『種族:樹人』を選んでみたら 異世界に放り出されたけれど何とかやってます

しろ卯

文字の大きさ
137 / 385
コダイ国編

189.ついにアトランテ草原へと

しおりを挟む
「ごめんなさい」
「うん」

 幹を曲げて謝る雪乃の頭を、ノムルは優しく撫でる。そして、

「じゃあ、お詫びー」

 両手を広げて、雪乃がダイブしてくるのを待った。それはもう、満面の輝く笑顔で。

「では、おやすみなさい」

 雪乃は幹を曲げて丁寧に就寝の挨拶をすると、植木鉢に上る。

「ちょっと、ユキノちゃん?! ハグ! おやすみのちゅー!」
「お断りします。セクハラ禁止です!」

 地団駄を踏んで悔しがっているが、相手をしてはいけない。余計に要求が上乗せされるに決まっている。
 雪乃は静かに視界を閉じた。

「あー、眠っちゃったかー。でもまあ、誰にも奪わせる気なんてないんだけどね」

 ノムルは雪乃を一撫でして、根元に丸まった。寝台よりも雪乃の近くで眠るほうが、彼は熟睡できるようだ。

 そんなこんなで、ついにアトランテ草原へと辿り着いたのだった。
 一面が草原に覆われ、所々に広葉樹が生えている。ただなぜか、遠近感がおかしい。
 遠くのものが遠くに見えないという、不思議な感覚に襲われる。そして歩いていくと、歩く速度に比べて景色が近付くのが早い。

「もしや……」

 樹人やマンドラゴラのように、植物が移動しているのかと辺りを注意深く見回すが、その気配はないようだ。
 違和感は拭えぬままに、雪乃は草原の中を進んでいった。
 芝生のような草地を踏み進んでいるうちに、いつの間にか膝辺りまで草に隠れ、腰、肩、頭と、草に埋もれていく。
 もはや雪乃の姿はすっぽり草原に埋まっていた。

「ユキノちゃん? 大丈夫ー?」
「な、なんとか」

 草を掻き分けながら、雪乃は進む。
 前を歩くリアは、慣れているのか平気な顔だ。

「ユキノちゃん、抱っこしてあげよっかー?」
「だ、大丈夫です」

 とは言ったものの、雪乃は途方にくれていた。
 草丈は雪乃の樹上はとっくに超え、ノムルさえも草に埋もれている。草丈二メートルは超えているだろう。

「ずいぶんと大きな草ですね」
「そう?」

 見上げる雪乃に、リアは小首を傾げる。

「草原の入り口は、背の低い草しか生えてない」
「……」

 どうやらまだ序の口だったらしい。
 その言葉どおり、休憩を挟みながら奥へと進めば、草原に生える草は、いつしか送電用の鉄塔のように高く伸びていた。

「小人になった気分です」

 雪乃が呟けば、リアはくすりと笑う。
 はるか上に揺れる花も大きく、その上に家を建てられそうだ。

 草原に入ってから三日目。ようやく雪乃たちは蟻人の里へと辿り着く。
 地中に暮らしているという予想は外れ、目の前には土色の、大きな山がそびえていた。
 蟻は蟻でも、蟻塚に暮らす種族だったようだ。

「リア?!」

 蟻塚の上から、声が降って来る。
 驚きと喜びが混じる、悲鳴のような声だった。

「ルア姉さん!」

 リアも大声で応じると、駆け出した。
 二人の声を皮切りに、蟻塚中の穴から次々と蟻人が出てくる。ほぼ全てが女性である。
 みんな黒髪に大きな瞳、そして褐色の肌をしていた。どうやら蟻人の特徴らしい。

「ああ、リア! どれほど心配したか。助けられなくてごめんなさい。戻ってきてくれて嬉しいわ」

 ぎゅうっとルアはリアを抱きしめる。
 蟻塚から出てきた蟻人たちも、次々とリアを抱きしめた。

「感動の再会です」
「ちなみに、あの山の中できのこは栽培されているんだよ? 採取する時はー、山を吹っ飛ばすんだけど、力加減や場所を間違えるときのこも吹き飛んじゃうから、気を付けてねー」
「……。ノムルさん、反省していませんね」

 へらへら笑う魔法使いを、雪乃はギロリと睨んだ。

「壊しちゃ駄目です! ギルドじゃないんですから!」
「えー?」

 いや、ギルドでも吹き飛ばしたら駄目だろう。
 だがここに、それをつっ込む人間はいなかった。雪乃もやっぱり毒されてしまったようだ。

「あのう」

 喧嘩という名のじゃれ合いをぴたりと止めて振り向くと、蟻人たちが雪乃とノムルを見つめていた。
 二人が会話を止めて顔を向けたと同時に、蟻人たちは揃って頭を下げる。

「リアを助けていただき、ありがとうございました」

 大きな瞳に涙を称えて、震える声で感謝の言葉を述べる。本当に彼女の身を案じ、帰還を願っていたのだと、雪乃は胸が熱くなる。

「いえ、たまたま出くわしただけなので、お気に」
「いいよいいよー。今夜はきのこ尽くしでお願いねー。お土産用もよろしく」
「……」

 表情を取り落とした雪乃は、ふるふると震えた。
 このおっさん魔法使いに、感情や空気の読み方を教える方法はないものか。

「もちろんです。とっておきの料理を用意させていただきますね」

 にっこりと、蟻人たちは応じた。
 雪乃とノムルは、リアたちに案内されて蟻塚の中に入っていく。

 穴の中には、吹き抜けになっている中央広場があった。明り取りの穴が幾つも開いていて明るく、蟻塚の中とは思えぬ開放感がある。
 広場を包むように店が並び、その後ろにそびえる壁沿いには、坂や階段が、幾つも枝分かれしながら伸びていた。その所々に、家の入り口と思われる扉が見える。
 蟻塚の中は、小さな町のようだった。

