『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
136 / 385
コダイ国編

188.何が食べたいですか? ※

しおりを挟む
 道の両端には店が立ち並び、賑わっていた。
 店が途切れ、その分広くなった場所で、馬車は端に寄せて停車した。ここで休憩がてら昼食を取り、再び馬車に乗って次の町に向かうのだ。
 雪乃たちも馬車から下り、店を覗きながら歩く。

「リアちゃんは何が食べたいですか?」

 雪乃は、はぐれないように手をつないだリアに問うた。
 リアは困ったように視線をさ迷わせる。それから悲しそうにうつむいた。

「わ、私は、お腹、空いてない」

 そう答えはしたが、馬車に乗っている間、食べ物を売っている店を熱心に見ていた姿を、雪乃はちゃんと見ている。

「遠慮はいりませんよ。お友達になった記念です。好きな物を食べてください」

 にこにこと笑う雪乃だが、リアはやはり遠慮気味だ。けれどその視線が、ちらりちらりと向かう先を、雪乃は見逃さなかった。

「では、あれにしましょう」

 そう言って、雪乃はリアの手を引いて店に向かう。

「くうっ! おとーさんとは滅多に手をつないでくれないのに。酷いよ、ユキノちゃん! これが娘を持つ父親の気持ちというやつか?」
「……」

 後ろで何か騒いでいる人がいるが、気にしてはいけない。
 無きものとして雪乃は振舞う。

「お一つください」
「はいよっ!」

 財布を取り出し代金を支払った雪乃は、それを受け取った。
 じいっと見つめた後、リアに顔を向ける。

「リアちゃんは、これがお好きですか?」

 雪乃の問いかけに、リアは恥ずかしそうにこくりと頷いた。

「ソウデスカ。では、どうぞ遠慮なくお食べください」

 差し出された包みを手に取ると、リアはきょとんと雪乃を見つめる。

「ユキノちゃんは?」
「私は食物は必要としませんから」

 リアを適当な場所に座らせて、買った物を食べさせる。
 躊躇っていたリアだが、包みを開いて食べ始めると、好物だからか空腹だったからなのか、よそ見することなく頬張り続けた。

 雪乃は山に挟まれた、細い空を見上げる。
 樹高一メートルほどの樹人には、屋台の棚の上に置かれた食べ物の姿は、見えなかったのだ。
 けれどリアが何度も見つめていたから、きっと彼女の好物なのだろうと、それを買い求めた。
 そしてリアは、夢中でそれを食べている。
 だから、間違ってはいない。正しい行動だったはずだ。
 ノムルの姿がいつの間にか消えているが、彼が迷子になるということは考えられない。放っておいて問題はないだろう。
 なぜかぴー助の姿も見えないが、きっとノムルに付いていって、美味しい食べ物をねだっているのだろう。
 
(うん、大丈夫)

 雪乃は空を見上げていた顔を下げ、周囲の店を見回す。
 店で売られている料理は、焼いたり炒めたりといった調理法が多い。ここまで見てきた景色から、水が貴重なのだろうと察しは付く。
 そして料理の素材に野菜は少ない。肉もあるが、昆虫らしきものが多くあった。

 昆虫は栄養があって優秀な食材だ。地球でも多くの国で好まれている。
 日本で見かけることは少なくなっているが、昔は普通に食べられていたというし、今でも好んで食べている地域もある。
 蜂の子は甘くてクリーミーだと評判だし、イナゴは小エビのようなサクサクとした食感が美味しい。
 何が言いたいかといえば、

