃん、かばわなくていいんだよ? 優しいユキノちゃんは好きだけど、優しいだけじゃ、ユキノちゃんが傷付いちゃうよ?」

 モーセが海を割るごとく、人込みを割ってやってきたノムルは、雪乃の前にしゃがみ込む。
 野次馬達は、雪乃とノムルの様子を探るように見つめている。
 昨日のノムルの怒りを思い出して恐怖しつつも、雪乃の言葉に、何かを期待するような視線も向けていた。

「ノムルさん、皆さんは、ノムルさんの研究に、協力したいと仰ってくださっているのですよ?」
「うん?」

 一言一言を、強調して声にする雪乃に、ノムルは首を傾げる。雪乃はもう一度、強く言った。

「ですから、ノムルさんの研究を、代わりに行ってくれると言ってくださっているのです! ほら、もう一つ、研究したいと仰っていたではありませんか。薬の効能を上昇させる可能性のある、例の研究を」

 葉が艶やかに怪しく輝く。
 雪乃が伝えんとしていることを理解したノムルの口角も、どんどんと上がる。
 二人は怪しげな笑みをこぼし、不気味に笑い出した。

「ふふふ。ご理解いただけましたか?」
「ふへへ。うん、理解したよ。そっかそっかー、手伝ってくれる人を見つけてくれたんだー。ユキノちゃん、ありがとー」
「いえいえー。これもノムルさんの人徳ですよ」

 紡がれている言葉は平穏なのに、まとう雰囲気は、明らかにおかしい。関わってはいけないと、本能が告げるほどに。
 そろりと、その場から立ち去ろうと廊下の向こうに歩み出した一人が、何かにぶつかった。
 いつの間にか結界が張り巡らされ、逃走は出来なくなっていた。

「さってとー。ここにいる全員が協力してくれるっていうことで、良いのかな?」

 にっこりと、ノムルは悪魔のほほ笑みを浮かべる。
 異常事態に気付いた者は、顔を青ざめ後退る。
 恐怖よりも、ノムル・クラウの手伝いが出来るという名誉に興奮した者は、頬を紅潮させて前に出た。

「ノムルさん、前向きな方にお願いしたほうが、効率良く、詳細なデータを集められると思います」
「んー? 全員参加でなく?」

 ノムルは少しばかり不満そうだ。

「嫌がる人に無理矢理手伝わせては、素材がかわいそうです。それに遠巻きに見ていただけで、充分に反省してくださっている方には、罰を与える必要はないと思います」

 ちらりと、ノムルは後ろのほうで身を竦めている者たちを見た。
 雪乃の言葉を耳に留めていた彼らは、首を大きく上下に振っている。

「さすがはノムル様がお選びになったご令嬢です。ご優秀なお子様で、恐縮いたしました」
「ノムル様に御子が出来ましたこと、心よりお祝い申し上げます」

 縋るように絞り出された言葉に、興奮していた者たちからは、射殺さんばかりの眼光が飛んでいく。

「「「ひいっ!」」」

 と小さく悲鳴を上げて後退った彼らは、そのままするりと結界を抜けた。驚き、自分の体や結界を確認してから、ノムルと雪乃に視線を戻す。
 ノムルの顔は、へらりと機嫌よく相好を崩している。その表情を見て、彼らは窮地を脱したことを悟り、ほっと胸を撫で下ろした。

「ご令嬢だってー。御子だってー。うんうん、ちゃんと分かってるねー。そうなんだよ、ユキノちゃんは俺のご令嬢なんだー」

 だらしなく崩れまくっている。
 枝先を額にあてた雪乃は、ノムルの反対側へと顔を逸らした。
 棘のある視線が集まっているが、それよりもノムルの言葉が違う意味で痛い。

「じゃあ残ったやつらには、俺が持ち帰った薬草のデータを取ってもらおうかなー。効果があるようなら、それで薬も作ってもらっちゃおうかー」
「「「はい!」」」

 三白眼は一瞬でとろけるような瞳に変わった。
 ここの魔法使いたちのノムル信仰は、常軌を逸していると、雪乃は遠ざかりたい気分になる。

「じゃあ、説明するよー。これから俺が薬草を渡すから、自分の研究室に持ち帰ってねー。部屋に入って鍵を掛けたら、薬草に魔力を注いでね。で、薬草が変化したら、それまでに込めた魔力量と、そいつの薬効データを取れるだけとってー」
「「「はい!」」」
「本当に分かってるー?」
「「「はい!」」」

 目をキラキラと輝かせて、ノムルを見つめる人々。時折、雪乃に対し、嘲るような視線や笑みを投げかけてくる。
 しかし、これから起こる出来事を知っている雪乃は、彼らを哀れに思いこそすれ、怒りなど浮かぶはずも無かった。
 ノムルは一人一人に薬草を配っていく。
 昨日もラウンジに居た者、今しがた雪乃を侮辱した者には、特に酷いものが配られているようだ。
 渡されている人たちは気付いていないが。

「ノムル様、これは薬に魔力を加えて効能を上げるという、今だ成功していない理論を、実証するための研究と考えてよろしいでしょうか?」

 ちらちらと雪乃に勝ち誇ったような視線を向けながら、ヴィヴィが猫なで声で尋ねている。
 けれど雪乃としては、彼女のその態度よりも、彼女の手に乗せられている植物が気になってしまった。
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