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コダイ国編
189.ついにアトランテ草原へと
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「ごめんなさい」
「うん」
幹を曲げて謝る雪乃の頭を、ノムルは優しく撫でる。そして、
「じゃあ、お詫びー」
両手を広げて、雪乃がダイブしてくるのを待った。それはもう、満面の輝く笑顔で。
「では、おやすみなさい」
雪乃は幹を曲げて丁寧に就寝の挨拶をすると、植木鉢に上る。
「ちょっと、ユキノちゃん?! ハグ! おやすみのちゅー!」
「お断りします。セクハラ禁止です!」
地団駄を踏んで悔しがっているが、相手をしてはいけない。余計に要求が上乗せされるに決まっている。
雪乃は静かに視界を閉じた。
「あー、眠っちゃったかー。でもまあ、誰にも奪わせる気なんてないんだけどね」
ノムルは雪乃を一撫でして、根元に丸まった。寝台よりも雪乃の近くで眠るほうが、彼は熟睡できるようだ。
そんなこんなで、ついにアトランテ草原へと辿り着いたのだった。
一面が草原に覆われ、所々に広葉樹が生えている。ただなぜか、遠近感がおかしい。
遠くのものが遠くに見えないという、不思議な感覚に襲われる。そして歩いていくと、歩く速度に比べて景色が近付くのが早い。
「もしや……」
樹人やマンドラゴラのように、植物が移動しているのかと辺りを注意深く見回すが、その気配はないようだ。
違和感は拭えぬままに、雪乃は草原の中を進んでいった。
芝生のような草地を踏み進んでいるうちに、いつの間にか膝辺りまで草に隠れ、腰、肩、頭と、草に埋もれていく。
もはや雪乃の姿はすっぽり草原に埋まっていた。
「ユキノちゃん? 大丈夫ー?」
「な、なんとか」
草を掻き分けながら、雪乃は進む。
前を歩くリアは、慣れているのか平気な顔だ。
「ユキノちゃん、抱っこしてあげよっかー?」
「だ、大丈夫です」
とは言ったものの、雪乃は途方にくれていた。
草丈は雪乃の樹上はとっくに超え、ノムルさえも草に埋もれている。草丈二メートルは超えているだろう。
「ずいぶんと大きな草ですね」
「そう?」
見上げる雪乃に、リアは小首を傾げる。
「草原の入り口は、背の低い草しか生えてない」
「……」
どうやらまだ序の口だったらしい。
その言葉どおり、休憩を挟みながら奥へと進めば、草原に生える草は、いつしか送電用の鉄塔のように高く伸びていた。
「小人になった気分です」
雪乃が呟けば、リアはくすりと笑う。
はるか上に揺れる花も大きく、その上に家を建てられそうだ。
草原に入ってから三日目。ようやく雪乃たちは蟻人の里へと辿り着く。
地中に暮らしているという予想は外れ、目の前には土色の、大きな山がそびえていた。
蟻は蟻でも、蟻塚に暮らす種族だったようだ。
「リア?!」
蟻塚の上から、声が降って来る。
驚きと喜びが混じる、悲鳴のような声だった。
「ルア姉さん!」
リアも大声で応じると、駆け出した。
二人の声を皮切りに、蟻塚中の穴から次々と蟻人が出てくる。ほぼ全てが女性である。
みんな黒髪に大きな瞳、そして褐色の肌をしていた。どうやら蟻人の特徴らしい。
「ああ、リア! どれほど心配したか。助けられなくてごめんなさい。戻ってきてくれて嬉しいわ」
ぎゅうっとルアはリアを抱きしめる。
蟻塚から出てきた蟻人たちも、次々とリアを抱きしめた。
「感動の再会です」
「ちなみに、あの山の中できのこは栽培されているんだよ? 採取する時はー、山を吹っ飛ばすんだけど、力加減や場所を間違えるときのこも吹き飛んじゃうから、気を付けてねー」
「……。ノムルさん、反省していませんね」
へらへら笑う魔法使いを、雪乃はギロリと睨んだ。
「壊しちゃ駄目です! ギルドじゃないんですから!」
「えー?」
いや、ギルドでも吹き飛ばしたら駄目だろう。
だがここに、それをつっ込む人間はいなかった。雪乃もやっぱり毒されてしまったようだ。
「あのう」
喧嘩という名のじゃれ合いをぴたりと止めて振り向くと、蟻人たちが雪乃とノムルを見つめていた。
二人が会話を止めて顔を向けたと同時に、蟻人たちは揃って頭を下げる。
「リアを助けていただき、ありがとうございました」