「美味しかった。ありがとう、ユキノちゃん。でも、本当に良かった? 一人で全部食べた、ポポテプ」

 リアのために買った包みの中に入っていたのは、あのポポテプだったのだ。目玉が幾つもあり、腹は白い何かが集まっていて、うん、まあ、イナゴの化け物のような存在だ。

「お構いなく。私は土から栄養を摂取しますので、問題ありません」
「ユキノちゃん、ミミズの虫人? でも、体硬い」
「……」

 何とか現実に戻ってきた雪乃だったが、ミミズ人もいるのかと、再び遠い世界に行きかけた。

「ねえ、ユキノちゃん」

 低く深刻なトーンになったリアの声に、雪乃は呼び戻される。

「どうしましたか?」

 雪乃はなるべく優しい口調を心がけて問うた。
 差別されている上に、奴隷に落とされ暴力まで振るわれたのだ。リアの心には、大きな傷が刻まれてしまっているかもしれない。
 リアは雪乃を見つめて、問いかける。

「子供、生めるように、できる?」

 雪乃の頭の中は、真っ白になった。
 薬師だと名乗りはしたが、できることとできないことがある。
 リアはまだ子供だ。子供を生むような年齢ではない。そして雪乃も、人間だった頃を含めても、まだそんな年齢ではないのだ。

「す、すみません。私ではお力になれそうにありません」

 雪乃は仄かに紅葉しながら答える。

「そう」

 あまり期待していなかったのか、リアはあっさりと受け入れた。

「お待たせー。色々と買って来たよー」

 戸惑っていた視界を声のするほうに向けた雪乃は、固まった。
 ポポテプがなくなるのを見計らったように帰ってきたノムルの手にあったのは、アイスキャンディーのように棒の先に刺さった大きなクモ。そしてぴー助が咥えていたのは、地球のアレよりとても大きな黒くて艶やかな……<以下略>。

「もっと選択肢はあったはずでは? なぜそれを? ノムルさん、ポポテプは否定していましたよね? 理解しかねます」

 雪乃は今度こそ、意識を遠くの世界に手放した。そして気付いた時には、知らない町に辿り着いていた。
 どうやら放心した雪乃を、ノムルが勝手に運んだらしい。

「恐るべし、異世界」

 雪乃はふるふると震えた。

 宿は二部屋取り、リアだけ別部屋となった。
 まだ恐怖の抜けきらないリアを一人にすることは気掛かりだったが、雪乃は普通に眠ることができない。
 ぴー助はおとなしいが、竜種である。雪乃と離れている間に、リアに万が一のことがあってもいけない。
 そしてノムルに関しては、

「ん? どーしたの? そんな冷たい眼差しで見つめてー。寒いのかなー?」

 笑顔で両手を広げ、雪乃が飛び込んでくるのを待っている。
 ふいっと雪乃は顔を逸らした。
 こんな変態と可憐な少女を、二人きりにはできない。
 そんなわけで一晩目は、リアに一人部屋で寝てもらうことにしたのだった。

「ねー、ユキノちゃん」
「なんでしょう?」

 宿の部屋に入ると、ノムルは真面目な顔付きで雪乃の対面に座る。

「数日とはいえ、一緒に行動するってことの意味、分かってる? ユキノちゃんの正体に気付かれる危険があるのは、ちゃんと理解している?」
「それは……」

 雪乃は口ごもる。
 共に旅をするということは、夜も共に過ごすということだ。今夜は宿を取り、別の部屋に泊まることができたが、野宿することもある。
 日が落ちれば、雪乃の正体は誤魔化せないだろう。

「虫人は半魔物として扱われている。つまり、半分は人なんだ。もしあの子がユキノちゃんの正体を知り、騒いだら、危険な目に合うのはユキノちゃんのほうなんだよ?」

 ここまでの旅路で、あまり危険な目にあっていなかったから、理解はしていたはずなのに注意は疎かになっていた。

「ぴー助に二人で乗っていったときもそう。あの虫人がユキノちゃんを仲間だと誤解してくれたから良かったけど、下手をすれば樹人だとばれて、人間たちに酷い目に遭わされていたかもしれないんだよ?」
「うっ」

 全面的にノムルが正しいと、雪乃は認めざるを得なかった。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...