127 / 385
ラジン国編
179.交換する気は無いようだ
しおりを挟む
この騒動の主犯とはいえ、まだ幼い美少女に、それは非道だろう。なにせその手に乗っているのは、植木鉢に根を下ろしている、ムッセリー草だ。
雪乃でさえ直視を拒否した、モザイクを掛けたくなるあれである。
そうっと視線を逸らしながらノムルのローブを引っ張るが、ノムルに交換する気は無いようだ。
「そーだよー。採取する前に魔力を込めれば、薬草に魔力が残ったままになるってことは、確認済みなんだけどねー。どれほど効能に違いが出てくるのかまでは、旅の途中じゃ調べられなくてさー。それに多くの薬草のデータを集めるには、俺一人じゃ時間が掛かるからねー」
満面の笑顔で、ヴィヴィの質問に丁寧に答えている。
「お役に立てて光栄ですわ」
ヴィヴィは雪乃に向けて口角を上げると、軽く鼻で笑った。彼女だけでなく、ノムルから薬草を渡された者の多くが、雪乃を勝ち誇ったように見下している。
だけどやっぱり、雪乃は彼らに対して、同情と感謝しかない。なにせこの騒動が無ければ、雪乃とノムルで確かめる予定だったのだ。
雪乃はきらきらと葉をきらめかせて、彼らを優しく見つめる。
「嗚呼、皆さん、本当にありがとうございます。雪乃は感謝の言葉以外、見つかりません」
「ユキノちゃん、気持ちは分かるけど、戻っておいで」
思わず本音がだだ漏れた雪乃は、今にも踊りだしそうだ。
ノムルはそうっと雪乃を引き戻す。
これから自分たちの身に降りかかる災いを知らない魔法使い達は、訝しげに顔をしかめるばかりだ。
そしてノムルが解散宣言を下すなり、薬草を受け取った者達は、一斉に駆け出した。
誰よりも先にノムルに成果を報告して、彼からの評価を得ようという魂胆だろう。だがしかし。
「ぅぎやああああぁぁぁあぁぁーーっ?!」
「いやああああぁぁぁーー!!」
「うぎゃらうぐぅあうあぅああー?!」
その日、魔法ギルドのあちらこちらから、悲鳴やら奇声やら怒声やら爆発音やら、ともかく、騒がしかった。
ノムルと雪乃は、しっかりと結界を張って侵入不可とした部屋の中で、のんびりお茶を楽しむ。
「んめ゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」
騒動に皆が気を取られている間に、ランタの回収も済ませることができた。
「これで後は、融筋病の薬が熟成するのを待つだけですね」
「そうだねー」
「災い転じて福となすとは、まさにこのことですね」
雪乃は空になったノムルの湯飲みにお茶を注ぐ。低めのお湯でじっくり煎れた緑茶は、甘く飲みやすい。
「やっぱりユキノちゃんのお茶が、一番だねー」
「ありがとうございます」
「ぴー」
二人と一匹は、赤く染まる夕日をのどかに眺めた。
今日も平和な一日が終わる。
「いぎやああぁぁぁーーっ!!」
「助け……ああああぁぁぁーー!!」
「おろしてええええーーーっ!」
「待て、俺ごと撃つなあーーっ!」
「ぎゃああああーー?! 来るなあーっ!」
扉の向こうから、賑やかな声や爆発音やら何かが壊れる音がするが、魔法使いのギルドだ。
明日の朝には何事もなかったように改修されているのだろうと、雪乃は植木鉢に根を張って、眠りに就いたのだった。
朝食を食べるためにラウンジへと向かうノムルに、雪乃も付いていく。
途中、蔓性魔植物が天井を這っていたり、甘ったるい香りが漂ってきたり、魔カマーフラワーが廊下の向こうを元気に走っていったが、気にせず歩いていく。
ラウンジに着くと、テーブルに突っ伏す魔法使いたちが目に入る。
全員の頬がげっそりと痩せこけ、目の下に真っ黒な隈が浮かんでいる。まるで飲まず食わずで、三日ほど徹夜仕事をしたかのような有様だ。
「お、おぞましいものを見たわ……」
まだ若いヴィヴィまで、げっそりとしていた。
顔には隈がくっきり浮かび、髪の毛もボサボサである。折角の美少女が台無しだ。
「昨日の夕方は、皆さんお元気だったはず。一夜にしてこれほどまで消耗されるとは」
「本当にねえ。たった一晩くらいで大げさだよねえ」
「「「……」」」
死んだ魚のような目が、雪乃とノムルを見る。
「何か滋養の付くものでも作りましょうか? それとも魔力回復のほうが良いでしょうか?」
「うーん。どちらかと言えば、魔力が枯渇しているようだね」
「了解です。えーっと、魔力回復には……」
雪乃は薬草図鑑をめくる。
「……マンドラゴラジュースが良いみたいです」
「……。ユキノちゃんが良いならいいけど」
二人の頭上に、自由気ままな小さな友の姿が浮かぶ。
「わ?」
雪乃はローブの下から聞こえてきた声を、小枝で押さえて引っ込めさせた。
「最近、なんだか彼らの自由度が上昇している気がします」
「人前で出てこなければ、もうどうでもいいよ」
「そうですね」
ノムルはサンドイッチを摘まむ。
何かパンの間から蠢いている気がするが、ノムルが気にしないのならば放っておいて良いだろうと、雪乃は見なかったことにした。
「さすがに彼らをすりおろすのは心が痛みますので、マンドラゴラエキスにします。おそらく通常のマンドラゴラジュースと、効果は同じくらいになると思いますし」
「どうだろうねー。ユキノちゃんの薬は効果が高いから、もっと薄めても良いかもねー」
などと話しながら、のんびりと朝の一時を楽しむ。
近くの廊下から悲鳴が聞こえてくると、ラウンジにいた魔法使いたちが、びくりと震えて起き上がった。杖を構え、臨戦態勢に入る。
悲鳴と足音が近付いてきた。
雪乃はなんとなしに視線を向ける。
数人の魔法使いたちが駆け抜け、ラウンジにいる魔法使いたちの緊張が高まっていく。逃げた魔法使いを追いかけて、それは姿を現した。