大きな瞳に涙を称えて、震える声で感謝の言葉を述べる。本当に彼女の身を案じ、帰還を願っていたのだと、雪乃は胸が熱くなる。
「いえ、たまたま出くわしただけなので、お気に」
「いいよいいよー。今夜はきのこ尽くしでお願いねー。お土産用もよろしく」
「……」
表情を取り落とした雪乃は、ふるふると震えた。
このおっさん魔法使いに、感情や空気の読み方を教える方法はないものか。
「もちろんです。とっておきの料理を用意させていただきますね」
にっこりと、蟻人たちは応じた。
雪乃とノムルは、リアたちに案内されて蟻塚の中に入っていく。
穴の中には、吹き抜けになっている中央広場があった。明り取りの穴が幾つも開いていて明るく、蟻塚の中とは思えぬ開放感がある。
広場を包むように店が並び、その後ろにそびえる壁沿いには、坂や階段が、幾つも枝分かれしながら伸びていた。その所々に、家の入り口と思われる扉が見える。
蟻塚の中は、小さな町のようだった。
興味深く見上げる雪乃が遅れないよう、ノムルはゆっくりと歩いていく。
リアは次々と現れる住人達に、声を掛けられ、抱きしめられていた。涙ぐんでいる者も大勢いる。
その大半が、女性だった。というより、女性しかいない。
「やはり蟻人は、女性が多いのですね」
リアを取り囲む住人達に視線を戻した雪乃は、感慨深げに呟いた。
地球の蟻も、圧倒的に雌が多い。働き蟻は皆、雌である。
雄は繁殖期にしか生まれず、寿命は一週間ほどしかない。しかも用が済めばお食事になるという、なんというか、蟻族の男に生まれなくて良かったよね! と言いたくなる蟻生を送る。
「あなた方がリアを助けてくれたんですってね。本当にありがとう」
わさわさと集まっていた女性達が、雪乃とノムルにも向かってくる。
本当に、どこから出てきたとばかりの蟻人だかりで、かわせそうにない。祭りの神輿のように、担ぎ上げられそうな勢いだ。
「はーい、そこまでー」
「ぴー」
雪乃たちの周りに結界が張られ、蟻人たちはそれ以上、雪乃に近付くことができなくなった。
「うちのユキノちゃんが可愛いのは分かるけど、あんまりべたべたしないでよねー。お嫁に行けなくなったらどうするのさ? やらないけど」
「どうして私の未来を、ノムルさんが決めているのでしょうか?」
「え?」
雪乃とノムルは見詰め合う。
「うん」
幹を曲げて謝る雪乃の頭を、ノムルは優しく撫でる。そして、
「じゃあ、お詫びー」
両手を広げて、雪乃がダイブしてくるのを待った。それはもう、満面の輝く笑顔で。
「では、おやすみなさい」
雪乃は幹を曲げて丁寧に就寝の挨拶をすると、植木鉢に上る。
「ちょっと、ユキノちゃん?! ハグ! おやすみのちゅー!」
「お断りします。セクハラ禁止です!」
地団駄を踏んで悔しがっているが、相手をしてはいけない。余計に要求が上乗せされるに決まっている。
雪乃は静かに視界を閉じた。
「あー、眠っちゃったかー。でもまあ、誰にも奪わせる気なんてないんだけどね」
ノムルは雪乃を一撫でして、根元に丸まった。寝台よりも雪乃の近くで眠るほうが、彼は熟睡できるようだ。
そんなこんなで、ついにアトランテ草原へと辿り着いたのだった。
一面が草原に覆われ、所々に広葉樹が生えている。ただなぜか、遠近感がおかしい。
遠くのものが遠くに見えないという、不思議な感覚に襲われる。そして歩いていくと、歩く速度に比べて景色が近付くのが早い。
「もしや……」
樹人やマンドラゴラのように、植物が移動しているのかと辺りを注意深く見回すが、その気配はないようだ。
違和感は拭えぬままに、雪乃は草原の中を進んでいった。
芝生のような草地を踏み進んでいるうちに、いつの間にか膝辺りまで草に隠れ、腰、肩、頭と、草に埋もれていく。
もはや雪乃の姿はすっぽり草原に埋まっていた。
「ユキノちゃん? 大丈夫ー?」
「な、なんとか」
草を掻き分けながら、雪乃は進む。
前を歩くリアは、慣れているのか平気な顔だ。
「ユキノちゃん、抱っこしてあげよっかー?」
「だ、大丈夫です」
とは言ったものの、雪乃は途方にくれていた。
草丈は雪乃の樹上はとっくに超え、ノムルさえも草に埋もれている。草丈二メートルは超えているだろう。
「ずいぶんと大きな草ですね」
「そう?」
見上げる雪乃に、リアは小首を傾げる。
「草原の入り口は、背の低い草しか生えてない」