 興味深く見上げる雪乃が遅れないよう、ノムルはゆっくりと歩いていく。
 リアは次々と現れる住人達に、声を掛けられ、抱きしめられていた。涙ぐんでいる者も大勢いる。
 その大半が、女性だった。というより、女性しかいない。

「やはり蟻人は、女性が多いのですね」

 リアを取り囲む住人達に視線を戻した雪乃は、感慨深げに呟いた。
 地球の蟻も、圧倒的に雌が多い。働き蟻は皆、雌である。
 雄は繁殖期にしか生まれず、寿命は一週間ほどしかない。しかも用が済めばお食事になるという、なんというか、蟻族の男に生まれなくて良かったよね! と言いたくなる蟻生を送る。

「あなた方がリアを助けてくれたんですってね。本当にありがとう」

 わさわさと集まっていた女性達が、雪乃とノムルにも向かってくる。
 本当に、どこから出てきたとばかりの蟻人だかりで、かわせそうにない。祭りの神輿のように、担ぎ上げられそうな勢いだ。

「はーい、そこまでー」
「ぴー」

 雪乃たちの周りに結界が張られ、蟻人たちはそれ以上、雪乃に近付くことができなくなった。

「うちのユキノちゃんが可愛いのは分かるけど、あんまりべたべたしないでよねー。お嫁に行けなくなったらどうするのさ? やらないけど」
「どうして私の未来を、ノムルさんが決めているのでしょうか?」
「え?」

 雪乃とノムルは見詰め合う。
しおりを挟む
感想 933

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

異世界に召喚されたが勇者ではなかったために放り出された夫婦は拾った赤ちゃんを守り育てる。そして3人の孤児を弟子にする。

お小遣い月3万
ファンタジー
 異世界に召喚された夫婦。だけど2人は勇者の資質を持っていなかった。ステータス画面を出現させることはできなかったのだ。ステータス画面が出現できない2人はレベルが上がらなかった。  夫の淳は初級魔法は使えるけど、それ以上の魔法は使えなかった。  妻の美子は魔法すら使えなかった。だけど、のちにユニークスキルを持っていることがわかる。彼女が作った料理を食べるとHPが回復するというユニークスキルである。  勇者になれなかった夫婦は城から放り出され、見知らぬ土地である異世界で暮らし始めた。  ある日、妻は川に洗濯に、夫はゴブリンの討伐に森に出かけた。  夫は竹のような植物が光っているのを見つける。光の正体を確認するために植物を切ると、そこに現れたのは赤ちゃんだった。  夫婦は赤ちゃんを育てることになった。赤ちゃんは女の子だった。  その子を大切に育てる。  女の子が5歳の時に、彼女がステータス画面を発現させることができるのに気づいてしまう。  2人は王様に子どもが奪われないようにステータス画面が発現することを隠した。  だけど子どもはどんどんと強くなって行く。    大切な我が子が魔王討伐に向かうまでの物語。世界で一番大切なモノを守るために夫婦は奮闘する。世界で一番愛しているモノの幸せのために夫婦は奮闘する。

ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?

音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。 役に立たないから出ていけ? わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます! さようなら! 5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

間違い召喚! 追い出されたけど上位互換スキルでらくらく生活

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
僕は20歳独身、名は小日向 連(こひなた れん)うだつの上がらないダメ男だ ひょんなことから異世界に召喚されてしまいました。 間違いで召喚された為にステータスは最初見えない状態だったけどネットのネタバレ防止のように背景をぼかせば見えるようになりました。 多分不具合だとおもう。 召喚した女と王様っぽいのは何も持っていないと言って僕をポイ捨て、なんて世界だ。それも元の世界には戻せないらしい、というか戻さないみたいだ。 そんな僕はこの世界で苦労すると思ったら大間違い、王シリーズのスキルでウハウハ、製作で人助け生活していきます ◇ 四巻が販売されました! 今日から四巻の範囲がレンタルとなります 書籍化に伴い一部ウェブ版と違う箇所がございます 追加場面もあります よろしくお願いします! 一応191話で終わりとなります 最後まで見ていただきありがとうございました コミカライズもスタートしています 毎月最初の金曜日に更新です お楽しみください!

魔王を倒した手柄を横取りされたけど、俺を処刑するのは無理じゃないかな

七辻ゆゆ
ファンタジー
「では罪人よ。おまえはあくまで自分が勇者であり、魔王を倒したと言うのだな?」 「そうそう」  茶番にも飽きてきた。処刑できるというのなら、ぜひやってみてほしい。  無理だと思うけど。

私の息子を“愛人の子の下”にすると言った夫へ──その瞬間、正妻の役目は終わりました

放浪人
恋愛
政略結婚で伯爵家に嫁いだ侯爵令嬢リディアは、愛のない夫婦関係を「正妻の務め」と割り切り、赤字だらけの領地を立て直してきた。帳簿を整え、税の徴収を正し、交易路を広げ、収穫が不安定な年には備蓄を回す――伯爵家の体裁を保ってきたのは、いつも彼女の実務だった。 だがある日、夫オスヴァルドが屋敷に連れ帰ったのは“幼馴染”の女とその息子。 「彼女は可哀想なんだ」 「この子を跡取りにする」 そして人前で、平然と言い放つ。 ――「君の息子は、愛人の子の“下”で学べばいい」 その瞬間、リディアの中で何かが静かに終わった。怒鳴らない。泣かない。微笑みすら崩さない。 「承知しました。では――正妻の役目は終わりましたね」

処理中です...