肉厚の赤い花びら、それに負けぬタラコ唇。そこからだらしなく伸びた真っ赤な舌からは、透明な液体が滴っている。
花だけで一メートルほど、全長二メートルほどの、かつて見慣れた魔カマーフラワーだ。
ラウンジに人がいることに気付いた魔カマーフラワーは、根を止め、ラウンジの中を見回す。舌なめずりするように動いた舌から、透明な液体が飛び、壁をじゅわりと溶かした。
「おお! あの涎は、意外と攻撃力があったのですね」
今まで気付かなかった事実に、雪乃は感嘆の声をもらす。
そんな雪乃に意識を向ける余裕もないのかスルーして、魔法使いたちは杖を構えた。
「結界、展開!」
ヴィヴィの声に従って一斉に魔力を放ち、結界を張る。
数人の魔法使いが作り出した結界に阻まれて、魔カマーフラワーは、ラウンジ内に侵入できないようだ。
ノムルはサンドイッチを食べ終え、食後のお茶を楽しんでいる。
雪乃でさえ直視を拒否した、モザイクを掛けたくなるあれである。
そうっと視線を逸らしながらノムルのローブを引っ張るが、ノムルに交換する気は無いようだ。
「そーだよー。採取する前に魔力を込めれば、薬草に魔力が残ったままになるってことは、確認済みなんだけどねー。どれほど効能に違いが出てくるのかまでは、旅の途中じゃ調べられなくてさー。それに多くの薬草のデータを集めるには、俺一人じゃ時間が掛かるからねー」
満面の笑顔で、ヴィヴィの質問に丁寧に答えている。
「お役に立てて光栄ですわ」
ヴィヴィは雪乃に向けて口角を上げると、軽く鼻で笑った。彼女だけでなく、ノムルから薬草を渡された者の多くが、雪乃を勝ち誇ったように見下している。
だけどやっぱり、雪乃は彼らに対して、同情と感謝しかない。なにせこの騒動が無ければ、雪乃とノムルで確かめる予定だったのだ。
雪乃はきらきらと葉をきらめかせて、彼らを優しく見つめる。
「嗚呼、皆さん、本当にありがとうございます。雪乃は感謝の言葉以外、見つかりません」
「ユキノちゃん、気持ちは分かるけど、戻っておいで」
思わず本音がだだ漏れた雪乃は、今にも踊りだしそうだ。
ノムルはそうっと雪乃を引き戻す。
これから自分たちの身に降りかかる災いを知らない魔法使い達は、訝しげに顔をしかめるばかりだ。
そしてノムルが解散宣言を下すなり、薬草を受け取った者達は、一斉に駆け出した。
誰よりも先にノムルに成果を報告して、彼からの評価を得ようという魂胆だろう。だがしかし。
「ぅぎやああああぁぁぁあぁぁーーっ?!」
「いやああああぁぁぁーー!!」
「うぎゃらうぐぅあうあぅああー?!」
その日、魔法ギルドのあちらこちらから、悲鳴やら奇声やら怒声やら爆発音やら、ともかく、騒がしかった。
ノムルと雪乃は、しっかりと結界を張って侵入不可とした部屋の中で、のんびりお茶を楽しむ。
「んめ゛え゛え゛え゛え゛ええええーーーーーっっ!!」
騒動に皆が気を取られている間に、ランタの回収も済ませることができた。
「これで後は、融筋病の薬が熟成するのを待つだけですね」
「そうだねー」
「災い転じて福となすとは、まさにこのことですね」
雪乃は空になったノムルの湯飲みにお茶を注ぐ。低めのお湯でじっくり煎れた緑茶は、甘く飲みやすい。
「やっぱりユキノちゃんのお茶が、一番だねー」
「ありがとうございます」
「ぴー」
二人と一匹は、赤く染まる夕日をのどかに眺めた。
今日も平和な一日が終わる。
「いぎやああぁぁぁーーっ!!」
「助け……ああああぁぁぁーー!!」
「おろしてええええーーーっ!」
「待て、俺ごと撃つなあーーっ!」
「ぎゃああああーー?! 来るなあーっ!」
扉の向こうから、賑やかな声や爆発音やら何かが壊れる音がするが、魔法使いのギルドだ。
明日の朝には何事もなかったように改修されているのだろうと、雪乃は植木鉢に根を張って、眠りに就いたのだった。
朝食を食べるためにラウンジへと向かうノムルに、雪乃も付いていく。
途中、蔓性魔植物が天井を這っていたり、甘ったるい香りが漂ってきたり、魔カマーフラワーが廊下の向こうを元気に走っていったが、気にせず歩いていく。
ラウンジに着くと、テーブルに突っ伏す魔法使いたちが目に入る。
全員の頬がげっそりと痩せこけ、目の下に真っ黒な隈が浮かんでいる。まるで飲まず食わずで、三日ほど徹夜仕事をしたかのような有様だ。
「お、おぞましいものを見たわ……」
まだ若いヴィヴィまで、げっそりとしていた。
顔には隈がくっきり浮かび、髪の毛もボサボサである。折角の美少女が台無しだ。
「昨日の夕方は、皆さんお元気だったはず。一夜にしてこれほどまで消耗されるとは」
「本当にねえ。たった一晩くらいで大げさだよねえ」
「「「……」」」
死んだ魚のような目が、雪乃とノムルを見る。
「何か滋養の付くものでも作りましょうか? それとも魔力回復のほうが良いでしょうか?」
「うーん。どちらかと言えば、魔力が枯渇しているようだね」
「了解です。えーっと、魔力回復には……」
雪乃は薬草図鑑をめくる。
「……マンドラゴラジュースが良いみたいです」
「……。ユキノちゃんが良いならいいけど」
二人の頭上に、自由気ままな小さな友の姿が浮かぶ。
「わ?」
雪乃はローブの下から聞こえてきた声を、小枝で押さえて引っ込めさせた。
「最近、なんだか彼らの自由度が上昇している気がします」
「人前で出てこなければ、もうどうでもいいよ」
「そうですね」
ノムルはサンドイッチを摘まむ。
何かパンの間から蠢いている気がするが、ノムルが気にしないのならば放っておいて良いだろうと、雪乃は見なかったことにした。