「……」
どうやらまだ序の口だったらしい。
その言葉どおり、休憩を挟みながら奥へと進めば、草原に生える草は、いつしか送電用の鉄塔のように高く伸びていた。
「小人になった気分です」
雪乃が呟けば、リアはくすりと笑う。
はるか上に揺れる花も大きく、その上に家を建てられそうだ。
草原に入ってから三日目。ようやく雪乃たちは蟻人の里へと辿り着く。
地中に暮らしているという予想は外れ、目の前には土色の、大きな山がそびえていた。
蟻は蟻でも、蟻塚に暮らす種族だったようだ。
「リア?!」
蟻塚の上から、声が降って来る。
驚きと喜びが混じる、悲鳴のような声だった。
「ルア姉さん!」
リアも大声で応じると、駆け出した。
二人の声を皮切りに、蟻塚中の穴から次々と蟻人が出てくる。ほぼ全てが女性である。
みんな黒髪に大きな瞳、そして褐色の肌をしていた。どうやら蟻人の特徴らしい。
「ああ、リア! どれほど心配したか。助けられなくてごめんなさい。戻ってきてくれて嬉しいわ」
ぎゅうっとルアはリアを抱きしめる。
蟻塚から出てきた蟻人たちも、次々とリアを抱きしめた。
「感動の再会です」
「ちなみに、あの山の中できのこは栽培されているんだよ? 採取する時はー、山を吹っ飛ばすんだけど、力加減や場所を間違えるときのこも吹き飛んじゃうから、気を付けてねー」
「……。ノムルさん、反省していませんね」
へらへら笑う魔法使いを、雪乃はギロリと睨んだ。
「壊しちゃ駄目です! ギルドじゃないんですから!」
「えー?」
いや、ギルドでも吹き飛ばしたら駄目だろう。
だがここに、それをつっ込む人間はいなかった。雪乃もやっぱり毒されてしまったようだ。
「あのう」
喧嘩という名のじゃれ合いをぴたりと止めて振り向くと、蟻人たちが雪乃とノムルを見つめていた。
二人が会話を止めて顔を向けたと同時に、蟻人たちは揃って頭を下げる。
「リアを助けていただき、ありがとうございました」
大きな瞳に涙を称えて、震える声で感謝の言葉を述べる。本当に彼女の身を案じ、帰還を願っていたのだと、雪乃は胸が熱くなる。
「いえ、たまたま出くわしただけなので、お気に」
「いいよいいよー。今夜はきのこ尽くしでお願いねー。お土産用もよろしく」
「……」
表情を取り落とした雪乃は、ふるふると震えた。
このおっさん魔法使いに、感情や空気の読み方を教える方法はないものか。
「もちろんです。とっておきの料理を用意させていただきますね」
にっこりと、蟻人たちは応じた。
雪乃とノムルは、リアたちに案内されて蟻塚の中に入っていく。
穴の中には、吹き抜けになっている中央広場があった。明り取りの穴が幾つも開いていて明るく、蟻塚の中とは思えぬ開放感がある。
広場を包むように店が並び、その後ろにそびえる壁沿いには、坂や階段が、幾つも枝分かれしながら伸びていた。その所々に、家の入り口と思われる扉が見える。
蟻塚の中は、小さな町のようだった。
興味深く見上げる雪乃が遅れないよう、ノムルはゆっくりと歩いていく。
リアは次々と現れる住人達に、声を掛けられ、抱きしめられていた。涙ぐんでいる者も大勢いる。
その大半が、女性だった。というより、女性しかいない。
「やはり蟻人は、女性が多いのですね」
リアを取り囲む住人達に視線を戻した雪乃は、感慨深げに呟いた。
地球の蟻も、圧倒的に雌が多い。働き蟻は皆、雌である。
雄は繁殖期にしか生まれず、寿命は一週間ほどしかない。しかも用が済めばお食事になるという、なんというか、蟻族の男に生まれなくて良かったよね! と言いたくなる蟻生を送る。
「あなた方がリアを助けてくれたんですってね。本当にありがとう」
わさわさと集まっていた女性達が、雪乃とノムルにも向かってくる。
本当に、どこから出てきたとばかりの蟻人だかりで、かわせそうにない。祭りの神輿のように、担ぎ上げられそうな勢いだ。
「はーい、そこまでー」
「ぴー」
雪乃たちの周りに結界が張られ、蟻人たちはそれ以上、雪乃に近付くことができなくなった。
「うちのユキノちゃんが可愛いのは分かるけど、あんまりべたべたしないでよねー。お嫁に行けなくなったらどうするのさ? やらないけど」
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