「さすがに彼らをすりおろすのは心が痛みますので、マンドラゴラエキスにします。おそらく通常のマンドラゴラジュースと、効果は同じくらいになると思いますし」
「どうだろうねー。ユキノちゃんの薬は効果が高いから、もっと薄めても良いかもねー」
などと話しながら、のんびりと朝の一時を楽しむ。
近くの廊下から悲鳴が聞こえてくると、ラウンジにいた魔法使いたちが、びくりと震えて起き上がった。杖を構え、臨戦態勢に入る。
悲鳴と足音が近付いてきた。
雪乃はなんとなしに視線を向ける。
数人の魔法使いたちが駆け抜け、ラウンジにいる魔法使いたちの緊張が高まっていく。逃げた魔法使いを追いかけて、それは姿を現した。
肉厚の赤い花びら、それに負けぬタラコ唇。そこからだらしなく伸びた真っ赤な舌からは、透明な液体が滴っている。
花だけで一メートルほど、全長二メートルほどの、かつて見慣れた魔カマーフラワーだ。
ラウンジに人がいることに気付いた魔カマーフラワーは、根を止め、ラウンジの中を見回す。舌なめずりするように動いた舌から、透明な液体が飛び、壁をじゅわりと溶かした。
「おお! あの涎は、意外と攻撃力があったのですね」
今まで気付かなかった事実に、雪乃は感嘆の声をもらす。
そんな雪乃に意識を向ける余裕もないのかスルーして、魔法使いたちは杖を構えた。
「結界、展開!」
ヴィヴィの声に従って一斉に魔力を放ち、結界を張る。
数人の魔法使いが作り出した結界に阻まれて、魔カマーフラワーは、ラウンジ内に侵入できないようだ。
ノムルはサンドイッチを食べ終え、食後のお茶を楽しんでいる。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。
お小遣い月3万
ファンタジー
異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。
夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。
妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。
勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。
ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。
夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。
夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。
その子を大切に育てる。
女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。
2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。
だけど子どもはどんどんと強くなって行く。
大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活
カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ
ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。
間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。
多分不具合だとおもう。
召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。
そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます
◇
四巻が販売されました!
今日から四巻の範囲がレンタルとなります
書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます
追加場面もあります
よろしくお願いします!
一応191話で終わりとなります
最後まで見ていただきありがとうございました
コミカライズもスタートしています
毎月最初の金曜日に更新です
お楽しみください!
魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな
七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」
「そうそう」
茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。
無理だと思うけど。
私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました
放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。
だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。
「彼女は可哀想なんだ」
「この子を跡取りにする」
そして人前で、平然と言い放つ。
――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」
その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。
「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる